aklib_story_灯火序曲_手紙

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灯火序曲_手紙

プラマニクスの状況と兄妹関係を案ずるクリフハートは、クーリエを説得してカランドへ手紙を送ってもらうことに。その後イェラグから帰ってきたクーリエは、予想外の招待状を持ち帰ったのだった。


a.m. 06:50 天気/晴天

ロドス本艦 オペレーター宿舎

[クリフハート] おっはよー!

[クリフハート] あれ? 鍵かかってないや……じゃあお邪魔しちゃおうっと。

[クリフハート] クーリエお兄ちゃん! ヤーカおじさん! どこにいるのー?

[クリフハート] うーん、いないのかなー?

[クリフハート] ヤーカおじさんたちは、いつもこの時間に起きるはずなんだけどな……部屋にいないってことは、もう出かけちゃったのかな?

[クリフハート] 大変、探しに行かなきゃ!

[クーリエ] ん? エンシアお嬢様、どうしたんです? こんなに朝早くから……待ってください、廊下を走ってはいけません、危ないですよ!

[クリフハート] あっ! クーリエお兄ちゃんみーっけ!

[クリフハート] 大丈夫、平気だよ――ってうわぁ!

[クーリエ] おっと! ギリギリセーフ。

[クリフハート] ふぅ……危ない危ない! どうしてこんなところに荷物が置いてあるの?

[クリフハート] ありがとうね、クーリエお兄ちゃん。

[クーリエ] まったく言わんこっちゃない。転んでたらどうするんです?

[クリフハート] えへへっ、クーリエお兄ちゃんならきっとキャッチしてくれるってわかってたもん。

[クーリエ] はぁ……エンシアお嬢様、あなたはもうオペレーターなんですよ、いつまでもそんなにそそっかしいままでは困ります……

[マッターホルン] どうした、クーリエ、何事だ?

[クーリエ] ヤーカの兄貴。

[クリフハート] おはよー、ヤーカおじさん!

[マッターホルン] エンシアお嬢様でしたか、おはようございます。

[マッターホルン] ロドスでの生活にはもう慣れましたか? エンシアお嬢様がこんな朝早く起きてるなんて珍しいですね……任務の準備ですか?

[クーリエ] ここのベッドが合わないんじゃありませんか? エンシアお嬢様は睡眠環境へのこだわりがとても強いですから。

[クーリエ] 家のあのベッドは、まだお嬢様が幼い頃にヤーカの兄貴が選んであげたものですよね? それ以降、お嬢様は頑として変えようとせず……それにご自分のブランケットを抱いてないと眠れませんしね。

[マッターホルン] うーむ、たしかにな……

[クリフハート] ま、待って! 適当なこと言わないで、クーリエお兄ちゃん。あたしそんなに甘えん坊じゃないよ!

[クリフハート] 冒険家をバカにしないでよね。早寝早起きくらい、あたしだってできるもん! もし山頂で眠れなくて体力の回復ができなければ、優秀な登山家になんてなれないんだよ!

[クリフハート] どれだけ寒くても、どれだけ空気が薄い環境でも、あたしは眠れるんだから!

[マッターホルン] エンシアお嬢様……本当に大きくなられましたな。

[クリフハート] (小声)それに、ブランケットは持ってきてるから、大丈夫だよ。

[クーリエ] あっ、やっぱり持ってきてたんですね。

[クリフハート] 別にいいでしょ!

[クリフハート] もう! そんなことより――

[クリフハート] クーリエお兄ちゃんとヤーカおじさんの方こそ、こんな朝早くから荷物持って出かけるなんて……任務にでも行くの?

[クリフハート] うーん、この荷物の量からして、きっと遠出するんだよね……うちの方にも寄るの?

