アドリアン&イリス【終わらないダンス】
概要
呼称 | 終わらないダンス |
陣営 | ブライト王国 |
身長 |
【アドリアン】 188㎝ 【イリス】 165㎝ |
趣味 |
・パートナーのメンテナンス ・新たなステップを模索すること |
好きなもの | イリスの笑顔 |
嫌いなもの |
・ラスティーアンカーの暗殺者 ・ロックミュージック |
現在地 | ラスティーアンカー |
現在の身分 | 謎のダンサー |
ストーリー
ケイリン城に佇む旧弦酒場。
店内では新参バンドがまばらな客を相手に生演奏を聴かせる中、店主はぼんやりとカウンター周りを片づけている。
そのとき、カラカラとドアベルが鳴り、背の低い一人の商人が入ってきた。
「どいつもこいつも同じような古い曲ばかり。最近の若いのには独創性というものがないのか」
カウンター席に着くなり、商人は店主に向かってぼやきはじめた。
「ここケイリン城で、若者が芸術を通して名を上げたいと望むのなら、私は彼らにチャンスを与えたいです。ご注文は?」
「赤サビの灰潮を」
顔を上げた商人は、店主の背後にある酒棚に、ぽつんと置かれたヒールの高いダンスシューズに目が留まった。
「誰の靴だ?」
好奇心に駆られた商人が、はばかることなく尋ねる。
「ある少女のものです。数年前、ラスティーアンカーから来たダンスペアがいたのですが、彼らのおかげで商売が繁盛しましてね」
店主は慣れた手つきでカクテルをかき混ぜはじめた。
「ラスティーアンカーだと?」
商人が大きな関心を示す。
「あそこには、人さらいかペテン師しかいないと聞くから最初は警戒しましたよ。それにアドリアンという少年は、いつも仏頂面でろくに口もきかない。でも、イリスという少女はいつも笑顔で、とても感じがよかった。そして彼女が言うのです。『試しにここで踊らせてよ。もし、あなたとお客さんが気に入ったら、そのまま続けていいでしょ』とね」
「それで踊らせたと。このステージ上で?」
商人が尋ねた。
「いいえ、ステージ上だけではありません。このテーブルで満たされた店内を、まるで二羽の蝶が舞うかのように踊るのです。鋭く飛び出したり回転したりしながら、お客さまの隙間をすり抜けていく。それでも一杯のお酒をこぼすこともなかった。信じられますか?」
店主は懐かしそうに振り返った。
「それを聞いて思い出した。ラスティ―アンカーには、若い男女が逢瀬を楽しむときに踊るダンスがあるらしい。二人はピッタリと寄り添い激しく踊る。その受難の日々を片時でも忘れるために」
「よくご存じで。当時は、私を含め誰もそんなダンスを知らなかった。でも翌日、なんと店の売り上げが倍増したのです! 三日目には、店に入りきらないお客さまで外がいっぱいになるありさまです。私は思いました。彼らをここに留めることが人生最良の選択になると」
店主は商人の前に出来上がったカクテルを置いた。
「じゃあ。その金の卵を産むニワトリはどこ行ったんだよ?」
カクテルを一口すすって尋ねた。
「一人は死んで、もう一人は逃げました」
店主はため息をついて、片づけを再開する。
「一人死んだのか」
商人は頭を下げ沈んだ表情を浮かべる。
「私に言わせれば、彼らなら城主の眼前で踊ることだってできました。でも、時計店を開く資金が必要なだけで、あまり目立つようなことはしたくないと。アドリアンの手仕事を少し見せてもらいましたが、ダンスに劣らない腕前でね。そういうわけで、私は向かいの小屋で眠ることにして、彼らを店に住まわせることにしました。ある夜、店の中から大きな音が聞こえたので慌てて見に行くと、血まみれのイリスを抱えたアドリアンが床にへたり込んでいました。手に奇妙な一枚の紙を握りしめて。そんな状況の中、イリスが申し訳なさそうに私に告げました。自分たちは逃亡者で、追手に見つかってしまったと。急いで医者を探しに行き戻ってきたら、すでに二人の姿はなく、この靴だけが残されていました」
店主の口調は無力感と後悔に満ちている。
「この紙に見覚えは?」
