aklib_story_可燃物

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可燃物

とある火災現場で、ショウは逃げ遅れた男性を助けられなかった。死者の身元を探る手がかりは、一冊の切手帳だけだった。


ショウの業務日誌

1月5日 曇り

ダウンタウンのとあるアパートで火災が起きた。

[ショウ] みなさん落ち着いて指示に従って規制線より外側へ避難をしてください。みなさん落ち着いて……

[???] あぁ、もうおしまいだ……何もかも消えちまった……今までの全財産が……

[???] ハハハ……上等だ、こんなクソみたいな場所、焼かれてしまえ! 灰になっちまえ! ハハハハハ……

[???] ううぅ……お母さん……

[ショウ] ……

[ベテラン近衛局員] 道を空けろ! 重傷者の救助が最優先だ!

[ベテラン近衛局員] ゴホッ、ゴホゴホッ……

[ベテラン近衛局員] 入居者の避難は全員済んだか?

[近衛局員] はっ! 逃げ遅れた住民は以上かと。

[女の子] お母さん!

[女性住人] 萌(メン)ちゃん!

[ベテラン近衛局員] はぁ……

[ベテラン近衛局員] みなさん、周りをよく確認してください。知り合いや隣人でこの場にいない方はもういませんか。

[女性住人] 三階に住んでるあの変わった人──誰か見ました……?

[男性住人] そうだな、あいつだけ見当たらないな……

[ベテラン近衛局員] 三階? それは火元になった階じゃないか! シャレにならんぞ……

[ベテラン近衛局員] その方は、間違いなくご在宅でしたか?

[女性住人] それは……分かりません。

[女の子] あたし知ってる!

[女の子] あのおじさんはね、家を出る前に必ずカーテンを開けるの。さっき降りてきたときに見たけど、カーテンは閉まってたよ。

[ベテラン近衛局員] ……マズいな。

[ベテラン近衛局員] あー、あー、本部願います――

[ベテラン近衛局員] 報告します。現場に一名、未救出者の可能性あり。火勢は上がっており、消防士による再突入は不可能と判断。至急消防車を──

[ショウ] 小官に行かせてください! 必ず救出します!

[ベテラン近衛局員] ふざけるな、自殺行為だぞ!

[ベテラン近衛局員] これはおそらく源石着火装置が原因の火災だ。現場じゃ、いつ爆発連鎖が起きてもおかしくない状況なんだぞ──

[ショウ] だからこそ中にいる人が危険です!

[ベテラン近衛局員] しかし──

[ショウ] 迷っている時間はありません上官!

[ショウ] ご安心ください小官は過去何回もの火災現場救出経験があります!

[ベテラン近衛局員] わかった。必ず連絡を密に取るように……気を付けろよ。

[インカム] ……ショウ、現場はどうだ?

[ショウ] 報告します。炎上中の建物内への進入に成功。環境温度はおよそ450℃です。

[ショウ] 建物自体は古いアパートで、構造は一般的な鉄筋コンクリート製。早急に消火しないと建物の倒壊も想定されます。

[ショウ] 一階は現在火の手が見えませんが、すでに大量の煙が発生。

[ショウ] 避難通路を通過、これより二階に上がります。

[インカム] 了解、注意しろ。

[インカム] ショウ、状況送れ。

[ショウ] ゴホッ……現在二階、煙が非常に濃く……三階の状況はさらに厳しいかと思われます。

[ショウ] 要救助者はかなり危険な状態のはず……一刻も早く助けなくては……

[ショウ] 視野の確保が困難になってきました……

[インカム] ショウ、無理するな。ダメなら即時撤退せよ!

[ショウ] 避難通路は通行可能です上官! 今から三──

[インカム] ショウ!

[ショウ] ゴホッ……小官は無事です。居住者が置いた棚が倒れた音です。

[ショウ] (避難通路には絶対物を置いてはいけないってこと、今度の防災講習会でしっかり取り上げよう。)

[インカム] 気を付けるんだ……

[???] 助けて……たす……けて……

[ショウ] 上官! 未救出者の声を確認しました!

[ショウ] あそこだ!

[ショウ] この部屋だ!

[???] た……助けてくれ……

[ショウ] はい! もう大丈夫ですよ!

[ショウ] 鼻と口を押さえて! 発声も極力控え体力を温存してください。今すぐ助けます!