[マッターホルン] ええ、あと少ししたら出発するつもりです。届けなければいけない荷物がありまして。

[クーリエ] それとシルバーアッシュ様がご多忙なもので、手伝いの方も少々。

[クーリエ] エンシアお嬢様は、何かシルバーアッシュ様にお渡ししたいものはありますか? 僕たちが持って行きますよ。

[クリフハート] うーん、たしかにお兄ちゃんに渡したいものもあるんだけどね……でも今日はそれだけじゃないんだよ!

[クーリエ] それだけじゃない……とは?

[クリフハート] つまり、えっと。

[クリフハート] えっと、クーリエお兄ちゃん、ちょっとあたしと来て……!

[クリフハート] ヤーカおじさん、ちょっとだけクーリエお兄ちゃん借りるから! あとで食堂集合ってことで。それじゃ、お兄ちゃんやノーシスお兄ちゃんにもよろしく伝えといて!

[クーリエ] えっ? ちょっと、お嬢様! そんなに引っ張らないでください、服が伸びちゃいますって……!

[マッターホルン] ……

[マッターホルン] エンシアお嬢様……

[クリフハート] ふぅ……よし、ここまで来れば大丈夫だよね。

[クーリエ] わざわざヤーカの兄貴を避けるなんて、何か僕と二人だけで話したいことでもあるんですか……?

[クリフハート] ちょっとね……

[クリフハート] クーリエお兄ちゃん、今から話すこと、誰にも言わないでね?

[クーリエ] それは内容がどんなものかによります。もし何か危険性があれば、シルバーアッシュ様にお伝えすることだって有り得ますよ。

[クリフハート] えっ? どうしてよ! クーリエお兄ちゃんもヤーカおじさんも、何でそんなにお兄ちゃんにばっかり味方するの!?

[クーリエ] アハハハ、でもシルバーアッシュ様だっていつもエンシアお嬢様のことを考えておられますよ。

[クリフハート] フンッ……知らない。でもこれは危険なことじゃないから、絶対にお兄ちゃんには言わないで!

[クリフハート] あのね、クーリエお兄ちゃん……今回カランドに登る計画はある?

[クーリエ] 今のところ伺ってませんね。すべてはシルバーアッシュ様がお決めになりますから。ノーシスさんやデーゲンブレヒャーさんの方でも何か新しい計画があるかもしれませんし。

[クーリエ] 突然どうしました? ……またエンヤお嬢様に関することですか?

[クリフハート] うん。やっぱりクーリエお兄ちゃんはごまかせないね。

[クリフハート] 実はお姉ちゃんに手紙を書いたんだ。

[クリフハート] お兄ちゃんがあまりに厳しすぎるから、家にいた時はもちろん、ロドスに来る前でさえ、お姉ちゃんに会いに行くことはできなかったじゃない……

[クリフハート] ロドスに来てからはそもそもそんな機会なんてないし、もうずっとお姉ちゃんに会えてないんだよ!

[クーリエ] エンシアお嬢様……

[クリフハート] だから……クーリエお兄ちゃん、カランドにこの手紙を届けてくれないかな?

[クリフハート] お姉ちゃんが今どうしてるか、巫女は大変じゃないか聞きたいの。それとあたしのことは心配しないでって伝えたい……ただそれだけだから。他には何も変なこと書いてないから!

[クリフハート] お兄ちゃんは、あたしたち姉妹のことはどうだっていいんだよ。もうずっとお兄ちゃんとはまともに話せてないし。

[クリフハート] だからクーリエお兄ちゃん、お願い! あなたしか頼める人がいないの! ヤーカおじさんに頼んでも、きっともう少し待てってなだめるだけだろうし……

[クーリエ] ……申し訳ありません、エンシアお嬢様。

[クリフハート] ……

[クリフハート] やっぱり……ダメ?

[クーリエ] 何とかしてお力になりたいのですが、最近イェラグの情勢が非常に複雑でして……蔓珠院が我々と巫女の接触を禁じているんですよ。

[クリフハート] え?

