ビルガメシュ(ギルガメシュ)

ページ名:ビルガメシュ(ギルガメシュ)

1.ウルクの英雄

 ※この項目では、物語上及び王としてのビルガメシュ(ギルガメシュ)と、神格としてのビルガメシュ(ギルガメシュ)は別物であるという認識のもと記載しており、また本名鑑の趣旨に添わないため『ギルガメシュ叙事詩』についての記述はほとんど省略しています。 
 ビルガメシュ、ギルガメシュ、ガルガミシュ。シュメール古来の都市ウルク市の伝説的な王(前2600年頃?)であり、ウルクの城壁を築いたとされる。死後早い段階において神格化されており、のち前19Cのウルク王であるアン・アム王(orディンギル・アム)は「ウルク市の城壁、ビルガメシュ神の古の仕事を修復した」と神名を引いて己の業績を誇っている。
 ビルガメシュ神(ギルガメシュ神)の名が現れる最古の例は、ファラ(古代名シュルッパク)から出土した学校の教材として使われた神名表で、紀元前2,600年頃のものとされる。ただし、そもそもビルガメシュ王が在位したのが前2,600年頃と目されているため、幾ら何でも神格化が早すぎるのではという指摘もある。
 物語において様々な活躍をしているが、特に『ギルガメシュとアッガ』では、ウルク王として外敵を退けている。


2.あくまで神・・・今のところは

 セム系言語で編成されはじめた『ギルガメシュ叙事詩』は、シュメル時代から存在したギルガメシュ王の諸物語をベースとしたお話だが、ただ物語上においてギルガメシュの名には「ディンギル」(※神格を示す)が付いており、表記上はあくまで「ギルガメシュ神」なのである。
 ギルガメシュ王が実在したことは確実視されているものの、こうした理由から物証としてのギルガメシュ王はまだ確認されていない。


3.信仰地と系譜

 神格としての信仰地は、ニップール、ウンマ、ドレヘム、エンネギ。
 尊属については2通りが知られている。『ギルガメシュ叙事詩』に倣う場合、父はルガルバンダ神(王)、母はニンスン女神とされるが、シュメールの王権の変遷を物語る『シュメル王朝表』によれば父はリル(風魔)で、母は不明。
 また『シュメル王朝表』に従う場合、ギルガメシュの子であるウル・ヌンガル(ウル・ルガル)が王位を継いだとされる。
 なおウル第3王朝のシュルギ王は、自らの出自を神格化し、自らの父をルガルバンダ、母をニンスンと述べている。これに基づくならば、シュルギはビルガメシュの兄弟ということになり、シュルギはビルガメシュを「兄弟にして、友」としている。無論これは、シュルギが自らを偉大な王として扱うために、知名度のある神と関係を持たせようとしたものであり、直接の血縁はない(というか時代離れすぎてるのに兄弟のわけがない)。


4.死して冥界神に列せられる

 ビルガメシュ神は冥界神である。ウルナンムの死後編まれた『ウルナンムの死』で「ビルガメシュ神は冥界のルガル(王)」、「冥界のエンリル(最高神)」、「エンネギ市の主人」(※エンネギは冥界との関りが深い都市とされる)と記されている。
 そもそも、ビルガメシュの名は「祖先は英雄」、「老人は若者」の意味であり、先祖信仰にも通ずる神という考察があるほか、ビルガメシュ神(王)の死期について物語る『ギルガメシュの死』においては、王が死後冥界神として処遇される様子が語られている。
 また『ウルナンムの死』において、ウルナンム王は冥界の神々に数々の贈り物をするが、2番目に名前が挙がっているのがギルガメシュ神で、いわく「冥界の王(RUGAL.KUR.RA)」と言われている。


5.神格の序列

 ビルガメシュ神は、神話体系上のパンテオンで上位を占める神ではなかった。
 前2,340年頃、ラガシュ市末期のウルイニムギナ王の頃の文書で、「バウ女神の祭」においてビルガメシュ及び彼の神殿に犠牲が捧げたという記録がある。ただ、ビルガメシュは神々の序列の中でも最後の方に名が出てくるため、高位に位置しなかったことがわかる。
 ただそれでも、ウルビルガメシュ(Ur-d Bil-ga-mes:「ビルガメシュに仕える人」の意)という人物名が知られており、ビルガメシュを個人的な守護神として崇拝する人物もいたようである。ほかの例として、「シュバルーム、ナラム[…]の息子、神ギルガメシュの僕」この人物も、ギルガメシュを個人神としたようである。


