アン(アヌ)

ページ名:アン(アヌ)

1.最古の最高神

 アン、アヌ、アヌム。天空神にして、最古の最高神。男神。
 その名は「米」に似た一字で表される。これは「天」を意味するが、同時に "神格を意味する前置詞"(ディンギル) でもある(※通常は、ディンギル + 〇〇 → 〇〇神 となる。ただしアン神の場合だけは、本来前置詞である一文字だけで、その固有名詞を意味する。特別な存在であることがわかる)。
 『ハンムラビ「法典」』において、アン(アヌム)が王権の授け手として描かれていることように、宗教儀礼等において王権の源泉を司るとされ、伝統的に大神として扱われてきた。神話での登場が多いほか、登場せずに名前だけで引かれているようなものも多い。
 主な信仰地はウルク(白色神殿)であるが、デール(デーリ)でも信仰された。


2.神話における扱われ方

 アン神は、シュメル文明最初期においては最高神であったが、やがてエンリルにその座を奪われ、ウルクにおける信仰も、やがてイナンナを中心にするものになっていく。
 いわゆる "暇な神"(デウス・オティオースス)となってからは、神々の重鎮的存在となったようで、神話における役どころとしては、度々トホホな面が描かれている。『エヌマ・エリシュ』では、ティアマト女神の対抗勢力として立ち上がるが返り討ちにあい、『ギルガメシュ叙事詩』(及び『ビルガメシュとエンキドゥと天の牡牛』)では、娘イシュタル(イナンナ)のわがままを拒み切れず要求を容れるなど、その姿は大神らしからぬ。
 一方、『ギルガメシュ叙事詩』冒頭でウルク民の訴えを聴いてアルル女神に野人エンキドゥを作らせたり、『クマルビ神話』において、主人であるアラルに反逆して玉座を簒奪したりと、活躍する場面もある(※もっとも、後者においては臣下クマルビに陰部を食いちぎられてしまい、やっぱりトホホ感があるが…)。


3.アン神の図像について

 アン神については、イナンナやウトゥのように、その姿を描いたものが見つかっていないが、カッシートやアッシリアの美術において「角冠」で表された。メソポタミア全史を通じても "アン(アヌ)の姿を描いた図像" は少なく、この「角冠」で表すようになった(※アヌであろうと目されているものはあるが、確証にまで至っていない)。


4.神統譜

 配偶女神について、バビロニア神話においてはアントゥとされている一方、大地の女神であるウラシュ、後代にいたっては大地の女神キを妻とするなど、神統譜は複数。


(主な参考文献)
 「古代メソポタミアの神々」、「メソポタミアの神々と空想動物」、「古代オリエント事典」、
 「メソポタミアの神話 神々の友情と冒険』、「メソポタミアの王・神・世界観』、「ハンムラビ「法典」」
(出典神話等)
 『エヌマ・エリシュ』、『エラの神話』、『ギルガメシュ叙事詩』、『ビルガメシュとエンキドゥと天の牡牛』、
 『クマルビ神話』、『人間の創造』、『農耕のはじまり』、『洪水物語』、『ギルガメシュとアッガ』、
 『ウルの滅亡哀歌』、『イナンナ女神の歌』、『ババ女神讃歌』、 『シュルギ王讃歌』、『虫歯の物語』、
 『グデアの神殿讃歌』、『悪霊に対する呪文』、『ナンナル神に対する「手をあげる」祈祷文』、
 『アトラ・ハシース物語』、『ネルガルとエレシュキガル』、『アダパ物語』、『エタナ物語』、
 『ズーの神話』、『バビロンの新年祭』、『イシュタル讃歌』『ハンムラビ「法典」』、『エンキとニンマフ』、
 『ギルガメシュとエンキドゥと冥界』、『エンキ神の定めた世界秩序』、『イナンナ女神とエビフ山』、
 『羊と麦』、『シュルギ王とニンリル女神の聖船』、『ルガルバンダ叙事詩』

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