(1)
「急げ! ラム、荷物の準備をしろ。出発するぞ!」
町から戻ってきたばかりのゴルトンが、スープをかき混ぜているラムに急かすように言った。
「肉煮込みスープ、できたところ」
ラムは慣れたようで、ゆっくりとスープを一杯よそった。
「おお、うまっ! ちょうどいい味だ」
ゴルトンはスープを受け取ると、待ちきれない様子でひと口飲んだ。そしてスープをすすりながら、ラムにさっき町で聞いた話を語り始めた。
「東の方から来た商人が言ってたんだけどさ、最近、デカい海のモンスターが出没しているらしいんだ。それで漁師たちが海に出られなくなって、貝が品切れだそうだよ」
ゴルトンはあっという間に一杯のスープを飲み干した。
「それで、私たちが自分で貝を掘りに行くってこと?」
ラムは目をパチパチさせながら尋ねた。
「そんなわけないだろ。俺が狙うのは――」
ゴルトンの目が興奮で輝いている。
「——海のモンスターだ!」
ゴルトンとラムはすぐに旅立った。
波が岩を打つ音が次第にはっきりと聞こえ、ひんやりとした海風とともに、海鳥の鳴き声が耳に届く。目的地が近いことを、自然が告げている。
道中、ゴルトンの頭の中には様々な調理法が浮かんでいた。
海のモンスターの異なる部位をどのように切り分け、最高の料理に仕上げるかまで考えていた。
まだ海のモンスターの具体的な姿は分からなかったが、それは構わない。
釣り上げてみれば分かる。
「すごくいい匂いだね!」
ゴルトン特製の巨大な餌団子に、ラムは感嘆の声を上げた。
「まあな。なんたって俺たちが釣るのは海のモンスターだからな。魚やエビじゃない」
ドンッ! 餌が海に投げ込まれた。
あとは、じっくり待つだけだった。
時間が一分一秒と過ぎていったが、海は相変わらず穏やかで静かだった。
海のモンスターの影も見当たらなかった。
「ゴルトン、もしかして海のモンスターって、団子が好きじゃないのかも?」
眠くてぼんやりしているラムの話を聞いて、ゴルトンも海のモンスターがこの餌団子を好まないのではないかと疑い始めていた。
二人がその問題について話し合っている間に、海鳥の声が徐々に消えていき、それまで海風でサワサワと音を立てていたヤシの木も停止してしまったことに気づかなかった。
ゴロゴロゴロゴロ......
静けさの後、海と砂浜が震動し始めた。
「ゴルトン! 見て!」
ラムの指さす先、海から巨大な黒い影が迫ってくる。
低く響く轟音とともに、山のような大波が巻き上がった。
「おっ! 来たぞ!」
ゴルトンは鉄鍋を盾のように構え、もう一方の手で骨切包丁を握り、海のモンスターを最高の料理に仕上げる様子だった。
大波の中、黒い影が姿を現した。
傾いて落ちてくる海水で、ゴルトンとラムはずぶ濡れになってしまった。
ゴルトンが刃物を振り上げようとしたその時、重厚な声が聞こえた。
「いい匂い! これは何?」
「海のモンスターが、しゃべった!?」
ゴルトンはその場で硬直する。
「海のモンスター? 俺は海のモンスターじゃない、アビスロアー部族の者だ。レヴィアタンと呼んでいいよ。俺は人間の美食を味わってみたいんだ! これ、食べちゃっていい?」
レヴィアタンは海のモンスターに準備した餌団子を抱えながら、とても誠実にゴルトンに尋ねた。
「こいつはいったい何者だ?」
とゴルトンは疑問に思ったが、それよりも気になることがあった。
「お前が持っているのは美食なんかじゃないぞ。どうやら、ろくなもん食ったことなさそうだな。待ってろ、ババリア部族の郷土料理を作ってやる」
ゴルトンは、餌に涎をたらしそうなこの招かれざる客を見つめ、本物の美食とは何かを思い知らせてやろうと心に決めた。
料理が仕上がるまでの間に、ゴルトンはこの竜族の者の来歴を聞いた。
(2)
現在のアビスロアー部族最強の戦士であるレヴィアタンは、幼い頃から同族とは異なっていた。
アビスロアー部族のドラゴンのほとんどは体が引き締まり、筋肉質で、海流を泳ぎ抜けるのに適していた。
しかし彼は生まれつき巨大で、成人前から、そのドラゴンの姿は先輩たちをはるかに上回っていた。
海域を泳ぐたびに、その後ろに巨大な渦を巻き起こし、近くの海洋生物を目まいさせるほどだった。
子供の世界では、普通と違う外見はしばしば同年代の者たちからからかわれる原因となる。
レヴィアタンも例外ではなかった。
あまりに巨大な体型のせいで、彼は皆のいたずらの対象となった。
しかし、分厚い鱗と強靭な肉体を持つ彼にとって、そんないたずらは痛くも痒くもなく、生まれ持った温厚で楽天的な性格もあって、彼はそれらを一切気に留めなかった。
そして、これらのいたずらは、ある晴れた午後に終わりを告げた――
その日もいつも通り、子供たちはレヴィアタンをからかう新しい方法を思いついた。