[クーリエ] なので、お手紙を届けても、エンヤお嬢様が受け取れる確証がないんですよ。

[クリフハート] あ、あたしそんなこと聞いてないよ。お兄ちゃんはどうして教えてくれなかったんだろ……

[クーリエ] 多くを知ることが常に良いとは限りません。シルバーアッシュ様もエンシアお嬢様を思ってのことです。心配させたくないのですよ。ロドスに送り込んだことも含め、すべてはお嬢様を守るためです。

[クリフハート] ……お兄ちゃんはいつもそうなんだよ。

[クリフハート] あたしたちを守るためとか言って、何も教えようとしてくれない。その結果、お姉ちゃんは家を出てカランドへ行っちゃったんだ……

[クーリエ] エンヤお嬢様の件は、仕方のないことでした……

[クリフハート] ……

[クリフハート] ふぅ……わかったわかった! 諦めるよ!

[クーリエ] え?

[クリフハート] そう言われちゃったらしょうがない。手紙の話は無かったってことで……もう、そんな顔しないでよ、クーリエお兄ちゃん。

[クリフハート] あたしがわがまま言ったところでどうしようもない――でしょ?

[クーリエ] お嬢様……

[クリフハート] でも約束だよ。この話はお兄ちゃんに言わないで。知られたらまた耳にタコができるくらいうるさく言われちゃう……もうお兄ちゃんに怒られたくないんだよ。

[クーリエ] エンシアお嬢様にそう思われていると知ったら、シルバーアッシュ様はきっと心を痛めますよ。

[クリフハート] 有り得ないよ! お兄ちゃんはそんな暇はないんだから、フンッ。

[クリフハート] じゃあもう二人の邪魔はしないから。あたしはクロージャのところに行って、仕入れた商品が届いてるか聞いてくるよ……うーん、でもこの時間に行っても、追い出されちゃうかな?

[クーリエ] クロージャさんの生活サイクルだと、今はちょうど寝たところかもしれません。きっとノックしても反応ありませんよ。

[クリフハート] そうだね。それじゃあ、また後で行こうっと。

[クリフハート] あっ、そうだ! システィチーズとジャーキーいっぱい持って帰ってきてね。もうずっと食べてないんだよ。外では売ってないんだもん!

[クーリエ] ハハッ、安心してください。ヤーカの兄貴が作った長い買物リストがありますから。お嬢様が好きなものは漏らさず書かれてますよ。

[クリフハート] やった~! そんじゃ気をつけてね! ヤーカおじさんきっともう食堂で待ちくたびれてるよ、早く行ってあげて!

[クーリエ] ありがとうございます。すぐに戻ってきますから。

[クリフハート] いってらっしゃーい。

[クリフハート] (手を振る)

[クリフハート] ……

[クリフハート] ふぅ……やっぱりダメだったかぁ。わかっちゃいたけど、がっかりしちゃうよね。

[クリフハート] フンッ、お兄ちゃんのバカ! クーリエお兄ちゃんとヤーカおじさんにあたしを見張らせようとしても無駄だからね。あたしは絶対に諦めないんだから!

[クリフハート] 雪山に必要な登山道具、クロージャは仕入れてくれたかな……あーもう、待てないや。クロージャは一体いつになったら起きるのさ!

[クリフハート] お姉ちゃん……待っててね!

[医療オペレーター] 最後の負傷者の治療が終わりました。良かったです、皆さん大した怪我じゃなくて。

[医療オペレーター] 今回の任務も順調に終えられましたね! 帰りはこの森を抜けて、リターニアとヴィクトリアの境界から戻りましょうか……

[クリフハート] あっ、ごめん! あたしみんなとは一緒に行かないから。

[医療オペレーター] えっ? クリフハートさん、何かやることがあるんですか?

[クリフハート] うん。ちょっと用事があるんだよね。

[クリフハート] 心配いらないよ、ちょっと寄り道して個人的な用事を済ませるだけだから。あんまり遅くはならないよ!

[医療オペレーター] ですが……

[クリフハート] 安心して、ロドスに迷惑はかけないから。これはあたしの個人的なことなんだ……詳しいことは帰ってからあたしが直接ケルシー先生に説明するから!

