ムーラン

ページ名:ムーラン

ムーラン【鎧の少女】

概要

呼称 鎧の少女
陣営 ボイドビジター

ストーリー

「左側にいる、アイツです!」

若い女は低い声で叫ぶ。

同時に、タイガー族のタヤが

勢いよく前に歩き出し、

左側にいる『中年男』の腕をひねり上げた。

そして、鬼の形相で

『男』の付けヒゲをはぎ取り、

変装を解かれて慌てふためく顔を

露わにすると……。

タヤたちから金を騙し取った

『女』の顔だった。

男に変装し、2人の目を誤魔化して

逃げるつもりだったが、

一瞬にして若い女に

見破られてしまったようだ……。

タヤは若い女に向かって疑問を投げかけた。

「ムーラン、どうしてわかったんだ?」

「男装をしたいのなら、

もっと勉強すべきですね」

ムーランはニッコリ笑うと、

女から金の入った袋を探し出す。

その中から自分たちが騙し取られた分の

金を取り出した。

「さあ、行きましょう! 

市場が閉まる前に、

必要な物を買い足さなくては」

タヤとムーランが出会ったのは

半月ほど前だったーー

ちょうどその時、

タヤは困り果てていた。

タヤとキャラバンの仲間、

さらには荷物を運ぶ馬までが

泥沼にはまってしまい、

身動きが取れなくなっていたのだ。

周りを見渡しても誰もいない。

タヤたちはただひたすら

助けを求めて叫ぶことしかできなかった。

そこに現れたのがムーランだった。

不思議な服を身に纏った彼女は、

林の中から出てきてサッと剣を抜くと

見事な剣さばきで近くの蔓を切り取った。

そして、石にくくりつけ、

馬車の方へと投げ入れ、

タヤたちを沼から脱出させたのだった。

その後、全員で協力して、

泥沼から馬車と荷物を引き上げることに

成功した。

だが人は助かったものの、

馬車に乗せられていた荷物は

ひどい状態だった。

箱は泥だらけで、中の荷物も水浸しだ。

彼らはマタル港でこれら商品を

売るつもりだったが、

この状態では商売になるはずがない。

キャラバンの仲間たちは互いに不満を

ぶつけ始め、

最後にはその矛先をタイガー族のタヤに

向けたのだった。

「そもそも! 

