1.冥界の女主人
エレシュキガルは「大いなる地(冥界)の女主人」(エレシュ=主・キ=大地・ガル=大いなる)の意。アッカド語ではアラルトゥ、あるいはイルカルラ、ベリリ。
シュメル神話によれば、世界が創造された時から冥界を統べている女主人で、ナムタルやネティらを統括して冥府の宮殿に住まう。
古くはグガルアンナの配偶女神、古バビロニア時代以降はネルガル/エラの配偶女神とされた。イナンナの姉。
2.性格と気性
神話『ネルガルとエレシュキガル』において、男を知らぬがゆえ、当初敵視していたはずのネルガルを愛してしまう。しかし執着心が凄まじく、手段を選ばずネルガルを夫に迎えようと求める。…古代の神話に "ヤンデレ" が存在した。
また、神話『イナンナの冥界下り』では、冥府に下って来たイナンナに対し怒り狂い、一度は死に至らしめてしまうなど、キレると怖い。
3.冥界の様子
エレシュキガルが統べる冥界の様子については、必ずしも網羅的な情報があるわけではないが、神話の記述等から大よその様子(※想定されていた冥界観)がわかっている。
エレシュキガルは「日が沈むところの女主人」と美称されていることから、冥界は水平方向では、西方を想定されていたようである。ただ冥界の有様については、幾つかバージョンがある。神話『エンリル神とニンリル女神』では、冥界との境界には「人を食う河」があり「渡し船」に乗らなければ冥界へ行けないとされる。一方、『イナンナの冥界下り』、『イシュタルの冥界下り』では七つの門があり、その中に宮殿がある(※河は出てこない)。『ネルガルとエレシュキガル』に従うなら、天界と冥界を行き来するためには、"ハシゴ" で行き来するらしい。
いずれにしても、垂直方向において、大地「キ」の下に深淵「アプスー」があり、更にその下に冥界「クル」(あるいは「クルヌギ」)があると想定されていたようである。
4.冥界そのものの象徴・・・?
※以降私見。
古代メソポタミアの人々が冥界に対して思いはせる際、彼女が象徴的存在であったのかもしれない。
古代メソポタミアの神話において、文末で、特定の神名や王名を呼び称えるケースが多い。特に、冥界に関係する幾つかの神話において、最後にエレシュキガルの名を挙げ称えているものがある(例:『イナンナの冥界下り』(断片B)、『ギルガメシュの死』(メ・トゥラン版))。また、『ギルガメシュとエンキドゥと冥界』において、彼女に対して冥界の贈り物が送られている。
エレシュキガルそのものが冥界を象徴する存在であり、神話の文末においてエレシュキガルを称えることは、冥界や、冥界の掟を重んじる宗教観と通じているのかもしれない(※特に、同じく偉大な冥界神であるネルガルと比較する場合、ネルガルは冥界神であるにも関わらず戦闘的な側面が強調されている一方で、エレシュキガルについては冥界そのものと結びつく文脈で名前が挙がっていることが多い。冥界を代表する存在は、ネルガルよりもエレシュキガルの方が適任に思われる)。
5.参考動画
以下、エレシュキガルについての参考動画です。
ゆっくり古代メソポタミア解説④【エレシュキガル】(https://www.nicovideo.jp/watch/sm36119969)
【メソポタミア神話】イナンナ(イシュタル)の冥界下り 前編(https://www.nicovideo.jp/watch/sm28401624)
ゆっくり古代メソポタミア解説③【イシュタル 2/2】(https://www.nicovideo.jp/watch/sm32785887)
(出典神話等)
『ネルガルとエレシュキガル』、『イナンナの冥界下り』、『イシュタルの冥界下り』、
『ビルガメシュ神の死』、『ギルガメシュとエンキドゥと冥界』、
『ギルガメシュ叙事詩』、『ウルナンム王の死と冥界下り』
(参考文献)
「古代メソポタミアの神々」、「メソポタミアの神々と空想動物」、「古代オリエント事典」、
「メソポタミアの神話 神々の友情と冒険』、「メソポタミアの王・神・世界観』
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