ヘイムダル

ページ名:ヘイムダル

ヘイムダル【暗闇のカラス】

概要

呼称 暗闇のカラス
陣営 ブライト王国
種族 ヒューマン
年齢 26歳
身長 178㎝
趣味 カタストロフを利用してその力を手に入れること
好きなもの

・魔法書籍

・挑戦しがいのある任務

嫌いなもの 修練していた頃の記憶
現在地 ブライト王国
現在の身分 カラスの秘密結社の黒魔術師
関連人物

【同じく孤児院で拷問を受けていた】

イザベラ

スカーレット

ストーリー

「戻っておいで……」

 

不快な声が頭の中で響き渡る。

ヘイムダルは怒りのあまり、

頭を壁に打ちつけ声を遮断した。

心の奥にある暗闇。

その深淵とリンクすると、

いつもこの声が聞こえてくるのだ。

 

そして、その直後には決まって

思い出したくもない光景が

頭の中に次々と投影されるーー

 

村人たちが飛んでいるカラスの群れに

石を投げつけると、

カラスに捕まった子どもが空から落ちる。

黒髪の男の子がその子どもを

受け止めようと走っていくが、間に合わない。

女性が黒髪の男の子を

孤児院の入り口まで送り届けると、

黒かった髪の毛が真っ白になりーー

 

「やめて!」

 

ヘイムダルは大声を叫んで、

頭の中で流れるその光景を打ち消した。

だが、憎しみと苦しみは残り続ける。

こうなってしまうと、

何かほかのことをして気を紛らわさないと

平常心を取り戻すことはできなかった。

例えば……

任務を遂行する、

もしくは若い母親たちを苦しませる、など。

帰るべき時が来たのかもしれない。

自分の魔法の源を見つけ、

それを完全に会得して、

未知の世界での探求をさらに進めるために。

 

陰鬱な気持ちを抱えたまま、

ヘイムダルが再び故郷の地を踏む。

彼が目にした光景はひどかった。

家や木は黒い煙に覆われ、

真っ黒な霧が村人ひとりひとりに

纏わりついていたのだ。

村いっぱいに漂う臭いを

ヘイムダルはよく知っていた。

これはカタストロフの臭い。

村の入り口から地を踏みしめる音とともに

やってくるヘイムダルの姿を見た村人たちは、

途端に血相を変えて逃げ出した。

だが、彼は逃さない。

ヘイムダルが杖を振ると、

杖先から人面蜘蛛が現れる。

人面蜘蛛は地面に落ちるとたちまち巨大化し、

糸を吐いて村人たちを地面に縛り付けた。

そして、村人たちの意識を

心の奥にリンクさせ、

暗い深淵の中に引きずり込んだあと、

ヘイムダルも深淵の中に飛び込んだ……。

 

気がつくと、

彼は20年前のとある家の入口に立っていた。

家の中では、女性が赤ん坊を抱えている。

女性の腕の中にいる赤ん坊は、

この世界のことはまだ何も知らない、

純粋無垢な存在。

だが、灰色の瞳の中には小さな蛇がいたのだ。

窓の外には、まるで赤ん坊を迎えるように

カラスの群れが集まっていた。

悪魔が生まれてきたに違いないと

思い込んだ村人たちは、

その一家を村から追い出そうと計画する。

明るく優しかった父親は、

村人の策略にはまり、

次第に暴力的になっていく。

そして、暴力が原因で仕事を失うと、

父親の顔から笑顔は完全に消えてしまった。

 

「俺がこんなに不幸になったのも、

お前が悪魔なんて産むからだ!!!!」

 

酒に溺れては、妻に暴言を吐き、

暴力を振るう日が続く……。

 

月日が経ち、赤ん坊だった灰色の瞳の子にも

ベムダーという弟ができる。

だが、ベムダーは不慮の事故で

死んでしまうのだ。

このことを灰色の瞳の子どもの仕業だと

思い込んだ村人たちは、

子どもを縛り上げて火あぶりの刑に

かけようとする。

 

「戻っておいで……」

 

