ベロン【墓守】
概要
呼称 | 墓守 |
陣営 | グレイヴボーン |
身長 | 178㎝ |
趣味 | 持ち歩いている墓石を拭いてきれいにすること |
好きなもの | ダリアお嬢様に捧げる花 |
嫌いなもの | 死者を冒涜する者 |
現在地 | バンティス |
現在の身分 | バンティスの墓守 |
ストーリー
ダリアが亡くなった。
彼女は一族の墓のそばに埋葬されたが、葬式はとても簡素に済ませられ、富商として名高い彼女の夫は、妻のためにまともな墓石すら用意してくれなかった。
バンティス家の一員であるダリアの墓には、副葬品として貴族に相応しい豪華な装飾品や華やかな衣服が納められたが、追悼者たちが去って行くと、彼女の夫は召使いたちに副葬品のほとんどを回収するよう命じた。
そして彼が立ち去ったあと、ダリアの墓を訪ねる者は誰一人いなかった。
そんなダリアのお墓だが、ベロンが毎日墓前に咲いている花に水をやったり、丁寧に墓石を拭いているおかげで、一年中ピカピカに保たれていた。
実のところ、ベロンとダリアは知り合いと言える仲ですらない。
何年も前にダリアの兄が亡くなった時、彼女は名門貴族の最後の継承者である兄の死が何を意味するのか分かっていなかった。
そして兄の葬儀が彼女の悲劇の始まりであったことも……。
花が大好きだったダリアは、兄の葬儀に参列した際、人々が見ている前で死者に捧げる花環から花を抜き取った。
兄に対する不敬な行動に、母が手を上げようとしたとき、甲高い叫び声がその場にいた全員の注意を引いた。
その声の主ベロン——墓守の養子は盛り上がった土に足を取られて転び、墓のそばに咲いていた花を押しつぶしていた。
そんな彼を人々は嘲笑し、おかげでダリアの母の怒りも彼女からベロンに移った。
葬儀が終わったあと、ベロンのせいで墓守はチップをもらい損ね、当の本人は罰として小屋に閉じ込められたが、彼はそんなことにはもう慣れっこだった。
そもそも子どもが葬式の場にいること自体が不適切なのだから。
ベロンを閉じ込めているこの小さな小屋は、彼の一生を墓地に縛り付ける棺でもあった。
墓地で育ったベロンには友だちもおらず、幼い頃は明るかった彼も、陰鬱な環境に影響されてか徐々に無口で暗い性格になっていった。
養父はとても厳しく、ベロンを引き取ったのもあくまで墓守の後継者が必要だっただけで、そこに家族の愛情など存在しなかった。
葬送、見回り、墓の掃除、獣の駆除……子どもの頃からベロンは養父と共に墓地の仕事をこなし、養父が亡くなってからは彼が新たな墓守となった。
ダリアが再び人々の話題に上ったのはそれから何年も後のことである。
国の動乱のあおりを受けて経営難に陥った夫が、亡き妻の埋葬時に回収し損ねた副葬品がないか確認するために再び墓を訪れたのだ。
男は大勢の人と共に切羽詰まった様子で墓地に現れ、
「妻が恋しくてしかたがない、もう一度彼女に会いたい」
と言い、ベロンに亡き妻の墓を開けるよう催促した。
だが、ずっと寡黙だったベロンはその日、人々の前でこの男は今まで一度もダリアの墓参りに来たことなどない薄情者だと罵った。
その場にいた借金の取り立て人や男の「一途な思い」に感動していた人々は、妻への思いがとんだ大嘘だと知って大いに呆れたのだった。
当てが外れた男はベロンを怒鳴りつけたが、仕方なくダリアの旧邸に行って金目の物を探すしかなかった。
この出来事は、ベロンにダリアと再会した時のことを思い出させた。
両親を事故でなくし、傾きかけた家業を継ぐしかなかったダリアは、両親の生前の願いに従い、貴族の地位を欲しがっていた富商と結婚した。
