無垢の冒険

ページ名:無垢の冒険

関連人物

ストーリー

『エスペリア童話選集』

ーー無垢の冒険ーー

このおとぎ話を読んだ人なら、

多かれ少なかれこんな伝説を聞いたことが

あると思う......

この世には、生命を司る神デューラが

愛した金色のベリーが存在する。

それはエルフの羽根のように

輝く葉がついていて、

黄金の真珠のような不思議な実がなる

果実だ。

それを食べた人は、

願い事を1つだけ叶えることができる。

だが......

この果実は純粋な心を持つ者だけが

見つけることができるのだ。

これから語る物語は、

この伝説の金色のベリーと

深く関係しているーー

橙色の空が完全に藍色に染まり、

夜になってしまったと

アモスは気づきました。

月がひっそりと姿を現し、

静かな夜が訪れました。

鳥の歌声や楽しそうに笑う

草木のさざめきが聞こえる昼間の森は、

女神デューラの祝福を受けていますが、

日が落ちるとその賑やかさがなくなり、

未知なる神秘を見せるのです。

アモスは簡単にたいまつを作り、

森の暗闇に怯えながらも

森の中を進んでいきます。

ここに来た時の道を戻っているだけなのに、

森に立ち込めている霧のせいで、

どんどん道に迷っているような

気がしてきました。

「はぁ......しょうがない」

足をとめたアモスは、

ふと木々の葉が覆う空を見上げ、

昼間にお父さんと喧嘩したことを

思い出しましたーー

「すでにこの件のことは

話が終わってるはずだが?

どういうことなのか説明しろ、アモス」

「だ、だって......」

「この森は危険だから遊ぶなと

何度同じことを言わせれば気が済むんだ!

森の中が危険なことぐらい

わかっているだろう!

何が楽しくて森で遊ぶんだ!?」

森の中にいるアモスを必死に探し、

ものすごく怒りながら家まで連れ帰った

お父さんの言葉でした。

「遊んでるとかじゃなくて......」

「私のアモスよ。

お願い、もうお父さんを心配させないで」

「お母さん......」

病気を患い、ベッドに横になりながら

涙目で訴えるのはアモスのお母さんです。

「でも金色のベリーを

見つけることができたらーー」

「アモス!

その話は済んだと言っただろう!」

お父さんは薬のお椀を机に叩きつけて、

声を荒げながらアモスの言葉を遮りました。

「いいか?

もう二度とあの森には入るな!」

ーー遠くから聞こえる獣の声に、

アモスは現実に引き戻されます。

お父さんの言うことを聞かず、

ひとりで迷路のような森に入ったことを

後悔し始めました。

森の暗闇でだんだんと

心細くなってきたアモスは、

嫌な想像をしてしまいます。

気を抜けば、すぐにでも背後から

闇に引きずり込もうとする獣が

森には潜んでいて、

その機会をじっと待つようにアモスを

暗い森の中から見つめている......

そんなことを考えるほど恐怖に支配され、

居ても立っても居られなくなったアモスは、

慌てて木の穴に飛び込みました。

そこには『ナッツシェル』という文字が

刻まれていました。

穴の奥は暖かく、

さっきまでとは別世界のようでした。

ふかふかの干し草、

採れたての新鮮な果物、

それに見たこともない大きなどんぐり。

一日中森の中を歩き回り、

疲れ果ててお腹もペコペコだったアモスは、

目の前の誘惑に勝てませんでした。

胸の前で手を合わせて、

聖なる光に許しを請い、

果実をひとつふたつと口の中に入れました。

お腹が満たされたアモスは、

だんだんと睡魔が襲ってきて、

気づけばふかふかの干し草の上で

眠りについてしまったのですーー

「ねえ、ラーク。

夜中に私をこんな場所に

連れてきた理由って......

まさかこの人間のガキンチョを

見せつけるためなの?」

「ち、違う、違うよ!

見せたかったのは、こっち!

どんぐり!

ピッピの誕生日に渡そうと思って、

幻夜の森で必死に探したんだぜ~」

話し声が聞こえてきて目を覚ましたアモス。

うとうとしながら目を開けると、

目の前には2つの毛むくじゃらが!

「わっ!?」

思わず声を上げると、

気づいた2つの毛むくじゃらが

振り向きました。

「あわわっ、起きた!

ねえ、人間のガキンチョ。

なんでラークの家にいるの?」

よく見れば毛むくじゃらの1つは、

リスでした。

そのリスが大きなぐるぐるメガネを

くいっと直しながらアモスに聞きます。

(うう、まさかこの家の持ち主に

見つかっちゃうんだんて…...)