またあの声が響き渡る。

ヘイムダルはすぐさまリンクを解除した。

そして、恐怖で怯えている村人に

毒液を注入し、

ヘイムダルは火刑台に向かった。

火刑台へ続く道には雑草が生え、

敷いてある石には焦げついた跡があった。

そこに杖をかざすと、

ぼんやりとした影が現れる。

それは、ヘイムダルの母親の影だった。

たとえ黒魔法でも、

死んだ人を蘇らすことはできない。

といっても、彼も母親を蘇らせようとは

思っていない。

なぜなら、

この女こそが彼に希望を与えたと同時に

暗い暗い闇の底へと突き落とした

張本人だからだ。

 

それに……

 

『スミレ孤児院』

ヘイムダルは気づけばこの孤児院にいた。

村人に追われ、火あぶりの刑にかけられた

ところまでは覚えている。

だがその後、どうやって火刑台から逃れ、

生き延びることができたのか、

記憶がないのだ。

ヘイムダルが孤児院で目が覚めて、

最初に目に入ってきた光景は、

鳥のクチバシのようなものが付いた

マスクを着用している医者たちだった。

医者たちはヘイムダルの脊髄に管を刺し、

体液を採取していた。

どうやら、彼の魔力の源を

探しているようだった。

 

こんな仕打ちを受けているのは、

彼だけではない。

『スミレ孤児院』に預けられた

ほかの子どもたちも同じように

人体実験をされていたのだ。

そして、しばしば魔物と戦わされ、

勝った子どもたちは魔物と契約を結び、

負けた子どもたちは魔物の餌食となる。

これが『スミレ孤児院』の本当の姿だった。

 

戦争で親を失ったり、捨てられたりと、

行き場のない子どもたちを保護する、

という名目で孤児院を設立したようだが、

実際には子どもたちを使って

禁じられた黒魔法の実験をしている

『カラスの秘密結社』という組織だ。

 

何度も実験が繰り返され、肉体的、精神的な

虐待がヘイムダルを苦しめる。

次第に苦しみから逃れるように

自我が消え始めたヘイムダルは、

暴力的で狂気じみた行動を

繰り返すようになっていった。

 

彼にとって、『スミレ孤児院』で

楽しい思い出など何ひとつなかった。

 

年月が経ち……

ヘイムダルは実験される側からする側へと

変わっていった。

まるで何かを打ち消すかのように、

黒魔法の実験に没頭し、

与えられた任務をこなす日々を送る。

実験や任務を繰り返していると、

ヘイムダルは次第に快楽を覚え始めた。

特に、任務で哀れな女たちを苦しめていると、

心が晴れていくように感じる。

それは、頭の中から憎い母親の記憶が

消えていくように思えたからだ。

 

またしばらくの年月が経ちーー

 

「ここに来て……ここに来て……

私たちと一体になれ」

 

心の奥底、仄暗い深淵の中から、

誘いの言葉が聞こえるようになる。

しかし声だけでは、

年齢も性別も区別がつかない。

ふと、頭上にカラスの群れが飛んできた。

ヘイムダルは誘われるように、

その群れの中に吸い込まれていった。

すると、瞳の中で小さな蛇が激しく動き回り、

青白い焔を吹き出したのだ。

これは魔蛇アイレナの焔で、

魂を焼き尽くす炎だった。

アイレナの焔が使える魔道士は

過去も現在も彼1人のみ。

そのことが買われたヘイムダルは、

『カラスの秘密結社』の正式なメンバーに

選ばれたのだった。

ここでは世界中の禁じられた魔法を

自由に研究することができた。

 

ーー火刑台をあとにしたヘイムダルは

自身の記憶の最果てにある場所にやってきた。

あの小屋……

霧が最も濃く包まれている場所は、

カタストロフがいる証拠だ。

木製のドアは、

もはや原型を残していなかった。

 

「ベムダー……」

 

(弟がまだ生きていたら、

昔のように自分のところへ駆けつけて

一緒に遊ぼうとせがんでくるだろうか?)

 

中に入ると、ボロボロになった毛布から

男が出てきた。

その男は、ヘイムダルの父親の姿をしている。

そして、ベッドから下りてくるなり、

目の前の魔力に満ちた体を貪欲な目で

見つめてきた。

 

「ついに私の声に答えてくれたか」

 

暗闇から囁き続けた、あの嫌な声だった。

 

「あんただったのね。

私の頭の中でうるさいハエのように

話しかけてきたのは」

 

ヘイムダルは男を睨みつけながら、

杖を軽く振りかざす。

すると、目の前に古い魔法の本が1冊現れた。

 

「それはないだろう? 

