スカーレット【真紅の狂気】
概要
呼称 |
・ナンバー063 ・真紅の狂気 |
陣営 | ブライト王国 |
種族 | ヒューマン |
年齢 | 19歳 |
身長 | 164㎝ |
趣味 | 自分との会話 |
好きなもの |
・力 ・暗黒の炎 ・か弱い子供 |
嫌いなもの | 孤児院 |
現在地 | 各地を放浪中 |
関連人物 |
【孤児院にいた頃のルームメイト】 ・イザベラ |
ストーリー
(1)
スカーレットは『スミレ孤児院』に
連れて行かれた、あの晴れた午後の日を
今でも覚えているーー
精神が不安定だった母親は、
いつも独り言をつぶやいていた。
時々、その独り言がスカーレットに
向けられることがある。
「私の可愛い娘……聞こえたかい?」
不安げに語りかける母親の目は虚ろだ。
そして、たどたどしく話したかと思えば、
突然声を荒げる。
「どうして何も聞こえないって
嘘つくの?」
「嘘じゃないよ、お母さん。
私には何も聞こえないよ」
母親がどんなに怒鳴っても、
スカーレットはいつもそう答えた。
こうして何度も同じ返事をしていくと、
母親はだんだんと穏やかになっていくのだ。
「…………よくやったわ、スカーレット」
正気に戻った直後の母親は、
疲労が一気に襲い、その場にうずくまる。
その拍子に燃えるような赤い髪が、
一房地面に垂れ落ちた。
この真っ赤な髪色は、
スカーレットの母親家系に伝わる呪いで、
母から娘に受け継がれるという。
母親はうずくまりながらも、
スカーレットの小さな体の中から
この呪いを断ち切る力を
見つけたような気がして、
わずかに微笑んだ。
そしてゆっくりと手を伸ばし、
娘の頬を優しく撫でたのだった。
スカーレットの祖母は、
ケイリン城で有名なオペラ歌手で、
優雅な淑女だった。
母親の一番の願いは、
自分の理性が完全に失われる前に、
スカーレットを祖母のように
育て上げることだったのだが……
そんな母親の願いとは裏腹に、
スカーレットは堅苦しい規則や
窮屈な服装が大嫌いで、
淑女とは程遠い性格だった。
彼女が6歳の時、
母親が用意した貴族が着るような洋服を
ちぎり捨てたこともあったという。
(2)
母親が精神病院に収容され、
スカーレットは『スミレ孤児院』に
連れて行かれた。
ジョージアナ公爵夫人は有名な慈善家で、
この孤児院に莫大な金額の援助をしていた。
『スミレ孤児院』は世間一般的には
とても評判がよかったのだが、
その実態は、子どもたちを使って
『実験』を繰り返していたのだ。
スカーレットは、孤児院に来た次の日から
脱出を企て始めた。
子どもたちを虐待する管理人、
ジョージアナ公爵夫人を
神のように称える食事前の祈り、
怪しげな『実験』……
これらすべてから逃れようとしていたのだ。
だが、脱走のたびに捕まり、
孤児院へ連れ戻されていた。
100マイルも離れた町まで逃げられたのに
捕まった時は、驚きを隠せなかった。
彼女にはルームメイトがいる。
『実験』の際に、管理人から付けられた
スカーレットの番号は『063』。
その子は『095』だ。
『095』は魂と話をすることができるのだ。
『063』が懲りずに何度も脱出を
図っているという噂が公爵夫人の耳に入り、
怒らせてしまったことがあった。
その日、管理人は公爵夫人からの命で、
前回より実験強度を数百倍上げて
スカーレットを『実験』に使った。
彼女はそのレベルに耐えられず、
次第に意識が朦朧としていき……
ふと、自分に語りかける低い声が聞こえた。
(3)
ーー気がつくと辺りは真っ暗で、
自分は石でできた橋の真ん中に立っていた。
橋の両側には赤紫色の毒々しい藤蔓が
ぎっしり絡まっている。
藤蔓の間から黒い影が蠢き出し、
それはどんどん大きくなっていった。
まるで怪物が群れをなしているような
形へと変えて、
スカーレットの周りをじっくりと
回り始めた。