逃げられないアモスは正直に話しました。

「森で......迷子になって。

ここは暖かくて居心地よかったから、

つい......」

「えっ、本当!?

ねえ、ピッピ聞いた!?

ピッピ以外に褒められたの初めてだよ!」

もう1つの毛むくじゃらは、

ラークと呼ばれたアライグマでした。

なんだか照れくさそうに頭を掻いて、

喜んでいます。

「そういうことなら、

ここでゆっくり寝ていきなよ!

朝になったらピッピとボクが

家まで送ってあげるぜ~!」

「それはダメだよ!」

ラークの言葉にアモスは慌てて

起き上がりました。

「だって......

ベリーが見つかってないんだもん」

「ベリー?」

ラークとピッパーは、

顔を見合わせながら頭をかしげました。

「ベリーが欲しいなら、

たくさん持ってるよ」

ラークは持ち歩いている缶を取り出して、

蓋を開けました。

中には赤や青の美味しそうなベリーが

たくさんありました。

だけど、アモスは頭をぶんぶん振ります。

「違う。それじゃない。

金色で、キラキラしていて、

昔デューラ様が愛したベリーだよ!」

ピッパーはうーんと考えて、

あっと気づきました。

「わかった!

伝説のベリーを探してるんだね!」

「で、伝説のベリー!?」

ラークは今にもヨダレがたれそうなくらい

食いつきました。

「おいしそう!

すぐに探しに行こうよ!」

「あわわ、待ってラーク!

伝説のベリーはね、

純粋な心の持ち主にしか見つからない

ベリーなんだよ。

しかもね、このベリーを手に入れるには、

神様が残した試練に合格しなきゃ

いけないの」

「へっへ~ん!

大丈夫!

ボクならどんな試練だって絶対に合格

しちゃうもんね~!」

ラークは自信満々に自分の胸を

どんっと叩きました。

「うーん......

でも、何があるかわからないし」

ピッパーは頭を抱えて悩みます。

だけど、ぱっと顔を上げて言いました。

「......わかった。

ラークが言うなら行こう!

ねえ、人間のガキンチョ!

その伝説のベリーの場所

知ってるんでしょ? 早く連れてって!」

「えっ......

あの、実は......僕もわからなくて......

で、でもデューラ様なら自分の好きな場所に

好きな果物を植えると思うし!

だからきっとユグドラシルにあるはず!

あと......僕の名前はアモス。

ガキンチョって呼ばないで。

お父さんの畑仕事の手伝いだってできるし、

お母さんに薬をあげることだって

できるんだから!」

「わかったよ、アモス!

ボクはラーク。

こっちはボクの友達のピッパー。

このユグドラシルには、

ボクとピッパーの知らない場所は

ないんだぜ~!

伝説のベリーがこの森にあるなら、

絶対見つかるよ!」

こうして......

アモスはラークとピッパーと一緒に

森の東から西へと歩いていきました。

森には不思議なものがいっぱいで、

アモスは目をキラキラさせながら

ラークたちに着いていきました。

ヤドリギに覆われたオークの木や、

眠りから起こされて怒っている

オークの賢者。

草むらから飛び出してきた、

ヴェルディア連盟のエリート武装集団

『ヴィジランツ』。

ボルトベアードに乗った

ファントムライダー。

アモスたちは蛍に導かれて、

川辺にやってきました。

キラキラと光る川にアモスは大喜び。

この輝く川の底には、

なんと光っている石があったのです。

アモスたちは水切り競争を楽しみました。

目的地に向かう途中、

ラークとピッパーはアモスに

これまでの冒険のことを話します。

アモスはとっても羨ましそうでした。

特に、ピッパーがこれから星界学院に

交換留学生として行く話は

興味津々のようです。

「ピッパーはすごいね!

星界学院で学ぶことができるなんて」

「アモスも行きたいの?

なら一緒に行こう!」

ピッパーは被っている大きな帽子をつかみ、

ぎゅっと整えました。

「アルドンのお爺さんに頼めば、

きっと許可してくれるんじゃないかなぁ」

ピッパーのお誘いに

少し嬉しい気持ちになるけれど、

アモスは戸惑いました。

「......やっぱりいいよ。

僕、魔法わかんないもん」

「大丈夫!

ボクも魔法は得意じゃないよ!

木に登ったり、どんぐりを採ったり

すればいいんだ!」

ラークはふふんっと

得意げに胸を張りました。

だけど、アモスは首を横に振ります。

「僕、木登りは得意じゃないし、

どんぐりがどこに生えているのか

わからないよ」

「ふーん、そうなんだ?

