SPエジーズ

ページ名:SPエジーズ

SPエジーズ【悪夢の支配者】

概要

呼称 悪夢の支配者
陣営 カタストロフ

ストーリー

「もし選べるとしたら……

いい夢と悪い夢、どっちを選ぶ?」

 

目の前にいる病人が私に対して質問をした。

真剣な眼差しを向けているが、

その目は血走っていて必死さを感じる。

彼にとって深刻なことなのだろう。

 

「もちろん、いい夢を選ぶ」

 

そう答えたかったが、

なぜか言葉が出てこなかった。

病人は自虐的に笑い、

そして自分の体験を語り始めたーー

 

私がいたところは王国の国境付近にある

辺鄙な村で、外部との交流は少なく、

自給自足の生活を送るような場所だった。

質素な生活で少し大変だったが、

それでもそれなりに暮らしていた。

数カ月前までは……

 

数ヶ月前。

村人たちはこのところ、

頻繁に悪夢を見るようになっていた。

農業をしている者は

作物が不作で餓えている夢を、

商人たちは強盗に襲われ

商品をすべて奪われる夢を、

辺境軍に入隊していた老兵は、

ババリア部族が国境を越えて

村を侵略している夢を……

誰もが心の中で一番恐怖していること、

現実で起きてほしくないことを

夢に見たのだった。

それこそ初めの頃は、

まさか同時に悪夢を見るなんて……

と心配になったが、

そういうこともあるだろうと

『偶然』という言葉で片付けていた。

だが、日を追うごとに

悪夢にうなされる人が増えていき、

村中が重苦しい空気に包まれたのだった。

村長は聖堂に助けを求めに使いを

向かわせたが、聖堂までの道は遠く、

少なくとも行って戻ってくるまで

2、3カ月はかかるという。

その間、私たちはただ待つことしか

できなかった。

1週間が過ぎた頃には、

村人全員が悪夢に

苦しめられるようになっていた。

目の下に濃いクマを作りながらも、

眠ることを恐れた村人たちは、

睡魔と戦い続けた。

その戦いに負けて眠ってしまうと、

悪夢にうなされるという悪循環に

陥っていた。

 

ある日の夜。

私はいつものように悪夢を見ていたが、

今回は少し違っていた。

ピンク色の髪に、

蝶の羽根が生えた女の子が

私の夢の中に出てきたのだ。

彼女が羽根を羽ばたかせると、

空から輝く光の粉が落ちてくる。

粉が舞い落ちたところから、

恐ろしい夢が温かな太陽の光を浴びた

雪のように消えてなくなっていったのだ。

 

「エジーズ! もうこれ以上、

人々の夢を穢すのはやめて!」

 

女の子は大声で叫んだ。

すると、彼女の向かい側に

わずかに残っていた悪夢の中から

カタストロフが姿を現したのだ。

その両腕は蔓で縛られていて、

体からは妖しげな黒い霧が溢れていた。

 

「ならば我を止めてみせろ、タシー」

 

私たちに悪夢を見せていたのは、

目の前にいるエジーズという

カタストロフの仕業だったということに

この時気づいた。

夢の中でタシーとエジーズは

激しい戦闘を繰り広げたためか、

私は意識を失った。

夢から覚めると、

すでに日は高く昇っていた。

外が騒がしく様子を見に行くと、

皆嬉しそうな声で『タシー』の名前を

口にしていた。

どうやら昨夜は村人全員が

夢の中でタシーに会っていたようだった。

まだ悪夢から解放されたという

確証は持てないが、

清々しく目覚められたことは素直に喜んだ。

 

それからというもの、

タシーは皆の夢の中に毎晩現れ、

エジーズと激しい戦いを繰り広げていた。

何度も何度も戦い、

ついにとどめを刺す時が来たようだった。

最後の決戦も私たちの夢の中で行われた。

ある時は花の海に漂うような吉夢、

ある時は劣化に包まれるような悪夢と

交互に夢が入れ替わった。

私は荒れた海の真ん中に

立たされているような気分になり、

飲み込まれまいと必死に耐えていた。

だが、私にも限界が近づいていた、

もはやこれまでと思ったその時、

タシーは羽根を猛烈な勢いで羽ばたかせて、

輝く粉を撒き散らしたのだ。

すると、吉夢と悪夢の均衡が一気に崩れて、

悪夢がかき消され、

エジーズはここから逃げ出していった。

 

