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暴風眺望_9-4_一触即発_戦闘前
引き続き調査をするために、通りへとやってきたバグパイプは、地元住民であるターラー人と駐屯軍の間に根深い対立があることに気付く。一方、ホルンは駐屯軍大佐と面会するチャンスを得たところだった。
風が金色の穂波揺らせば♪
林とパイプはリンリン、ランランと鳴る♪
土地の端っこに愛しい人がいて、空から炎の光が落ちた……♪
[バグパイプ] この歌の後半って、こんな歌詞だったんだ……
[バグパイプ] ……
[バグパイプ] すごく、もの悲しい感じがする。
[悲しげな女性] ダミアンも逝ってしまうなんて……どうして、まともな葬儀すらさせてもらえないの……
[怒っている男性] あの連中がダミアンを返すわけがないだろ。遺体を灰になるまで燃やしたら、その辺の土でも捨てるみたいに、都市の外へ適当に撒くに決まってる!
[悲しげな女性] う、ううっ……そんな……
[怒っている男性] 最初はラウリー、その次はクリス、今度はダミアンだ! なあ、グルニエ。ショーンが連れて行かれた時、連中は彼を鉱石病の感染者だとか言ってたが――
[悲しげな女性] や、やめて。それ以上言わないで、ローナン。ショーンは……あの人は、偶然病気になってしまっただけなのよ。
[悲しげな女性] あの人は、貧しいのに勤勉で、真面目な人だった。私とあの子が少しでも良い生活を送れるようにと、いつもそればかり考えてくれていたわ。
[怒っている男性] グルニエ、まだわからないのか?
[怒っている男性] あの連中からしてみれば、俺たちはネジみたいなもんだ。いくらでも替えがあって、錆びて使えなくなったら、迷わずゴミ箱に放り込むぐらいの価値しかない。
[怒っている男性] たとえ錆び付いてなくたって、この都市に合うネジじゃなかったら……俺たちは同じ運命を辿ることになる。
[怒っている男性] あの連中は、俺たちが鉱石病に感染するかどうかなんて気にしちゃいねぇ。知らん顔だ。
[怒っている男性] その証拠に、工場で毎月配布される予防薬だって、ほかの労働者たちには規定量渡してるのに、俺たちにはいつもその半分しか配られてない。ひどい時なんて三分の一だ。
[怒っている男性] それに、防護服だって……なあ、ショーンの防護服は随分な使い古しだったよな。五年……いや、七年は使ってただろ。あんた、何度夜なべしてあの服をこっそり直してやったんだ?
[怒っている男性] 法案にせよ規範にせよ、何もかも奴らだけが甘い汁を啜れるようにできてるんだよ。それに引き換え、俺たちの暮らしはどうだ?
[怒っている男性] 俺たちがありつけるのは、奴らが捨てたジャガイモと腐ったリンゴだけだ。農地の隅から隅まで、俺たちの汗水と苦労で出来てるってのにな!
[怒っている男性] 俺たちは工場で昼も夜もなく働いて、ただ命をすり減らすしかないんだ。そして働けなくなった頃には、連中のお望み通り、皆すっかり感染者さ!
[怒っている男性] そうなっちまえば、奴らが俺たちターラー人を全員都市から叩き出すにはいい口実になる――
[悲しげな女性] ……ローナン。お願いだから、もうやめてちょうだい。そんなふうに言ったところで何にもならないわ。
[悲しげな女性] 向こうにいるクライナたちを見て。皆、息子や兄を想って泣いているのよ。あなたたちの怒りのせいで、愛する人を失う苦しみを、あとどれだけの人にもたらすつもりなの?
[怒っている男性] いいや、違う。それはあの人殺しどもがもたらした苦しみだ。連中は時には病を、時には砲弾を用いて、俺たちの命を奪っていく。グルニエ、これ以上自分に嘘をつくのはやめろ。
[怒っている男性] (声を抑える)……今朝、オブライエン家とコナー家の兄弟たちが訪ねてきてくれてな。全員、俺たちに加わると決めたそうだ。
[怒っている男性] あんたら親子が苦労してるのは皆よく知ってる。今こそ、互いに助け合うべきときじゃないか?
[悲しげな女性] ……うちの子にも、私にも、どうかもう近付かないでちょうだい。これまでショーンがあなたたちに良くしていたことに免じて……
[怒っている男性] ――!
[怒っている男性] グルニエ、俺はもう行くよ。あそこにいる奴、見えるよな? あの制服を着た女だ。
[怒っている男性] 俺たちのルールは知ってるだろ? 俺はあんたを信じてる。だからあんたも、俺をもっと信じてくれ。もし、その気になったらシアーシャに伝えてくれればいいから。
[バグパイプ] こんにちは!
[バグパイプ] あ、行っちゃった。……おねーさん、こんにちは。
[悲しげな女性] ……
[バグパイプ] バリーさん……えーっと、ダミアン・バリーさんの家族のこと、知りませんか?
