ロビンフッド

ページ名:ロビンフッド

ロビンフッド【顔のない義賊】

概要

呼称 顔のない義賊
陣営 ボイドビジター

ストーリー

小さなシンディは劇場の隅で

不安そうに座っていた。

寒さでかじかんだ手足が、

暖炉の熱で少しずつ温かくなっていく。

今回特別に上映されるこのショーは、

ラコビッチさんのために開かれるもので、

招待された観客は、

シンディ以外富裕層だった。

シンディがカーテンの後ろから

こっそり顔を出して、

ラコビッチさんが客席の最前列中央に

きちんと座って、

胸につけているキラキラした

金のブローチを撫でているのを見る。

少女はすぐに頭を引っ込めた。

劇場はいつの間にか暗くなっていた。

1人の青年がステージの中央に現れると、

スポットライトが彼に当たる。

帽子を取って

観客に大げさなお辞儀をすると、

緞帳がゆっくり開いていった。

ショーの始まりだーー

シンディは貴族の屋敷で

おつかいを済ませて、もらった報酬で

ライ麦パンをいくつか買って家に帰る

つもりだった。

だが、執事は主人の外出準備が

忙しいという理由で、

少女に会おうともせず追い返そうとした。

シンディはわかっていたのだ。

執事は何かと理由をつけて、

報酬の支払いを遅らせるつもりだと

いうことを……。

ここの主人は、自分に仕える人が

空腹を満たせるかどうかなど

気にしたことがない。

ただひたすら、自分の金庫にあるお金が

どうすれば増えるかということに

興味を持っていた。

だが、シンディは明日を待てない。

こんな寒い日は、

ベッドに眠る祖母が夜を越せないのだ。

ここは国境に近い小さな地域で、

人口は少ないが、広大な農耕地を有する。

この地域に住んでいる人々は、

元々自給自足の生活を送っていたが、

ラコビッチさんが来てから状況は

知らず知らずのうちに変わっていった。

ラコビッチさんは手始めに、

屋敷を建てて多くの人を雇い、

農業をする暇を与えなかった。

その間に密かに土地を併合していったのだ。

すると人々の手元に残る食糧は減っていく。

必然的に人々は腹を満たすため、

彼の下で働き続けるしかなくなるのだ。

気づけば、

土地の食糧の大半をラコビッチさんが

所有していて、価格が高騰し

報酬がどんどん下がっていった。

誰もが食べ物と暖を求め、

疲れ果てた頃にはラコビッチさんに

反抗する者はいなくなっていた。

ステージに立つ青年は、

木に登って遠くを見渡し、

仲間を呼び寄せた。

そして林道の脇にある木の陰に隠れ、

馬車に積まれた米袋に

正確に狙いを定めて矢を放ち、

穴を開ける。

道に流れ出た穀物は仲間たちが素早く集め、

弱い人や貧しい人に分け与えた。

これはシャーウッドの森に暮らす

義賊の物語。

抑圧されている人々を解放し、

搾取し続ける貴族や領主たちを打ち負かし、

汚いお金を奪って

本当にそれを持つべき人に返すという話だ。

シンディは興奮して魅入っている。

(ここにもこんな人が現れて、

助けてくれたらいいのに……

そうすれば劇団のテントの前で

凍えながらラコビッチさんがショーを

見終わるのを待たなくてもいいのに……)