小柄なザラックは、文字通り燃えるように熱い鉄のドアに必死で肩をぶつけたが、開く気配は一切なかった。

[ショウ] (ダメだ、ドア枠が高温で変形している。)

[ショウ] (斧で破壊しよう。)

[ショウ] すみません! 斧を使うのでドアから離れてください!

[ショウ] てやあ──っ!

[ショウ] よし! いける!

火花が散り、ショウが振るう斧も高温で真っ赤になっていた。

斧の柄を強く握りしめ、持てる力をふり絞ってドアにぶつける。鍵の部分にはすでにひびが入り始めていた。

[ショウ] あと少し……

[ショウ] 火を消さないと……

[ショウ] 火を……消さないと……

[ショウ] 助けなきゃ……

[???] ショウ?

[???] ショウ、ショウ! しっかり!

[ショウ] ハッ、火は──

[ベテラン近衛局員] ショウ!

[ベテラン近衛局員] やっと目が覚めたか! 心配したぞ……

[ショウ] か、火災はどうなったんですか!?

[ベテラン近衛局員] じっとしてろ!

[ベテラン近衛局員] 大丈夫だ、無事消火できたよ。君は十分よくやった。

[ベテラン近衛局員] 今は自分の心配をしろ。一酸化炭素を大量に吸い込んだ影響で、しばらくは安静にする必要があると医師が言っていた。

[ベテラン近衛局員] 下手に動くな。酸素マスクをちゃんと付けなさい。

[ショウ] いや、待ってください。あの人は? 部屋に閉じ込められていたあの人はどうなったんですか!? すぐに──

[ベテラン近衛局員] ショウ!

[ショウ] 小官はまだ──

[ベテラン近衛局員] もう遅いんだ。

ドアの向こうにあったのは、自分の想像よりも狭い部屋だった。

あらゆるものが消し炭となったせいか、狭い空間が少し広く、だが虚ろに見えた。

部屋の片隅には小さな金庫があり、高温で変形していたが、中のものは奇跡的に残っていた。

それは、龍門幣の小さな束と、一冊の切手帳だった。

[ショウ] ……

[ベテラン近衛局員] ショウ。

[ベテラン近衛局員] 撤退だ。

突然起きた火災。被害は死者一名、重傷者十一名だった。

初めて目の前で命が消えるのを見た。

1月8日 小雨

迷子になったペットの羽獣を無事発見。

訓練中にぼーっとしたので叱られた。始末書を書くことになった。

1月11日 晴れ

先日の火災に関する調査が終了した。原因は家庭用の源石着火装置の老朽化が誘発した爆発連鎖だった。アパートの共用部に物が大量に置かれていたせいで短時間で延焼が拡大した。

総会で表彰された。

1月13日 曇り

休暇を取得した。

[ショウ] えっ? し、調べられないんですか?

[ベテラン近衛局員] ああ。現場は君も見た通り、身元のわかるものはすべて焼き尽くされてしまってな。調べようにも何の手がかりも残ってないんだ。

[ベテラン近衛局員] あの後、アパート周辺で聞き取り調査もしたんだが、被害者は男性で一人暮らし、職業は不明、人付き合いも少ないということぐらいしか情報は出てこなかった。

[ショウ] ご家族は? せめてご家族にはお知らせしないと……

[ベテラン近衛局員] 新聞にはご遺体を引き取りに来るように広告を出したんだが、未だに名乗り出る者はいなくてな。

[ショウ] ですが、も、もしご家族の方の目に届いてなかったとか……龍門にいない可能性も……

[ベテラン近衛局員] そうだとしたら、我々の管轄外だ。

[ショウ] そんな……

[ショウ] あっ、切手帳!

[ショウ] 確か部屋には切手帳が残っていましたよね?

[ベテラン近衛局員] あれか、あれも分析したんだが……

[ベテラン近衛局員] 鑑識の結果、ごく普通の切手帳だということしか分からなかった。なぜわざわざ金庫なんかに入れていたのかは謎だが、指紋の一つも残されていないから、手掛かりにはならんな。

[ベテラン近衛局員] それにしてもショウ……なぜまだその件について調べてるんだ? 関連調査は全部終わっただろう?

[ベテラン近衛局員] 火元は家庭用の源石着火装置だ。近衛局も消防署も認識は一致している。不審な点は何もないはずだが。

[ショウ] その……長官……

[ショウ] 小官に……その切手帳を預けてもらえませんか?

[ベテラン近衛局員] ……本来なら身元不明者の遺留品は処分しなくてはならないんだが……まあよかろう。しかし何のためだ?