[悲しげな女性] ……いいえ。
[バグパイプ] あれ? さっきおめーさんたちの歌が聞こえたから、場所は合ってると思ったんだけど……
[悲しげな女性] わ……私は、あなたが何を探しているのかは存じませんけど……ダミアンのお母さんも妹も、何も知らないと思いますよ。
[バグパイプ] だったら、バリーさんと特に仲良しだった友達とか、倉庫で一緒に働いてた人とかはどうだべ?
[悲しげな女性] ……私たちは、何も知りません……本当に……
[悲しげな女性] ううっ……ど、どうか! どうか、私を捕まえないで……
[バグパイプ] おわ!? ご、ごめん……近付きすぎちゃったかな? 傷つけるつもりはないから、安心して。
[バグパイプ] 随分びくびくしてるけど、うちの顔、そんなに怖いかな?
[悲しげな女性] い、いえ、何でもありませんから……
[悲しげな女性] あの……もしお許しいただけるなら、もう家に帰りたいのですが……その、今朝の果物がまだたくさん残っていて、放っておくとすぐにダメになってしまいますから……
[バグパイプ] う、う~ん……
[ケリー大尉] ……
[バグパイプ] ……あれ? あの人……ケリー大尉だよね?
[ケリー大尉] ……クライナ、私はただ一目君に会いたいと思っただけなんだ。君とフィオナが無事でいるかを、確かめたいと思って……
[ケリー大尉] ああ、私のせいだ。けれど――
[ケリー大尉] ……ほかに、どうしようもなかったんだ。
[ケリー大尉] ……ッ、もちろん覚えている。何もかも覚えているとも。ダミアンは……あの子は、私の甥なのだから。
[ケリー大尉] 私もあの子の成長をこれまでずっと見てきたんだ。私がペニンシュラ郡からヒロック郡へと呼び戻された日なんて、あの子が……私の帽子に、シャムロックをつけてくれて……
[ケリー大尉] その頃、ダミアンはまだ幼い子供で……私、私は……
[ケリー大尉] ……すまない。こんなことを、君たちに話すべきじゃなかった。
[ケリー大尉] 君の言う通りだ。……私は何もできなかった。ここへ帰ってくる資格なんてない。
[ケリー大尉] ……ダミアンは、奴らと関わりを持ってしまった。けれど私には、あの子を思いとどまらせるだけの時間がなく……大佐の命令に逆らうことも、できなかった。
[ケリー大尉] それに私は、こうしなければならなかったんだ。すべてはヒロック郡のために。
[ケリー大尉] 私は君たちを、そしてこの都市を愛している。……だから、奴らが私たちの家を破滅させていくのを、何もせずに見ていることなんてできない。
[ケリー大尉] ……わかっているさ。クライナ、我が妹よ……君の赦しが欲しいわけじゃないんだ。
[ケリー大尉] ……じゃあ……私は、もう行くよ。君は……君とフィオナは、どうか達者で暮らしてくれ……
[ケリー大尉] 明日にでも、また時間を見つけて会いに来るから……
[ケリー大尉] いッ……な、なんだ……?
[ケリー大尉] お前、一体何の――
[クレイグ] ――
[ケリー大尉] ……なんだ……子供か。
[ケリー大尉] やれやれ……ケガはしてないかい? あんまり走り回るんじゃないぞ……この道は何十年も整備されてないんだから。
[クレイグ] うるさい、裏切り者!
[ケリー大尉] なっ――いきなり何を……
[クレイグ] あんたは裏切り者だっ!!
[ケリー大尉] ……ッ、私は……
[悲しげな女性] クレイグ! 何してるの!? 早く戻ってきなさい!
[悲しげな女性] あなた、そのボール……はぁ。どこに行くにもちっとも手放さないんだから。それで、クレイグ。またコナーさんちの兄弟のところへ行ってたの? きっと、ローナンから何か言われたのね?
[悲しげな女性] ……やだ、手が真っ黒じゃない。採掘場の砂に手を突っ込んでたみたい。
[悲しげな女性] 明日からは私と一緒に朝市に行きましょ。それと、しばらくはあの人たちに会っちゃダメよ。……あなたを、彼らみたいにはさせられないもの。
[ケリー大尉] 「裏切り者」、か……
[ケリー大尉] ……あの子の言う通りだな。
大尉は、暫くその場に立ち尽くし、同じ言葉を二度繰り返した。 そうして、ようやくきびすを返すと、去って行く。
彼はひどく項垂れて、誰とも目を合わせようとはしなかった。 その様子を見て慌てて駆け寄ってきた年若い同僚すらも、例外にはならなかった。
[バグパイプ] 待って、大尉……
[ヴィクトリア兵] おい、お前たち――ここで何をしている? さっさと家に帰れ!
[ヴィクトリア兵] 言ったはずだろう! 当面の間、街頭での集会を禁ずる、と!
[怒っている男性] ここは俺たちの家だぞ!? お前の方こそさっさと帰れ!
[ヴィクトリア兵] ――貴様、誰に向かって物を言っている?
[ヴィクトリア兵] なッ……!? 何だ、これは……腐った野菜……?
[ヴィクトリア兵] ふざけるな、今すぐ出てこい!
