ミーシャ【夕霧の幻霊】
概要
呼称 | 夕霧の幻霊 |
陣営 | ヴェルディア連盟 |
身長 | 172㎝ |
趣味 |
・ハーブ採集 ・幽谷の散歩 |
好きなもの |
・ホワイトベルの香り ・静かな夜 |
嫌いなもの |
・欲深い侵略者 ・侵略者がもたらす騒音 |
現在地 | ヴェルディアの墓 |
現在の身分 | 夕霧の子 |
ストーリー
盗賊姿の帝国の人間たちが鍋を囲んで楽しく話している。
その内の一人が薪をくべると、炎がパチパチと音を立て、周りの空気に徐々に甘く爽やかな香りが広がっていった。
ミーシャは少し嗅いだだけで、この食べ物のレシピを言い当てれる。
ふさふさカサタケと緑豆のツル、それからシルキーチェリーのジャムの独特の風味がしたのだ。
これは決して秘密のレシピではない。
ユグドラシルの人間とよく交流する者なら、誰でも知っているメニューだ。
鍋で煮込んでいる食材から発せられた香りが、ミーシャを遥か彼方の記憶へと誘った。
忙しく料理をしていた母の姿が呼び覚まされる。
母の料理の腕は、暗闇に潜む小動物たちをいつもおびき寄せていた。
そしてミーシャは今、あの時の小動物たちと同様、暗闇の中に潜んでいる。
あの見知らぬ『客人』たちが禁足地に足を踏み入れて彼女の好きな食べ物を作り始めなければ、好奇心から調べに来たりはしなかっただろう。
この密林の奥に位置する幽谷には、ヴェルディア連盟が千年に渡り守り続けていた秘密が隠されている。
いつの頃からか外の世界に『謎の密林の奥に大層な秘宝が隠されている』という噂が流れるようになり、欲深な人間が数多く立ち入るようになった。
数十年前には財宝に目が眩んだ盗賊が強烈な力で、それまでヴェルディア連盟がこの地を守るために構築した最後の幻覚バリアを突き破って入って来る事態が起きた。
だが秘宝を求める者たちは、ここには財宝など初めから存在していないという事実を知らなかった。
ここにはあの女神が永久の眠りについた古墳しかない。
かつてタスタン砂漠で苦しみ、女神から平和を授けられたヴェルディア連盟の民の子孫たちが、この地を静かに守っているだけなのだ。
ミーシャの先祖もその内の一人だった。
かつて女神の恩恵と庇護を受けた彼らは女神が長き眠りについた後もなおいつか再び目を覚ますと信じており、子孫たちにかつて受けた恩を忘れずここを守り、邪心のある者を近づけさせないよう言い聞かせた。
これはある事件の後、ミーシャが初めて目にした光景であった。
そしてこの神聖なる地にここまで人が近づいたのも初めてのことであった。
母が居なくなって以降、彼女は母の職責を引き継ぎ古墳を守護する一員となった。
ここで『客人』をもてなし、墓の最後の防衛ラインとなるのが彼女の仕事だ。
だからミーシャは彼らをこれ以上先に行かせるわけにはいかなかった。
彼女は夕刻のもやに身を隠し、ゆっくりと歩いて行った。
足音がまるでそよ風が草をなでているかのようなサワサワとした音を立てる。
ホワイトベルの粉が彼女の腰に付けられたアクセサリーから零れ、周りにいる生き物たちの警戒心をマヒさせる。
ミーシャは手の中の幻光鏡をそっと掲げ、仕事に取り掛かった。
爽やかな仄かな香りが道を伝い、人気のない路地の外れにまで広がる。
彼女が作った幻への入口が『客人』の到来を今か今かと待ち構えていた。
ホワイトベルはミーシャと彼女の母が好きだった花だ。
ミーシャは今でも母を真似てそれを耳に掛けている。
幽谷に生えるこの純白の花は清々しい香りを放ち、乾燥させて粉にすると唯一無二の調味料となるのだ。
だが一度に使いすぎると体をマヒさせ、幻覚を引き起こす。
これは母がミーシャに教えてくれた最初の植物に関する知識だった。
ミーシャはこの幽谷から出て行きたいと思ったことはなかった。
ここには母と暮らした思い出が詰まっている。
ある涼しい夏の夜、母はスープの味を調えるためホワイトベルの粉を入れながら、大きくなったら何になりたいのかと笑いながら尋ねたことがあった。
まだ幼かった彼女は近くの倒木に座り、足をブラブラさせながらあどけない声で『薬剤師になりたい』と言った。
だが、彼女は結局優秀な薬剤師にはならなかった。
