サラキ【呪われし者】
概要
呼称 |
・呪われし者 ・シヴィ(昔の呼称) |
陣営 | ババリア部族 |
種族 | ルプス |
身長 | 180㎝ |
趣味 |
・瞑想 ・後継者の訓練 |
好きなもの |
・ヘビ肉の燻製 ・黒曜石 ・魂の匣 |
嫌いなもの | 汚染発作時の苦痛 |
現在地 | 巨顎の谷 |
現在の身分 | 呪われし者 |
ストーリー
(1)
『父親』に導かれて、
シヴィは巨大な黒曜石でできている
石碑の前へとやってきた。
目の前にある石碑から、
まるで本当の父親のような
力強さと安心感が伝わる。
シヴィが『父親』と認識しているこの男は、
実の父親ではない。
両親はずっと前に2つの氏族間の紛争と
対立の中で亡くなっている。
シヴィは同じ一族の孤児たちと一緒に、
自由を求めて走る子羊たちのように、
侵略者から逃げてきたのだ。
最も才能がある呪われし者と呼ばれる
『父親』がシヴィの手を引いていく。
シヴィはなぜ後継者に選ばれたのか
理解できないまま信者の広場を歩いた。
シヴィは他の子どもたちより
何ひとつ優れていることがないと
思っている。
だが、そんな彼にも『特別な名誉』が
与えられたのだ。
シヴィから見て呪われし者たちは、
ババリア部族の中で最も不思議な集団
という認識だった。
彼らは控え目な服装で
顔をローブで隠している。
そして、いつも杖を手にしていて、
ババリア部族の領地の最深部にある聖域に
一族と離れて生活しているのだ。
そうしているうちに、
いつからか彼らの血筋は、
呪われていると噂されるようになった。
だが、『父親』はこの呪いを
むしろ守護と呼んでいた。
ふと……
シヴィは何かに気づく。
耳元でざわめく風の音の中に、
悲痛な叫びがかすかに混ざっているような
気がしたのだ。
『父親』がゆっくりと振り返り、
杖で地面をつく。
鋭い地鳴り音がすると、
杖の先端に付いている黒曜石の魔力が
溢れ出し、目の前の石碑と共鳴した。
しばらくすると地鳴りが終わり、
聞こえていたはずの悲痛な叫びも消える。
耳元では風が吹くだけだった……
「呪われし者になるには、
まずこの場所のすべてを知る必要がある」
(2)
サラキがこの少年を後継者に選んだ理由は、
ほかでもない。
誰よりも忍耐強さが感じられたからだ。
それは呪われし者になるために
最も重要なことであり、
この場所で自分自身を守ることができる
唯一の力でもあった。
ここは『巨顎の谷』の中心。
呪われし者の居所であり、
彼らの運命を束縛する牢獄でもある。
サラキは杖を使って少年の手を取り、
石碑の裏にある階段をゆっくりと
降りていった。
この地の底には、埋められた洞窟がある。
そこにはすべての根源である
『太古の棺』と呼ばれた
謎の球体が眠っているのだ。
その存在は、正確な年代を調べることが
できないほど、はるか遠い昔のものだ。
記録の断片によると、
それは広い宇宙の彼方からこの星を訪れ、
炎を纏いながら空から落下し、
古代の『巨顎の平原』を引き裂いた。
その炎は連日連夜燃え盛り、
消えるまで数日かかったと言われている。
サラキは『太古の棺』から
少年に視線を移した。
『太古の棺』に畏怖の念を抱きながらも
好奇心で目を輝かせている少年の表情に、
サラキは思わず笑みを浮かべた。
『太古の棺』は複雑な構造をしていて、
見たことのない技術と様式で作られていた。
その技術はババリア部族の長老でさえも、
既知の歴史からたどることは難しいと言い、
今日に至るまで解明されていない。
『太古の棺』を封印する前に、
洞窟を探索していたババリア部族たちは
未知なる技術の結晶をひとつ、ひとつと
持ち帰った。
だが、それは禁忌だったようだ。
『太古の棺』に向かった探索者たちは
すぐに幻覚症状や衰弱症状に陥り、
多くの者は救助が来る前に
無残な死を遂げた。
洞窟の奥で見つけた未知の生物の亡骸と
同じように……。
だが、これは災いの始まりでしかなかった。
これらが『太古の棺』の呪いだと
認識した頃には、
すでにババリア部族の間で
呪いが広まっていたのだ。
生き残った者たちは、
呪いの拡散を止めるため、
土石で『太古の棺』を埋め、
特殊な黒曜石でできた巨大な石碑を
地上に建てることで、
その力と呪いを封印した。
生き残った者たちは
ババリア部族を守るためこの場に残った。
