ドゥムジ（タンムーズ）

１．神名、神統譜

　ドゥムジ（「忠実な子供」）、ドゥウジィ、タンムーズ（タンムズ）、アマウシュムガルアンナ（「（その）母は天の龍」）、クリエンリル（「エンリルの友」）。牧畜神、植物神、冥界神。
　配偶女神はイナンナ、姉はゲシュティンアンナ女神、母はドゥットゥル。義兄はウトゥ（シャマシュ）。

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２．イナンナの恋人

　ドゥムジ最大の特徴は、イナンナ女神の恋人（配偶神）であるということで、両者の配偶関係は複数の神話で物語られている。
　神話『ドゥムジとエンキムドゥ』では、自身こそイナンナの配偶に相応しいと猛アピールした末女神のハートを射止めるが、一方『イナンナの冥界下り』（似た神話に『ドゥムジの夢』）の時には、イナンナが冥界に捕らえられていたのに喪に服しておらず、それゆえ女神の逆鱗に触れる。なお後者の神話について、ドゥムジが半年間冥界に下らなければならなくなったことは『ギルガメシュ叙事詩』の一節に採用されている。
　ドゥムジは『イナンナ女神の歌』においてはアマウシュムガルアンナ（「（その）母は天の龍」の意）と呼ばれており、この名はドゥムジの戦闘的側面を強調している。ただこのことは、必ずしもドゥムジの戦闘性を示しているのではなく、ドゥムジを通して、配偶のイナンナ女神の戦闘性を称えているものと解釈するのが妥当か（※「アマウシュムガルアンナはドラゴンのごとくあなた（イナンナ）のために闘う」という文章からは、あくまで戦闘力はイナンナのために供される印象を抱く）。ただいずれにしても『イナンナの冥界下り』よりは、御両名の仲は親密に思われる。

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３．聖婚儀礼

　豊穣神ドゥムジと豊穣女神イナンナの結びつきは、後にウル第3王朝シュルギ王の時代になってから、聖婚儀礼として儀式化された。王がドゥムジを演じ、女神官がイシュタルを演じ結ばれることで、神話上の豊穣を祈念する儀式である。シュルギ王やイシン第1王朝イディン・ダガンの例などが知られる。

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４．牧畜神

　ドゥムジの豊穣神としての側面は、植物神としての側面と、牧畜神としての性質の二面ある。後者がよく知られており、牧畜神の性質が転じて『エンキ神の定めた世界秩序』では、バターやクリームについて任されている。
　また『イナンナの冥界下り』において、ドゥムジとゲシュティンアンナが半年交代で冥界へ下るという筋立ては、春に羊が屠畜され、秋頃に葡萄が収穫されるという自然界とリズムを、牧神が下り、その後葡萄樹の女神が下るという展開に反映したものである。

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５．「死んだ神」

　神話上明らかなように、ドゥムジははじめから冥界にいたわけではなく、後天的に冥界に住まうようになった、いわゆる「死んだ神」である。そのため、同じような「死んだ神」と習合・同一視されやすい。ただしドゥムジはどちらかと言えば、習合 "する" 方であり、結果的に彼の神格は長く残り続けた。また、集合ではないが『アダパ神話』において、冥界神ニンギシュジダとともに天上でアダパを待ち構える（※冥界神である二柱が天上にいるのはなぜか…大きな謎である）。

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６．名が残ったタンムーズ

　ドゥムジ ＝ タンムーズは、シリア・フェニキア地方ではアドニ（「わが主」の意）と呼ばれ、ギリシアに入るとアドニスの名で伝えられた。
　また、旧約聖書（エゼキエル書8・14）にもタンムーズが登場する。豊穣神として厚く祀られていたようで、タンムーズ祭儀を非難するユダヤ人たちの暦に、"タンムズ月" が残っているのは、皮肉な巡りあわせである。

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７．ドゥムジ王との関係性は…

　最初期のシュメール王朝及びその王たちの名を列挙したシュメル王名表において、洪水以前のバド・ティビラの王、洪水後のクラバの王にドゥムジという名がある。ドゥムジ神と同名の王が２人いた勘定になるのだが、関係性は不明である。
　同じく初期王朝の王ギルガメシュ（ビルガメシュ）は、実在した可能性が高く、死後間もなくして神格化された可能性が指摘されている。ドゥムジについても、同様の可能性があるかもしれない。

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８．参考動画

　以下、ドゥムジについての参考動画です。
　

　【メソポタミア神話】イナンナ(イシュタル)の冥界下り 前編（https://www.nicovideo.jp/watch/sm28401624）
　

　ゆっくり古代メソポタミア解説②【イシュタル 1/2】（https://www.nicovideo.jp/watch/sm32785747）

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（参考文献）
　「シュメル——人類最古の文明」、「古代オリエント事典」
（出典神話等）
　『イナンナの冥界下り』、『ドゥムジとエンキムドゥ』、『イナンナ女神の歌』、『ギルガメシュ叙事詩』、
　『アダパ物語』、『ドゥムジの夢』、『エンキ神の定めた世界秩序』、『ドゥムジ神とゲシュティンアンナ女神』、
　『エンメルカルとアラッタの君主』、『ルガルバンダ叙事詩』、『ウルナンム王の死と冥界下り』