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ストーリー
辺境師団キャンプ地ーー
ブライト王国とドワーフの兵士たちが
明るい焚き火を囲んで酒をあおっている。
今夜は普段の厳格な雰囲気と違い、
とても賑やかだった。
ここ数日カタストロフの攻勢が急に弱まり、
国境線から数十キロメートル先まで
後退していったのだ。
おかげで、連日戦っていた兵士たちは
一時的につかの間の休息を得ることができている。
キャンプ地の中央にある焚き火のそばでは、
琴を弾いてる若い詩人の足元で、
大人しい猫が寄りかかりながら、
うたた寝をしていた。
兵士たちは久しぶりに戦いから解放され、
旨い酒と美しい曲に心から癒されている。
そんな喧騒の中、
キャンプの片隅で、老人ドワーフが一人静かに、
銃を抱えながら酒を飲んでいた。
すると、華やかで高い声が響き......。
「それでは、一曲捧げましょう!
勇敢なドワーフの銃士モルブスが
暴れ熊を狩る物語です!」
若い詩人の一声に、
兵士たちは期待を込めて拍手喝采を送る。
「寒い極地の氷原で、
黒色火薬の硝煙が立ち込めていたーー」
詩人の歌が老人ドワーフの耳へと届き、
肩がピクリと跳ねる。
そして、手がかすかに震えだし、
グラスから黒ビールがこぼれてしまった。
「昔のわしは何時間でも銃を構え続けられたが、
今は酒を数杯飲んだだけで手が震えとる。
わしは本当に老いたようじゃ」
歌を聞けば聞くほど、
『ロイヤルガンナー団』へ入隊するために
奮闘していた若い頃を思い出し、
落ち込んでいった。
あの頃の自分は怖いもの知らずで、
どんなことにも挑戦していた。
それが今となってはーー
しみじみと思い出していると、
気づけば歌が終わりを告げようとしていた。
悲観的なのはドワーフらしくないと
老人ドワーフは頭を叩いて、
酒を一口で飲み干したのだった。
詩人が歌い終えると、
グラスを掲げてこう叫んだのだ。
「偉大な熊狩りモルブスに!」
兵士たちも続いてグラスを掲げながら
叫んだのだった。
「モルブスに!」
「モルブスに!」
すると、兵士たちとは別の大きな声が
聞こえてきたのだった。
声がした方を見れば、
テントの中から指揮官のホーガン将軍が
顔を出していた。
ブライト王国の兵士たちは全員立ち上がり、
指揮官へ敬礼する。
ホーガンは笑顔で手を振り、兵士たちを座らせ、
宴の続きを楽しむように声をかけた。
ホーガンは軍規に厳しいことで知られているが、
平民出身の彼は兵士たちに対して、
訓練や戦いの時以外は、
別け隔てなく接していたのだ。
ホーガンは兵士の手からグラスを受け取り、
キャンプの隅に向かう。
そして、老人ドワーフの傍らに腰を下ろした。
ホーガンの行動を目で追っていた兵士たちは、
そこで初めて老人ドワーフの存在に気づく。
一方、伝説的な英雄からより多くの武勇伝を聞き、
歌にしたいと思っていた若い詩人は、
ホーガンに挨拶するべく、
同じように彼の元へ向かっていった。
詩人は数日前にこのキャンプ地を訪れていたが、
ホーガンに会うのは今日が初めてだった。
「はじめまして、ホーガン将軍。
吟遊詩人のアンジェロと申します」
「悪かったな、このところ軍務が忙しくて、
お前を接待する暇もないのが現状だ。
このような過ごしづらい所へ来てくれて感謝する。
お前の歌は兵士たちを
大いに励まし奮い立たせてくれた。
さあ、座ってくれ」
「こちらこそ、お会いできて光栄です、
ホーガン将軍。
僕はあなたの歌を作りたいと思っているんです。
名前はもう決めてあります。
『王国の壁』と!」
声高らかにアンジェロが言うと、
ホーガンは少し困ったような
笑みを浮かべながら答えた。
「お前は王都の貴族殿たちに人気なのだろう。
私のような平民出身の軍人に
歌を作るのはもったいないのではないか」
「それにーー」
ホーガンは隣にいる老人ドワーフに目を向けて、
言葉を続けた。
「ここで最もその資格があるのは、
私ではなく、この老兵だ。
さっきお前の歌った歌の主役は
彼なのだからな」
アンジェロは驚いて老人ドワーフを見た。
さっき彼が歌った内容は、
各地をめぐり歩いていた時に
農夫から聞いた話だったのだ。
まさかここで、
モルブス本人に会うことができるとは
思ってもいなかった。
アンジェロは少し恥じ入って、
モルブスにグラスを掲げて......。
「殿方、お目にかかれて光栄です。
アンジェロと申します。
僕の歌が無礼でなかったことを祈っています」
するとモルブスは朗らかに笑い、
同じようにグラスを掲げたのだった。
「大昔のことじゃ、気にせんでいいわい。
あの時は若気の至りで、
無茶なことばかりしていたもんじゃ。
巨竜をも畏れずにのう......。
今考えてみると、
わしは熊に頭を落とされなくて幸運じゃった!」
くしゃっとした笑顔を向けられ、
アンジェロはホッとする。
そして......。
「モルブスに!」
声を上げてさらに高くグラスを掲げると、
豪快に笑ったホーガンもアンジェロに続く。
最後に、モルブスは二人のグラスに
勢いよくガツンと自分のグラスをぶつけて......。
「負けず嫌いの老兵に!」
モルブスは酒に一気に飲み干したのだったーー
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