aklib_story_画中人_WR-1_目覚め_戦闘前

ページ名:aklib_story_画中人_WR-1_目覚め_戦闘前

このページでは、ストーリー上のネタバレを扱っています。

各ストーリー情報を検索で探せるように作成したページなので、理解した上でご利用ください。

著作権者からの削除要請があった場合、このページは速やかに削除されます。

画中人_WR-1_目覚め_戦闘前

講談師の物語を聞き終わると、ラヴァたちはいつの間にか不思議な町にいた。数々の異変により、彼女らは自分たちがすでに面倒に巻き込まれていることに気付いた。


――では前回の続きからです。その足の悪い書生は打ちのめされて帰郷し、それ以来、志も果たせず鬱々としていました。

「志とはなんだ?」

「絵を描くことです。」

「絵だって?」

書生が旧友を亡くし、意気消沈して筆を置き十余年、再び彼の心が動きました。そして書生は、全身全霊を尽くして悩み抜いた末、一生ものの力作を完成させようと腹を決めたのです。

「何を描く?」

「まだ誰も見たことのないものを。」

「如何にして描く?」

「まだ誰も思いついたことのない方法で。」

さて、面白いことになって参りました。皆さんもご存じでしょう、人間の想像力は自らの経験に囚われています。誰も知らない事物を描くとなると、他人を騙すのは簡単だが、自分を騙すのは難しい。

この大地のどこに、自分が見たこともないものを思いつく、そんな能力を持った人物がおりましょうか?

書生は、白紙を前にして十日あまり悩み抜き、その間にげっそりと痩せこけてしまいました。元々足を引きずっていたのに加え、その風貌も恐ろしいものになっていきました。

寒い冬が訪れて、書生の家の食糧はとうとう尽きてしまいました。しかし隣近所も彼の見た目を怖がり、誰も近づこうとしません。

ある日、書生は何度か意識の混濁を繰り返し、目覚めました。すると手足に力が入らない。ところが頭は非常にはっきりしていることに気づきます。

彼は悟ります。「もはやこれまで」と。そして辺りを見回します。赤貧を洗うがごとき家の中をぼんやり見ていると、周りに何もなく本当に天涯孤独になってしまったと感じるのであります。

そして次第に目が見えなくなり、耳も聞こえなくなりました。見えない目を瞬かせながら、彼は混沌に沈みます。絵の案も霧散し、筆も墨も紙も硯も、全部あっという間に煙と消えました。

しばらくして、彼は唐突に外の牡丹雪の数を知り、月の角度と雲の真理を知りました。彼は暗闇を手で探ると、足を滑らせます。しかしその先に地面はなく、地に落ちながら、空に飛んでゆきました。

何も見えず、何も聞こえない――そんな暗闇の中で、彼は突然狂喜しました。この外界から一切の干渉を受けない境地で、既存の物の模倣や冒涜ではない、真の創作を捜し当てたようでした。

書生は時を待ち、枯れ果てた肉体の感覚すら無くなったとき、ようやく思考を始めました――万物が存在せず、自身の意識のみが明瞭なその場所で、彼は短いながらも自身の精神の主となったのです。

書生の想像力は何にも囚われなくなり、存在していない事物を創造しました――彼の思考の辺境で、様々な奇怪な事物がそそり立ち、現実を覆い尽くしました。

その日の深夜、厠へ起きた老父は、隣のぼろ家から光が溢れ出すのを見ました。風変わりで色とりどりの光が、奇妙な音を上げている名状しがたい光景に、老父は意を決し、壁の隙間から覗き見ます。

しかし老父はわずかに中を見やったのみで、直視することはできませんでした。それから老父はそそくさと部屋へ戻りましたが、やはり気になって長い間、寝付けなかったそうであります。

翌朝、老父から話を聞いた近隣住民たちが、ぼろ家に訪れますと、書生はすでに死んでいました。遺体の前には、霜をかぶった白紙が広げられていましたが、そこには何も描かれていませんでした。

皆は思いました。書生は過去に囚われて、紙の前で狂死したのだ。またこんな噂もたちました。書生は随分前から奇病に罹っており、自身の術を制御できずに、このような奇行に及んだのだと。

唯一真相を覗き見た老父は、それを生涯他人に言いませんでした。ですが死の直前、自分の息子に「あの足の悪い、名すら忘れられた書生こそ、真の歴史的大家であった」と告げたそうでございます。

[町民] そりゃどうしてだ?

