イシュクル(アダド)

ページ名:イシュクル(アダド)

1.神名、信仰地、起源

 イシュクル、アダド、ハダド。嵐や雨や豊穣の神で、ハラブ(アレッポ)の都市神、あるいはカルカル市(神殿はエカルカル)の都市神とも。
 起源については複数あり、①本来はセム系民族の神(アダド、アッドゥ、アッダ)であるが、早くからシュメールにも伝えられてイシュクル神となった説と、②アダドとイシュクルは起源から別々である説とがある。風雨を伴う天候神はメソポタミア西方・北方世界では一般的で、フルリ人のテシュプ、カッシート人のブリアシュと同一視される。いずれにしても、シュメール時代のイシュクルは、パンテオンにおいて高い地位を占めず、アモリ人の王ハンムラビの頃になって、初めて第一級の神々として名を連ねるようになった。
 家臣神として、シュラットとハニシュがいる。また、アダドのシンボルは「牡牛」で、雄牛に乗った姿で描かれていることがある。
 また、占いを司る場合がある。


2.メソポタミア北方での扱い

 アダドはメソポタミア北方世界において "最高神" として祀られていたとする専門書も少なくない。アダドの神名は雷鳴音に由来し、通常は風ないし嵐を表す表音文字によって表記される。主な祭儀地であるハラブ(アレッポ)は、メソポタミア北方の主要都市。有名なシャムシ・アダド1世を含め、アッシリアの王名にアダドの名を含む者が複数いることも注目に値するだろうか。


3.雨の両面性

 『ハンムラビ「法典」』において、「豊穣の主、天地の水管理人」と称されており、アダド神の性質を端的に表している。多量の雨は破壊的な洪水をもたらすが、適度な雨量は豊穣を約束する。『エンキ神の定めた世界秩序』でも、イシュクルはエンキによって雲や畑の管理を託された。『アトラ・ハシース物語』では、エンリルの命ずるところに従い、飢饉をもたらすために雨を控えていることは、雨の神としての証左。『ズーの神話』に出てくる「灌漑事業監督官」の称号はアダドを指す称号の一つである(※同神話において、アダドはアヌの子どもとされ、ズー退治の一番手として指名を受けるものの、ズー鳥に恐れをなし一度退散している)。
 アンソニー・グリーン(「メソポタミアの神々と空想動物」)はこの点について、シュメール南部起源のイシュクルが雷や洪水と結びつけられているのに対して、セム系のアダドは慈雨など恵みの側面を持つと指摘しており、そのためイシュクルは稲妻で象徴され、アダドが流れる水で象徴されるとの分析を試みている。


4.『エヌマ・エリシュ』での名前の借用

 『エヌマ・エリシュ』において、マルドゥクが得る名前の中に「アッドゥ」があるが、これはアダドの性質を借用したもののようである。


(出典神話)
 『シュルギ王讃歌』、『アトラ・ハシース物語』、『ギルガメシュ叙事詩』、『エラの神話』、
 『エタナ物語』、『ズーの神話』、『ハンムラビ法典碑』、『エンキ神の定めた世界秩序』、
 『エンメルカルとアラッタの君主』
(参考文献)
 「古代メソポタミアの神々」、「メソポタミア文明の光芒」、「メソポタミアの神々と空想動物」
 「古代メソポタミアの神々の系譜」、「古代オリエント事典」

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