なんでタイガー族なんかについて

行商する羽目になったんだ!?」

「カタストロフに惑わされたからだろ!?」

「タイガー族に商売ができるんなら、

鋼のシチメンチョウだって空を飛べるぜ!」

「タイガー族なんかに

商売なんてできるはずがなかったんだ!」

「チッ……

タイガー族なんかについて行かなければ

商品だって無事だったに違いねぇ!」

キャラバンの仲間たちは、

この状況をタヤのせいにして罵った。

そうして彼らは、

自分の持ち分の馬車と荷物を持って、

去っていった。

残されたタヤはその場で項垂れ、

黙り込んでいた。

キャラバンの仲間たちは去っていったが、

ムーランは帰らなかった。

彼女はタヤに声をかける。

「もしまだマタル港に行くつもりなら、

ぜひお供させてください!」

タヤは少し驚きつつも、

助けてくれた恩を仇で帰したくないため、

快くうなずいた。

2人はマタルを目指し出発する。

幸いにも道すがらすぐ別の街に

到着したため、

ついでに泥沼で汚れた商品を安く売り、

新しい商品を購入した。

そしてまたマタル港を目指して

出発したのだった。

道中、タヤはムーランに尊敬の念を

抱くようになった。

水を汲み、火を起こし、テントを張るなど、

ムーランは段取りよくこなしている。

テントに穴が開いて雨漏りがしようと、

山賊に出くわそうと、

ムーランはいつも冷静に対処していた。

焚き火にあたりながら話をする中で、

タヤはムーランが

かつて兵士であったことを知る。

だが故郷については、

ただ『遠い場所』としか話さなかった。

そして半月が経った頃ーー

売り買いを続けていたため、

泥沼で汚れた商品の損失が

だんだん埋まってきて

タヤはほっとする。

2日前ーー

タヤはムーランの勧めで薬草を購入した。

マタルの船乗りたちは、

長い航海に出る前に準備をするため、

薬の需要があるかもしれないという考えだ。

この半月で、

タヤはすっかり自信を取り戻していた。

だが、さきほど変装した女に

金を騙し取られたことで、

再び嫌な記憶が蘇る。

「タイガー族なんかに

商売なんてできるはずがなかったんだ!」

キャラバンの仲間たちに

言い放たれた言葉が頭の中を反芻する。

「やはりタイガー族が商売をするのは

間違っているのか……」

「生まれつきなんでもできる人なんて

いませんよ」

そう話しかけるも、

タヤは黙ったままだった。

ムーランはしばらくタヤの言葉を

待っていたが、

タヤの口が固く閉ざされているのを見て、

再び話を続けた。

「タイガー族のことはよくわかりませんが、

私の故郷ではこれまで女性が戦場に

出ることはありませんでした」

驚くタヤをよそに、

ムーランは自分の経験を語り始めた。

約10年前ーー

ムーランの父親は国からの命令で

出兵することになるが、

病弱で戦える状態ではなかった。

父親の身を案じたムーランは、

男だと偽り代わりに戦場に向かったのだ。

戦場で多くの手柄を立てて、

敵軍を倒し勝利すると、

皇帝は恩賞を授けようとした。

だがムーランはそれを何度も断り、

家族の元へと戻っていった。

戦友たちはようやくこの時、

ムーランが女性であることを

知ったのだという。

タヤはムーランが詐欺師の変装をひと目で

見抜くことができた理由をここで理解した。

10年もの間、

男のふりをして軍隊に紛れ込んでいた

人間から見れば、

一見完璧に見える変装でも

多くの手落ちがあったのだろう。

「ですから……

生まれた時の身分や立場が

一生を決めるわけではないのです」

その後、ひと月あまりーー

いろいろなトラブルに巻き込まれながらも、

2人はついにマタル港に到着する。

そして、間もなく出航する船乗りに

薬草を販売したのだった。

ムーランの判断は正しかった。

薬草は飛ぶように売れ、

2人はそれなりの収益を

手にすることができたのだった。

ふと、大海原をぼーっと見つめている

ムーランの姿を見たタヤは、

彼女が港を目指していたことを思い出し、

話しかけた。

「ほら、あそこに宿がある。

家族に手紙でも書いたらどうだ?」

「私の家はとても遠いので、

手紙を出しても届くことはないでしょう」

ムーランは静かに話し始めた。

「あなたが話していたブライト王国よりも

ずっと遠くにあるのです。

あなたは? 

家族に手紙を出さないのですか?」

タヤは視線を落として首を横に振る。

そして、なぜみんなタイガー族が

商売をすることに否定的なのか説明した。

ババリアという部族は武術に優れていて、

中でもタイガー族は武功を立てることを

特に力を入れていた。

それゆえ、

商売は身分が低い者が行う仕事と

されていたという。

タヤが行商すると決めた時、

優れた戦士である両親から

絶縁を言い渡されたため、

手紙は送れないのだ……。

「オレは君とは違う。

君はすごい。

故郷の人たちもきっと君のことを

誇りに思っているだろう」

ムーランは黙ってタヤの話を聞きながら、

ふと故郷の決まり事を思い出していた。

それはタヤが想像していたものとは、

大きく異なっていたのだ。

「私も……

かつては故郷に帰れば穏やかな生活が

待っていると思っていました」

「え……? 違ったのか?」

「実際に帰ってみると、

とても窮屈だと感じました」

戦場に長くいた彼女は、

生活するためのスキル、日常の習慣、

友人たちとの付き合い方、

そのすべてが変わってしまったのだ。

故郷での彼女の振る舞いは、

決して模範的なものではなかった。

しばらくの葛藤の末、

ムーランは父親を守るという

かつての願いは

すでに叶えられていることに気づく。

この先は新しい夢を追うべきだと悟り、

旅に出たという。

そうしてムーランが辿り着いた先が

ここ、エスペリアだった。

「自分の進む道は自分で決めるのです。

ほかの人がどう思うなんてことは

重要ではありません」

そう言って、ムーランはタヤの肩を

優しく叩いた。

タヤはムーランの言葉にうなずく。

彼女に比べれば、

自分の問題などたいしたことではない。

戦場でも故郷でも、

彼女はずっと周囲から

理解してもらえなかった。

それでも彼女は屈しなかったのだ。

家族への手紙を真剣に書こうと

決意したタヤは、

うなずいて宿へと向かっていった。

ムーランはタヤの後ろ姿を見送り、

振り返って再び大海原を見つめる。

その大海原は果てしなく広がる

故郷の草原のようだった。

海上で舞う波しぶきも、

風で舞い上がった故郷の草花のように

感じる。

タヤはもうすぐ戻ってくる。

「船に乗って……

もっと遠くに行くべきでしょうか?」

 

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