仲良し三人組

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ストーリー

ロワンの日記

 

王都を離れてしばらく経つけど、思った以上に厳しい。

王都でのボクは『レグニッツの息子ロワン』でブライト王国では富の代名詞と言っても過言じゃなかった。

ミスリル商会の入り口には、金塊を持っている人が毎日立ってる。

そこに犬をつないでおくだけでも金を稼ぐことができるんだ。

でも、ボクがしたいのは一から商売をすること。

商品を仕入れるためにはお金が必要だけど、商売相手にはボクの家柄じゃなくて、ボクとの信用を築きあげたいんだ。

商品を運んでいるあいだは強盗対策もしなくちゃいけないし......考えることがいっぱいで疲れちゃった。

家に帰りたい。

......ダメダメ!

父さんだって初めはこういう苦労をいっぱいしたけど乗り越えられてきたって言ってた。

ボクにだってきっとできるはず!

ボクには仲間がいる。

この小さな鳥だ。

コイツの金の卵で一儲けしたもんさ。

いけないことだとはもちろんわかってるよ。

だってこの子はオスだからね。

ボクはただの卵に色を塗って売ってるだけ。

だけど、詐欺だとは思ってないよ。

だって、世の中には金の卵の伝説を信じて探し求めてる商人たちが数え切れないほどいるんだ。

そう......ボクは彼らに夢を売ってるんだ。

しばらくしてから、ボクは2人の仲間に出会った。

リグビーとクインだ。

リグビーはあてにしちゃいけない。

毎日酔っ払って帰ってくるし、物忘れが激しいからね!

なんども酔っ払ったリグビーを叱ったさ。

だけどリグビーは役に立つよ。

ガタイがよく喧嘩も強いんだ。

ボクが商売してる時に隣にいてもらうんだけど、誰も文句言ってこないんだ。

最近はクインが止めてくれているおかげで、ずいぶんと飲む量が減ってきたしさ。

クインを仲間にできたのは本当に偶然なんだ。

出会ったきっかけは、クインが町でお金を巻き上げられ、路頭に迷っていたからなんだ。

でもクインは自分を嵌めた相手に怒りを向ける様子もなく、落ち込んでいる様子でもなかった。

楽天的な思想からなんだろうね。

浮浪者だけど全然浮浪者っぽくなかったよ。

人が持つ夢とか、感情とか文化って『商品』としては売れるもの。

だけど、クインの持つ独特な感情は、今までにない物語を作れる。

つまり、クインは第二の金の卵を産むものになれるんだ。

だけど、これはまだまだ先の話......。

今はまず、この街に住むエベニーザーという人物を探してるんだ。

過去に父が商戦でボロボロにやられ、財産をほぼ全部持って行かれたらしい。

なぜ「らしい」かって?

父はこの事については硬く口を閉ざしているし、別にエベニーザーに当時の話を聞くつもりもない。

ボクはただエベニーザーに勝ち、父より優れている事を証明したいだけ!


リグビーの手紙

 

オレの可愛い娘ドリーへ

お前にはしばらく手紙を出していなかったな。

わかってるだろ?

オレの手はジョッキや拳を握るのは得意だが、筆を握るのは得意じゃないんだ。

字を書き出したら指が......つ、つり............なんだっけ?

指がつ......なんとかって言葉、ど忘れしちまったぞ。

そんなことより、聞いてくれ。

最近、あんまり酒を飲んでねぇんだ。

いや、どっちかってぇと、飲ませてくれねぇほうが正しいか?

だからこの手紙を書いてる今は、けっこう頭がスッキリしてる。

今のうちにあのことを書いておかなきゃな。

お前、レグニッツの息子のロワン、知ってるだろ?

あの生意気なチビ助だ。

酔った勢いで、オレは今アイツと一緒に旅をしている。

なんつーか、その場のノリってやつだ。

だが、なんだかんだロワンと一緒に旅するのは楽しいんだぜ。

アイツは大胆で、いつも奇妙で奇抜なアイデアを出してくる。

旅を面白くしてくれるんだ。

だがな。

あのチビにもどうしようもねぇ悪い癖があってな。

人の話をぜんぜん聞かねぇんだ。

それに短気で気に入らないことがあると、すぐ爆発しちまう。

ロワンがオレのことを部下として見ているのか、友人として見ているのかはよくわからねぇ。

それでも今のところは、まあまあうまくやってる。

だが、最近ロワンの様子がちょっとおかしい。

なんとかっていう商人を血眼になって探してるんだ。

ぜってぇ負けねぇとか言ってたっけな。

だけど、オレにはロワンが誰かと戦うってより、自分と戦ってるように見えるんだよ。

酒場でもこういうのはよく見かけるから、匂いだけでわかっちまうんだ。

ああ、忘れちゃならねぇ。

一緒に旅している仲間にもうひとり、クインっていうヴェルディア連盟のウサギがいるんだが、とにかく厄介なヤツだ。

性格は他人思いで優しくて申し分ない。

良く言えば親切なんだが、悪く言えば面倒くせぇ男なんだ。

毎朝、瞑想してんのは別にいい。

材料をとってきて朝食を作ってくれんのもいい。

『軽い食事が先生の長生きの秘訣なんだ』とか、言って二日酔いでなんも食いたくねぇのにいつも食事を強制してくるのは勘弁だ。

しかも、二日酔いは体に悪いとか言って、オレに酒を飲ませないようにしてくるんだぜ?

