aklib_story_潮汐の下_SV-4_海洋_戦闘前

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潮汐の下_SV-4_海洋_戦闘前

若き審問官から逃れたスカジは、別の年嵩の審問官に出会う。一戦を交え、血を流したスカジはその場から逃走する。しかし、海の怪物が彼女へと迫っていた。


[スカジ] ……

[審問官] 上官!

[大審問官] 下がれ。お前では相手にならない。

[審問官] ですが、私は……

[大審問官] 下がれ。

[審問官] は、はい!

スカジは灯りを手にした人影と相対して、十数メートルほどの距離を保つ。そして両者共に、互いを静かに観察していた。

[スカジ] あなた、彼女よりずっと強そうね。

[大審問官] 異邦人よ。サルヴィエントに足を踏み入れるべきではなかったな。

[スカジ] 言うのが遅いのよ。もう入っちゃったわ。

[大審問官] 法律に違反すれば、代償を支払うことになる。

[スカジ] 法律なんて、いちいち確かめていられないんだけど。

[大審問官] では、お前をここへ留まらせ、その身に叩き込むとしよう。

[スカジ] ……あなたとは戦いたくない。だけど……

[審問官] ふんっ。邪悪なエーギルめ、怖いのね! ま、それも当然だわ! 上官からは絶対に逃げられないもの。

[スカジ] どうしても戦わなければならないっていうなら――

[スカジ] (エーギル語)……あなたを倒すわ。

二つの影が動き、速度を増し――激突する。

[審問官] 速い……! 私を相手にした時より、ずっと!

[審問官] こんな速度で動かれたら、さっきの一撃があいつのスカートを貫くことすらなかったはず……一体どれほどの実力を秘めているの!?

大審問官の目と鼻の先で、スカジがひらりと身を躱す。

高く跳ねる鱗獣の如く、彼女は大きく飛び上がり、崩れた屋根へと降り立つ。すると大審問官が後を追い、ぴたりとついていった。

二つの影がぶつかり合い、離れ――もう一度ぶつかり合う。荒れ果てた街はその衝撃に耐えられず、崩れた家が次々と通りの瓦礫に成り果てていく。

[審問官] 師匠、それにあいつも……攻撃にしろ回避にしろ、みるみる速度を上げている……私にはもう捉えられそうにないわ。

[審問官] こんなにも……こんなにも、実力の差があるなんて……!

[審問官] いいえ、圧倒されてはダメ。あれはエーギルなのだから。そして私は……私は審問官なのよ! エーギルなんかに負けてはいられないわ。

[審問官] そういえばあのエーギル、ケースを武器にしていたわね……でも、あんなに硬いなんておかしいわ! 一体何でできてるのかしら?

[審問官] 何にせよ、師匠はまだハンドキャノンを抜いていない……あれをお使いになれば、一瞬であいつを仕留められるはず。まあ、そうなればこの通りもただでは済まないでしょうけど……

[審問官] それにしても……あれ、本当にエーギル? 絶対におかしいわ。あいつの姿、これまで見てきた怪物たちとは全然違うもの……

[審問官] 使っているのは、アーツ……? ダメ、上手く感じ取れない。私たちの灯りを以てしても、抑制できない力だなんて……

[審問官] ――あのエーギル、どれだけ秘密を抱えてるのよ……

通りを揺るがす鳴動が、少しずつ収まっていく。周囲を満たす粉塵と厚い煙のその中から、年配の審問官が歩み出て再び姿を現した。

[大審問官] ……

[審問官] 上官! やはり上官の勝利でしたか。まあ、あなたに敵う者などいるわけがないことはわかりきっていましたが……

[審問官] それで、あのエーギルはどこに?

[大審問官] 逃げられた。

[審問官] えっ? そんな……あなたから逃れるだなんて、一体どんな手を?

[大審問官] 彼女は傷を負っている。そう遠くへは逃げられん。

[審問官] では、私が彼女を追います――

[大審問官] お前では捕らえられない。

[審問官] で、ですが……! 決して、あんな奴に我が物顔で海岸を歩かせるわけにはいきません!

