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淬火煙塵_11-12_迫り来る荒波_戦闘後
諸王の眠る地に通じる地下通路内、過去の断片が、シージを訪ねた。
[シージ] 着いたな、この……王宮と公爵邸を繋ぐ道。
[シージ] (小声)……金色のたてがみ。
[トター] 何て言ったんだ、ヴィーナさん?
[シージ] いや、何でもない。彼らにはもう随分と会っていない。
[アラデル] ちょっと前にここから逃げたばかりなのに、またこの古いタイルを歩くことになるなんてね。この道もきっとこんなに頻繁に踏まれるのは初めてでしょう。
[アラデル] 本来は非常用の通路にすぎないわけだし。
[トター] だが残念だな。公爵邸にしろ王宮にしろ、誰の非常事態の役にも立てなかった。
[ダグザ] 傭兵、私たち全員に酒をおごりたくなければ、そういった冗談はやめるんだ。
[トター] わかった。
[シージ] アラデル、貴様は以前、私がかつてこの道に沿って「諸王の息」を持ち帰ったと言っていたが……
[シージ] 何も思い出せないんだ。
[シージ] この感覚は私を焦らせる。まるで何か大きな責任から故意に逃れているようだ。
[アラデル] ヴィーナ、大丈夫よ。当時のあなたはまだ幼かったから。
[アラデル] もしもまだ話せるようになったばかりの子供に何かの責任を押しつけるような人がいたら、その人たちこそ……身勝手だわ。
[アラデル] ごめんなさい、あなたの身近な人の悪口を言ってしまったかもね。
[シージ] いや、実は、私も貴様と同意見だ。
[シージ] しかし今、我々はやはりこの場所に戻ってきた。
[シージ] 「責任」? 「奇跡」? 当時私がどのような期待を寄せられていたかは知らないし、実は気にもしていない。
[シージ] しかし今日、私はまたこの場所に立っている。そして、あの時と同じくやらなければならないことがある。
[シージ] 私はこの行いに何か大義名分をつけるつもりはない。ただ……人々の生活に平穏を取り戻すためのものに過ぎないのだ。
[アラデル] ハハ……なら、そろそろ目標に近付いてきたわよ。
[アラデル] みんな、そっちの塞がれてるレンガの壁をこじ開けてちょうだい。大きな音は立てないように、気付かれたらまずいわ。
[アラデル] ここから下に行く必要がある……
[シージ] わかった、私が……
暗闇の中を通り抜けると、背後で足音がした。
金色のたてがみ……
[アラデル] どうしたの、ヴィーナ?
[シージ] ……
[シージ] 何でもない。このまま進もう。
[トター] 追っ手はいないな。
[ヴィクトリア傭兵] 俺たちが下に向かって進むなんて、サルカズたちに予想つくわけないからな。
[ヴィクトリア傭兵] あいつらは上で賑やかにドンパチやってる真っ最中だろうよ。
[シージ] そして、その激しい戦闘の中で犠牲になるのは、我々の仲間かもしれない。
[シージ] アラデルがこの計画を提案した時、私には迷いがあった。
[シージ] 私は本来自救軍の戦士たち……それにロドスの皆と共に立つべきなんだ。
[アラデル] ドクターの計画も、私たちの行動を隠すためのものよね。
[アラデル] 地上の戦況がどうなろうと、私たちは「諸王の息」を手に入れなければならないわ。
[アラデル] あれはサルカズの計画を破壊し、さらには全ての状況を左右する鍵となるの。
[モーガン] その剣……物語の中でしか聞いたことないよ。
[アラデル] あれはかつてアスランの先祖たちが佩いていた剣だった。
[アラデル] 伝説では、その剣は草原の神がアスランのために鍛えたらしいわ。ある古代のパーディシャーは、その剣で怪物の王の首を切り落としたそうよ。
[アラデル] その後アスランはヴィクトリアへやってきて、王となり、この剣も王権の象徴となった。
[アラデル] 一部の書籍には、まだ移動都市がない時代、国王たちはこの剣を用いて天災を両断したという記載もある。
[アラデル] 数百年の間、ロンディニウムを滅ぼせた嵐は一つもない。
[アラデル] 「諸王の息」さえあれば、ロンディニウムはどのような強敵にでも打ち勝てると言われてるわ。たとえそれが強大な怪物だろうと、恐ろしい天災だろうとね。
[シージ] ……
[モーガン] あんたたち、本当に信じてるわけじゃないよね……
[ダグザ] 私は信じる。
[インドラ] お……俺はヴィーナを信じる。
[モーガン] ハンナちゃん、それは話が変わってるって。吾輩だってヴィーナのことは信じるよ。でもこんな子供だましのような伝説、ありえるわけ……
[アラデル] 実は、「天災を両断する」というのはアスランたちの王権神話を作り上げるためだけに使われた言葉じゃないの。本当にできるのよ。
[アラデル] 嵐を牽引できるザ・シャードが外界に向けられたヴィクトリアの矛だとすれば、天災を両断できる「諸王の息」こそ、ヴィクトリアの最も堅固な盾よ。
[アラデル] この矛は今や誰もが知るところよ。でもこの盾については、いまだ伝説にしか存在しない。
[アラデル] 仮に私たちがこの力を使いこなせれば、サルカズの野心は必ず阻止できる。
[シージ] アラデル、貴様は国剣に随分と詳しいんだな。
[アラデル] それは……カンバーランドの責務というだけよ。
[シージ] その剣を実際に見たことあるのか?
