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夕景に影ありて_かつて見つめたもの
国境都市ズウォネクを訪れたフレイムテイルとアッシュロックは、現地の感染者が扇動されていることに気付く。彼女たちに友好的に接してくれる唯一の感染者が無実の罪を着せられ、二人は偶然出会ったムリナールに助けを求めた。
ムリナール・ニアール殿へ
久方ぶりに筆を執った。大騎士領での生活は忙しいだろうから旧友と手紙のやり取りをする暇などないかもしれぬな。君の選択を尊重し、すべてが首尾よくいくよう願っている。
騎士団の逸話も増えた。もしまた一堂に会する機会があれば、君に直接話したいと思う。私の行いはまだ理想には程遠いが、後悔したことはない。
堅苦しい挨拶であまり紙幅を無駄にしたくない。この手紙を書いた理由を率直に述べる。
セリーナが捕縛され、大騎士領に送られた。
彼女は私が見てきた中でも最も忠誠心が篤く、気高い騎士であり、私の戦友、そして愛する人でもある。これ以上多くを語る必要はない。
君も覚えているはずだ。彼女の赤い髪と赤い信号弾を、どんな時でも周囲を和ませる笑い声を。
彼女は何度も我々のために死地から活路を見出してくれた。そんな彼女が私たちよりも先に亡くなるなど断じて受け入れられることではない。
騎士の栄誉にかけて誓う。セリーナは無実だ。きっと彼女の清廉な様が、悪辣な政治家や商人たちからは目障りだったのだろう。
彼女のような騎士が、政治やビジネスの餌食になるようなことは、絶対にあってはならぬ。
もし外敵に立ち向かうのであれば、それがウルサスの盾兵であろうとリターニアの術騎士であろうと、私は躊躇なく敵陣に突進する。たとえ鎧が砕け、槍が折れようとも構いはしない。
だが、相手が国民議会と商業連合会であるのなら、私にはどうすることもできぬ。
ムリナール、君の平穏な生活の邪魔をして心苦しく思う。だが私はもうあらゆる手を尽くしたのだ。今は君に助力を乞うしかない。
私が自ら提出することの適わぬこれらの証拠を、代わりに届けてはもらえないだろうか。彼女の潔白を証明するために。
なぜなら、君は私の友人であり、一人の「ニアール」だからだ。
ムリナール、私は私情によって君に助けを求めているのではない。
ただ一人の気高き騎士を救うため、もう一人の気高き騎士に頼んでいるだけなのだ。
君の旧友、シチボルより
手紙は開封され、また元通り封筒に戻されてあった。
それは他の多くの書類と一緒に、乱雑な棚にしまい込まれている。
[テレビの声] 次のニュースです。
[テレビの声] 先日発生した新市街地での感染者の暴動、及び移動都市入り口付近における感染者による傷害事件と警備員との衝突に関して、首謀者のゼノ・シェルヴィンが本日自首しました。
[テレビの声] 容疑者はゲイル工業が行う「感染者支援プログラム」で募集された労働者であり、生活への不満から暴動を計画したと供述しています……
[テレビの声] 新市街地において主要な建設業務を担うゲイル工業は、被害を受けた家屋の再建、及び住民に対するケアを早急に行うとしています。
[テレビの声] また同様の事件再発を防止するため、治安面の管理を強化するとのことです。
[テレビの声] 市民の皆様には、都市から出る際にくれぐれも安全対策をしっかりとるようお願いいたします。
[テレビの声] どうか冷静に……
[見物する通行人] 感染者に仕事を提供するとか言って、結局全部一般人にしわ寄せが来てんじゃねぇか。
[見物する通行人] ゲイル工業が仕事を与えなきゃ、こいつらはとっくに外の鉗獣に食われてたんだろ? 何が生活への不満だよ!?