もしこの青年と出会わなければ、

シンディはきっと寒空の下で

凍えていたことだろう。

このショーが始まる少し前ーー

シンディは劇場の前で青年と出会う。

そして、青年に自分の身の上話をしたのだ。

彼は親身になって

シンディの話を聞いていた。

この時、青年がどんな顔をして

話を聞いていたのか、

残念ながらシンディは見ることが

できなかった。

青年の顔は帽子のつばで

ほとんど隠れていたからだ。

少女は青年の外見よりも、

エメラルドグリーンのマントを

脱いで自分にかけてくれたことと、

青年の言葉だけを覚えている。

「お前、運がいいな。

ショーを見るのが好きか?」」

という言葉だった。

シンディを可哀想に思った青年は、

少女を劇場の中に連れていくことにした。

メガシャーク劇団は、

ケイリン城に常駐する有名な劇団だ。

ショーのチケットは毎回売り切れるほどで、

当然シンディも憧れていた。

だが通常、

彼らはこんな小さな地域ではなく、

街の外で巡業している。

大げさではなく、

誰かがメガシャーク劇団の名を騙っても、

気づく人はいないだろう。

ではなぜ今回この地域に来たかというと、

ラコビッチさんに

気に入られようとした者が、

わざわざメガシャーク劇団を

招いたからだ。

ショーは素晴らしく、

招待された観客たちの拍手は

鳴り止みそうになかった。

青年たちのクロスボウは百発百中で、

1本目の矢を的の中心に当てると同時に

2本目を同じ場所に放ち、

1本目の矢を真っ二つにしたのだ。

ショーを見ているラコビッチさんは、

ブローチを撫でながら

表情をどんどん曇らせていった。

特に、青年が捕らえた貴族に

罪状を宣告したシーンでは、

ラコビッチさんの顔が青年の帽子と

ほぼ同じ色になるほどに。

その時ーー

青年は背後から銃弾を受けた。

撃ったのは貴族の護衛だった。

護衛は負傷したふりをして、

青年が油断した隙に、

毒蛇のように背後から

致命傷を与える一発を放ったのだ。

シンディは危うく声を漏らしかけたが、

慌ててその口を塞いだ。

だがラコビッチさんは

猛然と椅子から立ち上がり、

『恥知らずの小悪党』で

『忌々しい盗賊』の末路を大声で称えた。

それを見た周囲の人々は、

ためらいがちに拍手を送る。

次の瞬間ーー

突然、1本の矢がラコビッチさんの

頭をかすめ、カツラを射抜いた。

カツラはそのままテントの外へと

飛び出していった。

青年は倒れたが、

仲間にあの矢が落ちたイチイの木の下に

自分を埋葬するよう頼んだ。

そして、その木を通じてあの世へ行き、

不吉が蔓延る場所へ再び現れると

告げたのだった……。

彼の最期の言葉と共に、

ステージを包んでいた照明が暗くなり、

幕が下ろされた。

ラコビッチさんは不満そうに

鼻を鳴らしながら座り直したが、

この結末には満足したようだった。

こういう義賊というのは、

盗みを働かないと生きていけない貧乏人だ。

そんな人間が死んだところで、

秩序のために義務を果たしたというだけ。

そう考えると、

この『茶番』と言える物語を

許すことができると思っているようだ。

ラコビッチさんは髭をつまみ、

得意げに鼻歌を歌いながら、

無意識に自分の胸元に手を伸ばした。

そして、あることに気づく。

暗闇の中、

怒りに満ちた叫び声が静寂を破った。

「私のブローチはどこだ!?」

猛スピードで駆ける馬車は

劇団から数キロ離れた街角で停まる。

青年はシンディを抱きかかえて

馬車から降ろし、

少女にずっしりと重い小袋を手渡した。

袋の口はきちんと縛られていない。

中にはコインが詰まっていた。

コインと食糧を乗せた馬車が

別の角からやって来て、

青年の馬車と合流した。

シンディは、その馬車が

ラコビッチさんの屋敷の方から

来たのだとわかった。

「さぁ、走るんだ。

帰って金をきっちりしまっておけ。

道草すんなよ」

シンディは青年に

肩を優しく押されるのを感じて、

家に向かって走り出した。

少女が振り返ると、

青年は馬車に戻りながら

何かを投げて遊んでいた。

それは美しいブローチで、

太陽の光を浴びて

キラキラと光り輝いていた。

シンディは大声で叫ぶ。

「またあなたに会えるの!?」

青年はそれを聞いて軽く笑って、

ブローチを食糧の山に投げ込んだ。

帽子のつばを下げると、馬車が動き出した。

「正義と道徳がある限り、

俺はどこにでも現れるさ」

そう言って、

彼は颯爽と去って行ったのだったーー

「正義と良心のために危険を冒す。

ロビンフッドはそんなやつだよ」

——アーサー

 

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