こうでもしなければ、貴族としての体裁を保てなかったからだ。
深夜、いつも通り墓地で見回りをしていたベロンは、一人で両親の墓前にいるダリアを見かけた。
静まりかえる墓地の中、ダリアは最後にここに来たときの自分がどんな気持ちだったのかも思い出せなかった。
家族を失い、愛のない婚姻を結び、他人にすがって生きる自分はなんて役立たずなのだろう。
「孤独と迷いに苦しみ、信頼できる者のいない世界で生きるぐらいなら、家族のいるところへ行くのも悪くないかもしれないわね」
とダリアはベロンに言った。
そんな彼女を前に、口下手なベロンはどんな慰めの言葉をかければいいのか分からなかった。
そして空が明けた頃になって、ようやく彼は彼女に伝えたい言葉を絞り出した——
「生きていれば……きっとよくなる」
ベロンの目に映るダリアは、咲き誇る花のように華やかで美しかった。
だから彼女には素敵な未来を手に入れてほしい。
彼の言葉にダリアは苦笑した。
没落貴族に待っているのは衰退の未来しかない。
わずかに残っている体裁もいつ現実に打ち破られるか分からないが、彼女にできるのはその日が少しでも遅れてくることを願うだけだ。
当時、ベロンは「体裁」がなんなのか分からなかったが、彼女の夫を追い出したとき、彼はようやくその意味を理解した。
その後、クーデターを起こした親王が国王を死に追いやり、バンティス帝国の政権を手にした。
たった一晩で帝国は死の影に覆われ、山のように積まれた遺体の処理にベロンは疲労困憊になるまで働いたが、それでもダリアの墓の世話を欠かすことはなく、彼女の墓前に咲いた花は当時の情勢に似つかわしくない美しさを放っていた。
しばらくして、戦乱に家を奪われた難民たちが墓地の近くでたむろうようになった。
そして生きていくための日銭を稼ぐため、彼らは墓の中から金目の物を手に入れようと企み始める。
墓守のベロン一人でこの広い墓地を守り切るのは至難の業だ。
頻繁に出没する墓荒らしに対処するため、彼は朝晩問わず見回りを行うことで盗人たちを追い払うしかなかった。
ある日、墓地に貴族の墓があると知った墓荒らしたちは、その夜ダリア一家の墓を見つけだした。
興奮した彼らは墓石を倒し、乱暴に棺をこじ開けると、中の副葬品を手当たり次第奪い始めた。
もちろんダリアの墓も標的にされた。
これほど手入れの行き届いた墓だ。
きっと身分の高い人物が埋葬されているに違いないと、ベロンの制止をよそに墓荒らしたちは墓前の花を踏み荒らし、期待に満ちた顔で墓を暴いたが——棺の中には、何も入っていなかった。
憤った彼らはベロンが中身を隠したに違いないと決めつけ、怒りにまかせて彼を問い詰めた。
だがどんなに殴られ罵られようとも、ベロンは墓の主の身分どころか、ダリアが埋葬されたとき、彼女の夫が副葬品を回収し尽くしたことすらも話さなかった。
怒りがさめやらぬ墓荒らしたちは、なおもベロンをいたぶり続けた。
そして息も絶え絶えになった彼を盛り上がった土の中に投げ入れ、適当に土を被せて生き埋めにしてしまった。
彼の生き死にを気にかける者などいやしない。
戦乱渦巻くこの時代では、消えかけた命など虫けらのように取るに足りない存在なのだ。
消えてしまったダリアの遺体を気にかける者もいなかった。
そして戦況はますます激しくなり、墓荒らしたちも徐々に姿を見かけなくなった。
この国のどこかで息絶えたとしても、彼らを埋葬する者はいないだろう。
どれほどの時間が流れただろうか、「蘇った」国王がグレイヴボーンの大軍を引き連れ、再びバンティスの領土に足を踏み入れたとき、この地にいる人々に新たな姿が与えられた。
