ワイルドチェイス

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ストーリー

ハンティングネストーー

ババリア部族の中でハンター達が集う、

最も賑やかな場所と言われている街だが、

今この時だけは静まり返っている。

なぜなら、ヴ―ドゥーの秘術を扱う、

ウィッチドクター・ヌミスが

全員に深い傷を負ったセバスとヴァークを連れて

この地にやってきたからだったーー

 

ハンターの仕事を終えて、

ハンティングネストに戻ってきた者達は、

酒を飲みながらその日の武勇伝を語る。

そんななんでもない日常を壊したのは、

セバス達だった......。

ボロボロの彼らを

ただただ呆然と眺めていたハンター達が、

セバスの手にある物が握られているのを見る。

それはグリズリーの拳ほどにもなる

大きな牙だったのだ。

壁に掲げられている、

歴代のワイルドチェイサー達が

かつて手に入れた偉大な戦利品を見ながら、

固唾を飲む。

まさか彼らは、

伝説のドラゴンを狩ったのだろうか......。

憶測がハンター達の頭をよぎった時、

ヌミスが沈黙を打ち破りみんなに語りかけた。

 

「トーテムがお告げを下した。

とてつもなく恐ろしい危機が

まもなくやってくるが、

『ワイルドチェイサー』によって打ち砕かれ、

新たなハンティングネストに

栄光をもたらすだろうと!

私はオアシスの沼でこの二人の勇姿を

見届けるためにずっと待っていたのじゃ!」

 

ヌミスの言葉にハンター達は驚きを隠せない。

つまり、この二人が伝説の怪物を

倒したということを示しているのだ。

 

「驚いただろ!?

英雄になりたくて自惚れていた、

この大馬鹿者がやってくれたぜ!」

 

自分の足で立つことができないセバスを

支えながらヴァークは話し出した。

それを聞いていたボロボロのセバスは、

ヴァークのその態度がどうも気に食わなかったが、

文句の声も出ないほど疲弊していた。

 

「新たな『ワイルドチェイサー』は

決まったのじゃ!」

 

ヌミスが凛とした声で言うと、

ハンター達は歓声をあげた。

 

伝説級の猛獣を倒したハンターのみが

ハンティングネストで

『ワイルドチェイサー』の称号を与えられる。

ハンターとしてはこの上ない名誉ある称号で、

この称号を手に入れたハンターは

数えるほどしか存在しない。

 

新たな『ワイルドチェイサー』が

たった今、誕生したのだった......。

 

疲れ切っていたセバスは、

みんな喜ぶ顔がだんだんとぼやけ、

声も聞こえなくなり......。

気絶してしまった。

 

気づけばハンター達の中で、

勇者セバスがオアシスの沼でドラゴンを倒し、

新たな『ワイルドチェイサー』になったという

噂が広まっていったのだった。

そして、憶測がひとり歩きをし、

虚実とりまぜて吹聴されていった。

 

ハンティングネストには古い酒場があり、

ハンター達はよくそこで飲んでいた。

そして少し酒が入ると、

いろんな噂話で盛り上がるのである。

今はセバスのドラゴン退治の話で

持ちっきりだった。

そんな賑やかな酒場で、

ある酔っ払ったハンターが

目の前の酒を飲み干すと、

急に意気揚々と語り始めたのだったーー

 

砂漠の中にあるオアシスの沼には、

邪悪な魔竜が隠れ住んでいて、

これまでそこを通った無数のババリア部族の者が

魔竜によって食べられていた。

魔竜はヴ―ドゥーの神殿に封印されている

強大な力を自分のものにするため、

神殿の破壊を企んでいたが、

ヌミスがトーテムによって

それを見破り先手を取ったのだ。

ヌミスはセバスとヴァークの力を借りて、

ついに魔竜を退治するーー

 

「おおお!! それで、三人は

どうやって魔竜を退治したんだ!?」

 

前のめりになる者たちを制しながら、

酔っぱらいハンターは、

続きを知りたければ酒をおごれと

グラスを差し出してきた。

三杯おどってもらったハンターは

すっかりご満悦の様子で話を続けたーー

 

魔竜は勇者と戦っているうちに

森の外におびき出された。

そこにはあらかじめ罠が仕掛けられていたからだ。

魔竜はその罠にはまり、

重症を負ったまま勇者と最終対決を始めた。

空には今にも嵐が吹き荒れそうな暗雲が立ち込め、

まるで彼らの心の中を表しているようだった。

最後に勇者セバスが、

長い槍で魔竜の目を突き刺すと、

槍先は脳にまで突き刺さり、そして魔ーー

 

「デタラメ言うな!

何が、嵐が吹き荒れそうな暗雲だよ!

