1.「喜びを為す主」
エンサグ、エンザグ、エンザグ、インザク、インサグ。
神話『エンキとニンフルサグ』では、エンキが草を食べてしまったため、ニンフルサグは呪いの言葉を吐いてエンキを苦しめる。その後、ニンフルサグはエンキの病気を治すために8つの神様を生んでいくが、その過程で生まれたのがエンサグである。その名前から、エンサグは「喜びを為す主」だが、「肩胛骨」の病気を癒す神とも言えそう(※五味亨氏の指摘)。
後述するように、もともとはシュメル圏外の神である可能性がある。
2.ディルムンとの関係
『エンキとニンフルサグ』の最終部で「エンサグはディルムンの主たれ!」と称えられている。エンサグには、シュメル外との関わりを示唆する説が多くあり、興味深い。エンサグは、もともとインサグという土着の神である(「参考「シュメル神話の世界」)という説や、ディルムンのほかエラムでも信仰されていた(「参考「古代メソポタミアの神々」)とする説もある。ことにエラムでは、エア(エンキ)、インシュシナクとともに三体一座をなしたという。なお、ディルムンの主神インザク神は、新バビロニア時代にナブー神に集合された。
エンサグとディルムンの関係については、後藤健「メソポタミアとインダスのあいだ」が参考となる。同書によれば、インザク神は海洋交易に秀でたアガルム族の守護神である(いわゆる「デュランドの石」と呼ばれる、バハレーン島出土の石があり、「アガルのインザク神の僕であるリムムの宮殿」という碑文が刻まれている)。アガルム族は現在のバハレーン島に転居し、現地の住民と混在してディルムン国を形成した。
ディルムン人は対メソポタミア交易の前線基地としてファイラカ島(現在のクウェイトにある島)を開発していた。南メソポタミア世界の記録に残る「ディルムン」は、ディルムンの本島であるバハレーン島ではなく、たんにこのファイラカ島を指す場合がある。ディルムンとの交流により、もともと上がる無続の神であるインサグ神は、メソポタミア世界でも知られる神となった。この接触面はファイラカ島で限定的にとどまっていたため、メソポタミア世界におけるインサグ神やディルムンの神々への認識は不完全であった。神話『エンキとニンフルサグ』において、エンキがディルムンの祖神であり、その息子エンサグをディルムンの神としている点は、限られた情報を活用しつつ、伝統的な神話体系の中にエンサグ神を位置づけたものと考えられている。アガルム族がバハレーン島へ移る以前、同地では水神(神名不明)が祀られていた。メソポタミア世界からやってきた者たちは、このディルムン在来の水神を、自分たちの伝統的な神であるエンキ神と結び付け、かつ同じくディルムンの神であるインサグをエンキと関連付け、神話の中で体系付けたものとしている。
(出典神話)
『エンキとニンフルサグ』
(参考)
「シュメル神話の世界」、「古代メソポタミアの神々」、「メソポタミアとインダス」
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