その怪物に目はないはずなのに、
睨みつけられている感覚になる。
怪物は彼女の心の中にある恐怖を
探っているようだった。
(体が、動かない……)
じりじりと距離を縮めながら、
怪物から伸びる手がスカーレットの体に
絡みついていく。
全身が飲まれそうになったその時だ。
「スカーレット」
聞き覚えのある、優しい声が聞こえた。
お母さんだ。
振り向けば、懐かしい母親の姿が
ゆっくりと現れたのだ。
その瞬間、スカーレットの体に
絡みついていた黒い影の怪物の群れが、
すーっと潮が引くように離れていく。
スカーレットは慌てて母親に走り寄った。
母親の顔を見ると、
正気に戻った時の目と同じだった。
鮮やかな赤色の髪も綺麗に整えられ、
頭の後ろに結んでいた。
スカーレットが6歳になる前まで
見てきた母親の姿だった。
母親は優しく娘の服装を整えながら
話し始めた。
「スカーレット・ロレンスーー
これはあなたの名前であり、
そしてあなたの祖母の名前でもあるのよ。
代々ロレンスの女系に受け継がれる
呪い……つまり理性を狂わせる病気は、
立ち込める靄のように私たちを覆い、
誰もが逃れることができなかった。
私たちは生まれつき敏感で
特殊な体質だから、媒介にされやすいの。
だからあっちの生き物たちが、
繰り返し私たちに語りかけてくる。
穢れたささやき声は魂を腐蝕させて、
狂気を導くのよ。
あなたのお祖母様も、
オペラの公演中に現実と幻が
区別できなくなって、自殺してしまったわ。
私も今のあなたのように
黒い影に飲み込まれて、
気が狂いそうになるほど
痛めつけられたことがあった。
でも、黒の力は私たちの血に流れていて、
苦しめると同時に力も与えてくれるの。
何が現実で、何が幻なのか……
あなたならきっと、
見分けられると信じてるわ。
私の可愛い娘、スカーレット。
ここでお別れよ。
お母さんはあなたのお祖母様に
会いに行くわ」
優しく触れていた母親の手が離れ、
寂しさが一気に溢れ出た。
一歩後ろに下がる母親の手を
捕まえようとするも、
触れることさえ許されず、
するりと抜けていく。
母親が大きな声で別れの言葉を叫ぶと、
蛍火のような淡い光が辺りを包み、
橋の周りとスカーレットを
飲み込もうとした黒い影を
完全に消し去ったのだった。
(4)
「お母さん! お母さんーー!!」
手を伸ばしても伸ばしても
母親には届かない。
だんだんと母親の姿が
見えなくなると同時に、
遠くからスカーレットを呼ぶ声が
聞こえてくる。
「ーー? ーーだいじょーー?」
(誰……)
「大丈夫? 『063』?」
「……!?」
夢でも見ていたのか、
はたまた幻だったのか……
スカーレットは我に返った。
目の前にはルームメイトの『095』と、
隣に見知らぬ女の子が立っている。
『095』は少し慌てた様子で
スカーレットに説明をし始めた。
「こ、こちらは……
私のお姉ちゃんのシルヴィナ。
あなた、帰ってきてから
ずっと眠ったままだったから……
私てっきり……」
「イザベラ。
彼女は大丈夫そうだし、もう行きましょう」
シルヴィナは窓を開け、
妹を連れて外へ出ようとする。
「で、でも……」
スカーレットのことが気になるのか、
イザベラは窓の外に出るまで
何度も振り返る。
そして窓に手をかけた直後、
これが最後というかのように、
意を決した表情で振り返って口を開いた。
「『063』……
以前までは、あなたのそばに
いつも赤い髪の幽霊がいたんだけど、
今はその姿がどこにも見えないの」
(5)
夜の孤児院は静まり返っていた。
2人の女の子が手をつないで、
暗闇の中を走り抜けている。
逸る気持ちを抑えながら、
もつれそうな足に力を入れて地面を蹴った。
しかし、孤児院の脱出は
そう簡単には上手くいかない。
「今日は何匹のウサギちゃんが
脱出してるのかな~?」
そびえ立つ鉄塔のような
たくましい体をした見張りが