[見物する通行人] 俺に言わせりゃそもそも奴らを都市に入れたことが間違いなんだ。感染者にマトモな奴なんざ一人もいねぇ。
[見物する通行人] 今いる奴らがさらに仲間も連れて来ようとするんだろ。見てみろよ最近の事件を! 奴ら警備員だろうとお構いなしで襲いかかるんだぜ!
[フレイムテイル] ニュースだと、自首したって言ってるわね……
[アッシュロック] ……彼が犯人であるはずがない。
[フレイムテイル] あたしも信じたくないわ、でも一体どうして……
二日前
11月27日 p.m. 2:00
ズウォネク新市街地区画 建設エリア
[フレイムテイル] この先は袋小路よ!
[アッシュロック] この扉……まだ多少は持つ……
[アッシュロック] だが人が多い、あまり長くは食い止められない……
[フレイムテイル] 未だに理解できないんだけど、あの人たちはどうしてあたしたちを攻撃するの? あたし何かいけないことを言ったかしら?
[アッシュロック] いや……お前が話すよりも前に攻撃が始まっていた。この人たちの行動は、むしろ無差別であるように見える……
[フレイムテイル] あたしの記憶が間違いじゃないとしたら、あたしたちが受けた任務は「カジミエーシュ国境の町で勢力拡大中の感染者組織への接触」であり、「現地感染者の暴動の鎮圧」じゃないはずだけど?
[アッシュロック] 恐らく時間が経って状況が変わったのだろう。
[フレイムテイル] これ、あたしたちの初めての正式な任務よね。ロドスが普段処理してる問題って、どれもこんなに大変なの?
[アッシュロック] 確かに競技場でただ敵を倒すことに比べれば、少し複雑だな……
[フレイムテイル] これからどうする? ……打つ手がなかったら、とりあえず力尽くで制圧しちゃう?
[アッシュロック] 「外勤任務中、突発的に感染者との衝突が発生した場合、まずは冷静さを保ち自身の安全を第一に考慮した上で、可能な限り穏当な……」
[フレイムテイル] 今は業務マニュアルを暗唱してる場合じゃないでしょ!
[???] 二人とも! こっちです、こっちへ来てください!
[親切な感染者] ……ここまで来れば大丈夫か。この道はまだ完成していないので、ほとんどの人は知らないんですよ。
[フレイムテイル] ふぅ……あ、ありがとう……
[アッシュロック] あの、なぜ私たちを……
[親切な感染者] あなたたちは灰毫騎士と焔尾騎士ですよね!
[フレイムテイル] え?
[アッシュロック] は?
[親切な感染者] 灰毫騎士! オレ、あなたの大ファンなんです! あなたの試合は全部見ました!
[親切な感染者] あっ、今持ってるそれ、錆銅騎士を倒した時のあの火砲ですよね!
[親切な感染者] あの試合覚えてますよ! 最後は「錆銅」イングラの命を奪わず、空に砲撃を一発放ったやつ!
[親切な感染者] マジでシビれました!!! テレビで見たのとおんなじ、いや、実物はもっと大きいですね。ちょ、ちょっと触ってもいいですか?
[フレイムテイル] わぁ、すごいねカイちゃん。大騎士領からこんなに遠く離れた場所にも、あなたの大ファンがいるなんて!
[親切な感染者] 焔尾騎士、あなたのことも大好きです!
[フレイムテイル] アハハ……そんな気を使わなくてもいいわ、別に嫉妬なんてしないから。
[アッシュロック] あの、あなたは……?
[親切な感染者] すいません、自己紹介がまだでしたね。興奮し過ぎちゃって……
[親切な感染者] オレはゼノと言います。ズウォネクに働きに来た感染者です。正確に言えば、労働者のリーダーみたいな感じですかね……
[フレイムテイル] ズウォネクでは感染者が組合を組織しているって聞いたんだけど、あなたもその一員なのかしら?