[講談師] それは書生があの晩、志を果たし、「誰も見たことのないもの」を描き切ったからです。

[町民] なんだか本の内容とは違う気がするんだが?

[講談師] 実際は、老父はそれを言う暇も無かったか、どう説明すればいいか分からないまま息を引き取ったのでしょう。

[講談師] だから巷の噂は、書生が順風満帆の人生を歩んでいるところから、失意の底に沈んだところまでしかないのです。

[講談師] 真相を知るものは、どこにもいないのかもしれません。

[町民] でもよ、見たことないモンを描くってのは、別に難しくないだろ。今から俺が家に戻ってよ、めちゃくちゃに筆を走らせてやりゃあ、あんたらが見たことない絵ができるぜ。

[講談師] はぁ……そういう事じゃあないんですよ。あなたが湖を見たことがなくても、雨上がりの水溜りは見たことがあるでしょう? 湖とは大きな水溜りです。つまり、あなたは湖を見たことがあるんです。

[講談師] この書生のすごいところは、まさにそこなんですよ。

[町民] じゃああんたの言うとおりだったとして、彼は何を描いたんだ?

[講談師] それは分かりません。

[町民] なぁ、いい加減そんなややこしい話は止めてくれ。面白くねえよ。いつ他の話をやってくれるんだ?

[子供] 私は、前回の『一つの影が天へ向かい、双つの剣が天を分かつ』の結末が聞きたいな!

[講談師] ええ、話しますとも。この世には語り尽くせないほど物語があり、私にはたった百年にも満たない寿命しかありません。もしもすべての物語を求めるなら、それは強欲というものです。

[講談師] あなたたちが望むのであれば、次は違う話を致しましょう。

[子供] やったぁ!

[講談師] いつも通り、私の話にお代はいりません。しかし皆様方のお茶代はいただきますよ。

[講談師] 本日はどうやらご新規さんたちがいるようです。御三方、私の講談はお楽しみ頂けましたでしょうか?

[ラヴァ] …………

[クルース] …………

[ウユウ] ……今のは実話ですか?

[講談師] とある書生が実は鉱石病に感染していて、志を果たせずに塞ぎ込んで死んでしまった。そういう物語ならば、間違いなく実際どこかで起きていたことでしょう。

[講談師] そういった話に尾ひれを付けて、より面白い話として広められたのでしょうね。

[ウユウ] なるほど、説得力のあるお言葉です!

[講談師] ありがとうございます。

[講談師] しかし、これらの奇譚の何割が真実なのかは私にも分かりません。ただ私はこの類いの話に興味がある、それだけなんです。

[講談師] 私は決して真っ当な講談師ではありませんが、この町で長い間、講談活動をしてきました。しかし私の「口から出まかせ」を聞きたがる人は、数えるほどです。

[講談師] ――ですが御三方にはお初にお目にかかります。なんとお呼びすればよろしいでしょうか?

[ラヴァ] ゴホン――(目配せ)

[ウユウ] ああ、そうだそうだ、ご紹介が遅れましたね。実はこちらのお二人は遠方から来た友人なんです。人捜しをしているんですよ。

[ウユウ] ですがお二方は炎国に詳しくないので、私が友人のよしみで道案内をしているんです。――ええと、こちらこそなんとお呼びすれば良いでしょうか?