「レヴィアタン、私たちと竜捕まえごっこをしよう!」
仲間の一人が笑いをこらえながらレヴィアタンに言った。
「竜捕まえごっこ? 面白そう! どうやるの?」
少年のレヴィアタンは目を輝かせて尋ねた。
「簡単さ。私たちが逃げて、君が追いかけるんだ! よーい、スタート!」
子供たちはレヴィアタンが反応する間もなく四散して泳ぎ出した。
レヴィアタンもすぐに遊びに加わった。
子供たちはどんどん深く泳いでいき、ついにいたずらを実行する場所に到着した。
それは海底の岩洞群だった。
彼らは左右に隠れながら逃げ回り、最終的にレヴィアタンを洞窟の中に引っかからせた。
子供たちは洞口を囲んで笑い声を上げ、絶えず岩壁を叩いていた。
しかし、レヴィアタンは怒る様子もなく、むしろ純朴に口を開けて、彼らと一緒に馬鹿笑いをしていた。
しかしそのとき、冷たい暗流が襲ってきた。
騒ぎ声が深海の血に飢えた巨獣を引き寄せたのだ。
子供たちは恐怖に震え、慌てふためいて岩洞の行き止まりに追い詰められた。
この危機的状況で、レヴィアタンはわずかに動いただけで岩を砕いて脱出し、すぐに巨大な体を広げて仲間たちを守り、こう言った。
「怖がるな! 僕がいるよ!」
巨獣が猛烈に襲いかかり、彼に噛みついた。
しかし、その鋭い牙でもレヴィアタンの堅固な鱗を突き刺すことはできず、かすり傷を付けるだけだった。
巨獣が驚いた瞬間を捉え、レヴィアタンは低い声で唸り、頭突きで激しく突進した――
千年も生きてきたこの怪物は、おそらくスマッシュされる感覚をとうに忘れていたのだろう。
一瞬にして目が回り、最終的に慌てふためいて逃げ去った。
まだ動揺が収まらない仲間たちは、恥ずかしそうなスタンプを見せた。
彼らはレヴィアタンに謝罪し、彼の保護に感謝した。
レヴィアタンの方は、ただ無邪気に笑いながらこう言った。
「僕の友達を傷つける奴なんてないよ」
年齢を重ねるにつれ、彼の体格と力はますます際立つようになり、千年も生きている巨竜たちに匹敵するほどになった。
そこで彼は竜の島の周辺海域に派遣され、警戒と加護の任務を担うことになった。
その巨大な体格により、竜の島周辺海域の海洋巨獣たちは近づくことすらできず、自然とレヴィアタンは竜族の海域を守る最強の戦力となった。
このような強大な力を持とうとも、レヴィアタンは無意味な戦いを好まなかった。
寛大な心を持つ彼は、この海域を静かに、優しく見守ろうとしていた。
必要でない限り、決して暴力を振るうことはない。
唯一彼が大きな興味を示すのは、食べ物だった。
ところが、竜族の食文化は単純で、次第にレヴィアタンは心から感動できるような美味に出会うことが少なくなっていった。
そんな中、竜の島が外界に門戸を開いたことで、外の情報が島に流れ込むようになった。
外界から戻った同胞たちの話によれば、外の世界には想像を超えるほど多種多様で風味豊かな食べ物が存在するという。
その噂に心を躍らせたレヴィアタンは、ついに族の長老たちに『人間の世界を旅したい』と願い出るのだった。
(3)
おそらく幸運の神が善良なレヴィアタンを見守っていたのだろう。
彼は島を出て最初に出会った人が、料理の腕前に優れたグルメハンターのゴルトンだった。
レヴィアタンの話が終わると、香ばしいババリア部族風味の焼肉も出来上がった。
ゴルトン、レヴィアタン、ラムの3人は美食を心ゆくまで楽しんだ。
「うまっ! これは竜の島で食べたことのない風味だ! 何のスパイスを使ったんだ? こんなにも完璧に料理に溶け込んでいるなんて!」
レヴィアタンは肉を噛みしめながら、絶え間なく賞賛の声を上げた。
「へへっ、お前もなかなかわかってるな!」
料理人にとって最大の喜びは、食べる人が夢中で食べる姿を見ることだろう。
突然、風が吹き始め、穏やかだった海面が再び震動し始めた。
遠くに別の巨大な影が現れた。
この焼き肉の香りが、本物の海のモンスターを引き寄せたようだ。
ゴルトンの目が一瞬で輝いた。
「竜族の友よ、海のモンスターの味も試してみないか?」
レヴィアタンも遠くの異変に気づいた。
彼は口を拭うと、海に向かって歩きながらゴルトンに言った。
「もちろんだとも! でも海は俺の縄張りだ。食材は俺が手に入れてやろう!」
その後、巨大な波が押し寄せ、海水が荒れ狂う風雨を引き起こした。
水幕の中で、ゴルトンはかろうじて二匹の巨獣が激戦を繰り広げる姿を見ることができた。
「こんな光景、一生に何度も見られるもんじゃないな......」
ドン! 深海の巨大イカが岸に投げ出された。
どうやらゴルトンは忙しくなりそうだ。
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