[審問官] 方角から見て、彼女は住民たちのもとへ向かったはずです。彼らに紛れて身を隠すつもりなのでしょう。住民の中には、彼女に手を貸している者がいるようです。一軒一軒しらみつぶしに捜索します。

[大審問官] ……それが正しいと信じるならば、行くがいい。

[審問官] はい――

[審問官] ……

[審問官] 上官。この都市に異常をもたらしたのは、彼女なのでしょうか?

[大審問官] すべてを見定めたいのなら、己の目で確かめろ。街へ向かわせたのはそのためだ……お前は何を見た?

[審問官] この都市の住民は異常です。誰も彼もが夢心地で、起きているのに意識がないかのようで。何かを得るために行動するわけでもなく、食事の様子も、ただ食べ物を口に運んでいるだけというか……

[審問官] その上、彼らは今まさに、海へと向かっているのです。なのに、彼らはそれを自殺とは思っていないようで……

[大審問官] 止めたのか?

[審問官] はい。明らかに間違っていますから。

[大審問官] 我々が最も注意を払うべきものは、結果だ。お前が是正することで正しい結果をもたらすことができると思うのなら、行動しろ。

[審問官] 正しい結果……

[大審問官] そうでないのなら、選び取るべきは何であるかを見定めろ。

[大審問官] 審問官――お前はその双眸、そしてその剣を以て、このイベリアに於ける最大の脅威に目を光らせなければならない。

[審問官] はい、上官!

[審問官] 最大の脅威……海から現れる、あの怪物たち。

[審問官] まさか、海へ向かう人々は、あの怪物と何か関係している……?

[審問官] そうね、きっとそうだわ……

[審問官] 師匠が仰っていたもの。異常とは、往々にして単一的な現象ではないものだ、と。この恐ろしく奇怪な現象の一つ一つに、きっと繋がりがあるはずよ。

[大審問官] 問題を解決したいのなら――まず、その所在を明らかにしろ。

[審問官] わ、わかりました! 問題の所在……

[審問官] ――それは、闇に隠れてこの陰謀を企てたエーギルにあります!

[審問官] 奴らは海岸に潜み、法の隙間に身を隠す。そして都市の血肉を腐敗させ、市民の精神を揺さぶり、我らがイベリアの筋骨を蝕もうとしているのです。

[審問官] 奴らの陰謀によって、都市が絶望の淵へと引きずり込まれる前に――

[審問官] なんとしても奴らを見つけ出し、排除しなくては!

[アニタ] 歌い手さん……歌い手さん? ねえ、いるんでしょう?

[スカジ] ……

[アニタ] ずっと探してたんですよ。ここならきっと、審問官にもわかりませんね。空き部屋がたっくさんありますから、夜は探すのが難しくなりますし。

[アニタ] ……私、ちゃんとわかってますから。歌い手さん、私たちから離れていたいって……私たちが住んでる場所からできるだけ遠くにいたいって思ってるんですよね。

[アニタ] ここを見つけるのだって、そう簡単じゃありませんし……ふぅ……ここって海岸のすぐ近くなんですね。

[アニタ] 聞こえているのは……波の音? こんなに大きいんですね……波だけじゃなくて、もう一つ聞こえているもの……あなたの息遣いも。

[アニタ] 歌い手さん、ここで何をしてるんですか? 息が乱れてる、っていうか……ちょっと変ですよ。

[スカジ] ――危険が迫ってるわ。あなたたちにね。

[アニタ] 急に何言って……えっ、歌い手さん、ケガしてるんですか?

[スカジ] 血が出てるの。早く行きなさい!

[審問官] そう簡単には逃がさないわよ。

[アニタ] 審問官!? も、もしかしてずっと私についてきてたの……? どうしよう、全然気付かなかった!

[審問官] こほん……一般人に気付かれるわけないでしょう? もちろん、あんたなんか尾行しなくても、ここを見つける方法くらいいくらでもあるけどね!

[スカジ] またあなたなの……

[審問官] あら、私が怖いのかしら?

[審問官] さっきのは、そうね……認めるわ。ちょっとだけ油断してたから、危うく逃げられるところだったってね。

[審問官] でも、もう油断なんてしない……エーギル、あんたを絶対に捕まえてやるんだから!