姉妹の前に立ちはだかった。
「いち」
姉のシルヴィナが指をさされ、
すぐに妹を後ろに隠した。
「にぃ……」
そんな子ども騙しが通用するわけもなく、
見張りは姉の後ろに隠れた妹も
指をさして数える。
イザベラは恐れのあまり、体が震え始めた。
その時だった。
スカーレットが暗闇からゆっくり
姿を現したのだ。
見張りは常連の『脱走者』を見ると、
眉をつり上げ指をさしながら叫んだ。
「さんっ!!!!!!!!!!」
だが、スカーレットは怯えるどころか、
笑みを浮かべていた。
「こんばんは、見張りのおじさん。
実は私、公爵夫人からプレゼントを
いただいたんだ。
だから、お返しをしないといけない」
スカーレットは淡々と話しをしながら、
シルヴィナたちの前へ出ていく。
「……『095』のお姉さん。
早く妹を連れてどこかに行くといい。
毎晩毎晩泣きっぱなしで、
うるさくて仕方ない。あ、そうだ」
スカーレットはイザベラの方へ向き直り、
話を続けた。
「臆病者の『095』。
私『063』の名前はスカーレットだ」
イザベラは姉に手を引かれながら走り、
『スミレ孤児院』から出ていく。
後ろからは複数の怒号が聞こえる。
どうやらほかの見張りも駆けつけたようだ。
スカーレットのことが気になった
イザベラは、走りながら後ろを振り向いた。
「……!」
今すぐ逃げなければならないのに、
足を止めて見てしまう。
姉妹は一生忘れることのできない光景を
目にしたのだ。
スカーレットの体から激流のように
次々と黒い影が噴き出し、
彼女を囲むように赤紫色の炎が
燃え盛っていた。
荒れ狂う炎は、
大きな轟音とともにぶつかり合い、
夜空を震わせた。
やがて膨れ上がった炎は、
孤児院を飲み込んでしまったのだったーー
「あの時のスカーレットは、
まるで舞台の中心に堂々と立っている
女王様みたいだった。
でも、スカーレットの表情は、
すごく怖くて狂気そのものだった……」
ドリーのコーナー
今思えば、母親が自分に遺してくれたのは憂鬱な子供時代と体に流れる狂気の血筋だけだった。
しかし、それでもスカーレットは母親のことを愛していた。
スカーレットは幼い頃から気が強く、周りにほとんど流されることはなかった。
狂気じみた母親のせいで、同年代の子供よりずっと早く成熟した。
孤児院に入るまでは、自分の精神が異常だとは思っていなかった。
自分の力で血筋の束縛から逃れ、狂気の呪いから解放されようとした。
しかし邸の薄暗い地下室に閉じ込められ、彼女は残酷な「実験」に苦しめられた。
彼女は数ある被験体の中で闇の力に対する反応が最も強い媒介であり、それ故に他の子供よりも頻繁に実験を強いられた。
長きに渡る苦しみから、スカーレットは時間に対する感覚が薄れ、次第に同じく精神病院で実験体にされている母親に共感するようになった。
まだ生きてるかな?
それとも自分と同じく日の当たらない部屋に閉じ込められ命を削っているのかもしれない。
スカーレットは次第に自分の血の中を駆け巡る力に抵抗しなくなり、心を侵す暗闇にも抵抗しなくなった。
かつて自分と母親を苦しめた呪い、まさかその力がこれほどのものとは思いもしなかった。
抵抗できないのなら受け入れよう。
母親の心を狂わせ魂を消し去った闇の力、それをスカーレットは母親からの贈り物であるとして受け入れた。
この力をコントロールできれば、計り知れない力を手にすることができる。
もしその力によって精神が狂わされることがあっても、それはそれで楽しいことなのかもしれない。
赤紫色の炎はこの罪悪に満ちた邸を燃やすとともに、スカーレットの強い力への渇望にも火を付けた。
彼女は暗黒魔法の使徒となり、暗黒の世界にも足を踏み入れ、この時代で最も強力な暗黒魔術の使い手として生まれ変わった。
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