ニンウルタ(ニヌルタ)

ページ名:ニンウルタ(ニヌルタ)

1.「大地の主」

 ニンウルタ、ニヌルタ(※ニンウルタは「大地の主」の意で、ニヌルタは、ニンウルタが縮められた呼び名)は、シュメルの神で英雄神、戦闘神。またほかの神性として植物神・豊穣神(農耕に関連)、雨神・洪水神(これは治水に関係するものとしてか?)でもあり、『ギルガメシュ叙事詩』、『アトラ・ハシース物語』において洪水の実施役(堤を破壊する役目)を担うのはこの属性に関わる。
 信仰地は主にニップール、バビロン、カラハ。また、バビロンでマルドゥク信仰が盛んになる頃には、バビロンでの信仰が薄れる代わりに、アッシリアでニヌルタ熱が高まり、神話に基づいた祭儀劇が演じられるようになった。また、エマル王家の守護神とも。
 両親は、シュメル・バビロニアの最高神であるエンリル神とニンリル女神の子、配偶はババ女神、あるいはグラ女神とされる。


2.英雄神 ―― 王の役割

 ニンウルタについて特記すべきは、彼が "英雄神" であるということ。ニンウルタが活躍する2つの神話を通じて、古代シュメル世界における英雄像 = 王の役割に触れることができる
 『ズーの神話』において、ニンウルタはズー退治の切り札としてエア神に抜擢される。矢を射かけるも、天命のタブレットを持つズーは矢を寄せ付けず、やむなく、エアに作戦を乞うことに。かくしてエアの指示どおり、烈風をズーの翼に集中する作戦が実行に移されることとなり、(物語の結末部分は不鮮明であるものの)どうやらズーに勝利したらしい。
 もう一つの神話『ルガル叙事詩』(『ルガル・エ』)は、ニンウルタ神が、神格化された武器シャルウルの助言のもと、ミトゥム武器やトゥクル武器を携え、山の悪霊アサグに立ち向かうお話である。ニンウルタは悪霊どもを撃破し、更には治水に成功して国土を肥沃にした。
 いずれの神話も、障害となる存在を打倒し秩序を打ち立てるという筋立てだが、特に後者の神話については、実り豊かな収穫を実現させたという要素を含んでいる。ニンウルタのシンボルが「犂」であることは、彼の神性が戦闘にとどまらないことを意味する。
 この戦勝と収穫という2つの要素は、文明初期における王の二大義務であったと考えられており、ニンウルタ神は「王の役割を体現している」という意味で、まさしく英雄神である(※王に求められた役割については、前田徹「メソポタミアの王・神・世界観」が詳しい)。


3.ニンギルス神との混濁、違い

 ニンウルタ(ニヌルタ)神については、ニンギルス神との関係について触れなければならない。ニンウルタとニンギルスはその性質が酷似しており、しばしば同一視が見られる。――これはこの2神に限った話ではなく、古代メソポタミアの宗教観においては、戦闘神・英雄神の混濁がみられ、ニヌルタ神はニンギルス神以外にも、インシュシナク神やティシュパク神、パピルサグ神とも同一視され得る。
 ただ、ニンウルタ固有、ニンギルス固有の面もそれぞれあり、その点に十分留意したい。"ニンウルタらしさ" を取り上げるなら、それは「大地の主」ニンウルタならではの要素 = 豊穣神としての側面、治水の側面である。


(出典神話等)
 『アトラ・ハシース物語』、『アンギン神話』、『イシュタル讃歌』、『ギルガメシュ叙事詩』、
 『グデアの神殿讃歌』、『ズーの神話』、『ニンウルタ神と亀』、『ニンウルタ神のエリドゥ詣で』、
 『ネルガルとエレシュキガル』、『ルガル神話』
(参考文献)
 「メソポタミア文明の光芒」、「メソポタミアの王・神・世界観」、「シュメル神話の世界」、
 「メソポタミアの神々と空想動物」、「星座神話の起源」、「古代オリエント事典」

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