カニサ&ルーク

ページ名:カニサ&ルーク

カニサ&ルーク【怒りの魔獣】

概要

呼称 怒りの魔獣
陣営 カタストロフ

ストーリー

(1)

カニサは牢屋の壁にもたれて座っている。

奴隷となってしまったため、

監禁生活は覚悟していたが、

想像していたほど耐え難いものでは

なかった。

だが、彼女はずっとひとつの疑問が

頭から離れずにいる。

自分を買った人間の魔道士が、

いったい何が目的なのか。

奴隷と言いつつも牢屋に閉じ込めるだけで、

特に何かをするわけでもない。

毎日何もせず、ただ体の変化を測定し、

記録しているだけだった。

それは彼女だけではない。

他に投獄されている奴隷たちも同じだった。

カニサは体をぐっと伸ばし、

監禁されている他の奴隷を観察した。

彼女はここに来てまだ日は浅いが、

互いの顔を認識できるぐらいの

時間は十分にあった。

影になっているところに視線を移すと、

カニサを見ている奴隷がいる。

思わずその奴隷を睨みつけるが、

そいつはカニサをあざ笑い、

自慢であるライオンのたてがみを揺らし、

鎖をジャラジャラと鳴らした。

共にこの場所に監禁されてはいるが、

カニサにとってその奴隷……

ライオン族のルークは因縁の相手だった。

彼女は今でもライオン族がヤギ族に加えた

残虐行為を覚えている。

2つの種族は、

豊穣のオアシスの支流の

上流と下流で生活していて、

昔から争いが絶えなかった。

カニサの親族の多くは

ライオン族との戦いで死んだ。

そして一族が敗れた後、

多くの戦争捕虜は奴隷となったのだ。

カニサも同様に数々の奴隷主の手に

渡され、ここに連れて来られた。

それなのにまさか一族を滅ぼした相手が

ここにいるとは……。

「どうやら……ライオンどもの天下も

短かったようだね」

カニサはつぶやくようにルークを皮肉り、

顔を上げた。

ふと、牢屋の天井窓が目に入る。

陽が落ちたばかりで、

空はまだ燃えるような赤が広がっている。

曜雀座の焔羽星だけがやけに輝いて見えた。

深夜ーー

カニサは急にハッと目が覚めた。

今夜は満月。

牢屋の中で誰がどこにいるのか

確認できるほど明るかった。

ルークがこそこそと何かをしていることも

ひと目でわかるほどだった。

「はっ……

道理であの暗い隅っこに居座って、

誰にも近づかせないわけね。

壁に小さな穴が開いてるじゃない」

コホンと、カニサは咳払いをした。

近くにいるウルサス族は

その音にいい夢でも邪魔されたのか、

不機嫌そうに寝返りを打つ。

ルークはピタリと動きをとめ、

警戒しながら振り返って牢屋の扉を見るが、

看守の姿はなく安心していた。

一連の動きをニヤニヤと笑って見ていた

カニサは牢屋の中に

視線を戻したルークと目が会う。

翌日ーー

ルークは近くのケンタウロス族に

わざと喧嘩をふっかけたようだ。

結果、腹を立てたケンタウロス族は、

牢屋の向こう側に『移ること』となった。

そのやり取りをずっと見ていたカニサは、

すぐに立ち上がって薄笑いを浮かべて

ルークに近づく。

「天下のライオン族様も

こんなところに来るだなんて……

落ちたものね」

カニサは嘲笑しながら毒を吐く。

ヤギ族にバカにされたことが

癪に障ったのか、

ルークは鎖を抱えて

カニサに罵詈雑言を浴びせた。

だが、カニサはそんなこと気にもせず、

笑いながらルークの隣に腰を下ろす。

「アタシが手を貸してあげようか?」

カニサは自慢げに言ったのだった。

その日の夜。

ルークはいつも通り、

コソコソと壁の穴に鎖の欠片を

突っ込んでレンガを外していた。

1つ外したらレンガを元に戻しているため、

一見穴は小さく見えるが、

壁の穴周りの部分はかなり緩くなっている。

