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ストーリー
黒いワタリガラスの群が
墓地の上空に旋回している......。
なんらかの不吉な気配に吸い寄せられたようだ。
その気配に当てられたのか、
ワタリガラス達は時々興奮して寄生を上げる。
その鳴き声が広い墓地にこだまし、
さらに不気味さを増しているようだったーー
墓地の中心にある荒地には、
奇妙な魔法陣が描かれていた。
それは血で描かれ、周囲には頭蓋骨や羊の角など
供物が置かれている。
そして......。
魔法陣の中には老人の死体が
横たわっていたのだった。
死体の皮膚にはわずかな死斑があり、
頭には金色の冠が被されていた。
グリーズルは魔法陣の前に立ち、
死体を尊敬の眼差しで見つめていた。
だが、その目は灰色に濁っている......。
グリーズルが見つめているのは、
かつて彼が忠誠を誓った皇帝、トーランだった。
だが、そのトーランはグリーズルの目の前で
反乱軍に殺されてしまったのだ。
不死者に生まれ変わったグリーズルは
反乱軍を全て抹殺した。
しかし、裏切りによる死は、
慈悲深い君主にとって
最大の冒涜であったに違いない......。
皇帝を守ることができなかったグリーズルは、
悔しくて悔しくてたまらなかった。
そうして、後悔の念に苛まれた彼は、
自分の無力のせいで生まれた
この結果を償うため、
死霊呪術で最愛の皇帝を死から救い出そうと
していたのだった......。
皇帝を復活させる儀式の準備が整う。
2つの刃を地面に差し込むと、
魔法陣からは緋色の光が放たれ......。
魔法陣を描いていた血がドロドロと液状になり、
一気にトーランの死体に向かって集まりだした。
そして、ものの数分で
死体はその血液に包まれたのだった。
トーランの死体を見つめながら、
自分自身の過去の記憶や
皇帝との思い出を必死に回想している。
不死者になった者の記憶は、
身体と共に朽ち始め、曖昧になるのだ。
しかし、生前ずっと守り抜くと誓った信念だけは
忘れることはなかったのだった。
懸命に記憶をたどっていると、
グリーズルは7歳の頃のことを思い出したーー
彼の家では、
長男は忠誠の証として7歳から宮廷で、
皇帝に仕えるという伝統がある。
長男だったグリーズルは、
言うまでもなく宮廷に送られた。
愛してくれる母親から離れ、
見知らぬ宮廷に送られることは、
7歳のグリーズルにとって
不安でしかなかった。
そのこともあり、
彼はよく宮廷の庭で隠れて泣いていた。
しかし、それはすぐに見つかり、
同い年の皇子や姫達に笑われることも
多かったのだった......。
そんなある日ーー
何人かの皇子がいつものようにグリーズルを
侮辱していた。
グリーズルは黙ってじっと我慢していると、
たまたまその場所を通りかかったトーランに
見られたのである。
すると、トーランは皇子達を厳しく叱ったのだ。
グリーズルは今でもトーランが言った言葉を
覚えているーー
「この子の一族は代々我が帝国に仕えている。
彼の一族がいなければ、我々皇室の繁栄はない。
兄弟のように接するのだ!」
トーランの優しさが
心に染み渡っていくようだった。
......次に思い出したのは、
グリーズルが16歳の頃のことーー
トーランは彼のために成人式を主催した。
まるで実の父のように、
誇らしげに自分の手でグリーズルに
近衛兵の鎧を着せたのだ......。
その年ーー
トーランが狩りに出かけた時のことだった。
数人の衛兵を連れていたが、
奇襲を受けてしまったのだ。
狡猾な刺客は、
皇帝の急所を狙って猛毒の矢を放ってくる。
すかさずグリーズルは皇帝の前に立ち、
身を挺して毒矢を防いだが、
瀕死の重傷を負ってしまった。
すぐに宮廷へ帰り手当をしたが、
グリーズルは眠ったままで......。
トーランは彼の身体の中から毒が抜けるまで
連日眠らず看病をして励まし続けたというーー
「うっ......」
老いて衰えた怨念の声が、
グリーズルを思い出から現実に呼び戻す。
魔法陣の中央で血液に包まれていたトーランが
ゆっくりと身体を起こし......。
目を開けると、
かつてあった慈愛の溢れた優しい眼差しは消え、
邪悪と憎悪で満ちていたのだった。
その眼差しの前に、グリーズルは片膝をつき、
首を深く下げる。
かつて玉座の前にした時のように、
彼は皇帝に再び忠誠を誓ったのだったーー
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