土の中から目覚めたベロンは、自分の身に起きた変化が信じられなかった。
まだ混沌とする意識の中、彼は破壊され変わり果てた小屋に戻った。
木の板が軋む音に、少しずつ意識がハッキリしてくる。
彼は急いで絨毯に近づいて引っ張ると、その下に現れた隠し扉を開いた。
今にも崩れそうなはしごを下りた先には薄暗い廊下が続いており、突き当たりにある小部屋が舞い上がる埃の中で微かな光を反射していた。
一歩進むたびにベロンの緊張が増していく。
埃まみれの部屋に入ると、彼は急いでロウソクをともした。
揺らめく光に照らされた部屋は、まるで墓室のような惨たんたる雰囲気が漂っている。
粉々に砕けた鏡の付いた化粧台には淡色の布カーテンがかかっており、台の上には埃を被った豪華な装飾品がきちんと並べられている。
丹精込めて飾り付けたベッドにはダリアが「寝て」いるはずだが、そこに残っていたのは朽ちた寝具や腐った絹織物と分厚く積もった埃だけだった。
しばらく黙り込んだあと、ベロンは部屋を出て荒廃した墓地に戻ってきた。
手入れする者がいなくなったダリアの墓は、他の墓と同じように見るも無惨な状態になっている。
彼は黙って墓石に積もった土埃を払いのけ、そこに刻まれたた名前をじっと見つめた。
それがダリアとの最後の繋がりに思えた彼は、墓石を土から引き抜き、自分の体に縛り付けた。
こうすれば、もう彼女を失うことはない。
それからというもの、ベロンはよなよな墓石を引きずりながら現れては、墓地に新しい墓石を運んでくる。
彼がなぜそんなことをするのかは誰にも分からない。
もしかしたら彼は荒涼とした大地で一輪の花を探しているのかもしれない。
一度も手に入れることが叶わなかった、ダリアに捧げるための花を……
ドリーのコーナー
ベロンの人生における全ての記憶は、墓、死、別れと関係している。
彼は子供の頃から墓守に育てられた。
養父は彼を飢えさせることはなかったが、当然与えられるべき愛や優しさを与えなかった。
ベロンは暗い墓の中で育ち、近くに同年代の遊び仲間もいなかった。
子供の頃から身分が低く規則を守らなければならないと教えられた。
これによって、彼は活発な子供から、寡黙な墓守に変わった。
墓で、ベロンは一日中死と共にあり、死は彼にとって当たり前のことになった。
ここで、彼は冷たい場面を見過ぎた。
家族の不仲、兄弟の対立、日々続く埋葬、巡回、墓掃除の中で、ベロンの心も次第に冷たく麻痺していった。
この生気のない墓守は、もう生ける屍も同然に見えた。
しかし、ベロンは自分でも分かっていた。
彼の麻痺した心の中にはずっと人間性の片鱗が埋もれている。
それはダリアお嬢様への沈黙の愛情と忠誠だ。
ベロンがダリアお嬢様と関わることはほとんどなかったが、彼はダリアの深い孤独と無力感を理解し、ダリアの運命に同情と共鳴を感じた。
この感情は彼の内面で最も複雑な部分だった。
早逝した魂への哀悼であるだけでなく、ダリアへの追憶と敬愛を表している。
ベロンがダリアの墓石を守ることで、彼はダリアと心を通わせ、言えなかった気遣いと感情を表現しているのだ。
この無口な墓守は、お嬢様の墓の前で、今までなかった勇気を奮い立たせ、彼女の安息の地を守護し、彼女の尊厳と記憶を守る。
ベロンが次に目覚めたとき、彼は普通の人間の体ではなくなっていた。
しかしダリアお嬢様に関する記憶と感情は変わっていなかった。
彼は相変わらず墓石を引きずり、闇夜の中で探す。
ダリアお嬢様に捧げる1輪の花を。
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