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ストーリー
ビシーーーッ!!ーー
鞭の音がテントの中で鳴り響き、
容赦なくカーソスの身体を打ちつける。
カーソスは怒りと絶望が混ざり合い、
自分をいたぶった軍官を睨んだ。
(ワイはこのまま、
死ぬまでなぶられるんか......)
弱肉強食という原始的な社会を貫いている
ババリア部族には、正式な法律は当然存在しない。
凡人の運命は最強の武力を持つものによって
決められるのだ。
強者の言葉こそが法律、
弱者の生死は彼らが握っている。
そんな中、不幸は突然起こるーー
カーソスが羊の放牧をしていると、
突然の大嵐に遭い、
多くの羊を失ってしまったのだ。
ちょうど、その羊たちは雇い主である軍官が
今夜の宴で客人に出す予定だったもので......。
軍官に恥をかかせた罪で、
カーソスは今もその罰を受けている。
テント内にいる客人達のほとんどは、
ニヤニヤとその様子を眺めている。
しかし、貴賓席に着いている、
獅子のような獰猛な戦士だけは
厳しい目を向けていた。
彼の名はブルータスーー
『ババリアの戦神』の称号で名を轟かせている
ババリア部族最強の戦士である。
部族の者であれば、
誰でも彼のようになりたいと夢見ている。
カーソスもその一人であり、
戦士に憧れていたが、
残念なことに強靭な肉体には恵まれておらず、
下僕になり下がっていた。
傷だらけになり、ぐったりしたカーソスを見ると、
軍官は怒りが収まり鞭を打つのをやめた。
そして、その疲れを酒で解消するかのごとく、
浴びるように飲むのだった。
しかし、カーソスがテント内にいるのが
目障りだと感じた軍官は、
外に連れ出し、絞首刑を実行するよう
部下に命じたのだった。
だが、カーソスは下僕のまま死にたくなかった。
生まれた日から虐待されてきた彼は、
自身の尊厳を懸けて、戦士らしく死にたかった。
彼は軍官にこう叫んだーー
「ワイと決闘しろ!」
一瞬静まり返るも、
テントの中から笑い声しか聞こえなかった。
誰もがカーソスは身の程知らずだと
思っていたからだ。
下僕の分際で、百戦錬磨の軍官に挑む、
そんな事実に客人達は笑わずにはいられなかった。
だが、ブルータスだけが表情を一つも変えず、
静かに座っていたのだった......。
「どの口が言うんだ、馬鹿め!」
軍官は蔑んだ口調で言うが、
決闘を申し込まれたら必ず受けるという
ババリア部族の伝統がある。
もし断りでもしたら腰抜けと見なされ、
一生の恥になってしまうのだ。
渋々、軍官はその挑戦を受けるが、
たかが下僕が吠えているだけのことと高を括り、
酒を煽り続けたのだった。
軍官は部下にカーソスを離すよう命じ、
武器棚からハンマーを持ち上げ、
威嚇するように振り下ろす。
そして、酒臭い息をまき散らしながら、
カーソスに武器を選ぶように言った。
彼は武器棚の前で躊躇っていた。
カーソスにとって、これらの武器は重すぎて、
脆弱な身体では到底扱えなかった。
ウロウロと棚の前を行き来していると、
一丁の手斧が目に入る。
(これならいけそうだ!)
カーソスでも扱えそうな軽い手斧を取り、
軍官の方へ向かっていった。
軍官はハンマーを構えて襲ってきたが、
酒のせいで足が浮き、
武器の振り方も雑になっていた。
軍官にとってこの一戦は、
本気を出す価値もないものであったが、
戦闘経験のないカーソスにとっては、
その一振りでさえもものすごい圧力を感じていた。
「かかってこいよ!
逃げてばかりでザマァねぇな!」
軍官はカーソスを戦士としてではなく、
無様な姿を見て嘲笑っていた。
同じようにテントにいる客人達も、
ヤジを飛ばしている。
しかし、ブルータスはその様子を
鬼のような形相で見つめていたのだ。
彼にとってこの決闘は少しの栄誉もなく、
ただの茶番であったからだ。
軍官の傲慢な態度も、戦士あるまじき行為で、
虫唾が走るほどだった。
ブルータスが深いため息をつき、
席を立とうとしたその時だったーー
突然カーソスの姿が目に止まったのだ。
この脆弱な下僕が、
燃え盛る炎のような目で軍官を睨みつけ、
不屈な態度を依然と保っている。
これこそ、戦士のあるべき姿だ。
絶対に負けたくないという思いが伝わる。
ブルータスはカーソスに興味を持ち始め、
この決闘の結果が出るまで、観戦することにした。
カーソスは全力で戦っていたが、
力の差は歴然で、軍官もかなり手を抜いていた。
暇つぶし程度にしか思っていなかった軍官は、
戦うことすら面倒になったのか、
攻撃の手を緩めたのだった。
その瞬間ーー
チャンスとばかりにカーソスは、
全力で軍官に手斧を投げつけたのだ。
手斧は回転しながら、軍官の額に命中し......。
いったい今、何が起こったのだろうか。
その現状も理解できぬまま、
軍官はその場に倒れた。
雷に打たれたかのように、
目を大きく見開いた顔がみるみるうちに
血に覆われていった......。
騒がしいテントも静まり返っていた。
誰も軍官が負けるとは思いもしなかった。
もちろん、カーソス本人も。
力尽きたのか、感情的な衝動が強すぎたのか、
カーソスは数歩下がって、地に座り、
呆然と軍官の死体を見つめていた。
すると、ブルータスが立ち上がり、
軍官の死体のそばまで歩くと......。
「愚か者」
冷ややかな目を向けながら罵った。
そして、手斧を死体から抜き取り、
カーソスに近づいていく。
「戦士になりたいか?」
厳かな声でブルータスに問われ、
カーソスは混乱する。
なぜ彼がここにいるのか、いつからいたのか、
下僕である自分が声をかけられているのか......。
だが、カーソスの答えは決まっている。
戦士になるのは一生の望みなのだ。
カーソスは力いっぱい頷いた。
「よかろう。この俺が自ら鍛えてやる!」
ブルータスは満足そうに微笑みながら、
カーソスに手斧を渡したのだったーー
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