[医療オペレーター] いえ、私が心配しているのはそこじゃないんですけど……

[医療オペレーター] はぁ……わかりました。クリフハートさん、くれぐれも気を付けてくださいね。

[クリフハート] 大丈夫だって!

[前衛オペレーター] ん? クーリエじゃないか!

[クーリエ] こんにちは。

[前衛オペレーター] おう。しばらくだな、今戻ったばかりか?

[クーリエ] はい。今回はちょっとやることが多くて、予定よりもだいぶ時間がかかってしまいました。

[前衛オペレーター] マッターホルンとクリフハートのお嬢ちゃんも一緒だったのか?

[クーリエ] ヤーカの兄貴は一緒でしたけど、お嬢様は違いますよ。

[クーリエ] (そういえば、戻ってからまだエンシアお嬢様の姿を見ていませんね……)

[前衛オペレーター] そうか? じゃあ多分、俺の勘違いだ。

[前衛オペレーター] ちょっと前にあのお嬢ちゃんが雪山用の登山装備で出て行ったのを見たからな。あの子もお前たちと一緒に帰ったのかと思っていた。

[クーリエ] 登山装備……しかも雪山用? それは……本当ですか?

[前衛オペレーター] 間違いない。実を言うと、俺も同じ趣味を持ってるからな。道具に関してはよくお嬢ちゃんと協力し合いながら買ってるんだ。セット割引も利用したりしてだいぶ節約できるんだぜ!

[前衛オペレーター] 俺の記憶が間違ってなけりゃ、お前の故郷は雪山が多いだろ?

[クーリエ] えっ? ええ、たしかに多いですが。

[クーリエ] (エンシアお嬢様、まさか……)

[クーリエ] (エンヤお嬢様に手紙を渡すために一人で雪山へ? ……たしかにエンシアお嬢様ならやりかねませんが……)

[クーリエ] (……でもまさか本当に?)

[前衛オペレーター] もし今度機会があれば、俺も休みを取ってお前たちの故郷に行ってみたいと思ってるんだ。まだ雪山には登ったことないんだよ。その時はお前ら地元の人間の世話になるぜ。

[クーリエ] (ダメです、やっぱり放ってはおけません!)

[クーリエ] (早く確認しに行かないと……もっと早くに気付くべきでしたね。エンシアお嬢様があんな簡単に諦めるはずはなかったのに!)

[クーリエ] (もし本当なら、何としても止めなければ!)

[クーリエ] すみません、お先に失礼します!

[前衛オペレーター] おい、待ってくれよ、なんで逃げるんだよ! そんなに俺に地元に来てほしくないってのか!?

[クーリエ] すみません! ちょっと緊急で確認しなければいけないことが――

[クーリエ] イェラグは皆さんを歓迎しますよ、機会があれば必ず案内します!

[クリフハート] この道を突き当たって……それから西へ……

[クリフハート] あっ! 見えた!

[クリフハート] あの白くてトゲトゲの……へぇ、イェラグの雪山を外から見るとこんな感じだったんだ。

[クリフハート] うーん、遠くから見ただけじゃ、この山がどれくらいの難易度か、わからないな……っていうよりむしろ可愛く見えてきちゃった。

[クリフハート] でも実際は、あんな切り立った山を登るのは結構難しいんだよね。自分で試してみたことがない人には、絶対わからないだろうけど。

[クリフハート] ……あたしたちシルバーアッシュ家と同じように――

[クリフハート] 外の人じゃ、きっとわからない……

[???] ううむ、困りましたね。まさか僕やヤーカの兄貴もエンシアお嬢様にとっては外の人なんですか?

[???] 事実だとしても、やはりちょっと傷つきますね。

[クリフハート] ――!

[クーリエ] ようやく追いつきましたよ。

[クリフハート] クーリエお兄ちゃん!?