ここ数ヶ月間ずっと晴れっぱなしだっただろ!」

 

酔っぱらいハンターの話を遮るように、

ヴァークが大声を出した。

彼がここの酒場に常連になってからというもの、

魔竜の噂話が聞こえてくるたびに、

横槍を入れていたのだった。

ヴァークは、セバスが目の前で

猛獣を倒したのを見ていたため、

事実と異なる話がひとり歩きしているのが

我慢ならなかった。

 

「セバスはただの自虐が好きな大馬鹿野郎だ」

 

彼は別のハンターから酒を奪うと、

それを一気に飲み干してから語り始めたーー

 

俺はとあるツノトカゲを追っている途中で

セバスに出会ったんだ。

偶然にも奴も同じ獲物を狙ってた。

俺が毒矢でツノトカゲを仕留めようとしたら、

奴はそれを止めやがったんだ。

 

「毒を使うなどハンターとして失格だ!

正々堂々正面から槍で勝負する」

 

とか、ほざきやがった。

意味わかんねぇだろ!?

だけど、セバスは自分の哲学を押し付けるんだ。

俺は仕方なく奴の言うとおりにして、

逃げるツノトカゲを追いかけた。

じゃないと、面倒くさいからな。

それで追いかけていくと、

オアシスの沼周辺にたどり着いたんだ。

 

そこにはなぜかヌミスが俺たちを待っていた。

なんか独り言をブツブツ言ってたな。

俺達が来ることは予言で分かっていた、

とかなんとか言ってた気がするぜ。

だけど、俺達は獲物を追ってるから

ヌミスに構ってられない。

気にせずツノトカゲを追いかけようとしたら、

ヌミスは俺達についてきたんだ。

なんかロクでもないことが

起きそうな予感がしたから、

俺はツノトカゲを捕らえる罠を

仕掛けることにした。

 

罠に引っかかったツノトカゲは、

逃げ道が塞がれたのを知って、

耳が裂けそうな金切り声をあげたんだ。

 

そしたら......。

大地が震え始めて、

なんかとてつもなく巨大な何かが

俺たちのところへやってくるのが見えて......。

その時わかったんだ。

オアシスの沼に入った奴は多いが、

無事に戻ってきた者は少ないだろ?

その怪物を見た瞬間、

ああ、みんなこの怪物に食われたんだって

思ったんだ......。

 

お前らセバスが魔竜を倒したって思ってんだろ?

あれは魔竜なんかじゃねぇ!

図体の大きなジャングルトカゲだ!

一体どれだけの数食って、

あんなに大きくなったのかは知らねぇが、

少なくとも俺の10倍ぐらいでかかったな。

そんな奴をあの大馬鹿者は

倒すなんてほざきやがった。

俺はこんなところでくたばりたくなんて

なかったからな。

すぐに逃げようとしたんだが、

ジャングルトカゲのしっぽに

なぎ払われちまったんだ。

危うく食われそうになったところを

セバスに助けられた......。

 

たしかにセバスはハンターとしては優秀だ、

それは認める。

だけど、あれは無謀っていうんだ。

奴は俺を安全なところに下ろして、

すぐにジャングルトカゲに向かっていったんだ。

セバスが重傷を負っても、

攻撃の手を緩めることはなかったーー

 

「それからどうなった?」

 

ハンターたちは息を呑みながら

話の続きを迫ってきた。

ヴァークは一息ついて、言葉を続けたーー

 

ジャングルトカゲは図体が大きすぎた。

セバスはだんだんと体力が持たなくなってきたが、

ヌミスによって回復とサポートを受けてたから

なんとか攻撃を続けられたんだ。

皮膚は分厚くて武器が全く通らなかった。

 

ジャングルトカゲでもこんなに手こずるってのに、

魔竜なんかが出てみろ!

俺達なんかひとたまりもないぞ。

 

だけど、セバスはすばしっこくてな。

それに翻弄されたジャングルトカゲは、

ついにセバスを見失ったんだ。

その隙を逃さなかったセバスは、

すかさず目をグサリと突き刺した。

ヒヒヒ!

ジャングルトカゲもイチコロだったぜ。

 

あとはお前らの知っているとおり、

セバスは奴の牙を持ち帰り、

『ワイルドチェイサー』の称号を

得たってわけさーー

 

ここまで話したヴァークは

残りの酒を飲み干すとその場を離れた。

 

さっきの酔っぱらいハンターと

ヴァークの話は全く違うものだった。

本当なら目の前にいたというヴァークの話を

信じるのだろう。

だが、ハンター達は半信半疑だった......。

 

そしてーー

 

セバスの武勇伝は、人に伝わっていくにつれ、

どんどん話が盛られ、

真実は物語となり、物語は伝説となった。

 

ドラゴン退治の勇者の物語は、

これからも語り継がれていくだろうーー

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