1.クタ市の冥界神
※メスラムタエアと別の神格として扱う。
冥界神、戦闘神。ネルガル(Ne-iri-gal)の名は「冥界の偉大な町の主人」から派生したもの(冨樫乕一「古代メソポタミアの神々の系譜」)。信仰地はバビロニア北部のクタ市であるが、ネルガルそのものがクタ在来のメスラムタエア神とセム系のエラ神が集合した神格とされることもある。
双頭獅子の頭がついた笏、あるいは三日月刀を持つ図像が見つかっておりネルガルのシンボルとされているほか、円筒印章の図柄に見られるハエ(※冥界の象徴)もネルガルの象徴とされる。また、棺に横たわる神の図像も見つかったおり、ネルガル神だとみられている。
また占星術においては火星に比されており、火星の輝きが弱まれば吉兆、逆に強まれば凶兆とされた。
2.碑文に記される戦闘性
冥界神であるほか、ネルガルは戦闘性について言及されることがある。『ハンムラビ法典碑』では、暑さを印象付ける文言とともにその戦闘性が強調されている。またアッカド王サルゴンの功業を記録した王碑文にその名がみえるほか、ナラム・シンの戦勝碑においては、ネルガルとダガンがナラム・シンを援け、彼に都市アルマーヌムとエブラを与えたとされる。シャルマネセル3世のオベリスクにおいては「ネルガル神、完全なる者、戦いの王」と刻まれており、外征の成功、戦争の勝利を正当化する宗教的理解としてネルガルの戦闘性が利用されている。
3.神統譜
神統譜について。神話『エンリル神とニンリル女神』において、大神エンリルとニンニル(スドゥ)の二番目の子とされている。一方、神話『ネルガルとエレシュキガル』ではエアが父神となっている。
配偶女神はエレシュキガル女神で、『ネルガルとエレシュキガル』では彼らの馴れ初めが物語られている。
4.習合と属性
ネルガル神は様々な神格と習合された(メスラムタエア神、ルガルイラ神など)ほか、ギビル、ニンアズと同一視されることもあるため、光の神、火星の象徴、戦士、疫病、豊穣、植物の神ですらある。また異名も多く、エラ、イルガルラなど、古バビロニア時代の神名表によれば50の異名を持つという。
パルティア時代にはギリシアの英雄ヘラクレスと習合された。
(出典神話等)
『アトラ・ハシース物語』(ニップール版)、『ギルガメシュ叙事詩』、『ネルガルとエレシュキガル』、
『エラの神話』、『ハンムラビ法典』、『エンリル神とニンリル女神』、『ウルナンム王の死と冥界下り』
(参考文献)
「古代メソポタミアの神々の系譜」、「古代オリエント事典」、「メソポタミア文明の光芒」、
「古代オリエント カミとヒトのものがたり」、「古代オリエント都市の旅」、
「メソポタミアにおける「王の業績録」、「シュメル神話の世界」
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