[クーリエ] エンシアお嬢様がこの辺の地理に詳しくなくて幸いでした。それと時間をかけてとても慎重に進んでいたおかげです。でなければ追いつけませんでした。

[クリフハート] 待って! な、なんでクーリエお兄ちゃんがここにいるの!?

[クリフハート] だってあたし誰にも――うっ。

[クーリエ] 今さら口を押さえても遅いですよ。「だってあたし誰にも計画を教えてないのに」と、そう言いたいんですか?

[クリフハート] ううっ……

[クーリエ] 僕が手紙を届けてくれないとわかった後、あなたは雪山専用の登山道具を用意し、イェラグから最も近い場所の任務を受けた。

[クーリエ] 任務が終わった後、小隊メンバーを先にロドスに帰らせ、自分一人寄り道をして「個人的な用事」を済ませる……

[クーリエ] さすがはエンシアお嬢様、並々ならぬ行動力です。

[クリフハート] 結局捕まっちゃったけどね……

[クーリエ] これほど多くの手がかりがあるというのに、お嬢様の計画が読めなければ、バカとしか言いようがありませんよ。

[クリフハート] あーあ。

[クーリエ] エンシアお嬢様、無謀にもまたカランドを登る気ですか?

[クーリエ] いえ……一人で巫女の居所に何の計画もなく身一つで乗り込む気かと問うべきですね。

[クーリエ] エンヤお嬢様に手紙を渡すためなら、自らの危険も顧みないと? 蔓珠院でエンシアお嬢様に何かあったらどうします。そのことは考えましたか?

[クリフハート] ……バレちゃってるよね。小さい頃からこっそり抜け出して遊びにいくと、いっつもお兄ちゃんとクーリエお兄ちゃんに見つかるんだもん、隠し通せるとは思ってなかったけど。

[クリフハート] でも、全部承知の上だよ。大丈夫。

[クリフハート] 一度カランドに挑戦したからわかる……今度は成功するよ。

[クーリエ] 賛成できません、危険すぎます!

[クリフハート] でもあたしには、何もしないなんてできないよ!

[クリフハート] あたしには……あたしにはお兄ちゃんとお姉ちゃんの仲がどんどん悪くなるのを、見て見ぬ振りなんてできない!

[クーリエ] ……

[クリフハート] お姉ちゃんが家を出たあの日、あたしは部屋に隠れてた……あれがお姉ちゃんの意志じゃないのは知ってたし、お兄ちゃんならあたしたちを守ってくれると思ってた。

[クリフハート] でもお兄ちゃんは……あの人たちがお姉ちゃんを連れて行くのを止めなかった……お姉ちゃんも、きっと泣くだろうと思ってたのに、一滴だって涙をこぼさなかった。

[クリフハート] あたしは連れて行かれるお姉ちゃんの背中を見ながら、お姉ちゃんが泣いてくれたなら、泣けたならどれだけ良かったろうって思ってた。

[クーリエ] ……

[クーリエ] シルバーアッシュ様にも……お辛い部分はあるんですよ。

[クリフハート] わかってるよ。みんなあたしには何も言わないけど、あたしだってバカじゃないんだから……

[クリフハート] あたし知ってるよ。お兄ちゃんがヴィクトリアから帰ってきて、あの会社を立ち上げてから、クーリエお兄ちゃんとヤーカおじさんまで忙しくなり始めた。

[クリフハート] あたしはお兄ちゃんを責めるつもりなんてない……でもクーリエお兄ちゃん、イェラグの巫女を見たことある?

[クーリエ] エンヤお嬢様を……いや、「巫女」を、ですか?