じゃあさ、アモスは何が得意なの?」

疑問に思ったラークはアモスに聞きました。

「お父さんが言うには、

僕はお父さんを怒らせることが得意みたい」

アモスは真剣に言いました。

「僕ね......お父さんの仕事を手伝ったり、

お母さんが薬飲むのを

手伝ったりしてるんだ。

だけど、ほかの家の子は、

学校で勉強したり村でおとなしく遊んだり

してるんだって。

だから、僕は子どもらしくないって

よく言われるんだ。

今日だって僕が伝説の......金色のベリーを

探してるって言ったら、

森には入るなって怒るし......」

「えー! それはひどいよ!

大人の手伝いするなんて偉いのに

なんでやっちゃダメなんだ?

人間の大人って、やっぱり閉じ込めるの

好きなんだね!

変なルールも作っちゃうし!

大人って本当わかんないなー!

ルールに縛られて何が楽しんだよ?」

ラークはぷんぷん怒りながら言いました。

「アモス、キミはボクよりすごいよ」

初めて褒められたアモスは、

少し恥ずかしそうに頭を掻きました。

「自分の価値を決めるのは

自分だからね」

ピッパーもどうやら不満そうでした。

「みんな、ラークのことを

いたずらっ子って言って

遊びたがらないけど、

私はラークと一緒にいると面白いから

よく遊んでるの。

だって、ラークがいなかったら、

夜の幻夜の森に行くことなかったもん!

すっごくきれいなんだよ!」

「あっ!!

そうだ、幻夜の森!」

ラークは思い出したようにはっとして、

アモスの肩を嬉しそうにたたきました。

「アモス、幻夜の森に

まだ行ってなかったね!

実は、ピッピにプレゼントした

大きなどんぐりも、

幻夜の森で見つけたんだぜ~!

そこには空に浮かぶデッカいキノコとか、

人間よりもデッカい花とか!

ほかにも美味しい果物も

たーくさんあるんだよ!」

ラークの話を聞いたアモスは、

とってもワクワクしてきました。

「そうなんだ......! すごい!

もしかしたら金色のベリーは

その森にあるかもしれないね!」

楽しそうにうんうんとうなずいて、

アモスたちは幻夜の森に向けて

出発しました。

七色のレースのようなカーテンを

くぐり抜けて幻夜の森に入ると、

アモスはわぁっとため息をつきました。

ラークが言ったことは

大げさでもなんでもなく、

本当にきれいな世界が広がっていたのです。

まるで星屑が夜空から落ちてきたように、

キラキラとした光が降り注ぎ、

ぼんやりとした光の霧が森の中を

漂っていました。

輝く胞子を纏った巨大なキノコが空に浮き、

人間よりも大きな花は、

色とりどりの花びらをつけていて、

夜風が揺らしていました。

それだけではありません。

淡い光を放ちながら

自由に飛び回る精霊たちもいるのです。

「ジャミー!」

精霊たちに向かってラークとピッパーは

ジャミーと呼びました。

どうやら精霊たちはいろいろな種類の

ベリーからジャムを作ることが

できるみたいです。

だけど、臆病な性格のジャミーは、

アモスたちと目が合ったすぐあと、

逃げ去ってしまいました。

「ここの果物って本当においしい!

でも、もう食べられないよ~」

ラークはごろんと仰向けに寝転がって、

パンパンに膨れ上がったお腹を

なでています。

「ラーク......。

幻夜の森に生えてる果物なのに、

食べちゃうの......?」

ピッパーは心配そうに言いながら

メガネをくいっと直しました。

「いつも食べてるから平気だよ」

だけどラークはどこ吹く風。

「はぁ......何も起こらないといいなぁ」

お腹いっぱいだと言っていたのに、

ラークの手には果物がありました。

「あれれ? そういえばアモスは......」

姿を探そうとピッパーは振り返りました。

すると、そこには口の周りに

たくさんの果汁がついた

アモスがいたのです。

「もうっ......」

ピッパーはやれやれと呆れています。

「えへへ~」

誤魔化すように笑ってみせたけれど、

ピッパーに機嫌を直してもらおうと

慌てて大きな木に向かって走りました。

そこには輝く提灯のような果実が

実っていました。

ピッパーに渡そうと手を伸ばした

その時です。

「あ~~~~!!!

ピッピ!!! アモス!!!