[ショウ] 小官は……とても重要なことを調べたいのですがどう説明したらいいか分からなくて──

[ベテラン近衛局員] はぁ……君にはかなわないな……ついて来い。

[ショウ] ありがとうございます!

[男性住人] 三階に住んでたやつ? だから知らねぇつーの! こないだもそう答えただろうが!

[男性住人] いつも辛気臭ぇ顔して、挨拶もしねぇし、知るかよあんなやつ……

[男性住人] 俺んちも大半焼けてて大変なんだ、他人なんざ構ってるヒマはねぇんだよ。忙しいんだからもう帰ってくれ!

[ショウ] お忙しいところ申し訳ありませんでした……

[女性住人] このアパートは入居者が少なくて、だいたいみんな顔見知りなんですが……

[女性住人] あの人だけは誰とも話さないし、昼間は外出すらしなかったみたいだから、よく分からなくて……

[女の子] あたし一度会ったことあるよ、すっごい背の高いおじさんだよ! もう、こ~んなに大きいの!

[女の子] あたしに笑いかけてくれたし、飴玉もくれたんだ。

[女の子] あれ? でもおじさんだっけ、おじいさんだっけ……?

[女性住人] メンちゃん! いつも言ってるじゃないの! 知らない人からものをもらっちゃダメだって!

[女性住人] お役に立てなくてごめんなさい。用があるのでこれで失礼します。

[ショウ] お忙しいところすみませんご協力ありがとうございました!

[ショウ] ……

[ショウ] やっぱり分からないや……

1月15日 曇り

休暇を取得した。

色々な人に聞いて回ったが、誰もあの人のことを知らなかった。

火災は人が生きた痕跡をここまできれいに焼き尽せるのか……まるで最初からこの街にいなかったかのように。

いけない、これは仕事の話じゃない。この日誌に書いちゃダメだった……

[ショウ] ……お待ちください!

[ショウ] すみません郵便局員の方ですか少々伺いたいことがありまして!

[ショウ] この切手帳を見ていただけませんか?

[郵便局員] 切手ですか? 査定をご希望ならコレクション専用の窓口に予約を入れてください。こちらはもう終業時間ですので……

[ショウ] いいえ! すみません、ただこの切手帳から持ち主の性格などわかることがないか伺いたいだけですお願いできますでしょうか。

[郵便局員] どういう意味です……それはお客様のものではないんですか?

[ショウ] 違います……いいえ違くもないですがともかく少しだけでもいいですので見ていただけませんか? とても大事なことなんです!

[郵便局員] はぁ、分かりました、分かりましたからとりあえず落ち着いてください……では拝見しましょうか。

[郵便局員] ふむ……なかなか見ない集め方をしてますね。

[ショウ] 何かわかりましたか!?

[郵便局員] いや、何かわかったほどのことでもないですが、こういった切手を集めるのは珍しいなと思いまして。

[ショウ] えっ? そ、それはどういう意味ですか?

[郵便局員] 普通、コレクションといえば記念切手や限定発行のものを集めますよね?

[郵便局員] しかしこの切手帳の中身は全部ごく普通の切手で、コレクション価値の全くないものばかりです。

[ショウ] コレクション価値がない、ですか? こんなに丁寧に保管しているのに……

[郵便局員] 持ち主の意図が汲み取れませんね。テーマや年代がバラバラで、消印のあるものとないものも入れ混ざってます……

[郵便局員] それにしても、勾呉の風景を描いたものが非常に多いようですね。ほら、このページ以降は全部、勾呉の風景がテーマでしょう?

[郵便局員] この「灰斉山の麓」なんかは結構前のものですよ。確か数十年前に発行されたものだったんじゃないですかね。とはいえ当時の発行数も多かったので、それほど価値があるわけではありませんが。

[郵便局員] 他に特別なところは見当たりませんね。

[ショウ] そのくらいですか……

[郵便局員] 申し訳ないですが、このコレクションから読み取れる持ち主の情報はそれくらいですね。

[郵便局員] 強いて言うなら、おそらく勾呉の風景が大好きな方、というところでしょうか。

[ショウ] 分かりました……ご協力ありがとうございます!

[ショウ] 勾呉の風景……

[ショウ] あの人は……勾呉出身なのかな?

[ショウ] 「勾呉人家(こうごじんか)」……ここだ。

[店主] いらっしゃい、空いてる席にどうぞ。

[ショウ] すみませんちょっとお伺いしたいのですが……ここの料理は本場の勾呉料理ですか?