「ふんっ。明日、アタシがグイっと

そこを強く押せば脱出できるわ。

デカブツは穴に挟まれて

死んじゃうのがオチね。

あはは」

カニサは聞こえるように

だが小さな声でルークを野次る。

その言葉に反応したルークは

図星を突かれたのか顔をしかめる。

カニサはその表情を見て

満足気に笑っていたが、

ルークは言い返すことなく

黙々とレンガを外しては戻すという

作業の手をとめなかった。

3日目ーー

1匹のノールの死体が牢屋の前に置かれた。

彼は別の牢屋にいた奴隷だった。

ちょっとした騒ぎを起こし、

看守を襲おうとしたが、錆びた鉄格子には

呪術がいくつも施されていたようで……。

その後のことは、むごいものだった。

奴隷たちを監禁している人間の魔道士は、

見せしめとしてノールの死体を

すべての牢屋の前に飾った。

これは警告だ。

このことがきっかけで、

牢屋中にいろんな情報が飛び交った。

ファルコン族から聞いた情報によると、

このノールは敵対している種族の奴隷に

裏切られ告げ口をされたらしい。

それを聞いたカニサとルークは

思わず顔を見合わせ互いに警戒をした。

その時だった。

1匹の蛇が格子を這って、

ケンタウロスに近づき、

後ろ足にまとわりついたのだ。

その場にいた奴隷たちは、

たいまつを手にして蛇を追い払った。

カニサは視線を落とし黙り込んだ。

その日の夜、

ルークとカニサは静かにレンガを

外していた。

カニサは頭の中で

緩くなった場所の面積を計算している。

(ふふふ……

このままバレずに上手くいけば、

3日以内にはルークが通れるくらいの

穴ができるはずね。

一刻も早く脱出したい……。

ここから脱出できれば、

裏切られる心配もなくなる。

今このデカブツに死なれたら困るのは

アタシなんだからうまくやらなきゃ)


(2)

だが、思わぬ事態が起こったのだ。

今日与えられた食べ物がどこかおかしい。

どうやら虫が中に入っていたようで、

喉をつたって体の中に入ってきている、

ということをカニサはすぐに理解した。

その瞬間、カニサは恐怖で震え上がった。

首を横に振り、

幻覚だ、何かの間違いだと言い聞かせる。

だが、すぐにそれは現実となった。

燃えるような痛みが彼女を襲ったのだ。

(なによ、これ……! 

脈がおかしい……動悸が……息が……! 

はぁ、はぁ、内臓も全部えぐられてる

みたいじゃない!!)

震える体を抑えながら、周囲を見渡すと、

自分だけじゃなく他の奴隷たちも

同じように顔が歪み痙攣していた。

(他のやつらも……

アタシと同じように苦しんでいる……?)

そう思った直後、カニサは床に倒れる。

視界の先にある天窓からは、

曜雀座の雀尾座がぼやけて見えた。

「おい、しっかりしたまえ」

優しく、励ますような声が耳元で響き、

カニサが意識を取り戻す。

目を開けると声の主は

なんと人間の魔道士だったのだ。

カニサは驚いて声が出ない。

目線を動かすと、

その魔道士の周りには、

たいまつを持った医者が

何かを待っているように立っていた。

「キミたちの中に流れている汚れた血は、

すぐに洗い流される。

そう……

亜人はもう終わりだ。

純潔な人間に戻れるのだ。

もう少しの辛抱だ。

もうすぐ我々は平和を迎えられるのだよ」

人間の魔道士は、この上なく優しい口調で

カニサに語りかける。

だが、彼女の表情はまるで崖から

突き落とされる寸前かのように真っ青だ。

なぜならカニサは理解したからだ。

彼ら、人間の魔道士が、

奴隷たちに拷問もせず、

ただ監禁して体の変化を記録していた

理由はこの研究のためだったと。

その直後、

牢屋の方で怒りの雄叫びが上がった。

(ルーク!?)