ちょっとこっちに来て~~!!」

アモスとピッパーがラークのもとに

駆け寄ります。

すると、その大きな木には、探していた

伝説の金色のベリーが生えていたのです!

エルフの羽根のように輝く葉に、

金色の真珠のような丸い実......。

生命を司る神デューラが愛したと言われる

伝説のベリーに間違いありません。

「あ......こ、これが......!」

「アモス! 早く採って!

これが欲しかったんでしょ!?」

「慎重にね......」

湧き上がる気持ちを抑えきれないアモス。

ラークとピッパーにせかされながらも、

恐る恐る金色のベリーを摘みました。

だけど、その瞬間......。

まるで古代の生物が蘇ったかのように

大地が激しく揺れ出したのです。

地面に大きな亀裂が入り、

3人は引き離されてしまいました。

「あわわっ!」

バランスを崩したピッパーが

地面の割れ目に落ちそうになって、

ラークが慌てて手を伸ばします。

間一髪、ピッパーを助けることが

できましたが、

ラークたちは勢い余って

金色の大きな木のほうへと

転がっていきました。

「ラーク! ピッパー! 大丈夫!?」

みるみる遠ざかる2人に向かって

アモスは金色のベリーを手に持ったまま、

大声で叫びます。

だけど、それに応えたのは、

ラークたちではなく聞き慣れない

老いた声だったのです。

「この地に足を踏み入れる者が現れるのは、

久方ぶりじゃ。

人間の子よ......

お主がこの聖なる実を手にしたのか?」

アモスは少し怯えましたが、

迷いながらも頷きました。

(声しか聞こえない......

もしかしたら、僕が見えてないだけかも)

アモスは相手にちゃんと伝えるように

おおきな声で答えました。

「はい......!

僕が金色のベリーを摘みました!」

「ひとつだけでいいのかね?

ベリーはたくさんある。

欲しい分だけ持っていっていいんじゃよ」

アモスはぶんぶんと頭を横に振りました。

「僕は願い事がひとつしかありません。

お母さんが、健康になってくれることです。

なので、ベリーはひとつで十分です」

「ふむ......人間の子よ。

金色のベリーを持って帰るには、

代償が必要なことは知っていたかね?

知らなかったということであれば、

許してやろう。

じゃが、そうでないのであれば......

そのベリーはここに置いていくのじゃ」

「えっ......」

代償が必要なことを知らなかったアモスは

とても迷いました。

だけど、アモスには

絶対に叶えたい願いがあります。

金色のベリーをぎゅっと胸に抱いて、

その声に向かってはっきりと言いました。

「金色のベリーを持ち帰らせてください!

代償なら、なんでもあげます!」

「なるほど......

では、友達のどちらかをもらうとしよう」

「え!?」

アモスが驚いている間に、

いつの間にかラークとピッパーが

光る丸い球の中に閉じ込められて、

ぷかぷかと浮いていたのです。

「さあ、選べ、人間の子よ。

どの友をここに残して行くのじゃ?」

「そ、そんな......」

アモスはお母さんの病気を治す

金色のベリーを手に入れるために、

何かを失うことがあるかもしれないと

覚悟はしていました。

もしかしたら森から出られないかも

しれないと......。

でも、その『代償』が友達だとは

思わなかったのです。

ラークとピッパーはまだ知り合ったばかり。

でも、アモスの言葉を信じて、

一緒に冒険をしてくれた2人は、

もうアモスにとっては特別な友達なのです。

(お母さんを治すベリーはここにある。

でも......その代償が

ラークたちだなんて......)

アモスの両方の目には涙が溜まり、

今にも溢れそうです。

「ボクを選んで!」

球体の中のラークが、声を上げました。

「アモスはボクが出会った中で、

一番優しい人間だった。

ピッピはボクの一番の友達!

どうせボクは迷惑をかけることしか

できないからさ!

でもピッピは違う。

ピッピは星界学院にいけるくらいの

天才なんだ!

だからボクを選べばいいんだよ!」

「ちょ、ちょっと!

それはダメだよ!」

ピッパーは無意識にメガネをかけ直して、

叫びました。

「ラークはユグドラシルで

一番面白い友達!

ラークと一緒に遊ぶのは、

すごく楽しいんだから!」

ピッパーの言葉を聞いたラークは

とても喜んでいました。

だけど、難しい選択を迫られていることに

変わりはありません。

アモスがラークを選んでも、

ピッパーを選んでも、

どちらにしてもピッパーとラークは

離れ離れになります。

ラークは真剣に考えて、

アモスに向かって叫びました。

「ねえ、アモス!

金色のベリーを2つ持ってってよ!