[店主] ちょいとお嬢ちゃん、それは聞き捨てならんな。この龍門広しと言えども、うちより本格的な勾呉料理を出せるとこがあるてんなら、店をたたんでやるよ!

[ショウ] す、すみませんそういうつもりじゃないんです!

[ショウ] ここに勾呉の人は結構いらっしゃるのか聞きたかったんです……

[店主] 勾呉の人? そりゃ来るさ。出稼ぎで龍門に来ている勾呉のお客さんにしょっちゅう言われるよ、まさにふるさとの味だってね。

[店主] 疑うなら食ってみろって!

[ショウ] いやそのお聞きしたいのですが……お客さんの中にこんな人はいませんか?

[ショウ] おそらく……勾呉出身でとても背が高い男性です。あまり羽振りは良くないはずで見た目はちょっと怖いかも……いやはっきりそうだとは言い切れませんが……いつも一人で夜にお店に来るような……

[店主] う~ん……

[ショウ] 曖昧で申し訳ないです……心当たりありませんか? ちょっとでも当てはまりそうな方がいれば教えてください!

[店主] とても背が高い……だっけか?

[店主] あー、いるいる。確かにそんなお客さんがいるなぁ一人。

[ショウ] ご存じなんですか!?

[店主] まぁ……一応知り合いではあるかな。

[ショウ] ──!

[店主] お嬢ちゃんが言った通りの特徴でよ、毎回一人で店に来るし、深夜の閉店間際にばかり来やがんだ。そいつ一人のために、店じまいが一時間も遅れちゃうんだよな、まったく……

[店主] で、そのお客さん、毎回そんなにたくさんは注文しねぇんだ。焼き鱗獣一匹とおつまみ一皿、あと酒一本……それだけ。一人で飲んで食って、しばらくすれば帰るんだよ。

[店主] 見た目は、そうだな……ちょっと強面な感じだけど、悪いやつじゃなかったよ。食べ終わったら片付けを手伝ってくれたり、あと多めに飲んだ日は故郷の話とかをしたり……とまぁそんなとこだ。

[ショウ] ……その人の家族や友人については何か知りませんか?

[店主] 家族や友人? 直接聞いたことはねぇが、見た感じ所帯持ちじゃなさそうかな。

[店主] そんなに気になるんならよ、次にやつが来た時に聞いてやってもいいぜ? いや待て待て、一応個人情報だしマズいよな……やっぱり次来た時にお嬢ちゃんが直接聞いた方がいいや。

[ショウ] 店長さん……そのお客さんのこともう少し聞かせてくれませんか?

[ショウ] その、彼はたぶん、もう二度と来れないんです……

[店主] もう来ない? いやいやそんなはずはねぇよ。俺の料理が大好きだからな。ほらさっき言ったろ、「ふるさとの味だ」って言ってくれたのがその彼さ。

[店主] でも言われてみりゃ確かにしばらく来てねぇな……

[店主] あの若いの、今頃なにしてんだろうねぇ。

[ショウ] え、ちょっと待ってください。

[ショウ] い、今、若い……って言いました?

[店主] そうだよ。若いやつだったぜ。お嬢ちゃんよりは上だろうけど、歳はそんな変わらないくらいかな――

[郵便局員] この「灰斉山の麓」なんかは結構前のものですよ。確か数十年前に発行されたものだったんじゃないですかね。

[ショウ] ……

[店主] うお、ちょっとお嬢ちゃん、なんで泣くんだ? えっと……もしかしてその人は親戚か何かなのかい?

[店主] 今度店に来たら絶対聞いといてやるからさ、約束するって。だからもう泣きやめ、な?

[店主] おっと兄さん、いいところに来た! このお嬢ちゃんがよ、あんたのこと聞きたいとか言って来たんだが、途中から泣き始めちゃってさ。

[店主] 何がどうなってんのか俺にゃさっぱりだ……あとは二人で話してくれよ。

[ショウ] じょ、上官!?

[ベテラン近衛局員] ショウ?

[ベテラン近衛局員] これは……懐かしいな。

[ベテラン近衛局員] 「灰斉山の麓」か……俺はまさにこの灰斉山(かいせいざん)の麓にある小さな町で生まれ育ったんだ。

[ベテラン近衛局員] 裏の山には確か小さな池があって、子供の頃に家で食べる鱗獣は全部そこで釣ったものだった。

[ベテラン近衛局員] 龍門でも、埠頭の市場に行けば新鮮な鱗獣は手に入るが、あんなにいい釣り場はなかなかないよ。

[ベテラン近衛局員] ずいぶん長く帰ってないからそう感じるのかな……切手になった故郷の風景が、こんなに美しかったとは。

[ショウ] 上官がおっしゃっているそれらの場所に、あの人も行ったことがあるのでしょうか?

