花と木

ページ名:花と木

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ストーリー

アルマスは自身に起こっている異変に

悩まされていた......。

数ヶ月前から同じ悪夢を繰り返し見るのだ。

それは、身体が固定されて動けず、

もがいているところから始まる。

そして、どことも知れぬ彼方から湧き出た穢れが

悪臭を放ちながら迫って来るのを、

ただただ受け入れなければならないという夢だ。

だが、それ以上に恐ろしいのは、

夢から醒めてもなお悪臭に満ちた臭いが

拭えないのである。

さらに、アルマスだけでなく、

ユグドラシルの多くの草木も

同じ悪夢を見ていたのだ。

なにかおぞましい事態が起きていると察知したが、

原因がわからず打つ手がなかった......。

 

そんなことが続いたある日ーー

再び悪夢に襲われるが、

今までとは全く違うものだった。

穢れは地面から伸び上がり、

空中で黒ずんだ怪しい手と化す。

そして......。

アルマスの胸を貫こうと迫ってくるのだ。

これまでと同様にアルマスは動けない。

殺されると思ったその時だった。

突然、彼の前に青い霧が立ち込めて、

眩い光を放ちながら黒い手を包んだのだ。

黒い手は耳障りな甲高い音をあげると、

溶けるように光に包まれ消えていった......。

その後、

しばらくは悪夢にうなされることはなかったが、

代わりに青い霧がアルマスの夢に現れ、

安らぎをもたらしていたのだった。

 

だが、平穏な日々はそう長く続かなかったーー

 

次第に夢の中の青い霧は薄くなり、

穢れが再び侵食しだしたのだ。

すると......。

 

「アルマス、あたしを助けて......!」

 

青い霧の中から微かな声が聞こえてきて、

辺りを見渡すも誰もいない。

 

「何者じゃ? わしはどうすればいいのだ?」

 

「あたしはタシー、万物の夢の精霊よ。

深淵の力が再び目覚めかけているの。

けれど、あたしにはもう、

それを夢の中から消し去る力がなくて......」

 

か細い声が悲しそうに呟く。

 

「癒しの泉に行って、

あたしが現世へ還るための器を創ってほしいの。

お願いできる......?」

 

「うむ、やってみよう」

 

「あっ、でも! ただの器ではダメ~!

ちゃんと人型で蝶の羽を付けてね」

 

タシーの言葉を聞き入れると、

アルマスは夢から醒めたのだった。

そして、彼女の言う通りに

すぐに癒しの泉へと出発した。

 

それは、ユグドラシルの奥にある、

生命の神デューラがヴェルディア連盟に残した

最後の奇跡と言われる泉だった。

 

しかしーー

アルマスは何日もその場所で祈ったが、

何も起きなかった......。

それだけでなく、タシーも夢の中から消え、

二度と現れなかったのだ。

 

「タシー、どこじゃ? 教えてくれ。

どうやったらお主を召喚できるのじゃ?」

 

悪夢から自分を救ってくれた青い霧、

それはきっとタシーだったに違いない。

今度は自分がタシーを救いたい。

そう思っているのに、なんの変化もないことに

アルマスは焦りを感じる。

だが、その直後ーー

癒しの泉の真ん中で、

ぼんやりとした光を放っている

青い蕾があることに気づく。

よく見れば、

蕾の中から可愛らしい顔が覗いているではないか。

 

「ありがとう、アルマス!」

 

聞き慣れた声が響くと、

光を放ちながら花びらが咲いていき......。

妖精が姿を現したのだ。

少女は身体を少し震わせながら羽を広げ、

蝶のように舞う。

 

「やっと会えたね!

ふふ♪ すごく可愛く作ってくれてありがとう!」

 

桃色の長い髪を揺らし、

輝く笑顔を振りまくタシーの姿は、

ユグドラシルを照らす眩しい朝日のようだった。

 

それから数年間ーー

アルマスとタシーは共に戦っていた。

二人は、カタストロフに抵抗する

ヴェルディア連盟の頼もしい防壁と

なっていたのだ。

 

しかし、深淵の力も日に日に増していき、

ヴェルディア連盟の防衛戦もついに限界を迎える。

邪悪な力に支配され、朽ちた森が、

南方からユグドラシルに総攻撃をかけてきたのだ。

この戦争でアルマスは重傷を負い、

タシーの魔力も尽きかけてしまい......。

 

「アルマス、傷を見せて!」

 

「案ずるな。大した傷ではない。

もう医療兵に癒やしてもらった」

 

タシーに余分な魔力を使わせまいと、

アルマスは傷を隠し、

一人森の奥へと帰っていったのだった。

 

だが彼は、すぐに過ちに気づく......。

カタストロフにつけられた傷口から

黒い液体が滲み続け、

癒しの泉の力を使っても癒せない。

邪悪な力に抵抗しようともがくも、

アルマスにはその力がほとんど残ってなかった。

そして......意識を失い、倒れてしまう。

 

「アルマス! 起きて! 目を覚ましーー!?」

 

急いで彼を追ってきたタシーの目には、

ゾンビのように変わり果てた

アルマスの姿が映っていた。

カタストロフに侵食されたアルマスは、

異常に強かった。

タシーがどんなに力を注いでも、

眠らせることができなかったのだ。

タシーは自分の無力さを感じて涙を流すが、

命をかけてでもアルマスを取り戻そうと決意した。

彼女は最後の魔力を使って、

夢を通じてアルマスの危機を

アルドンに伝えたのだ。

そして、自身は青い霧となって

アルマスの夢に入り、

わずかに残されている理性を探し出したのだ。

夢の中で懸命に語りかけ、

アルマスを呼び戻すことに成功したが、

代償は大きかった......。

 

タシーは魔力を使い果たし、

夢の世界の迷い人となってしまったのだったーー

 

アルドンの助力でカタストロフの呪縛が

完全に解けた瞬間、

アルマスはタシーが消えたことを知る......。

 

悲しみに暮れるアルマスは大陸のあらゆる場所や、

夢の中でタシーの名を呼び、探し求めた。

 

だが、彼女との再会は叶わなかったーー

 

「タシー、どこにいるんじゃ......」

 

アルマスの瞳が涙で溢れ、視界を奪っていく。

だが、その先に青いものがぼんやりと見えて、

アルマスは慌てて涙を拭うと......。

見覚えのある青い蕾が、芽吹いていたのだった。

先程までの悲しみの涙とは打って変わり、

心の底から湧き出る歓喜に涙した。

蕾は以前のようにすぐに開花することはなく、

固く実を閉ざしている。

だが、彼はめげずに根気強く、蕾の世話を続けた。

癒しの泉に連れて行ったり、

共に戦った場所に赴いたり......。

幾たびもの夜明けと夕暮れを過ごしたのだった。

 

そしてついにーー

彼が待ちわびた笑顔が

花びらの中から姿を現して......。

 

「ただいま、アルマス!」

 

「よくぞ戻った、タシー」

 

アルマスは、優しく答えたのだったーー

 

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