ニサバ

ページ名:ニサバ

1.概要・神統譜

 ニサバ。元来は植物女神(穀物女神)で、のちに書記術、学問(測量や計算など畑仕事に関わる)の女神。
 エレシュ市の女神だが、初期王朝時代にはラガシュのパンテオンに含まれており、エンリル神あるいはアン神の娘、ニンギルス神の姉妹。配偶神はハヤ(後にナブ)、娘はスドゥ(ニンリル)。


2.書記術の守護女神

 ニサバ女神を特徴づける最も大きな特徴は、書記術の守護女神という点であり、そのことは粘土板に度々残されている。神話を記した粘土板において、最終行に彼女の名前を配する例が多くあり『人間の創造』、『シュルギ王讃歌』、『ギルガメシュと<生者の国>』、『イナンナ女神とエビフ山』などがその例である。
 物語を紡ぎ伝えるのは書記たちであり、彼らは物語の最後でニサバ女神を称えた。あるいは、最終行で彼女の名に触れるのは、物語の記録のためとも言われる。書記術の女神であったため、はじめハヤ神の配偶女神であったにも関わず、後にナブ神(※文字の神)の配偶女神とされてしまった。


3.植物女神

 ただ、より古くは植物女神であった可能性がある。これについては、辻田明子「シュメルにおける書記(術)と穀物の女神ニサバ」が詳しい。
 ニサバの楔形文字である "SE NAGA" の内、SEは穀粒を示し、NAGAは植物(身体をキレイにしたり、あるいは織物業の文章に登場する植物)である。そのため、その名にNAGAを含むニサバは、元々はNAGAを含む植物の育成を司る女神、あるいは清め草の女神と推察される。


4.穀物女神

 穀物女神としての性質は、『アトラ・ハシース物語』アッシリア版で、大地に塩害をもたらし、人を絶滅させる計画に加担していることなどが参考例。また、イェール大学が保管するレシピ粘土板の最終欄に「ニサバ」の名が書かれたものがある他、セレウコス朝時代のテクストによれば、神々に捧げる神聖な食事を用意する際、パンを作る料理人は、その工程で次の様に詠唱することとなっていた。「嗚呼、ニサバ女神(穀類の守護女神)よ!豊かな実りよ!聖なる食べ物よ!」。
 文字の発明からしばらくすると、ニサバ女神は書記術の守護女神として尊崇を集めるようになる。更に時代がくだると、その座はナブ神によって取って代わられることとなるのだが、そうするとニサバは、今度は穀物神の性質が再び脚光を浴び、引き続き信仰を集めるのであった。


5.母として

 神話において、ニサバは母親として登場することがある。
 神話『エンリル女神とニンリル女神』では、娘(ニンリル)に水浴びをせぬように言いつけるが、娘はそれを破り結果エンエルに迫られる。神話『エンリルとスドゥ女神』においては、母「ヌンシェバルグヌ」として登場し、エンリルの従者ヌスク神の贈り物攻勢に心を許し、娘を輿入れさせる。
 ちなみにヌンバルシェグヌとは「斑入り大麦の生命の女君」を意味し、穀物を司るニサバ女神の別名として相応しい。


6.ルガルザゲシ王の個人神

 初期王朝末期には、ウンマ市の支配者たちが個人神としていた記録がある。ウルカギナの王碑文によれば、ルガルザゲシ王の個人神はニサバ女神であったようだ。
 各個人を守護する個人神は、基本的にマイナーな神様であることが多い。それを想うと、ニサバ女神は個人神の中ではかなり名高い神格とも思える(編者私見)。


(出典神話等)
 『人間の創造』、『シュルギ王讃歌』、『グデアの神殿讃歌』、『アトラ・ハシース物語』、
 『ギルガメシュ叙事詩』、『エラの神話』、『ギルガメシュと<生者の国>』、
 『エンキ神の定めた世界秩序』、『イナンナ女神とエビフ山』、『エンリル神とスド女神』、
 『エンメルカルとアラッタの君主』、『ルガル神話』、『エンリル神とニンリル女神』
(参考文献)
 「メソポタミアの神々と空想動物」、「シュメルにおける書記(術)と穀物の女神ニサバ」、
 「最古の料理」、「古代メソポタミアの神々」、「文明の誕生」

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