1.アッシリアの国家神
アッシュール、アッシュル。アッシリアの都市アッシュールを神格化した神で、アッシリアの国家神。アッシリア歴代の王名に、アッシュールの名をいただく王名が多くその重要性を物語る。信仰の中心はエシャラ神殿。アッシリア人には、誓願を立てる際にアッシリア市に向かって誓う風習があったことから、都市自体が同名の神として昇華したと考えられている。
2.バビロンへの憧憬
アッシリア学の成果として、アッシリア人は武力に優れた民族であることがわかっている一方、文化的には南メソポタミア(バビロン)への憧憬と嫉妬を抱いていたと解されています。アッシュール神の性質は、まさにその性質を物語っている。
前1300年頃から、アッシュールとエンリル(南メソポタミアの最高神)を同一視しようとした形跡が見られるが、この頃アッシリアの勢力が拡大し、アッシュール神が最高神に上り詰める。そもそも都市の神格化であったため、アッシュールには神統譜も無かったのだが、やがて配偶女神として、エンリルの妻であるニンリルがあてがわれるようになる(※特にアッシュールの妻の場合は「ムリッス」と呼ばれる)。また、父神は、アヌ神の父とされるアンシャル神をあてている。随獣は、バビロニアの国家神マルドゥク神の随獣であるムシュフシュを借用、更に、アッシュールを示すシンボルは「角冠」であるが、これは元々アヌやエンリルを示すシンボルであった。あまりにも南メソポタミアから借用している要素が多く、アッシュール神独自の性質は、やはり "都市アッシュール、ひいてはアッシリアの国家神" であるということに最大の意義がある。
「古代オリエント事典」からの補足を加えると、アッシュールにマルドゥクを凌ぐほどの権能を与えようとした意図は、前7世紀センナケリブの頃に行われた宗教改革にあるという。また、本来土地の神格化であり図像化されにくかったため、最古の図像化の例は前13世紀までしか遡れない。
3.神話での登場
『イシュタル讃歌』は、アッシュール神の配偶女神であるイシュタル女神に捧げられたとも言われる。また、 『エヌマ・エリシュ』のダイメル版では、アンシャルがアッシュールに替わっている。
(出典神話)
『イシュタル讃歌』、『エヌマ・エリシュ』(ダイメル版)
(参考文献)
「メソポタミアの神々と空想動物」、「古代メソポタミアの神々の系譜」、「古代メソポタミアの神々」
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