[クリフハート] そう。あたしたちイェラグの巫女を。

[クリフハート] あたしは遠くから一度見たことがある。

[クリフハート] 本当は、お姉ちゃんを見られる機会ができて嬉しかった。でも……あの時見たのは氷で作ったようなカランドの巫女。彼女は遠くからこっちを見たけど、あたしなんて目に映ってないみたいだった。

[クリフハート] あのときあたしはわかったんだよ。お姉ちゃんはカランドで、きっと望まない生活を強いられてるんだって。

[クーリエ] ……現在のそれぞれの立場からでは、お互いの心境を理解するのは難しいかもしれません……ですが、エンヤお嬢様の心持ちも、当初とはもう随分と変わっておられるはずです。

[クーリエ] 巫女はイェラグにとって大変意味のある存在です。エンヤお嬢様の現状は、それほど酷くないかもしれません。聖教全体を、イェラグの信仰を掌握しているのですから――

[クリフハート] そうじゃない。そうじゃないんだよ。

[クリフハート] 巫女が高貴だとか栄誉だとか、他人は簡単にそう言えるよ。別にあたしたちの気持ちを理解してくれなんて言わない。でもね、あたしだけは違うの。違うものが見えてるの。

[クリフハート] ――だってあたしたちは家族なんだもん! このまま歩み寄りもしないで、すれ違って、それどころか敵視するようになっちゃったりしたら、一体どうすればいいの!?

[クリフハート] あたしは、何もしないでそんな日が来るのをただ待っていることなんてできない。気づかないうちに手遅れになってるのが怖いんだよ……だからあたしは動かなきゃいけないの。

[クリフハート] せめて、せめて自分で直接お姉ちゃんに確かめたいの。うまくやっていけてるかどうか……

[クーリエ] もし、答えがノーだったら?

[クリフハート] その時あたしはカランドに登って、どんな手段をとっても、無理やりにでもお姉ちゃんを連れ戻す!

[クーリエ] ……

[クリフハート] あたし本気だよ。本当にやるからね!

[クーリエ] ……プッ、ハハハッ。

[クーリエ] まったく……そう単純なことではないのですよ……

[クリフハート] もうっ、ひどすぎるよクーリエお兄ちゃん! どうしてこんな時に笑うの? あたしが真剣に決意を伝えてるのに……

[クーリエ] 人をさらう決意をですか?

[クリフハート] うっ……それは最悪の場合だよ。

[クーリエ] ではその最悪の場合が永遠に訪れないよう祈るしかありませんね。エンシアお嬢様が山に登って人をさらってくるだなんて……考えただけで頭が痛くなります。

[クーリエ] どうやら、僕が何と言おうと、お嬢様の考えは変わらないみたいですね……そうでしょう?

[クリフハート] そうだよ。

[クリフハート] 冗談じゃないよ。あたしはやると決めたら必ず実行するからね!

[クーリエ] この件をシルバーアッシュ様に伝えると言ってもですか――?

[クリフハート] お兄ちゃんが反対しようと、あたしを監禁しようと、あたしは絶対諦めない! 舐めないでよね、あたしを縛りつけておくのはそんな簡単じゃないんだから!

[クーリエ] はぁ……

[クーリエ] 仕方ありません。エンシアお嬢様はたしかに言い出したら聞かない性格ですから、僕には止めようがありません。シルバーアッシュ様でも無理でしょう。どうやら負けを認めるしかないみたいですね。

[クリフハート] !

[クリフハート] それってつまり……

[クーリエ] お手紙を貸してください。

[クーリエ] 今後、お嬢様がいつ無茶をやらかすかとハラハラして過ごすより、難しくても僕がどうにかする方がまだマシでしょう。

[クーリエ] はぁ、本当に無理難題を押し付けますね、エンシアお嬢様は。

[クリフハート] ありがとう、クーリエお兄ちゃん!!

[クリフハート] もしお兄ちゃんにバレて、罰を受けそうになったら、あたしが無理やりやらせたって言って!

[クーリエ] ハハッ、そう簡単にシルバーアッシュ様が納得されるのであれば、どれだけ楽なことか……

[クーリエ] (小声)でも……これも悪いことではないかもしれませんね。

[クリフハート] ん? 何か言った?