[講談師] 私は家を出て長く、旧名はとっくに捨てました。若い頃は物書きをしており「煮傘居士(しゃさんこじ)」などと自称していました。今思えば赤面の至りですが、未だその名にしがみついております。

[ウユウ] なんともゆかしい! いやぁ偶然ですね。私も必要に迫られて故郷を離れ、すべてが烏有(うゆう)に帰した身。そのままウユウと名乗っておりまする。

[ラヴァ] (だから言ったろ? あいつの名前は偽名だって――!)

[クルース] (しーっ……)

[ラヴァ] (クルース? 何かに気付いたのか?)

[クルース] (ん~? いや別に何もぉ……ただあの人が毎回、無理矢理こじつけたがるのが面白いなあって思って~。)

[ラヴァ] (…………)

[講談師] では私たちは遠い異郷を流浪する者同士ですね。ちなみにお三方が探しているのは、どなたです?

[ウユウ] 曰く、「つまづく石も縁の端」……本当に偶然なのですが、私たちが探しているのも先の講談と同じく、画家なんですよ。

[講談師] 画家? この小さな町に、画家が住んでいるなどとは初耳です。どんな人なんでしょうか?

[ウユウ] それは……恩人様、あなたから話されては?

[ラヴァ] 女性です。あー、たぶん頭には変わった角が生えてて、奇妙なアーツを使う可能性もあって……それから、えーと……とにかく画家です。

[講談師] 情報はそれだけですか?

[ラヴァ] ……それだけです。

[講談師] そうですか……まるで思い当たりませんね。

[ウユウ] うーん、おかしいなぁ……もしかして恩人様方の探している方は、もうここを離れてしまったとか?

[講談師] この町にはほとんど客人など来ませんよ。もし皆様がおっしゃるように変わった方であれば、印象に残っているはずなんですが……町の人に頼んで聞き込みをしてもらいましょう。

[ウユウ] いやぁ、それは助かります。お忙しいところ大変お邪魔しました。では私たちはこれで――

[ウユウ] これで……あれ?

[講談師] ウユウさん?

[ラヴァ] おい、どうした?

[ウユウ] あ、えへへ。私たちは……どこから入ってきたんでしたっけ?

[ラヴァ] 何言ってるんだ。アタシたちは――

[講談師] ――この小道に沿って行けば、庭園から出られますよ。

[講談師] きっとここへ来る途中、人混みに紛れて迷ったのでしょう。はは、この庭園はそこそこの広さですし、もし道に迷ったなら、使用人に声をかけてみてください。

[ウユウ] へへ……いやぁお恥ずかしい。どうして覚えてないんでしょうね。

[講談師] もしその画家について、何か手がかりを見つけたり、手伝いが必要になったりしたときは、また私をお訪ねください。

[講談師] では私も用事がありますので、この辺で。

[ウユウ] ええ、どうもありがとうございました。恩人様方、とりあえず我々は失礼しましょうか。

[ラヴァ] おい待て――

[ウユウ] さて、次はどこを見に行きましょうか? 茶館、宿場、庭園は全て回りました。どこに行けば手がかりがありそうですかねぇ?

[ラヴァ] ……アタシたちがここに来てどのくらい経った?

[ウユウ] え、突然どうしたんです? 大体……二、三日ですかね?

[ラヴァ] 曖昧だな。

[ウユウ] あはは、昨晩よく眠れなかったのか、頭がぼんやりしてしまって。

[クルース] ラヴァちゃん。

[ラヴァ] ああ……この感じは……でもはっきりしない……まるで――

[クルース] こういうときはやっぱり直感で進むに限るよぉ。

[ラヴァ] でもアタシの直感は、面倒な状況だって告げてる。

[クルース] うーん、何かの精神系アーツかなぁ……?

[ラヴァ] ああ……これがアーツなら……

[ウユウ] 恩人様方、何をずっとブツブツ言っているんですか? 早く行かないと、日が暮れちゃいますよ。

[ラヴァ] 何を言ってるんだ。空はまだ――

[ラヴァ] …………?