そして、石碑を守ると同時に
『太古の棺』から得た知識を
身につけることで、正体不明の呪いを
制御しようと今もなお奮闘している。
だがその呪いは、彼らの体と魂に染みつき、
彼らの魔法にも影響を及ぼすもので、
蝕みの力を持つようになってしまった。
これが呪われし者の誕生である。
(3)
巡礼の道半ばでーー
シヴィは『父親』に手を引かれながら、
守りの広場を訪れた。
2~3人集まって
雑談したりしている
呪われし者の向こうには、
ローブを身に纏っている子どもたちや、
シヴィと同じように『父親』『母親』と
一緒に巡礼している者もいる。
年齢が近い子たちと目が合うと、
嬉しさからか互いに無邪気な笑顔を
見せるも、シヴィはすぐに視線を外した。
この時、広場の端っこに一人ぼっちで
ぽつんと立っている。
顔色の悪い少女を見つけたのだーー
シヴィたちが初めてこの地にやってきた時、
彼らに食料を与え、
大切に世話をしてくれたのが
この少女だった。
彼女の顔を覆っているはずのフードが
どこにも見当たらない。
時折、大きな痛みを抑えるように、
群衆を睨みつけながら独り言を呟いていた。
だが、次の瞬間ーー
突然少女の顔が歪んで、
訳のわからない言葉を口にしたのだ。
少女の体は無数の黒い呪いに包まれ、
足元の地面が黒く染まる。
この苦しみから逃れようと激しくもがくが、
少女の体は想像を絶する速さで
衰弱していく。
呪いによって命が焼き尽くされる寸前、
少女は一瞬だけ理性を取り戻したーー
「見える……町が見える……」
だが、この言葉が最後の嘆きとなる。
少女は完全に狂い堕ち、
甲高い叫び声を上げながら暴れ出した。
「助けて!! 助けて!!!!!
誰も逃げられない!!
逃げることはできない!!!!!!!」
シヴィは『父親』の背後に隠れ、
服にしがみついた。
『父親』は黙ってシヴィの頭を軽く撫でる。
周囲にいる呪われし者たちは
慣れているのか、皆落ち着いていた。
杖に嵌められている黒曜石が
眩しい光を放つと、周囲の者たちが
素早く発狂した少女を押さえ、
どこかへと連れていった。
まるで何事もなかったかのように
広場は静まり返る。
シヴィは少女の恐ろしい目つきが
頭にこびりついて離れなかった。
シヴィよりもいくつか年上の少女は、
幼くして呪われし者となった。
少女はこの場所の呪いを鎮め、
遠くにいる一族を守ると言っていたのだ。
シヴィたちの世話をしていた頃は、
優しい笑顔が印象的だった。
そんな少女が狂い堕ちる姿は、
シヴィの心を大きく動かす要因となる。
『父親』が言うには、
呪われし者の呪いが発症する時、
発狂や暴走などの症状がよく出るらしい。
恐ろしい何かが体と脳を蝕み、
自分の体を傷つけるようになるという。
さらには、『太古の棺』から
力と知恵の恩恵を受ける時、
代償として突発的な呪いに
襲われる苦しみと、
知らず知らずのうちに耳元で聞こえる
囁き声に耐えなければいけないと
教えられる。
話を聞いたシヴィは少し怖くなった。
気を抜くと、
奈落の底に落ちてしまう綱渡りを
しているような気持ちになったのだった。
(4)
『太古の棺』が眠る地上で、
呪いによって発狂する者は
ある町にたどり着く夢を見る。
それは遥か遠くの見知らぬ町だった。
夢の世界の一角には、
青々とした木々、広々とした道路、
独特で洗練された建物、
昼間に煌めく灯火、
そして不思議なエネルギーや
空を飛ぶ船……
エスペリアの世界にはない景色だ。
真新しさと繁栄している光景には、
柔らかく降り注ぐ陽光と、
穏やかで楽しげな笑い声が混ざり合い、
この町を見たすべての者に
憧れを抱かせていた。
だが、その正体は凄まじい呪いで、
呪われし者たちの悲惨な最期が
近いという証拠なのだ。
「父上もあのようになって
しまうのでしょうか?」
少年はサラキに尋ねた。
彼らは今、巡礼の道の最終地点にいる。
サラキは少年の頭を撫で、
何も語らなかった。
彼らは階段を上り、
犠牲者の祠へと足を踏み入れた。
そこには無数の蝋燭が灯され、
木の檻の中には魂を入れる小さな匣が
たくさん置かれていた。
少年が継承の儀式を行ったあと、
サラキは呪われし者のシンボルである
犠牲の杖を渡し、
木の檻の中にある魂の匣を彼の首に掛けた。
それぞれの魂の匣には、宿命に屈しない
呪われし者の魂が眠っていて、
希望と力を象徴している。
