女王の盟約

ページ名:女王の盟約

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ストーリー

どす黒いエネルギーの塊が、

空中でどんどん大きくなる......。

その球体が限界までエネルギーを集めると、

巨大な音を立てながら一気に爆発したのだ。

 

禁忌とされていた宇宙の闇から吸い取った

エネルギーは、

生身の身体ではとても耐えられるものではない。

爆発に巻き込まれた黒翼族の兵士は

瞬時に消え去り、灰さえも残らなかった。

だが、向こうの山から大勢の黒翼族が追ってくる。

彼女には休む暇もなく、

ただ逃げ続けるしかなかった。

 

「まったく、しつこい奴らだ......」

 

荒い息を吐きながら罵るも、

サフィアはさっきの呪術で力が尽きていたのだ。

ふらつく体をかろうじて杖で支えながら、

あてもなく逃げ続けている。

かつて最高権力を象徴したこの黄金の杖は、

今の彼女と同じように泥まみれだったーー

 

数日前まで

権力を振りかざしていた女王が、

こんな窮地に陥るなんて思いもしなかっただろう。

権力とはまさに諸刃の剣であると痛感したが、

支配による快感を知ってしまったサフィアは、

二度と地位を他人に譲ることはできない。

 

それから何日か過ぎて......。

悪戦苦闘しながらも追撃者を次々と撃退する中で、

サフィアは全てを奪い返すと心に決めたのだった。

 

今回の件を経て、

自分の力不足を嫌というほど知らされた。

王座に長く居座るには、

より先のことを考えることが必要なのだ。

謀略で権力を奪い取るだけでは、意味がない。

 

「かかって来るがよい!

女王の威厳を見せてやろう!」

 

まだまだ余力があるように見せているが、

サフィアはもう限界だった......。

逃げ場があるなら、すぐに飛び込みたい。

疲れ果てた身体を休める場所を探していると、

真っ暗な洞窟を見つけたのだ。

 

「他に方法はない。とりあえず入ってみるか!」

 

そう言って中に入ると、

外から見るより暗くなかった。

ところどころがぼんやりと光っていて、

進む道を導いているかのようだった。

奥に行けば行くほど、

どこか不気味になっていったが、

それでもサフィアは進むしかなかった。

 

パキッーー

 

足元で骨が折れる音がした。

よく見てみれば、

燐光を放つ巨獣の骨を踏んでしまっていたのだ。

このぼんやりと光っていたものとは、

死んだ動物の骨の燐光......。

つまりは、この洞窟の中に

危険な捕食者が生息している証拠だった。

 

その予感は的中する。

白い蜘蛛の糸が後ろから大量に飛んできて、

彼女を包んだのだった。

そして暗闇からゆっくり歩いてくる足音が

近づいてきて......。

姿を現したのは、

緋色に光っている尖った爪が

背中から4つ生えている女だった。

 

噂に聞く土蜘蛛族の女王、

スカーレットクイーン、アンキーラだーー

糸を振り解こうとしても全く動けないサフィアは、

アンキーラの姿を見て絶望を感じた。

 

「くっ......!

ここは土蜘蛛族の巣であったか!」

 

もがき苦しんでいるサフィアを見て、

アンキーラはほくそ笑んでいる。

 

「ふふ......私の網にようこそ。

生贄となる覚悟はできたのかしら?」

 

サフィアの顎を掴み、ぐっと顔を近づけてきた。

歪んだ笑いを頬に浮かべたまま、

アンキーラは一言も発しない。

そして、その背後には無数の飢えた目が

瞬いている。

サフィアはぞわりと鳥肌が立った......。

 

なんというヘマをしたのだろうか。

サフィアは土蜘蛛のエサになるくらいなら、

追撃者に殺されたほうがずっとマシだと思った。

 

だが、ここで諦めるサフィアではなかったのだ。

座して死を待つより、

残った魔力に賭けてみようと心に決めるも、

アンキーラが警戒している。

土蜘蛛の女王は、

サフィアが何か仕掛けてくると

気づいていたのだ。

アンキーラは背中の爪を前に出して

サフィアの顔に触れる。

爪の鮮やかな赤い色は、

まるで警告を促しているかのようだった......。

 

サフィアは怯えている......。

なぜなら、この赤色が何を意味しているか

わかりきっているからだ。

アンキーラの爪で傷をつけられると、

毒が瞬時に入り込み、

極度の苦痛で死んでしまうのだ。

 

サフィアは深呼吸をして落ち着いて話し出す。

 

「妾を殺せば、強力な盟友を失ってしまうぞ」

 

「へえ? 蜘蛛の糸に捕まった虫が強いだなんて

思えないわ」

 

何もかも見透かしているようなアンキーラに

サフィアは言葉を慎んだ。

 

「そなたはここの女王だな?

実は妾も女王なのだ。

今はこんな状況だが、もうじき全てを取り戻せる。

そうしたら、そなたにはいいものをくれてやろう」

 

「いいものって何かしら?」

 

「権力と地位だ!!」

 

アンキーラが興味を示したため、

それに縋りつくように声を大にして言うが......。

サフィアの答えにアンキーラは大きく失望した。

 

「それなら既に持ってるわ。

もう諦めたらいかが?

子ども達に食事を取らせてあげないと......」

 

「よく聞くのだ。

今よりずっと高い権力と地位だ。

ただの土蜘蛛族の女王だけなど、

物足りんだろう?

ババリア部族を全て支配下におきたくないのか」

 

「ふざけるな!」

 

サフィアの言葉にアンキーラは怒りをぶつける。

 

「ふざけてなどおらん。

そなたは一日中この薄暗い洞窟におり、

危機感を失っているのではないか?

弱肉強食のババリア部族に属している以上、

妾もそなたも、そしてそなたの子ども達も、

もっと強くならねば......

いつか奴らに食われてしまうだろうな」

 

「なにをッーー」

 

「言いたいことは分かるぞ」

 

アンキーラが反論しようとしたが、

サフィアが被せるように言葉を重ねる。

 

「この巣は、糸と毒で守られていて

十分安全だと考えているのだろう?

だが、つい先日、

卑賤なワーラットがここを訪れ、

毒を盗んだと聞いたぞ......」

 

「......!」

 

誰にも知られたくなかった最大の汚点を言われ、

アンキーラは肩がピクリと跳ねる。

 

「このことはもうババリア部族全体に

知れ渡っている!

これからもっとたくさんの者が侵入してきたら、

そなたはどうするのだ?」

 

アンキーラはうつむき、考え込んでいた。

 

「ふふ......困っているようだのう。

もし妾を手伝って王位を奪い返してくれたら、

我らで同盟を結んで共に敵を倒そうではないか。

そしてババリア部族最強を目指すのだ!」

 

「まったく、よく喋る口だわ......

仕方ありません。

あなたの提案、乗って差し上げましょう」

 

歪んだ笑みを緩め、

アンキーラは穏やかに微笑んだ。

 

「まずはこの糸を解いてもらおうかのう?

息が詰まりそうだ。

それから、外の奴らを退治してほしい。

やつらの美味しさは保証するぞ!」

 

「安心してくださいませ。

私、仕事はきっちりとやりますわ」

 

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