ヤング&オールド

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ストーリー

クィーバーに入った何本かの矢、

ドラゴンハンティングボウ、

1本のロイヤル守備隊制式短剣ーー

 

今のグウィネスに残された装備だ。

彼女は三日三晩休まず城壁を守り続けている。

いくら体力に自信がある彼女でも、

疲労は隠しきれず、

弓を引くことさえままならない状態だった。

ホーガン将軍率いる部隊が

こちらに向かっているという

情報が入っているが、

早くてもあと2日はかかる見込みだ。

だが、城の防衛自体、

あと1日もつかどうかわからない......。

守備隊の矢、岩、火油などは

ほとんど底を尽きてしまったというのに、

カタストロフの攻撃はどんどん勢いを増していく。

 

グウィネスに不安ばかり襲ってくる。

責任、名誉、信念が彼女をこれまで支えていた。

だが、まだ実験経験が少ないグウィネスは、

本能的に死に対する恐怖を感じていた......。

 

グウィネスのロイヤル守備隊えの加入を、

国王が認めたその日から

彼女はブライト王国のために

実を捧げている。

だが今回、カタストロフの侵攻に対して、

ロイヤル守備隊は明らかに準備不足だった。

まさかこんな大群が何の前触れもなく、

王国国境内に攻めてくるとは

誰が予想できただろうか......。

 

カタストロフは以前から

王国への侵略を目論んでいて、

魔導士の魔力を攻城部隊に注ぎ込み、

王国境内に転送させてきたのだ。

ほぼ捨て身の戦略であり、

全滅するまで攻撃を続ける作戦だった。

王都が攻め落とされれば、

人類は希望を失い、破滅してしまう。

 

見張り塔に身を潜めているグウィネスは、

攻城兵器に砲弾を装填中のカタストロフを

一発で射抜いた。

 

攻城兵器の射程距離よりも遥か遠くから

攻撃を仕掛ける弓の名手がいることなど

カタストロフは知らない。

予想外の出来事に一瞬慌てふためくも、

すかさず別のカタストロフが現れ、

砲口の角度を彼女に合わせ発射したのだ。

反応に遅れたグウィネスは回避することができず、

砲弾を食らってしまい......。

 

大きな爆発音とともに、もくもくと煙が上がった。

 

しばらくしてその煙が消えると、

グウィネスの前に巨大な盾が

立ちはだかっていたのだ。

ピッタリと合わさった2つの大盾が

左右に開かれる。

間一髪、砲弾を防いでいたのは、

ヘンドリックだった。

 

「大丈夫か、グウィネス」

 

そう声をかけたヘンドリックは、

どこか浮かない顔をしていた。

彼の腕に視線をずらすと、わずかに震えている。

かつては、ババリア部族のウルサスとも

互角に渡り合えるほどの力を持っていた

ヘンドリックだったが、

今では砲弾を防ぐのもやっとというほど

衰えていた。

だからといって、

指揮官として部下たちの前で疲弊した姿を

見せるわけにはいかなかった。

 

「指揮官殿!」

 

グウィネスはすぐに姿勢を正し、

ヘンドリックに向かって敬礼した。

 

「グウィネス、私に付いてきなさい」

 

毅然とした態度でヘンドリックは彼女を

城壁の隅にある見張り塔の下に連れて行く。

誰もいないことを確認したヘンドリックは、

ゆっくりとした口調で話し始めた......。

 

「明日の夜明け、

カタストロフは総攻撃を仕掛けてくるだろう。

そうなると王都はもう守りきれない。

奴らは今、

明日の総攻撃のために力を温存している。

これはおそらく最後のチャンスだ......。

お前に重要な任務を与える。

真夜中、月が沈んだ後......。

精鋭小隊とともに国王陛下を護衛して

南門を突破し、ここを離れなさい」

 

「指揮官殿は?」

 

「私はロイヤル守備隊の指揮官だ。

兵士たちを見捨てるわけにはいかない。

私はここに残って兵士たちと運命を共にする」

 

「それなら私も残ります。

指揮官殿と一緒に最後まで戦います」

 

「駄目だ! お前の任務は国王陛下を

安全な場所まで護衛することだろう」

 

ヘンドリックは、

グウィネスの願いをきっぱりと断り、

彼女を静かに見つめた。

 

グウィネスをこの手で守ると決めて以来、

ヘンドリックはずっと彼女のそばにいた。

かつて、この身を持って

彼女の盾となると誓ったのに、

戦争に巻き込んでしまったことを

申し訳なく思っていた。

今ヘンドリックにできることは、

一刻も早く彼女を安全な場所に退避させること。

それがグウィネスのためにできる、

唯一の最善策......いや、親としての切望だった。

 

「指揮官殿、私は......」

 

グウィネスはまだためらっている。

城が突破されても取り戻すことはできるが、

国王の身に何かあったら、

この国は崩壊してしまう。

グウィネスはわかっているのだ。

だけど、彼女の心は今、

ひとりの兵士としてではなく、

父を心配する娘としての気持ちが勝っている。

 

だが、彼女をこれ以上危険に晒すわけには

いかないヘンドリックは心を鬼にして言う。

 

「これは命令だ!

夜になったら私が活路を開く。

お前は国王陛下を連れて南へ向かいなさい。

いいね? 決して振り向いてはいけない。

その方角であれば、

ホーガン将軍の援軍がこちらに向かって進軍中だ。

援軍と合流すれば、

お前も国王陛下も安全が守られる」

 

「父上っ......」

 

グウィネスの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。

こんな悲しい顔をするグウィネスを

ヘンドリックは初めて見た。

 

「グウィネス、私の代わりに国王陛下を守れ。

そして私のためにも......必ず生き残ってほしい」

 

上官としてではなく、

父親として優しく語りかけたのだった......。

 

夜の帳が下りて、辺りが静かになった時ーー

国王護衛の任務を任された精鋭小隊と

彼らの活路を切り開く特攻隊が

王都の南門に集まった。

ヘンドリックと彼に続く特攻隊は、

城門を出れば二度と戻ってくることはない。

もとよりこの身をブライト王国に

捧げている兵士達は死を覚悟している。

悲壮な面持ちでヘンドリックが手を上げると、

城門はゆっくり開き始めた。

 

「指揮官殿、ご無事で!」

 

グウィネスは涙を浮かべた瞳で、

ヘンドリックの背中を見つめながら

最後の別れを告げた。

 

ヘンドリックは振り向かなかった......。

そして背中の大盾を手に取り、

城門外の暗闇に見える無数のカタストロフを睨み、

大声で叫んだーー

 

「ロイヤル守備隊、我に続け!」

 

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