彼らは最後まで呪いに抗った。
その命の光は希望の火種で、
継承者へと受け継がれていくのだ。
少年が魂の匣を大事そうに
撫でているのを見て、
サラキは自分がかつて
シヴィと呼ばれていた
少年だった頃のことを思い出した。
巡礼の道を終えたあとーー
少年は発狂して呪われた少女のことと
自己犠牲的な呪われし者たちのことが
ずっと頭から離れなかった。
まだ別れが上手でないと感じた少年は、
機会があればこの呪われし者たちを
苦しみの淵から救ってあげたいと
思っていた。
少年が尊敬する『父親』が嬉しそうに
魂の匣を少年の首に掛けたのは、
何かを託したかったからだろう。
『父親』は落ち着いた口調で語った。
「新しい名を授けよう。
これからは忠誠心と誠実さが
お前と共にある」
(5)
今、サラキは皆が夢見る町の入り口に
立っている。
最も才能がある呪われし者と
呼ばれるサラキは、
『父親』をはるかに超える力を持っていた。
同時に、彼は呪われし者の中で
最もその町に近い存在でもあった。
サラキは大きく息を吸い込むと、
両手を前に押し出して町の門を開けた。
壮大な美しい光景は幻のように消え去り、
巨大で不気味な影が上空に出現し
彼を見下ろす。
陽光は黒い霧となって町を
完全に覆っていた。
名状しがたい触手が霧から飛び出し、
建物に絡みつく。
笑い声は、四方八方から吹いてくる
狂気の風に混じって、
奇妙なつぶやきと化したーー
「なぜ我々が……
我々が逃れられないのか……
貴様らも我々のように、
我々のようになるのだ……!」
未知の呪いがサラキの体を包み、
悪臭を放つ風が彼の前進を阻止する。
だが彼は呪われし者になった日に
交わした約束を胸に、
町に向かって力強い一歩を踏み出した。
いくつの昼と夜を費やしたのだろう。
サラキは呪いの先にある輝きを
探し求めたーー
「我々はババリア部族の守護者であり、
奈落の底にある希望の光を探す者でもある」
ドリーのコーナー
痛みが波のように襲い来る時、サラキはいつも昔のことを思い出す。
父と一緒に黒曜石の石碑を見に来たあの日も、砂が舞っていた。
幼い頃の悲惨な思い出も、拷問のような苦痛と共に、彼の頭に侵入する。
あの頃の彼は、まだ「サラキ」ではなく、「シヴィ」と呼ばれていた。
シヴィの平穏な子供時代は、侵略者の襲撃によって終止符を打たれた。
両親は彼の目の前で殺され、人々の生活を助けていた炎も、暴走する獣のように、建物とそこに住む人々を飲み込んだ。
「悲しい」という感覚が麻痺する中、シヴィは族長の最後の命令に従い、無感情に逃げ出した。
シヴィは生き残った仲間と共に、人のいない西の砂漠に入った。
砂嵐と飢えに苛まれながら、彼らは本能にしがみつき、必死に生きようとした。
シヴィは色んなものを食べた。
しかし、彼らの周りにはやがて、黄砂しか見えなくなった。
シヴィは最後の肉を最年少の子供に譲った。
そして彼自身はついに力尽き、荒野に倒れた。
シヴィが再び目を覚ました時、見知らぬ少女が彼に、香ばしい肉のスープを与えていた。
少女はシヴィに優しく笑いかけ、彼女の隣にいる男は腰をかがめ、シヴィのやせ衰えた手を掴んだ。
「これからは私のことを、『父さん』と呼べ」
と、男は言った。
こうやって、シヴィに父と家族が出来た。
「父」は、呪われし者の責務について説明した。
汚染を鎮める石碑を守り、太古の棺の秘密を解き明かすことが、彼らの使命であり、運命でもあるのだ。
しかし同時に、この汚染も呪われし者の体に侵入し、苦痛をもたらすという。
シヴィはすぐに、優しくしてくれた少女が汚染に苦しむところを目にする。
父は静かに、苦痛の叫びを上げる少女を見ているだけだった。
その目には、強い意志が宿っていた。
多分これが、父が言っていた「責務」や「運命」なんだろうと、シヴィは思った。
彼は父から魂の匣を受け取り、繰り返される運命を変えてやろうと決意した。
こうやって、シヴィは「サラキ」になった。
男の子を見た瞬間、サラキは父と手をつなぎながら、黒曜石の石碑を見る幼い自分を思い出した。
そして彼は男の子の手に取り、言葉を紡ぐ。
「これからは私が、君の『父さん』だ」
ランプの火は消えない。
部族の安寧は、私たちの手で守り抜く。
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