月渓植物学会に入って好きな植物の研究をすることもなかった。
よく母とは瓜二つだと言われていたため、自分も『夕霧の子』となって女神と母が眠りについた地を守ることにした。
数十年前の悪意の侵入は突然で、この地を守るヴェルディア連盟は抵抗らしい抵抗もできなかった。
致し方のない不幸であったのだが、母は汚れた闇の力と喧噪に幽谷が汚されるのをよしとせず、女神デューラから賜った先祖の鏡で強力な呪術を発動させた。
幻を作り出して盗賊たちを鏡の中に招き入れ、彼らの足を止めるという術だ。
だが、欲深い彼らがカタストロフと手を結び、力を手にしていたとは誰も思わなかった。
当時まだ幼かったミーシャは木の後ろに隠れ、毅然とした表情で幻の世界に入って行き、鏡の中の崩壊寸前の世界を繋ぎ止める母を見ていた。
幻の世界の中で一体何が起きたのかは誰も知らない。
突然闇の力を含んだ激しい炎の光が鏡面に映し出され、そしてミーシャが最後に覚えているのは鏡の中の世界が轟音を立てて崩壊したことだ。
鏡の中に存在していた全てのものが飲み込まれてしまった。
そんな時でも彼女のいる現実世界は虫の声が聞こえるほど静かで、古墳もそれまでと変わることなく千年に及ぶ悠久の眠りを続けていた。
今ミーシャが作り出した幻の世界では、盗賊たちが幻の宝を見つけて大喜びしている。
だが彼らは、己の欲深さに対する代償を支払う運命にあった。
ミーシャは目の前に落ちてきた髪を耳にかけると、かつて母が歌ってくれた歌を小さく口ずさみ、幻光鏡を懐に入れた。
本物の幻光鏡はあの時、母と一緒に砕け散ってしまった。
これはその際に残った大きなかけらの一つに過ぎない。
だから彼女が作った幻は長くは続かない。
だが彼らにホワイトベルの粉を大量に吸わせ、体が動かなくなるまで徐々にマヒさせることはできる。
ようやくミーシャは彼女の職責を全うすることができた。
もう自身が嫌悪する欲深い『客人』の相手をすることもない。
彼女の同僚のヴェルディア連盟の者たちが事後処理を担当するからだ。
ホワイトベルの粉を加えていないスープはすぐに香りが飛んでしまう。
ミーシャは空気中を漂う炭火の余熱のにおいを少し嗅ぎ、今夜はこのスープを食べることにした。
彼女は軽やかに草の上を飛んでいく。
まるで風が食材のありかを示してくれているかのようだ。
古墳は相変わらず、か細い虫の鳴き声と爽やかな夜風に包まれながら幽谷の中で静かな眠りについていた。
ドリーのコーナー
幼い頃、ミーシャは薬剤師になることを夢見ていた。
ヴェルディアの墓での生活はいつも静かに時が流れていて、話し相手といえば母親と自然だけだった。
自然に囲まれた環境で育ったため、あちこちに生えている草木に早くから興味や関心を示し、静かな月夜に母親が話すそれぞれの植物の特徴や効用を聞くことが大好きだった。
そして将来、その植物を使ってどのような薬を調合しようかと想像に胸を膨らませていた。
しかし、残酷な現実が突如としてミーシャの夢を打ち砕く。
母親の急逝によって、必然的に彼女が墓を守る責任を果たさなければならなくなったのだ。
母親がミーシャに与えた影響は非常に大きく、ミーシャを教え導く師であり、いつも温かく見守ってくれるミーシャの一番の理解者だった。
女神の民として墓を守ることはただの義務ではなく、愛と責任が伴ってなければならないと教えてくれた。
生前の母親の教えであれ、幻術世界での犠牲であれ、母親が守護者としての愛と信仰を受け継いでほしいと望んでいることを、ミーシャは十分に理解していた。
そして、母親の敬虔さと決意をしっかり受け継いだミーシャは、母親との思い出をモチベーションに変え、外敵の侵入に対して強い気持ちで立ち向かった。
次第にその気持ちは墓を守りたいという揺るぎない欲求に変わり、冷静な守護者へと成長していった。
幽谷をひとりで歩いていたとき、母親がよく作ってくれた料理を久しぶりに食べるとき、彼女はいつも母親の気配を感じていた。
まるで母親が今もそばにいて、二人で共有し大切にしてきた土地を静かに見守っているかのように。
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