1.神名、信仰地
月の神である男神。ナンナル、ナンナ・スエン。ともにシュメル語で、ナンナ(Na-an-na)は「天の人」。そもそもナンナとスエンは別個の月神であったが、早い時期に集合されたとする説明もある(「古代オリエント事典」)。またアッカド語ではシン(シンは、シュメル語のスエンから派生した言葉ものと考えられる)。
ウル市の主神で、新バビロニア時代にはハランも信仰地となった。『ウル滅亡哀歌』では、配偶女神であるニンガルとともに話の主役となっている。
2.月神、安らぎの神
天体の神々の中で最も崇拝を受けた月神であり、大神として扱われる。癒し、安産、信託の神でもあり、『ハンムラビ法典碑』では、精神安定に関する属性が垣間見える、安心を与えてくれる神といえる。シンボルは三日月で、聖数は30。またその性質ゆえ、月食はシンがセベッティ(セベットゥ)と戦っているため起こるという神話的説明がなされる。
また、シン神が下す災いとして、思い皮膚病(アッカド語でサハルシュブー)がある。
3.ナホニドス王のシン信仰
ナンナル(シン)はメソポタミア世界の最高神とは言えないが、経済と文化の要であるウルの主神を厚く信仰すること(※もっと言えば、血縁者をナンナル(シン)の女司祭長にすること)は、伝統的に重要なことだった。新バビロニアの王ナボニドスは殊にシンに傾倒したが、これは彼自身がバビロニア王家の直系者でなく、ハラン(北バビロニアの都市)のシンの女司祭長の息子であるためという。しかしその傾倒ぶりは、マルドゥクを国家神とするバビロニア王の立場とは相いないものであり、過度なシン信仰は、ナホニドス失墜の一因とも考えられる。
4.神統譜
神統譜について、父はエンリル、母はニンリル。イナンナの父神についてはアンとする神話がある一方、ナンナルを父親とする神話もある。この場合、太陽神ウトゥも息子になる。シュメルの人々は、月神を太陽神の上位においたが、これは彼らが太陰暦(太陰太陽暦)を用いていたことの反映であるとする解釈もある。
(主な参考文献)
「古代メソポタミアの神々の系譜」、「カルデア人のウル」、「古代メソポタミアの神々」、
「古代オリエント事典」、「メソポタミアの神々と空想動物」、「ギルガメシュ叙事詩」(月本)
(出典神話等)
『エンキとニンフルサグ』、『イナンナの冥界下り』、『ウル滅亡哀歌』、『イナンナ女神の歌』、
『シュルギ王讃歌』、『グデアの神殿讃歌』、『ナンナル神に対する「手をあげる」祈祷文』、
『エヌマ・エリシュ』、『アトラ・ハシース物語』(ニップール版)、『ギルガメシュ叙事詩』、
『エラの神話』、『エタナ物語』、『バビロンの新年祭』、『イシュタルの冥界下り』、『クマルビ神話』、
『ハンムラビ法典碑』、『ラブ神話』、『ナンナ・スエン神のニップル』、『シュルギ王とニンリル女神の聖船』、
『エンリル神とニンリル女神』、『ルガルバンダ叙事詩』、『マルトゥの結婚』
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