こんな面倒くせぇことして長生きするくらいなら、好きなことして二日酔いで早死したほうがマシだぜ!

本当はぶん殴ってやりたいとこだが、純真無垢な目で見られると殴る気が起こらねぇ。

まあ冗談だ。

オレは早死するつもりはねぇぞ。

だから真に受けるな。

今日はここまでだ。

来年、時間のある時にまた手紙を出す

お前の父親よりーー


クインの手紙

 

親友キャットへ

全開の手紙からだいぶ時間が経ってしまって、申し訳ありません。

俺は風を使ってメッセージを伝えることに慣れているので、人間の使う紙とペンにまだ不慣れなんです。

今、俺は2人の仲間と旅をしています。

そのうちの1人はリグビーという名前です。

リグビーさんはとても面白い人なんですよ。

だらしない人で、1ヶ月も風呂に入らず、いつも酔っ払っていて酒臭い部屋で寝てばかり。

でも、リグビーさんはすごく前向きで、いつも幸せそうで、熱心で......何事にも楽しさを見出すことができるんです。

生活習慣は悪いですが、ある意味、自由人なのではないでしょうか。

もう1人の仲間であるロワンさんはすごい生い立ちでした。

ミスリル商会の会長レグニッツの次男として、お父上の商才を完璧に受け継いだだけでなく、長い間それに携わったことで、外見からは想像できないほど大胆な決断力を持っているんです。

これまで俺が出会った中で一番賢く、常識に囚われない考えの持ち主だと思います。

ですが、この生まれ育った環境がロワンさんに大きなプレッシャーを与えているのではないかと思っているのです。

ロワンさんは、自分の能力や成果が家柄とは関係なく、自分自身の努力から生まれたものであることを証明しようと努力しています。

それはとても良いことのはずなのに、最近あまり良い方向には進んでいないように感じているのです。

この2人とはいつも楽しく旅をしているんですが......疑問が重なって、怒りを覚えるような出来事がありました。

ことの発端は、エベニーザーという商人を調査している時でした。

彼がいる町ではニンニクのような根菜類を主な農作物としています。

この野菜は皮がもろく、収穫時に少しでも傷がつくと、すべてがダメになってしまうんです。

なので、地元の人たちはスプーンのような木製の農具を使って収穫をしています。

この農具の製造と販売がエベニーザーの仕事でした。

だけど、なぜか急に、頭脳明晰なロワンさんがエベニーザーのことを気にしだして、商戦を始めたんです。

彼に怒りを覚えたのはここからで......商戦の対象になっているのは、その町でしか使えない農具でした。

上で書いている、スプーンのような木製の農具のことです。

この町の人たちにとっては、生活する上で必要なものだ。

それを争いの対象にするだなんて......。

2人は農具を独占するために値下げを始めました。

価値を下げるということは、2人の収入も減るでしょう?

だから彼らは町の人たちの賃金も下げたんです。

そこからはもう、ずっと悪循環です。

賃金が下がった町の人たちはやる気を失い、農具の品質も下がっていきました。

農家の人たちはすぐに農具を替えられるように、以前の3倍も買い置きをしなければならなくなったんです。

それと同時に、作物の収穫量にも影響が出ました。

ひどい状況でしょう......?

ロワンさんとエベニーザーが町をめちゃくちゃにして2ヶ月近く経った頃には、農家の人たちも町の人たちも疲れ果てていました。

2人は商戦に夢中になってて、みんなが消耗しきってることに気づいていません。

今のロワンさんはどうかしています。

商人としての誇りを完全になくしている。

まあ......少し前も、そんなに良い人ってわけではなかったけど......今のように町の人たちを苦しめるようなことは決してしませんでした。

俺の我慢もそろそろ限界かもしれません。

リグビーさんも不機嫌そうにしていました。

俺たちは明日、ロワンさんに話をして、ここから離れようと思います。

 

君の友人クインよりーー


リグビーの手紙

 

オレの可愛い娘ドリーへ

前に手紙を出してからあまり時間は経ってねぇが......このことだけはお前に話しておかねぇと腹の虫が治まらねぇんだ。

今日、オレはクインとロワンと大喧嘩した。

あのウサギ野郎、怒り出すとあんなに怖ぇなんて思わなかったぜ。

チビ助もチビ助だ。

ぜんぜん譲る気もねぇし、口答えばっかりしやがる。

ま、そんなこんなで、ここで3人とも別れることにしたんだ。

だがオレとクインが出発する前、オレたちが泊まっていた宿にまさかの人物がやってきやがった。

ロワンのライバルのエベニーザーだ。

そいつ、なんて言ったかわかるか?