ライオン族のルークだけではない。

ファルコン族、ウルサス族、

ケンタウロス族も叫んでいる。

そして……

カニサも合わせるように叫んだ。

奴隷たちは、

誇り高きババリア部族である体が、

忌まわしき人間になるという

事実を受け入れることができない。

絶望と悲痛の叫びが

牢屋中に響き渡る。

全身が激しい痛みに襲われながらも、

それに耐えて奴隷たちは拳を振り上げる。

引き裂こうと腕を振り回したり、

噛みつこうと牙を剥き出しにして

飛びかかったりするも、

弱りきった彼らでは人間の魔道士に

指一本触れることができなかった。

奴隷たちを見下ろす人間の魔道士の表情は、

彼らの叫びなど気に留めず

期待に満ちていた。

それを見たカニサは、

痛みと悔しさが胸に押し寄せる。

ババリア部族の内乱で

最大の敵が誰なのかを忘れてしまっていた。

(くっ……

もうひとり協力者がいたら……

とっくに逃げ出せたはずなのに!)

だが、ノールの一件もあり、

彼女は裏切りを恐れ、ウルサス族のやつも

ケンタウロス族のやつも

信用できなかったのだ。

その結果、

カニサたちはここで倒れている。

たいまつで追い出したはずの蛇が

また鉄格子の外から入って来るのが見えた。

血だまりの中で倒れている奴隷たちを見て

蛇は目を閉じ、

血の匂いを吟味するかのように

深く息を吸った。

「ああ……なんという美味か。

贅沢で芳醇な香りとはまさにこれ。

ここには人間の憎しみが溢れかえっている」

(違う! 人間なんかじゃないわ!)

カニサは心の中で叫んだ。

(こんな屈辱……! 最悪だわ! 

ババリア部族の戦士たるアタシが、

戦場じゃなくてこんな……

憎き人間の実験によって死ぬなんて! 

誇り高いアタシたちババリア部族を

人間に戻すですって!? 

傲慢にもほどがあるわ!)

蛇はカニサを見ながらあざ笑う。

この蛇は単なる蛇ではなく、

カタストロフだった。

「ははは……

お前の声は聞こえているぞ。

悔しいか? 悔しいのか? 

だが、残念だ……。

ようく自分の体を見てみろ。

体が変形してきているぞ? 

くくくっ……

人間になってしまうんじゃないのか?」

「違う! 違う! 

人間になんてならないわ!」

「さあ、お前たちの体を私に預けなさい」

カニサは激しい痛みの中、

意識を手放してしまった。


(3)

……しばらくして、

カニサは目を覚ました。

だが、体がいつもと異なるように思える。

背中に不思議な感覚を覚え振り返ると、

そこにはファルコン族のような翼が

生えていた。

「は……? 

ちょ、ちょっと待って……

何この翼! 

しかもこの腕もアタシのじゃないわ! 

えっ……足も!? 

尻尾は……? 

アタシの尻尾はどこよ!?」

蛇のカタストロフがくねくねと

背後からカニサの前に飛び出し、

吐き捨てるように言う。

「これがキミの新しいカラダか」

蛇の言葉に彼女は唖然とする。

そう、彼女はここにいたババリア部族の

同胞たちと融合してしまったのだ。

力に満ち溢れ、

人間を恐れることのない

新しい体となってしまったのだ。

「おい、角をどかせ」

「え……?」

逆の方に振り返ろうとしたその時だった。

目の前にルークの顔があったのだ。

2人の目が合う。

「…………ハッ。

これはこれで悪くないわね」

(だってアタシたちは

誇り高きババリア部族の戦士。

もともと完全にひとつになれるはずがない)

カニサとルークは、

これから数え切れないほど喧嘩をし、

数え切れない決闘をするかもしれない。

一呼吸置いた次の瞬間、

カニサは高笑いをしながら

ウルサス族の手で鎖をちぎる。

ルークは魔道士のたいまつに噛みつき、

牢屋に火を放った。

「誰が人間なんかになるものか! 

傲慢で愚かな人間どもめ!」

 

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