1.神である「河」
※同一の神格と捉えて差し支えないと考えたため「河の神」、「イド」、「ナム」を同一項目で扱う。
古代メソポタミアにおいて、河は信仰の対象となり、特に裁判の神として神格化されている。シュメルの河神はイド、イッドゥ、イダと呼ばれ、マリの王ジムリ・リムの名で出された手紙にも河神へ宛てられたものがある。アッカドにおける河神はイド(男性形)、ナル(女性形)と呼ばれた。
ただ、(少なくとも編者が確認した範囲では、)河の神についてそれを図像がしたものが確認できていないので、"エンリルやイシュタルのような人格をもった神" というより "河そのものが神だ!" という認識だったのかもしれない(※編者私見)。
2.古代の法典にみえる河「裁きの神」
古バビロニア時代の『ハンムラビ「法典」』碑文において、河には神性を示す限定詞(ディンギル)がついており、神格化が見て取れる。その神性は "裁きの神" であり、罪の有無を河に判断を任せている箇所がある(ex:『ハンムラビ法典』パラグラフ132、「もし人の妻が別の男性とのことでうしろ指を差されたが、別の男性と一緒に寝ているところを捕えられたのでなければ、彼女は自分の夫のために(裁きの神である)川に飛び込まなければならない。」)
この河の神による裁きの概念は、ハンムラビ「法典」以前のウルナンム「法典」において既に存在しており、「もし人が姦通した若い男の妻を姦通のゆえに訴え、『河の神判』が彼女の無罪を証明したならば、彼女を告発した人は銀二〇ギン(約一六六グラム)を払うべし」とある(※参照「対談」)
3.呪術にまつわる?神性
河の神格化の例として、古バビロニア時代にはイディギナ神(「輝く河(の神)」と記され、エア神の名前の一つであり、悪魔払いの儀式においてはティグリス河が悪霊を追い払う力になるとされた。
また、シリア出土の医術粘土板文書には、皮膚変色症が回復した後にシャマシュへ感謝する儀礼をおこなうのだが、シャマシュの前に置かれたあらゆるものは河に投げ込まる。このことも河の神性と関係するのであろうか...?
4.その他
河の神格化は各地で認められる。ティグリス河は、アッシリアではイディグラト神として神格化されたし、ウガリトにおいても河が神格化されナハル(男性)と呼ばれた。
(出典神話等)
『ハンムラビ「法典」』
(参考文献)
「古代オリエント都市の旅」、「ハンムラビ「法典」」、「メソポタミア文明の光芒」、
「対談 古代オリエント×中世日本 神は紛争をどう解決してきたか」、
「古代メソポタミアの神々」、「古代オリエント事典」、「文明の誕生」
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