輝く粉はどこまでも広がっていく。

枯れることなく色鮮やかに咲き誇る花、

美しい酒が流れる川、

不毛だった土地に育つ黄金色の麦畑…

ここには貧しさも病気も、

戦争も飢餓も存在しなかった。

村長はそこで死別した妻と再会し、

涙を流しながら優しく抱きしめた。

足が不自由な老兵は若返り

再び軍に戻っていった。

商人は再びサバンナで商売を始め、

ひっきりなしにやってくる客を

笑顔で迎えた……

タシーが放った輝く粉は、

これまで見たこともない美しい夢を

紡ぎ出したのだった。

 

翌日。

私も含め、村人たちが家から出てきたのは、

昼過ぎだった。

目には涙を浮かべていた。

皆、私と同じく最後の美しい夢の余韻に

浸っていたのだろう。

気を取り直して、

仕事を始めようと思ったその時だった。

私たちは皆、現実を突きつけられたのだ。

夢と比べたらあまりにもかけ離れている

荒廃した村の景色に、落胆してしまった。

 

3日後。

村にはタシーの像が建てられ、

村人たちは像の前に食べ物を供えた。

通りかかるたびに、

私たちは像の前でお辞儀をしていた。

いい夢を見せてくれた彼女への

感謝の気持ちだろうか。

あるいは、もう一度いい夢を

見せてほしいという期待だろうか……

 

さらに1週間が過ぎたが、

タシーが再び現れることはなかった。

像の前に供えられた食べ物は

すべて撤去され、通りかかっても

村人たちはお辞儀をしなくなった。

 

それから数日過ぎたが、

やはりタシーが現れることはなかった。

村人たちの期待は失望に変わり、

やがて怒りとなって

タシーにぶつけるようになっていく。

 

ある日の夜、誰かがタシーの像に

向かって石を投げたようだった。

次の朝、像は粉々に砕けていた。

 

どれだけ時間が経っても、

村人たちの吉夢に対する未練は

消えることがなかった。

不毛の大地や荒れ果てた家屋を

目にするたびに、

その思いはより一層増していった。

とうとう村人たちは家に閉じこもり、

1日中ベッドに寝そべって

いい夢が見られることを

待ち続けたのだった。

だが、村人たちの思いは虚しく、

あの時の夢を再び見ることはなかった。

麦畑は一切手入れされず雑草が生い茂り、

どこもかしこも荒れ果てていく。

夢と現実の差が

どんどん広がっていくばかりだった。

だが、現実がひどくなればなるほど、

夢に対する欲望も強くなっていった。

欲が満たされないと、

次第に暴力的になっていく。

ちょっとしたことでも

すぐに言い合いになり、喧嘩が始まった。

そして暴力は暴力を呼び、

村が無秩序になっていったのだった。

 

そんな中、私は皆の体から不気味な

黒い霧が流れ出ているのを見た。

その霧はだんだん大きくなり、

村の上空で大きな塊となっていったのだ。

何もない空間から突然巨大な口が現れ、

その黒い霧を飲み込むのを見た私は

恐怖で慄いた。

 

「悪夢は人に恐怖を与え、

いい夢は人を溺れさせる……」

 

カタストロフの声が私の耳元で鳴り響いた。

 

「人間の意志は実に脆い。

だが反対に最も強い欲望を持っている」

 

カタストロフの影が空に現れると、

自身を縛りつけていた蔓を断ち切った。

そして、巨大な影はだんだんと

実体化していったのだった。

くねくねした触手が背中から伸び始め、

やがて空全体を覆い尽くした。

タシーとの戦いに敗れたはずの

エジーズは、最初からここを

離れてなどいなかった。

敗れたとみせかけて、

タシーが見せてくれた夢を利用し、

私たちの負の感情を吸収して、

本体を現実の世界に

顕現させたのだったーー

 

「…………じゃあ、

あんたはどうやって逃げ出したんだ?」

 

ここまで聞いた私は、病人に問いかけた。

 

「タシーだよ」

 

病人は薄笑いしながら答えた。

 

「カタストロフのエジーズが

完全に実体化する前に、

タシーが現れて奴に突撃したんだ。

……だけど、消えた」

 

「消えた?」

 

「タシーもエジーズも消えた。

どこに行ったのかわからない。

もしかするとタシーたちは

夢の世界で戦っているのかもしれない……」

 

病人はしばらく沈黙した後、

口を開いた。

 

「もう一度タシーに会いたい。

その時は……

ちゃんと彼女に謝りたいんだ……」

 

病人は真摯な眼差しを私に向けた。

だが、その血走った目には

まだわずかに狂気が感じられたーー

 

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。

コメント

返信元返信をやめる

※ 悪質なユーザーの書き込みは制限します。

最新を表示する

NG表示方式

NGID一覧