ロワンに降参しに来たって言ったんだぜ?

エベニーザーは敗北を認めたんだ。

こんな消耗戦は耐えられねぇ、全財産をロワンに安値で売るから、この苦痛から解放されたいってな。

だが、それだけだ。

コイツは自分のことしか考えてなかった。

2人の商戦に巻き込まれて2ヶ月間もこき使われた町のヤツらのことなんてなんも考えちゃいねぇ。

行くアテもない町の人たち、どうしましょう?

とか、ぬかしやがったんだ。

その場でヤツの首をへし折ってやろうかと思ったぜ。

エベニーザーはヘラヘラ笑いやがった。

コイツ、普段も気に食わねぇ顔しているが、笑う顔はもっと気に食わねぇ。

エベニーザーは、ロワンのことを昔会ったことのある商人にすげぇ似てるけど、そいつよりもずっと強かったと言ってきた。

その時の商人は、農具の価格を下げたあと、町の人たちの賃金が減ることに耐えられず、すぐこの町を離れて行ったらしい。

その話を聞いたロワンは、突然エベニーザーの襟元をつかんで、狂ったように大声で叫んだんだ。

「なんだと!? その商人にいったい何をしたんだ!!!?」

つかまれた襟を振りほどかれたロワンは、その場に倒れ込んで、ブツブツなんか言い始めた。

「ボクは勝ったの? それとも負けたの?」

それから数時間、ロワンはずっとこの言葉を繰り返し、何を言っても全く反応しなかった。

なにかに取り憑かれてるんじゃないかと、オレは神父を呼んで祓ってもらおうとしたが、その時ロワンは起き上がり、オレとクインに真剣に謝った。

仕事を失ったこの町の労働者たちに新しい仕事を見つけてあげるのを手伝ってくれってな。

オレは感動したぜぇ。

このチビ助、きっと熱で頭がやられたんだ。

そういえば最近、酒場の経営はどうなんだ?

この町の労働者たちを雇ってあげることはできそうか?

お前の父親よりーー


ロワンの手紙

 

父さんへ

やあ、父さん。

突然の手紙だけど、別にたいしたことじゃないよ。

エベニーザーってヤツのこと覚えてる?

数十年前に父さんを窮地に追い込んだ人。

ボクそいつとの商戦に勝ったんだ!

詳しく話すと長くなるから簡単に説明するよ。

もし、手紙の中に見覚えのない名前があったり、理解できない内容があったりしても気にしないでね!

実はさ、ボクも最初は父さんと同じようなことをしちゃったんだ。

だけど、いろいろあって......気づいたんだよ。

父さんとエベニーザーの考えは古いってね!

確かに、あのスプーン型の農具は、作物を収穫するために作られたもの。

だけど、どういう理由で発明されて、最終的にどういう使われ方をしたのかっていう問いに対する答えは、無限にあると思わない?

あれはスプーンの形をした農具であると同時に、ユニークな形状をした髪飾りにもなるんだよ!

ボクの言っている意味、わかる?

簡単なことだよ。

ストーリーを付ければいいんだ。

ボクは、クインが不老不死の修行者で、亡くなった恋人に再会するために、毎日このユニークな形の髪飾りを作ってるっていう物語を作ってみたんだ。

そうするとさ......髪飾りが数倍の値段で飛ぶように売れたんだよ。

どうしてだかわかる?

ボクが売ってるのは、夢なんだ。

人々は愛に渇望している。

だから、こういう背景がある商品はどんどん売れるんだよ!

ボクはまたひとつ、金の卵を産む鳥を創り上げることができたんだ!

ボクは今この髪飾りで仕事を失った労働者たちを養っている。

この物語の噂が世界に広まれば、いつかは町全体が潤うと思う。

これも全部、ボクの仲間のおかげだよ。

彼らが物語の核となる素材と、それを広めるための手段を提供してくれたんだ。

もちろん企画して実際に商売したボクの役割が一番大きいけどね!

父さんがエベニーザーと出会ったのは何歳の時なの?

父さんはその時、ほかの方法を見つけることができたの?

ボクはもうしばらくこの町にいるつもりだから、早く返事ちょーだいね。

それから......父さんはボクがこれまで知っていた父さんよりもずっと強い人なんだなって思ったよ。

ロワンより


執事の手紙

 

ロワン坊ちゃまへ

レグニッツ様は少し前、王国の財務大臣と密談中にロイヤル守備隊の裏切り者によって殺害されてしまいました。

しかしこのことには様々な疑問点があるため、私が独自で秘密裏に調査をしています。

王都は今安全ではありませんので、決してここにはお戻りにならないでください。

どうかお気をつけて!

執事よりーー

 

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