[アラデル] ……
[アラデル] あるわ。でも一回だけね。
[アラデル] あの時私が見た光景は、まるで夢の中みたいだった……
[ダグザ] それはどんな剣なんだ?
[アラデル] とても……とても美しかった。
[アラデル] あれには、人の心を激しく揺さぶる力があるの。あれを見れば、勝てないものなどないと、心の底から信じることになるでしょうね。
[モーガン] ほんとにそんなすごいの?
[インドラ] 伝説……伝説か。
[インドラ] もしかしてサルカズのこと言ってたりすんのか? その剣ならサルカズをスパスパ斬れるとかよ?
[モーガン] ……あんたの頭の中って、脳筋な話しか詰まってないの?
[モーガン] もしもヴィーナが、あの日吾輩たちを追ってきたブラッドブルードの大君とかいう奴の頭にハンマーを一発食らわせてやってたら、そのハンマーも二百年後には伝説になるでしょ~?
[アラデル] アハハ、かもね。
[アラデル] そうなったら、ハンマーを授けた神は……あなたたちロドスになるわね。
[ダグザ] ……クロージャさんはきっと大喜びするだろうな。
[モーガン] 「荒野の巨船! 王者の帰還!」ってね~!
[インドラ] それは伝説じゃなくて、本当のことだろうがよ!
[インドラ] 二十年後には、俺らの家前で走り回ってるガキどもが一番好きな物語は、きっと「偉大なる国王ヴィーナ、ロンディニウム人を率いてサルカズの王を追い出す」だな!
[モーガン] だったら吾輩はよーく考えとかないとね~。ヴィーナのその物語をどうやったらもっと……うーん……
[シージ] ……それは私の物語ではない。
[シージ] 勇敢で恐れ知らずのハンナ・「インドラ」・ジャクソン、英知に富んだケイト・モリガン、忠実で屈強なイザベル・モンタギュー。
[シージ] それと……高潔かつ実直な、アラデル・カンバーランド。
[シージ] 貴様ら全員の物語だ。
[アラデル] ……アハハ。
[シージ] 引き続き進むとしよう。
[シージ] でなければ、物語も進まない。
「諸王の息」。
シージは思う――自分はそれを見たことがあるはずだと。
おぼろげな断片や、はっきりと聞き取れない声。
[激高する声] 愛しき娘よ、来なさい、この剣を握るのだ。
[激高する声] これは、お前を呼んではいないか?
[激高する声] これを、感じるのだ。
[激高する声] この声を受け止め……
[激高する声] ヴィクトリアを感じるのだ。
宮殿が燃えている。
彼女は起き上がって、窓の外でどんな催し物が行われているか見ようと思っただけだった。国王の誕生日は、外はいつも賑やかだったからだ。
しかし、彼女が目にしたのは、火だけだった。大火が怒号を上げていた。大勢の制服を着た人が火に追われて逃げ回ったり、地面に倒れたりしている。
地面の揺れは止まらない。彼女はふと枕元に置いたままのガラスの羽獣が心配になった。それはもらったばかりのプレゼントであり、最近はその精巧な贈り物を抱きしめていないと眠れない。
[ヴィクトリア士官] アレクサンドリナ殿下!
[ヴィクトリア士官] 戻ってはなりませんぞ、そちらは危険です! 捕まらずに逃げてこられて本当によかった。奴らの目的は陛下のほかに、あなた様なのです……
[ヴィクトリア士官] 陛下……陛下は……
[ヴィクトリア士官] いえ、あなた様が知る必要はございません。
[ヴィクトリア士官] 陛下が我々に最後の命令を下されました。あなた様を連れてここを去れと。
[アラデル] ヴィーナ、どうしたの? 地下に来てから、時々うわの空よ。
[シージ] 思い出した……昔のことを。とっくに忘れたと思っていたことだ。
[アラデル] それって苦しい記憶、それとも楽しい記憶?
[シージ] ただの……声だ。
[ヴィクトリア士官] ……殿下、ここから先はお一人で進んでください。
[ヴィクトリア士官] あなた様はついこの間、この場所を訪れたことがございます。覚えていらっしゃいますか?
[ヴィクトリア士官] 奴らが追ってきました。
[ヴィクトリア士官] 何が起きようと、この通路に沿って逃げ延びねばなりません。
[ヴィクトリア士官] 絶対に振り返ってはなりませんぞ。
彼女は素直に前へ走った。
向かう先は真っ暗だった。しかし背後から追ってくる星のような柔らかい光の方が恐ろしかった。
彼女は走り続けた。始まりがどこで終わりがどこかも忘れ、泣き疲れて涙はもう出なかった。目の前の通路は、果てが見えないほど長かった。
いつの間にか、彼女の体の下からとても大きな黄金色のたてがみが現れた。
彼女はその温かい金色をぎゅっと握りしめ、自分も四つんばいの獣になったかのように感じた。
ようやく、迫り来る悪夢が怖くなくなった。失ったものにむせび泣かなくなった。暗闇の中を自由に駆けた。
幻はすべて消え、記憶が潮のように引いていく。
彼女は自分が長い通路に立っていることに気付いた。
通路の先には扉があった。その扉は生と死を隔てている。生から死であろうと、死から生であろうと、常にヴィクトリアの王のためだけに開かれる。
[シージ] ……着いた。
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