それで、ボクとピッピ両方ここに残して!」

「え......?

何、言ってるの......?」

「お母さんを助けたいんでしょ?

だったら金色のベリーは

持って帰らなきゃ!

大丈夫!

ボクはピッピと一緒だからさ!」

笑顔で言うラークですが、

その瞳には涙がたくさん溜まっていました。

アモスはラークの一言で、

どうやら決心がついたようです。

「ーーもう金色のベリーはいらない!

ピッパーとラークを返して!」

「ほう?」

謎の声の主は驚いているようでした。

「人間の子よ、

母親の病気は治したくないのかい?」

「治したいです!

でも......こんな代償で......

友達を置いて金色のベリーを手に入れても、

お母さんは喜んでくれません!」

「ハッハッハ。素晴らしいのう......

久方ぶりにこの地にやってきた

人間の子よ......

そしてこの試練に合格した

たったひとりの人間の子よ......」

神秘的で威厳のある大きな笑い声が、

アモスたちの耳元で響きました。

もう一度笑い声が聞こえたかと思えば、

その声は消えていったのです。

そして、アモスの手にあった

金色のベリーも一緒に消えていきました。

消えていくベリーを見つめながら、

アモスは悲しそうに

ため息をつきましたーー

「ーース! アモス!

目を覚まして......アモス!」

「わっ!?」

アモスはびっくりして

勢いよく起き上がります。

アモスの隣には心配そうに見つめる

ピッパーの姿がありました。

「ふぅ......よかったぁ」

ピッパーは一安心。

だけど、反対側ではラークがまだ

眠っているようでした。

「うわああぁ! ピッピ! 逃げて!」

「え......?」

ラークは眠りながら手足をジタバタさせて

叫んでいます。

何が起こっているのか、

アモスはまったくわかりませんでした。

その時、ピッパーは

アモスが手に持っている果実に気づきます。

「あ......それは......。

眠りのベリーだね。

間違って採って食べちゃったんだよ。

それを食べたら、

いつの間にか眠っちゃうんだ」

アモスは自分の手の中にある

灰色のベリーに気がつきました。

(なんだ......夢だったんだ......)

ガッカリしたその時。

そのベリーから新しい葉っぱが

生えてきたのです!

その葉っぱはエルフの羽根のように

輝いていて、

金色の真珠のような丸い実が

ついていました。

「これはーー金色のベリー!」

目を丸くして見ていたピッパーが、

突然アモスの手を取ってくるくると

回りだしました。

「やっぱりそうだったんだ!

伝説の金色のベリーは、

純粋な心の力、想いによって

形を変えられるものだったんだ......!

キミが持っている金色のベリーが

その証拠だよ!

これはキミの願いそのものなんだ!」

「えーと......ピッパーが言っていた

神様の試練っていうのが、

さっき見てた夢で......

それを乗り越えたから、

金色のベリーを手に入れられた......

ってこと?」

ピッパーが言っていることが

よくわからないアモスは、

目をぱちぱちさせて聞きました。

「そういうこと~」

「......そっか、そうなんだ!

あはは、やった!!」

なにはともあれ、

金色のベリーを手に入れることが

できたアモスは、ピッパーと一緒に

踊りだしました。

アモスの手の中にある

伝説の金色のベリーは、

優しくて温かい光を放っていましたーー

物語はここで終わりだ......

だが、皆さんにはどうしても

その後の展開を知ってほしい。

その後ーー

アモスたちはジャミーたちに感謝の言葉と

別れを告げた。

ヴェルディアの民のふたりは、

アモスをユグドラシルの森の中から

安全に送り出した。

彼らの別れはあまり悲しいものでは

なかったようだ。

リスの言葉を借りると......

「森の中を散歩していると、

いろんな果物を手に入れられるんだ。

だけど、手のひらには限界があるでしょ。

欲しい果物を手に入れるには、

何かを置いていかなきゃいけないの。

でも、一番大切なのは置いてっちゃダメ。

それはね、純粋な心。

これだけは、なにがなんでも

失っちゃダメだからね!」

人生もそうかもしれない。

ヴェルディアの民と別れたあと、

少年は金色のベリーを持ち帰った。

少年の父親は、少年の姿を確認すると、

ぎゅっと抱きしめた。

2人はお互いに昼間言い過ぎたことを

謝った。

少年の母親は、2人に勧められて

金色のベリーを口の中に入れる。

そして、願いをひとつしたらしい。

どのような願いだったのかはわからない。

だが、その家族はいつまでも幸せに

暮らしましたとさーー

 

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