[アニタ] で、でも、歌い手さんはケガをしてて――

[審問官] うん? あんた、この私の邪魔するどころか、その危険なエーギルなんかを庇うつもり? そんなことしたら、そいつと同じ犯罪者になるのよ?

[アニタ] わ、私は……

[審問官] ふぅん、あんたは他の住民とは違うみたいね。少なくとも、あんたの目には恐れがある。

[審問官] 今のところ、あんたはまだ何の罪も犯してない。だからさっさと退きなさい! 私だってあんたには剣を向けたくないのよ。

[スカジ] タイミングが悪いわね――

[審問官] タイミング? 一体何の話よ。もしかして私をバカにしてるの? 私じゃあんたを捕まえられないとでも思ってるわけ?

[審問官] ふんっ……確かに私は上官ほど強くはない。でも、私だって準備は整えてきたんだから。

[審問官] 今度は全力で立ち向かってやるわ!

剣が鞘から抜かれる前に、スカジは審問官の腕を押さえ――自身の後ろへと引っ張った。

[審問官] ちょっ――どういうつもり?

[スカジ] 静かに。

[審問官] 放しなさい、このバカ女! 片腕さえ押さえたら剣を抜けないとでも思ってるの? 言っておくけどね、私にはまだこのハンドキャノンが――

[スカジ] 騒がないで。奴らに気付かれるから。

[審問官] ううっ……両手を押さえるなんて、卑怯だわ……

[アニタ] えっ……? あの、何か聞こえませんか?

[アニタ] ぬるぬるの何かが、地面を這ってるみたいな……それもたくさん……外から聞こえるみたいです。

[アニタ] これは……何なんでしょう? 人が立てるような音じゃありませんよね。だって、こんな音今まで聞いたことないですもん……

[スカジ] ……来てるわね。

[大審問官] ……数を増しているな。

[大審問官] 何が奴らを引き寄せる? 住民か、それとも彼女たちか?

[大審問官] 十匹――

[大審問官] いや、二十匹。

[大審問官] ――まだ増えるか。その上飽きずに進み続けるとは。引き寄せられるように上陸し、街に向かって押し寄せてくる……

[大審問官] ……あの方向は――

[大審問官] 教会か。

[司教] おや? 今日の彼らは随分と興奮しているようですね。

[グレイディーア] ……これは、そのように触れていいものなのかしら?

[司教] 言葉に気を付けてください。「これ」などと呼ばわることはなりません。彼らは既にこの海の一部……あなたよりもずっと純粋な海の子となったのですから。

[グレイディーア] ……

[司教] あぁ……海から神託が届きました。今宵もまた格別だ……もう暫くすれば、潮が満ちるそうですよ。

[司教] 彼らは匂いを嗅ぎつけたのでしょう。同胞が加わる時はいつも喜びに満ち溢れ、落ち着きのない様子でして。仲間を迎え入れるために水面へと顔を出し、上陸しようとさえするのですよ。

[司教] ですが、これはごく当然のことです。我々は皆、自らの兄弟姉妹を愛しているのですから。

[グレイディーア] 本気で彼らをご自分の兄弟だとお思いですの?

[司教] ではなぜ、あなたはそう思わないのですか? 私は必要とあらば、陸の人々のことさえも――いまだに二足歩行を強いられる可哀想な彼らのことさえも、喜んで兄弟と呼びますよ。

[司教] 最も汚らわしい雑種の血を引いてさえいなければ、いつの日かあなたにもこの機会が訪れることでしょうに。

[グレイディーア] あら。それは残念ですわ。

[司教] 美しく懐深き海よ。この手が触れることをお赦しください……

[司教] おや……これは面白い。今夜の彼らは格別に元気なようですね。新たな友人と古い友人が訪ねてくるからでしょうか。

[司教] 気にはなりませんか? 上で、一体何が起きているのか。

[男性住民C] ……うるさい。

[男性住民D] 本当にうるさい。眠れない。

[男性住民C] 布団に、頭を押し込もう。

[男性住民D] これで、聞こえない。

[男性住民C] これで、見えない。

[男性住民B] ……

[男性住民B] うぅ……腹減った……

[男性住民C] 腹、減った。

[男性住民D] 腹、減った。

[男性住民B] トタン……

[アニタ] きゃっ!