[ラヴァ] ――空は……

[クルース] 私たち、なんで今まで空を見なかったのかなぁ? 顔を上げればすぐに気づいたはずなのに……おかしいなぁ。

[ウユウ] お、恩人様。これはどういう状況でしょう? あそこを見てください……月が出ていますよ!?

[ウユウ] ですが今は真っ昼間のはずですよね? なんで橋の方には灯りまで点いているんでしょう?

[ラヴァ] 後ろを見てみろ……

[ウユウ] えっ?

[ラヴァ] ……反対方向の地平線だ。あれは……太陽じゃないか?

[クルース] あ、そしたら、あっちの端からこっちの端まで一往復したら、一昼夜を「駆け抜け」られるのかなぁ?

[ラヴァ] 本当に……奇妙だな。ニェンから、この広大な炎国の地ではどんな珍しいことでもあり得るとは聞いていたが……こんな現象まで見られるなんて――

[ラヴァ] ん? 待て、ポケットの中に何かある……

[ラヴァ] これは、ニェンがくれた護符……?

[ラヴァ] いや……待て! おかしい、おかしいぞ!

[ラヴァ] 何が「こんな現象」だ。さっきアタシは何を考えていた……?

[クルース] あ……

[ラヴァ] ウユウ!

[ウユウ] え? はいはい、何でしょう?

[ラヴァ] ここは本当に泥翁町なのか!?

[ウユウ] そ……それはもちろ……ん……?

[ウユウ] よ、よく見てみたら何だか少し違うような……けれどこの付近には他の町はありませんよ!

[ラヴァ] ……やっぱりおかしい、何か変だ。

[ラヴァ] クルース……アタシたちはロドスを出て、まず勾呉に到着した。そこで物資を補給した後、翌日の午前中に街を出た――そうだな?

[クルース] うん。それから灰斉山に行く途中の荒原で、一台の車がスクラップになっててぇ――

[ウユウ] ――そして恩人様方が、あの畜生どもの手にかかろうとしていた私を救ってくださった……ですよね?

[クルース] 私はただ、あの子たちを新しくお家が作れそうな場所に連れてってあげただけだよぉ。あの子たちも一生懸命生きてるんだからぁ。

[ラヴァ] それから?

[ウユウ] それから私たちは……

[クルース] うんうん、それから灰斉山に登ってぇ……一軒の古ぼけたお家を見つけたのぉ。

[ラヴァ] そしてアタシがあの……

[ラヴァ] ……門を開けた?

[ラヴァ] 鐘の音? どこからだ?

[町民] 鐘? 鐘が鳴ったぞ! おい、早く家族みんなに知らせるんだ! 急げぇ!

[町民] どういうことだ! 長いこと鳴ってなかったってのに……どうして今日に限って!?

[ラヴァ] おいっ……! 何が起こったんだ!?

[町民] あ、あんたらは外の人間か? あの鐘の音はな、西の山から化け物が来る合図だ!

[町民] 化け物は光に近づけない。太陽の出てる場所にいれば助かる!

[ウユウ] ば、化け物? どんな化け物なんだい?

[町民] ああもう、あんたらと喋ってる暇はねぇよ! 邪魔しないでくれ、妻も連れてこなきゃならないんだ!

[子供] お母さん! お母さん!

[町民] 皆いるか? 来ていない者はいないか! 早く確認しろ!

[ウユウ] 恩人様、恩人様、私たちも早く避難しましょう!

[ウユウ] 太陽の出てるところに行けば安全だそうですよ! なら私たちも早く――恩人様?

[ラヴァ] ……クルース。

[クルース] 準備できたよぉ。

[ラヴァ] よし。

[ウユウ] ――恩人様!? 無茶は止めましょうよ。未だに状況がはっきりしないんですから、まずは身を隠して――

[ウユウ] え! ちょっと、どうして突っ込んで行くんです!? ああもう、恩人様方ときたら……待ってください、私も行きます!

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。

コメント

返信元返信をやめる

※ 悪質なユーザーの書き込みは制限します。

最新を表示する

NG表示方式

NGID一覧