私がいなければ、

お前も存在しなかったんだぞ」

 

男はもうすぐ手に入りそうな新しい体を見て、

興奮を隠せずにいた。

現れた魔法の本は、

まるでページがわかっているかのように

ペラペラとめくり始め、

第376項目『カタストロフ禍乱の歴史』で

ピタッととまる。

 

「憎悪のカタストロフ、キューピアスね」

 

カタストロフは太古の遺物である

魔法の本を見ると、

少し警戒した表情で聞いてきた。

 

「それをどうやって見つけた?」

 

「『カラスの秘密結社』には

こういう本がいっぱいあるの。

それに……

カタストロフを手懐ける方法もね!!!! 

あははははは!!!」

 

ヘイムダルが大声で笑い出すと、

部屋の隅から数匹の人面蜘蛛が現れ、

糸を吐いてキューピアスに憑依されている

父親の身動きを封じた。

美味しそうな新しい体があと少しで

手に入るという距離なのに届かない。

キューピアスは我慢の限界だった。

耐えきれなくなったキューピアスは、

ひっそりと影の中に潜り込み、

ヘイムダルの後ろから巨大な本体で現れる。

自身に巻き付いている糸を伝い、

ヘイムダルの頭の中に侵入すると同時に、

彼の父親である男の体を操って、

まるで父親が語りかけるように話しかけた。

キューピアスはヘイムダルの気をそらし、

時間を稼ぎたかったのだ。

 

「お前の母親の最期を知りたくはないか?」

 

「なに、いまさら。もう見たわ」

 

ヘイムダルは興味なさそうに杖を振るう。

 

「そうか、何も感じなかったのか?」

 

キューピアスは再び大きな声を出して笑った。

 

「あははは! あんた、私の心を

揺さぶりたいのかもしれないけど、残念! 

母は死んだ。ただそれだけ。

そこに感情も何もないわ」

 

「ならば、どうしてお前が星界学院に行けず、

『スミレ孤児院』に入ったのか。

それからお前が火あぶりにされても

死ななかった理由、知りたくないか?」

 

人面蜘蛛の動きが止まる。

このカタストロフは、自分がまだ知らない

秘密を知っていると直感が働いたのだ。

 

「…………それで?」

 

「私だよ! 

私がお前のために貯めておいた

入学金を盗んだのだ!! 

お前が火あぶりの刑にかけられた時もそうだ。

お前の母親は身を挺してお前を助けたよ。

だが、村人たちの攻撃は収まることはない。

だから教えてやったんだ。

村人たちの攻撃から逃したければ、

『スミレ孤児院』にヘイムダルを預けろ。

そこに預けられた子どもは、

みんな大物になれるらしい、ってな。

あの女、すぐに信じたぜ?」

 

「そのあとは?」

 

ヘイムダルの瞳はこの時すでに

眩しい光を放っていた。

しかし、彼がかけているレンズによって

遮られているため、

キューピアスは気がつかなかった。

カタストロフは、ヘイムダルの憎しみを

吸収して、力を増幅させた。

 

だが、これだけではまだ足りない……

 

「母親は戻ってきた。

そのまま逃げ去ると思っていたがな……」

 

「どうして戻ってきたの?」

 

キューピアスはしばらく沈黙したあと、

再び話し始めた。

 

「もちろんお前の弟を助けるためだ。

ベムダーは死んでもなお、

村人たちに虐げられていた。

お前は気絶していたから

知らないだろうけどな。

くっくっくっ……

まんまと騙されて、馬鹿な女だ」

 

キューピアスはヘイムダルの憎しみを

引き出すために挑発を続けた。

 

「もう気づいていると思うが、

お前とベムダーがよく遊んでいた森の場所、

私が村人たちに教えてやったんだ。

お前があそこでこっそり

魔法の練習をしていたことも知っている」

 

キューピアスは得意げだった。

 

「そう……」

 

ヘイムダルは、なくしていた記憶の断片を

手に入れることができた。

ようやく記憶がつなぎ合わさった。

だが同時に、悲しみ、憤り、

そして心の底から怒りが湧きあがる。

この時代を生きる最も偉大な黒魔術師である

ヘイムダルのプライドが、

このような小者のカタストロフによって、

踏みにじられたからだ。

 

「キューピアス……」

 

ヘイムダルがドワーフ特製のレンズを外すと、

瞳の中の蛇が姿を現す。

そして、アイレナの焔が

キューピアスめがけて放たれた。

 

「悪いけど、私を怒らせないことね!!」

 

「ま、魔蛇の焔!??? 