[ヴィクトリア兵] このターラーのクズどもが! 私の手で――
[バグパイプ] ちょっと! 道端でクロスボウなんて構えたら危ないでしょ!
[ヴィクトリア兵] ……誰だ、お前は。
[バグパイプ] あ、軍令を受けて、事件の調査に来た者だよ。
[ヴィクトリア兵] なるほど。バーで起きた殺人事件を調べに来たのか?
[バグパイプ] えっ……殺人事件?
[ヴィクトリア兵] 知らないのか? 我々の仲間たちが、そこのクズどもに何人も殺された事件だよ。
[バグパイプ] ……それって、ダミアン・バリーさんとも関係あるのかな?
[ヴィクトリア兵] ああ……聞いた話じゃ、奴は処刑されたらしいな。もしかして、あんたたちが捕まえてくれたのか? そりゃ有り難い、感謝するよ。
[バグパイプ] 捕まえた時は、事件のことなんて知らなかったけど……それじゃあの人、本当に亡霊部隊の人だったのかな? うーん……まあ、一旦置いとこ。
[ヴィクトリア兵] 私は奴が何者かなんざ知ったこっちゃないが、死んで当然だってのは確かだろう!
[ヴィクトリア兵] ――おい、貴様ら聞こえなかったのか? 私は「集まるな」と言ったんだ! ひそかに集会を行った場合、全員容疑者として逮捕するからな!
[ヴィクトリア兵] だっ……! この*ヴィクトリアスラング*――!
[バグパイプ] お、落ち着いて、おにーさん! あの人たちのほとんどは、ごく普通の市民なんだよ? 身内を亡くしたんだから、集まってそれを悼むくらいは当然のことでしょ。
[バグパイプ] わっ! なんか飛んでき――って、腐ったジャガイモでねえべか!
[ヴィクトリア兵] ハハッ、ほら見ろ。そうやって弁解してやったところで、この仕打ちだ。
[ヴィクトリア兵] あんたは好きなだけここにいるといいさ。私はクズどもが大人しくしてればそれでいいからな。……はぁ。こんな巡回を任されるなんて、私もツイてない。
[ヴィクトリア兵] ――おい、そこのゴミどもが! もう一度言っておくぞ。集会は禁止だ!!
[バグパイプ] ……うちは……
[バグパイプ] あいたっ! はぁ、ここにいたら腐った野菜が大集合してきちゃうべ……
[ジェニー] ――そこの人、こっちだよ!
[バグパイプ] んえ? あっ、待って!
「報告! 第九防衛隊が襲撃されました――」
「報告! 現在、第十三防衛隊が交戦中――」
[ホルン] ハミルトン大佐に会いたいの。もう一度取り次いでちょうだい。
[ヴィクトリア兵] できかねます。大佐は今、緊急対応に当たられていますので。
[ホルン] あなた、二時間前にも同じことを言ってたじゃない。
[ホルン] そもそも、私たちは昨日ヒロック郡に入った時点で、規定通りに任務内容の説明を提出しているのよ。
[ホルン] それなのに、大佐は私たちを容疑者の取り調べに参加させず、あまつさえ容疑者を早々に処刑した。その上今は私との面会を拒絶しているとなると――
[ホルン] 一連の行動は、こちらの軍令の遂行に対する故意の妨害ともとれるけど?
[ヴィクトリア兵] 私にはお答えできない問題です、中尉。
[ホルン] 別に構わないわよ。誰かが聞いてるならそれで十分。私は言いたいことを言ってるだけだから。
[ホルン] 既に伝えた通りだけど、本件で盗難にあった源石製品の量は少なくないわ。これだけあれば小さな街を攻め落とすにも、中型移動都市を支えるキャタピラーを爆破するにも十分でしょうね。
[ホルン] ――でも、一体誰がそんな物を欲しがってるのかしら?
[ホルン] 並の盗人ならリスクが高すぎる行為よ。大量のヴィクトリア軍需品なんて、クルビアの庇護下にあるサルゴン最大のブラックマーケットですら買い手がつかないかもしれないわ。
[ホルン] だったら、犯人は誰なのかしら? ――改造費で小金を稼いでるような、現地の民間武器商人? いいえ、彼らでは到底手に負えない代物だし、そもそも、そんな度胸があるわけないわ。
[ホルン] こんな物を手に入れて、私たちの捜査網をすり抜けることができるのは……軍事作戦を熟知している、よく訓練された部隊くらいのもの。
[ホルン] だとすれば……大量の源石製品を手に入れた目的は何?
[ホルン] 国家の転覆? あるいは、ロンディニウムから距離があるのをいいことに、管理を一任された物品を横流しして、外部勢力と結託し、私腹を肥やしたいのかしら?
[ヴィクトリア兵] なッ、中尉……!?
[ホルン] あら、急に慌ててどうしたの? こんなの、根拠もないただの推測でしょ。誰かさんに待たされてるお陰で、これくらいしかやることがないのよ。
[ヴィクトリア兵] ――ッ……(声を抑える)……すみません、ご報告が……
[ヴィクトリア兵] 中尉。間もなく、大佐が到着されるとのことです。
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