[クーリエ] いいえ。ただの独り言です。

[クーリエ] でも先に言っておきますよ。手伝うと約束はしましたが、一旦近くの修道院に手紙を届けた後、どうにかして裏で内密に山へ送れないか試してみるというだけですからね。

[クーリエ] あそこは蔓珠院の管理区域に最も近い場所です。さらに奥へ行くと……勝手に出入りできない区域になります。

[クーリエ] エンヤお嬢様が、確実にエンシアお嬢様の手紙を受け取れるかどうかは、保証できません。

[クリフハート] それでいいよ! クーリエお兄ちゃんが手伝ってくれるだけで十分だよ。やるだけやってみよう……もしこれでダメなら、また別の方法を考えるから!

[クーリエ] 山を登る方法はもう考えないでくださいね。

[クリフハート] えへへっ!

[クーリエ] (ハハッ……どうやら諦めるつもりは全くないみたいですね。)

[クーリエ] (シルバーアッシュ様も気苦労が絶えませんね……)

[クロージャ] おかわり!

[クリフハート] くっそー、もう食べられない……あたしの負けだよー。

[クロージャ] フフーン、これくらいちょろいもんだよ! 三日もお腹をすかせたエンジニアと大食い対決なんて無謀だね。お腹がすきすぎて、肉獣丸々一頭は飲み込めるよ!

[クリフハート] また工房に閉じこもってたの? 今回は何してたの?

[クリフハート] って待って、誰もご飯を届けてくれる人いなかったの? どうして三日も……あのロボットたちは?

[クロージャ] へへ~、うっかり扉のセキュリティレベルを最高にしちゃってさ、それにイヤホンもしてたから、ノックの音が完全に聞こえなかったんだよね。

[クロージャ] わざとじゃないんだよ! 今回レユニオンの奴らとのやり合いで機械がいっぱい壊れちゃってさ、修理がものすーっごく大変なんだよね……音楽でも聴いてないとやってられないんだよ。

[クリフハート] なるほど……今日アーミヤが引っ張り出してくれて助かったね。

[クロージャ] ほらほら、ご飯の時ごちゃごちゃ言うのは禁止!

[クロージャ] そういえば、また新しい登山道具を買うの? 半年前に取り寄せたあの雪山用の装備、あれから使ってるの見てないけど?

[クロージャ] あっ、もし品質に問題があるなら遠慮なく言ってね。あいつらを……じゃなかった、メーカーに問い合わせるから。

[クリフハート] ああ、あれか。いや、商品に別に問題はないよ。ひとまず使う必要がなくなっただけ。

[クロージャ] そうなんだ……

[クーリエ] もし本当に使っていたなら、むしろ僕は心配ですよ。

[クリフハート] この声は……クーリエお兄ちゃん!

[クーリエ] こんにちは、お二人さん。

[クロージャ] お、ハロー。その様子だと今任務から戻ってきたみたいだね。でもどうして一人なの?

[クーリエ] ほかの皆さんはドクターのところへ向かいましたので。

[クーリエ] 僕は、ちょっとエンシアお嬢様にお渡しするものがありまして。

[クリフハート] お姉――ゴホンッ、「彼女」からまた返事が来たの?

[クーリエ] その通りです。

[クリフハート] やったぁ! じゃあいつものところで話そう! クーリエお兄ちゃん……クーリエお兄ちゃん?

[クリフハート] 大丈夫? なんだか……顔色が悪いよ? ま、まさかお姉ちゃんに何かあったの!? それともお兄ちゃんが――

[クーリエ] いやいや、落ち着いてください、違いますよ。

[クリフハート] じゃあ一体どうしたっていうの!?

[クーリエ] ……

[クーリエ] 少し説明しづらいのですが……とにかく、エンシアお嬢様、ここにシルバーアッシュ様から預かったものがあります。これを、あなたから渡してもらいたいと。

[クリフハート] あたしから、渡す?

[クーリエ] はい。

[クーリエ] これは、ドクターへの招待状です――

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