SPセリス

ページ名:SPセリス

 

あの夜、ライアン家の旗は炎の中で燃え尽きた。

ブライト王国とババリア部族の全面戦争が勃発する中、一族の精鋭は「ババリア殲滅」を誓い出陣する。

それ以前に、家族の中で最も期待されていたバートンは偵察任務中に待ち伏せに遭い、小隊は全滅した。

それでも、ライアン家は軍を率いて全力で出陣したが、彼らが待ち受けたのは周到に仕組まれた殺戮の罠だった。

彼らはババリア部族の準備と戦略を過小評価していた。

敵地へ踏み込んだ黎明先遣軍を待ち受けていたのは、周到に仕組まれた包囲網だった。

ライアン家の男たちは戦場に散り、帝国精鋭部隊は壊滅。

戦場の泥の中で栄光は砕け散った。

だが、悲劇はまだ終わらない――

帝国貴族たちはフィアースカルと結託し、勢力を失ったライアン家の屋敷に潜入、根絶やしを図った。

幼きセリスは母の懐に押し込められ、刺客の襲撃を生き延びた。

炎上する屋敷から這い出る際、かつての楽園が燃え尽きるのを目の当たりにした。

栄光も、家族も、信仰も、この大惨事の中で灰となって消え去った。

 

その日から、セリスは「幽霊」となった。

帝国の最も暗い路地を彷徨い、腐った食物で飢えを凌ぐ。

誰もライアン家の生き残りが存在することなど知らず、彼女もまた、かつての栄光に包まれた貴族の令嬢ではなくなっていた。

救いも憐れみも必要とせず、闇が育んだ復讐心だけが、ババリアへの復讐だけが、彼女を生かし続ける唯一の動力だった。

復讐を胸に、彼女は傭兵団に身を投じ、最も汚らわしい訓練の中で「敵の血の一滴まで絞り取る方法」を学び、殺戮の中で鉄の心臓を鍛え上げた。

帝国の法も、正義という名の偽善も、もはや彼女の信条ではない。

この世界で真の裁きをもたらすのは、絶対的な力だけだ。

 

十六歳の時、ついに機会が訪れた。

帝国内で行われる騎士選抜戦。

性別も素性も隠した彼女は、観衆の前に「冷酷非情な戦士」として現れた。

有償を勝ち取り、王の前に進み出た彼女が兜を脱いだ瞬間、誰もが驚愕した。

そこには、紛れもないライアン家の面影があった。

「ライアンの娘......」

王は驚愕した。

「まだ生きていたのか?」

彼女は跪いて宣言する。

「私はもはや『ライアン』ではない。帝国の栄光を血で再興する剣でございます」

長い沈黙の後、王は彼女を帝国史上最年少の騎士に叙し、特例として軍への参加を許した。

 

軍隊入りしたセリスは、伝統も栄誉も信じなかった。

彼女の信念はただ一つ。

ババリアに血の代償を払わせることだけだった。

数年後、彼女の軍勢はババリアの心臓部へと軍を進め、敵に一切の隙間を与えなかった。

彼女はただの帝国の騎士ではなく、大地を駆け巡る血の嵐となった。

軍の通った後には焦土が広がり、彼女の名は恐怖の代名詞となった。

戦場の兵士たちは震え上がり、敵はその名を聞くだけで戦意を喪失した。

冷酷な戦術、絶対的な命令——

ババリアをこの世から殲滅するまで、止まることはない。

帝国内部でさえ、多くの将軍が彼女の過激な行動を恐れたが、誰一人として正面から異を唱える者はいなかった。

数々の戦功により、セリスは帝国最恐の将軍へと昇り詰めた。

今や彼女の目的はただ一つ――

「ババリアを殲滅するためなら、いかなる犠牲も厭わない」

帝国の貴族も、王権さえも、もはや彼女の殺戮の行く手を阻めない。

疑問を投げかけられれば、彼女はただ冷然と答える。

「野獣を屠るには、我が凶暴さを以て彼らを凌がねばならぬ」

阻もうとする者は、蟷螂の斧。

仮に王権が邪魔なら、彼女自らそれを覆すまでだ。

 

夜の帳が下りた王城の塔上で、セリスは自らが築き上げた血の王国を見下ろしていた。

その時、どこか人間離れした視線が、密かに彼女に向けられていた。

 

「この時間軸は修復されねばならない」

オセロスは時間の川の彼方に立ち、見知らぬ世界を見つめていた。

ザラスは嘲るように言った。

「またか。お前はいつも融通が利かんな」

「これが彼女にとってあるべき未来ではない」

オセロスが塔の上に立つセリスを見やると、そこには焼け野原となった世界と、復讐だけを信条とする彼女の姿があった。

ザラスは嗤った。

「では、彼女のあるべき未来とは何だ? 帝国の英雄となり、あの偽りの王権に忠誠を誓うことか? この世界には彼女に忠誠を教えるセインもいなければ、支える家族もいなかった......それでも彼女は力で頂点に立ち、己のやり方でこの地を統べている」

「セリスはただの一例に過ぎぬ」

オセロスが遮ると、ザラスの笑みは深まった。

「ようやく気づいたか?」

「ここはお前の知る時間軸ではない、オセロス」

ザラスは両手を広げ、嘲りの眼差しで言い放った。

「だが、もう誕生してしまった」

 

「これは君が改竄した結果の『歪み』だ。修復してやる」

「修復? だが、本当にこれは『歪み』なのか?」

ザラスはゆっくりと手を広げた。

「オセロス......考えたことはあるか? この時間軸は既に我々の時空から独立し、新たな世界として誕生したのだと」

オセロスの瞳が細くなった。

時間の川を通して、無数の繊細な歪みが亀裂のように広がり、本来存在すべきでない分岐点を形成しているのが見えた。

「手を加えたことは認めよう。だが、元の世界を変えたわけではない。ただ......」

ザラスは身を乗り出した。

「新たな時間軸が誕生し、お前の知る世界と並行して存在するようになっただけだ」

一瞬の沈黙の後、オセロスは冷然と言った。

「どうやって生まれようと、修復されねばならない」

彼は手を挙げた。

掌の中で時間の光が渦巻き、今まさに傾こうとする天秤のようだ。

針を動かせば、すべてが元の軌道に戻る。

しかし、彼の指は宙に浮いたまま、降ろされなかった。

この時間軸の歪みは、もはや想定を超えていた。

ここに生きる者たちは、単なる時間の分岐点の産物ではなく、独自の因果と世界の法則を持ち、完全に存続していた。

修復すれば、軌道に戻るのではなく、完全に破壊されるだけだ。

時間の彼岸に立つザラスは、オセロスのためらいを察し、意味深な笑みを浮かべた。

「焦るな。すぐに分かる――彼らの運命は、もはやお前の掌中にはないということが」

 

塔上の炎はまだ消えていなかった。

真紅の残光がセリスの鎧を照らす中、彼女は遠方を見つめていた。

まるで、不可視の視線を感じ取っているかのように。

やがて、彼女は視線をそらし、暗闇の奥へと歩み去った。

 

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