[審問官] う、わああ――

[スカジ] 来たわ。

[審問官] こ、これは何!? 何なのよ!? 黒い……花? ううん、鱗獣かも……ってか、なんで動いてるの? 吐き気がするわ、うえっ……

[審問官] 待って、まさか……いいえ、そんなはずない! ありえないわ!

[アニタ] ま、窓を叩いてます! もしかして……中に入ろうとしてるの!?

[審問官] い、入れてはダメ!

[審問官] 窓をちゃんと閉めて――

[アニタ] 閉めても意味ないですよ! この窓、壊れちゃってますから。見てください、そこら中ヒビだらけでしょ……

[審問官] なっ――は、入ってきた!

[審問官] うわっ、まだ動いてるじゃない! 床をうねうね這い回ってるし……ああ、こっちに近付いてくる!

[審問官] こいつら……こんなにしぶとくないはずなのに!

[アニタ] 数が多すぎます……それに外にも、たくさんいるみたい!

[審問官] ああもう、いくら斬っても切りがないわ!

[審問官] 私の灯りを……ううん、ダメ。こいつらに灯りは効かない。

[審問官] 弾は……残り一発ね。

[アニタ] し、審問官!?

[審問官] 動かないで! 私が連中を撃ったら、あんたたちはこの家から飛び出して、廃墟群の奥に向かって走りなさい。こんな割れ窓のある部屋より、向こうの方がまだ丈夫だもの。

[アニタ] でも、あなたの手……震えてますよ。

[審問官] な、なんてことないわよ! 聖なる経典が……私に力を与えてくれるから。

[審問官] だから、わ、私は、怖くなんかない!

[審問官] 私が部屋を出て、連中を殺すわ。きっと暫くは食い止められるはず……その隙に、あんたたちはさっさと逃げなさい。

[スカジ] ……

[スカジ] あなた、彼女を連れて部屋の奥に隠れてて。

[審問官] えっ? な、何言ってんのよ! 見てわからないの? すごい数なのよ! 私だってこんなにたくさんは相手できない! きっとすぐにもなだれ込んでくるわ。どこにいたって同じよ!

[スカジ] それと、窓からはできるだけ離れて。

[審問官] あんたって本当に人の話をこれっぽっちも聞いてないのね!

[スカジ] 私が出る。あいつらを引きつけるわ。

[審問官] はぁ!?

[アニタ] 歌い手さん、外へ出ちゃダメです……!

[アニタ] 確かにあなたはすごいです。これまでに見たどんな人よりも、ずっとすごい人です。でも、あなたはケガしてるんですよ! この変な生き物たちだって、あ、あまりにも多すぎますし!

[アニタ] だから、ね? 審問官も、出て行っちゃダメですよ……

[アニタ] 皆で隠れましょう? わ、私ここにキャビネットがあるの知ってるんです。扉もちゃんと閉まるんですよ。ほら、すぐうしろに……ここにあります。三人で詰めれば、きっと大丈夫ですから……

[スカジ] 私が出て行くしかないの。あなたたちを生かす方法は他にない。

[審問官] ねぇ、エーギル。ヒーローを気取るにしても、今じゃないでしょ。あんたの出番はここじゃないのよ!

[スカジ] いいえ。あなたの出番こそ、今じゃない。あなたには関係ないの。

[スカジ] だって――あれは私を探しに来たんだもの。

スカジが扉を開いた。

久しく嗅いでいなかった匂いが、潮風の吹く方角から漂い、脳へと染み渡っていく。陸のものでない奇妙な生き物が、寂れた通りいっぱいに溢れかえっていた。

それらは上下にうごめき、呼吸し、伸縮する。街をまるごと腐食させるかのように急速に広がり、数を増やしていく。かつては文明を宿した都市の亡骸が、その不吉な影に飲み込まれようとしていた。

[怪物A] ……

[怪物B] ……

[怪物C] !!!

スカジが、一歩踏み出す。

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