ウトゥ(シャマシュ)

ページ名:ウトゥ(シャマシュ)

1.神名、信仰地

 太陽神、正義神、裁判神、卜占神、周辺地域を統べる神、動物神。男神。
 ウトゥ Utu(シュメル語)、シャマシュ Shamash(アッカド語)は「太陽」を意味する。イナンナの兄。ラルサ市の守護神で、後にシッパルやエリドゥでも信仰を受ける、更に後代にはハトラの主神。また、ウトゥの聖数は「20」。

コラム:シャマシュは元々女性?
 "シャマシュ" と語源を同じくするセム系諸語の太陽神は女神である。そのため、シャマシュも元来は女性(太陽女神)であり、シュメールの男神ウトゥと同一視されたために、男神であるシャマシュとなったのではないか、という説がある。

2.太陽神

 その名が意味するように、ウトゥは太陽神であり、多くの神話においても、太陽神として登場する。『エヌマ・エリシュ』においては、マルドゥクが "太陽の出入り口" (東が入口、西が出口)を作り出し、シャマシュはそこを運行することになる。
 また図像においては、肩から熱光線を出した姿が特徴的である。


3.正義神、裁判神

 太陽神であることと同じく、神話等において、正義神の側面を強調されることも多い。このことについては、理由として諸説唱えられている。
 (1)太陽の規則正しい天体運動が、正義や裁判など公平性と結び付けられたため。
 (2)地上をくまなく照らす太陽はすべてを見通すため。
 (3)太陽神は夜間に地下の冥界を見通すため、悪霊・悪鬼を制圧し、それらに起因する厄災から守ってくれるため。
 (4)シャマシュが卜占に通じる神であるため。
 神話『エタナ物語』において、ワシと蛇の約束は「シャマシュの前で互に誓いをかわし」ているほか、『ハンムラビ「法典」』碑上部において、ハンムラビ王に座面しているシャマシュ神の姿はあまりにも有名。少なくともウル第3王朝時代頃には裁判の神であり、正義を司った。


4.周辺地域を統べる神

 太陽神であるウトゥは、日いづる東から日没する西まで、"周辺地域を統べる属性" があった。
 『ギルガメシュ叙事詩』(あるいは『ビルガメシュとフワワ』)において、シャマシュ(ウトゥ)はギルガメシュの遠征を助けているが、これは、ウトゥが周辺地域を統べる神格を備えていたからだと思われる。なお『ギルガメシュとフワワ』では、ウトゥ神はギルガメシュに合成獣と思しき道案内を与えている。一説によれば、ウトゥ神はニンウルタ神以前において、合成獣を統べる神であったとも考えられている。
 またウトゥはしばしば、ノコギリを持って山から出てくる図像で描かれる(例:円筒印章の図柄)。このノコギリについて、 "毎朝、山(冥界)を切り裂いて日が昇る" という解釈がある一方で、野蛮な周辺地域を鎮撫する戦闘性を示すものだとする解釈もある。もし、後者の説を取るのであれば、その武力があればこそ、正義神という神格に真実味が出るようにも思われる(参考:前田徹「メソポタミアの王・神・世界観」)。


5.動物神

 動物・家畜を司る要素もある。ジャン・ボテロ『最古の料理』には、以下のようなくだりがある。セレウコス朝時代のテクストに、神々に捧げる神聖な食事を用意する際、肉の正統性を訴えるため、肉職人は次の様に詠唱して屠畜することとなっていた(「動物たちの主なるシャマシュの御子は、荒野に牧草地を出現させたもうた!」。また、後代の新アッシリアにおいて、シャマシュの随獣には馬が充てられた。
 先述『ビルガメシュとフワワ』において、主人公たちに合成獣を与えたことも、動物神としての神格が影響しているのかもしれない。


6.卜占神

 シャマシュは、アダドなどと共に卜占を司る神でもある。最も有名な例は、『ギルガメシュ叙事詩』において、森へ遠征するギルガメシュたちはシャマシュに捧げ物をしており、その後に夢告を得ている。
 物語でなく、現実世界での実例をあげれば、メソポタミアの人々は夢占いをして凶兆が出た場合、それを回避するべく儀式を行う。その際に、その儀式における対象はほとんどシャマシュ神であった。


7.参考動画

 以下、ウトゥ(シャマシュ)についての参考動画です。
 


 ハンムラビ「法典」で知る、メソポタミアの神々 (https://www.nicovideo.jp/watch/sm29386063


(主な参考文献)
 「古代メソポタミアの神々」、「メソポタミアの神々と空想動物」、「古代オリエント事典」、
 「メソポタミアの神話 神々の友情と冒険」、「メソポタミアの王・神・世界観」、
 「ハンムラビ「法典」」、「シュメル神話の世界」、「ギルガメシュ叙事詩」(月本)、「文明の誕生」
(出典神話等)
 『人間の創造』、『洪水伝説』、『エンキとニンフルサグ』、『イナンナの冥界下り』、
 『ギルガメシュとアッガ』、『ドゥムジとエンキムドゥ』、『シュルギ王讃歌』、『バビロンの新年祭』、
 『ナンナル神に対する「手をあげる」祈祷文』、『エヌマ・エリシュ』、『虫歯の物語』、
 『ギルガメシュ叙事詩』、『エラの神話』、『バビロニアの神義論』、『エタナ物語』、『ズーの神話』、
 『イシュタル讃歌』、『クマルビ神話』、『ハンムラビ法典碑』、『ギルガメシュとエンキドゥと冥界』、
 『ギルガメシュと生者の国』、『ドゥムジの夢』、『イナンナ女神とエビフ山』、
 『シュルギ王とニンリル女神の聖舟』、『エンメルカルとアラッタの君主』、『ルガルバンダ叙事詩』

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