6.シュメル語版叙事詩から『ギルガメシュ叙事詩』へ

 ビルガメシュについては、シュメル語版で記された話が複数見つかっている。『ギルガメシュと<生者の国>』、『ギルガメシュとエンキドゥと天牛』、『ギルガメシュとエンキドゥと冥界』、『ギルガメシュとアッガ』、『ビルガメシュ神の死』の5つである。
 このうち後世の『ギルガメシュ叙事詩』に採用されたのは前3つであり(前2つが先に物語に組み込まれ、『~冥界』は後から最終章として追加されたとみられる)、『~アッガ』、『~死』の2つはシュメル語版限りである。そもそも『ギルガメシュ叙事詩』には、シュメル語版には無かった、あるいは要素の希薄であった視点が強化されている場合があるなど、かならずしもシュメル語版の焼き写しではない。ギルガメシュの話が数多の語り手(書き手)に受け継がれていく中で、古代文学としては格別の精神性を有した傑作が生まれるに至ったが、その趣旨に必ずしも当てはまらない・不必要な話は不採用となったらしい。
 話が丸ごと不採用となっている例ばかりでない。『ギルガメシュとエンキドゥと天牛』では、ギルガメシュ王がイナンナから求愛を受けたことを母に相談し対応を決めるという、純朴な少年のようなシーンが存在していたが、『ギルガメシュ叙事詩』にはそのようなシーンはない。また『ギルガメシュと<生者の国>』ではギルガメシュは大勢の男たちを率いて山に向かったものの、『ギルガメシュ叙事詩』ではエンキドゥと2人きりで遠征に出ている。
 元々のギルガメシュ話は、適宜取捨選択・修正を加えたうえで後世の『ギルガメシュ叙事詩』が作られたというのが実態である。


7.その他いろいろ

 ※以下、細かい項目を列挙する。
 『ギルガメシュ叙事詩』にまつわる事柄を前提とし、卜占の帰結をまとめた『ギルガメシュ卜占集』が知られている。
 アブ月(現歴の7-8月)にはしばしば、冥界神ギルガメシュに捧げられる儀礼が月末に行われ、その際にギルガメシュ像が使われることもあったようである。
 ギルガメシュに関連した施設が見つかっているようで、「ギルガメシュの舟」、「ギルガメシュの門、「ギルガメシュの井戸」などが文書に見られる(詳細不明)。
 美術的事項として、古バビロニア時代の円筒印章のテーマとしてギルガメシュが度々採用されており、二人の英雄(ギルガメシュとエンキドゥ)が怪物(フンババorフワワ)を撃ち殺す図像が見つかっている。『ギルガメシュ叙事詩』(根本的には『ビルガメシュとフワワ』)を基にした品である。
 また、アッシリア時代の複数の書板において、ビルガメシュに呪術的な言葉が捧げられている。


8.参考動画

 『ギルガメシュ叙事詩』やそれを取り巻く背景知識等について、参考となれば幸いです(拙作動画)
 


 ゆっくりギルガメシュ 第0話 イントロダクション(https://www.nicovideo.jp/watch/sm22715143
 

 ゆっくりギルガメシュ 第21話 ギルガメシュとアッガ (本編)(https://www.nicovideo.jp/watch/sm27155081
 

 ゆっくりギルガメシュ 最終話 ギルガメシュの死 (本編)(https://www.nicovideo.jp/watch/sm27387435


(出典神話等)
 『ギルガメシュ叙事詩』、『ギルガメシュとアッガ』、『ギルガメシュとエンキドゥと冥界』、
 『ギルガメシュと<生者の国>』、『トゥンマル文書』、『シュメル王名表』、『ギルガメシュ卜占集』、
 『ギルガメシュとエンキドゥと天牛』、『ビルガメシュ神の死』、
 『ウルナンムの死』(ウルナンム王の死と冥界下り)
(参考文献)
 「ギルガメシュ叙事詩」(月本訳)、「ギルガメシュ叙事詩」(矢島訳)、「シュメル神話の世界」、
 「文明の誕生」、「五〇〇〇年前の日常」、「古代メソポタミアの神々」

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