商人は再び酒を口にした後、突然店主の前に差し出した。
「どういう意味ですか?」
店主はわけがわからなかった。
「知っていると思うが、この町では毎日のように商人と貴族の間で秘密の集会が開かれていて、招かれざる客が来ることはほとんどない。ついこの前も、ある子爵が気の合う仲間を招いていたようだ」
「実はこの子爵、ラスティーアンカーのような無法地帯の裏組織と繋がっている。明るい未来を約束すると言って才能ある子供たちを誘い込み、一方的な契約を交わすんだ。しかし実際は、明るい未来どころか過酷な訓練だけがひたすら続く。もし契約を守らなければ、さらに悲惨なことになるだろう。その過酷さにほとんどの子供はついていけず、仮に才能が開花しても、ヤツの仲間のもとに送り込まれるだけだ」
「つまりこの集会は、互いの黒い交際を誇示する場。はっきり言って、その場にいる全員が王国のクズだ。だが、プログラムに載っていない一人のダンサー、いや、一組のダンサーが紛れ込んでいた。つまり招かれざる客だ。彼らは華麗に舞いながらステージから降り、客の間に割って入ってきた。そして少女のほうが、その子爵に何やら話しかけた」
商人の話に徐々に惹きつけられる。
「彼女は何と言ったのです?」
「聞いたところによると、それは人間の声ではなく、楽器が奏でる音色のようだったらしい。『イリスとアドリアン、約束どおり、集会、来た』それから彼女は鋭利な刃物に変形すると、少年の腕の前で風車のように廻旋、その場にいた者を死神のごとく切り刻んでいった。そして一枚の紙だけを残し、跡形もなく姿を消したんだ」
「なんてことだ、それはつまり…」
店主は驚きのあまり、それ以上の言葉が出なかった。
「ハハハ、これは情報を提供してくれたほんのお礼だ。最後にひとつ、アドリアンが持っていた紙とはこれのことかな?」
商人は血が付着した紙を取り出し、店主の前に差し出した。
「はい」
店主が固唾を呑む。
「ご協力ありがとうございました。今の話は内密に」
そう言って、商人に扮した探偵が立ち上がり、代金を支払った。
「つまり、あの二人は悪くないのですね!」
怒りを抑えきれない様子の店主。
「もちろん。あなたが彼らに機会を与えたように、彼らもケイリン城に機会をもたらしてほしい。それが城主の望みだ」
最後にそう言い残し、探偵は店を出ていった。
ドリーのコーナー
人の命にほぼ価値のないラスティーアンカーでは、アドリアンやイリスのようなダンサーが日の目を見る可能性はゼロに等しい。
だがそんな劣悪な環境でも、イリスは常に明るく笑みを絶やさなかった。
彼女の元気溢れる笑顔とダンスに対する情熱は、無口で陰気な性格だったアドリアンを変え、彼を泥沼のような生活から救い出してくれた。
よくある恋物語のように、二人は互いに惹かれ合い、恋に落ちた。
勇敢で前向きなイリスは、どんなに困難な状況でも明るく振る舞った。
そんな彼女に心打たれたアドリアンは、毎日を大切に過ごすことを意識し始め、身の回りの喜びを感じられるようになった。
そして二人は誰にも邪魔されない場所で新しい人生を歩もうと駆け落ちを決意する。
だがその夢が叶う前に、哀れな恋人たちに悲劇が降りかかってしまう。
イリスの死によって人生の唯一の光を失ったアドリアン、それは同時に彼の世界から物音をも消し去ってしまった。
彼の魂は明けることのない静寂な夜に包まれ、復讐の炎だけが燃え続けていた。
極度の悲しみの中、イリスとの思い出だけがただ一つの慰めとなったアドリアンは、その類い希な技術を駆使してイリスをーー
精巧な機械仕掛けのダンスパートナーを作り出した。
二人の愛は肉体の繋がりを超越し、アドリアンとイリスが再び踏み出すステップの一歩一歩には、愛する者への追想と復讐の誓いが込められている。
この復讐の舞はアドリアンの永遠の愛に対する誓いであり、それは悲しみの舞曲の如く、ケイリン城で永久に語り継がれる愛の伝説となるのだった。
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