どうしてお前がアイレナの力を!?」

 

キューピアスは青い炎の玉となって

空中でもがき苦しんでいる。

 

「ぐっ……やめろ! 私がいなかったら、

お前は今のような力を

身に着けられなかったはずだぞ!!! 

私のおかげなんだ! 

恩を仇で返すのか!?」

 

ヘイムダルは初めて心の奥底にある

暗闇の深淵に入った時、

すでにこの巨大な体と出会っていた。

あまりにも巨体で、

自分の体が相手の目玉ほどしかなかった。

 

「そうね、私がここまで来たのも

あなたのおかげかもしれない。

でも、だからなんだというの?」

 

「くそっ!!!!」

 

「そうだ、いいこと思いついた。

いま私と契約したら、

もっと大きな力が得られるかも?」

 

ヘイムダルはきっと思いついてなどいない。

はじめから、そのつもりだったのだろう。

 

「契約……だと……!?」

 

このままアイレナの焔に焼かれ続けたら、

魂が焼き尽くされ、

実態のない霧に戻ってしまう。

それがわかっていたキューピアスの選択は

1つしかなかった。

 

「わ、わかった……」

 

アイレナの焔は消え、

キューピアスは魔法の本の中に入っていった。

 

こうして2人の契約は成立。

ヘイムダルは本に閉じ込められた

カタストロフを見ながら、得意げに笑った。

 

そして、キューピアスから教えられた

記憶の断片を切り取るため、杖を振り、

心の奥底にしまい込んだ。

感情は人を弱くさせる。

 

「私にそんな物は必要ないわ」

 

俯きながら、静かに呟く。

ヘイムダルはそっと目を閉じたのだったーー

 

ドリーのコーナー

ある意味、ヘイムダルは幸運児だったとも言える。

王国には彼のような困難な境遇の子供はたくさんいるが、彼のように魔法の才能を持って生まれてくる子供はいなかった。

弟が死んだあの日、ヘイムダルは弟を救うために魔力を使い果たすが、そんな中で村人たちの声が聞こえてきた。

「きっとあいつが殺したんだ!」

こうして押し寄せてきた村人たちによって、ヘイムダルは火あぶりの刑に処されることとなった。

目を覚ますとそこは孤児院だった。

この時はまだベムダーのことを覚えていたが、そこで行われた残酷な「実験」によって、段々と記憶と意識が朦朧となっていった。

そのうち、ヘイムダルは自分の体は体質的に黒魔術に適していて、黒魔術が自分の大きな苦痛とともに強力な力を授けてくれることに気づいた。

苦痛によって何度も気を失ったが、自分自身について深く考えるきっかけにもなった。

自分の能力は一体どこから来たものなのか?

この力は一体何なのか?

どうして自分に扱えるのか?

ベムダーはどうして死んだのか?

母親はどうして自分を棄てたのか?

無数の疑問が知識の探求に変わり、知識の探求が強さに変わった。

そんな疑問を胸に、超一流の強者が集まるカラスの秘密結社に加入した彼は自分を強くすることで忌々しい記憶を忘れようとした。

しかし、果てしない黒魔術の知識も、任務も、無実な婦人も、心の中の空虚さを埋めることはできなかった。

彼はいまだに母親のことを憎んでおり、宿命に戸惑っていた。

そこで彼は不幸の源に遡り、今や廃墟となった村で過去の自分と出会ったところ、カタストロフのキューピアスにスキを突かれた。

カタストロフは傲慢で堂々とした口調で、深淵に埋もれたヘイムダルの記憶を語りだした。

取り憑かれた父、愚弄される母、無実の弟......

怒り、狼狽、挫折、早速素晴らしい器に出会えたと心の中で喜ぶカタストロフ。

アイレナの炎が彼の背中を伝って、魂を燃やした。

「私と契約すればーー今ある力をずっと維持できるぞ」

この瞬間、ヘイムダルは孤児院の前で無力の涙を流している母を見たような気がした。

無駄な感情を捨て、記憶を封印しよう。

炎に包まれた彼は無表情のままそう思った。

 

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