1.エンリル神の配偶女神
ニンリル、スド、スドゥ、ムリッス。エンリルの配偶女神で、元来は穀物神。ニンリルは「大気の女主人」の意で、夫であるエンリル「大気の主」に呼応している。
2.名実ともにエンリルの妻?
元々スドゥという名があることを考えると、ニンリルという呼び名は、エンリルの配偶女神としてふさわしい名として強調、あるいは創造されたものとも勘ぐれる… というのも、『ハンムラビ法典』碑文などに顕著だが、ニンリルの名を出すものには、"エンリルの妻" としての側面のみを強調するものが多く、ニンリルそのものの特徴(彼女固有の性質)がどうもハッキリ見えない。
"エンリルの権能を強調するため" に妻の役割を演じている神格という印象も受ける。
3.エンリルとニンリルの馴れ初め
エンリルとニンリルが結ばれる話には、二系統あるようだ。
一つが『エンリル神とニンリル女神』で、ニンリルは母の言いつけを破ってヌンビルドゥ河で水浴びをしていたいところ、エンリルの目に留まって、口説きを受ける。頑是ない処女であるニンリルは、あられもなく自分の性的幼さを伝えるが、結局エンリルと思いを遂げ、スエン・アシムバッバル(ナンナル)を妊娠する。最高神でありながら、少女を犯し、破廉恥の汚名を受け追放処分となるエンリルであったが、逆にニンリルがエンリルを探し訪ね、その後、更に3柱の神をもうける…という筋立てである。
もう一方の神話は『エンリル神とスドゥ女神』で、エンリルはスドゥ(=ハヤ神とニサバ女神の子であるニンリル)にプロポーズし、一度断られてしまう。しかしながら、今度は正式な段取りを踏み、義母となるべきニサバ女神に贈り物攻勢を仕掛けることで気に入られ、最終的にスドゥと婚約、スドゥはニンリルと名を改める。
…一方では野外で少女を犯して追放された挙句の追っかけ愛、一方ではご家族をプレゼント攻めで円満結婚。違いすぎる。
4.穀物女神は母譲り?
以上の神話でも触れているが、別名であるスドゥ女神は、元々ニップル市に近いシュルッパク市の都市女神であった。元来穀物神であったとされるが、母親がニサバ女神(神話においてはヌンバルシェグヌ女神という名)なところに属性の一致が見られる(ただし、普通ニサバ女神はエレシュ市の女神であるが…)。
5.政治的に利用された?→女神ムリッス
偉大な神エンリルの配偶女神であるため、その妻ニンリルは政治的(?)に利用されることがあった。
アッシリア帝国興隆の時期、国家神アッシュールがバビロニアのエンリルと同一化されたために、ニンリルもアッシュールの妻とみなされた。アッシュールの妻として扱われる場合は、特に「ムリッス」(Mullilssu)と言う名で呼ばれた。
6.そのた
神話『ナンナ・スエン神のニップル詣で』では、トゥンマルでナンナ・スエン神を出迎え歓迎する。
(出典神話等)
『ウルの滅亡哀歌』、『シュルギ王讃歌』、『ハンムラビ法典碑』、『ギルガメシュと<生者の国>』、『ギルガメシュ叙事詩』、『トゥンマル文書』、『ナンナ・スエン神のニップル詣で』、『シュルギ王とニンリル女神の聖舟』、『エンリル神とニンリル女神』、『エンリル神とスドゥ女神』、『ルガルバンダ叙事詩』
(参考文献)
「シュメル神話の世界」、「古代オリエント事典」、「古代メソポタミアの神々」
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