[ベテラン近衛局員] それはどうだろうな……

[ベテラン近衛局員] 残念ながら俺はその人を知らない……勾呉は大きい街ではないが、人口はそこそこ多いからな。

[ベテラン近衛局員] しかし、今の話を聞いて、まったく知らない人でもないような気がしてきた──いいところに気が付いてくれたな。我々が調査してた時には、そこまで考えが及ばなかったよ。

[ショウ] 上官……彼はどんな人だったと思いますか?

[ベテラン近衛局員] そうだな……たぶん、故郷を深く愛した人なんじゃないかな?

[ベテラン近衛局員] この切手帳を引き取ったのは、彼の遺族を探すためなのか?

[ベテラン近衛局員] なぜそこまでする?

[ショウ] 小官は……彼を助けられませんでした……

[ショウ] あの時……小官はすでに彼の助けを呼ぶ声が聞こえるほど近くにいたのに……

[ショウ] もしあの時もっと早くドアを破れたら彼は……

[ショウ] 一人の命がこうも簡単に消えるなんて悲しすぎます……

[ショウ] せめてご家族の方を探し出してこの切手帳をお渡ししたいんです。それから「ごめんなさい」ってちゃんと謝りたいんです……

[ベテラン近衛局員] ショウ、何度も言うが君は十分よくやった。あの状況下であれ以上やれる者はいない……君自身も含めてだ。

[ベテラン近衛局員] 君の考えが間違ってると言うつもりはない。しかしそんな考えを背負いながら、次もまた迷わずに現場に突入できるのか?

[ショウ] 小官は……小官は……

[ベテラン近衛局員] ショウ、君のせいじゃないんだ。

[ベテラン近衛局員] まぁいい、これは君自身が処理しなくてはならない感情だ。他人が諭してどうにかなるものではない。

[ベテラン近衛局員] 夜風が強い、ほどほどで帰りなさい。

[ショウ] うっ……ううっ……

[ショウ] うう……うぐっ……うっ……

[ショウ] うああ……

ショウの業務日誌

1月16日 曇り

申請した休暇の最終日、とても恥ずかしいことをしてしまった。

最後の最後まであの人を特定できなかったし、気持ちの整理もまだついていないけど、まずやらなきゃいけないことがある。

1月17日 晴れ

署に戻った。

数日も休んだ分、頑張って訓練をして取り返さないと。ちょっと風邪気味だし、体調もちゃんと整えよう。

[ショウ] 先ほどは、一般的な着火装置に潜んでいる出火を誘発するリスクについて説明しました。

[ショウ] このシミュレーションは、理論上起こり得るだけ、というわけではなく、実際に、二年前にも龍門でそのような火災が起きています……

[ショウ] 火災時の正しい避難方法を覚えることはもちろん重要ですが、火災対策として一番有効なのは、何と言っても未然に防ぐことです。

[ショウ] 天災とは違い、火災は多くの場合人為的な原因で発生しますが、人の意志で消し去るのは難しいのです。

[ショウ] 事故は未然に防ぐことができます。しかし悲劇は一度起きてしまったら、どんなに悔やんでも、取り返しのつかない──

[イフリータ] なあ、スカイフレア。気のせいか? あのチビ、あんだけ喋っても全然あがってねぇよな。

[スカイフレア] しぃっ! ──ちゃんと聴きなさい、あれは貴方に言ってるのよ。無駄話はしない!

[イフリータ] オマエが言うかよ──

[イフリータ] ん? でもアイツ、なんかすごく落ち込んでねーか? こういう時は拍手でもして励ましてやった方がいいのか?

[スカイフレア] 黙って話を聴きなさいって!

[ショウ] み、みなさん、理解できましたでしょうか?

[ショウ] えっと、は、早口になりすぎてませんでしたか?

[ショウ] 落ち着いて落ち着いてと……ふぅ……

[ショウ] ゴホン……さ、先ほどは着火装置が原因で発生する火災について説明しました。しかし火災の原因はそれ以外にもたくさんあります。

[ショウ] これからする話は電気関係を扱うオペレーターのみなさんにとって特に重要な内容です──

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