[ゼノ] 何て言えばいいんでしょうね……実はここの感染者はみんな、元々都市の外でしか生活できなかったんです。
[ゼノ] 少し前、ゲイル工業がここで新市街地区画の建設を始めるにあたって多くの人手が必要になったので、感染者を雇って都市で働かせるようになったんです。
[ゼノ] 最初はみんな、滅多にない仕事の機会を得られたと思ってました。
[ゼノ] でも次第に、不満の声が増えていったんです。オレたちと周りの一般人との待遇の差が大きすぎるって、みんな言ってます。
[ゼノ] オレたちは本来、一般人と比較できるような立場じゃありません。でも、血騎士が感染者騎士に活路を切り開いたように、やってみる価値はあると思うんです。
[ゼノ] だから、みんなが組合を作ってゲイル工業に抗議しようと言い出した時、オレはそれを支持したんです。
[ゼノ] でもその後は……事態は、あなた方がさっき見たような状況になってしまいました。
[フレイムテイル] つまり、暴動を──襲撃を行ってるのは、ゲイル工業に雇われた感染者たちってこと?
[ゼノ] いえ、もうオレたちだけじゃないです。どんな人たちが混ざっているのか、オレにもわからないんです……
[ゼノ] 彼らがどうやって、こんなにたくさんの……暴力的なやり方を思いついたのかもわかりません。
[アッシュロック] ……今のやり方じゃ何も解決しない。ただ、感染者を取り巻く状況を悪化させるだけだ。
[フレイムテイル] カイちゃん、これって、もしかして誰かが故意に扇動してるのかしら……?
[アッシュロック] ……
[ゼノ] まあ、でもそれもすぐに終わりますよ。お二人もこの数日間やり過ごせば大丈夫です。
[フレイムテイル] (……すぐに終わる?)
[ゼノ] ところで、お二人はどうしてズウォネクに? 旅行ですか? それともエキシビションマッチでもあるんですか?
[アッシュロック] 実は、私たちはもう競技騎士ではないんだ……
[フレイムテイル] あたしたち今は、鉱石病の治療を行う製薬会社に協力をしてるの。転職はしたけど、より多くの感染者を助けるっていう理想は変わってないわ!
[フレイムテイル] 今回来たのは、ここの感染者の生活状況を調査するためなの。
[フレイムテイル] ま、この状況はちょっとあたしたちの予想を超えてたけどね……
[アッシュロック] あなたが騎士競技のファンであるなら、私たちがやろうとしていることに失望してしまうかもな。
[ゼノ] まさか! あんな、金に物を言わせて装備を買うことしかできないお騎士様の八百長試合のどこが楽しいんですか?
[ゼノ] オレがレッドパイン騎士団が好きなのは、あなたたちが傲慢な貴族どもをぶっ飛ばして、感染者の鬱憤を晴らしてくれるからなんですよ!
[ゼノ] 奴らに感染者のすごさを思い知らせてやったんだったら、今更競技場に残って殺し合う必要なんてありません。
[ゼノ] あなたたちが今、他のことで感染者を助けてるなんて、むしろオレは嬉しくてたまらないです!
[ゼノ] 本当にそんな、感染者治療のために尽力する医療組織があるなら、オレは……本当に……あぁ! 言葉が見つからない!
[ゼノ] ところで、急なお願いで大変失礼だとは思いますが、滅多にない機会ですし……灰毫騎士、どうかサインしてもらえませんか!
[アッシュロック] も……勿論! ちょっと待ってくれ。えーと……すまない、手元に紙もペンもないんだ。
[アッシュロック] そうだ! 耀騎士のサインならあるぞ、これをプレゼントしよう。この方がもっと嬉しいんじゃないか?
[アッシュロック] 遠慮しなくていい、耀騎士とはまた会う機会があるから──
[ゼノ] お気持ちはありがたいんですけど、できれば、灰毫騎士のサインが欲しいです。
[アッシュロック] な……なぜだ?
[ゼノ] そりゃあ耀騎士は偉大な騎士ですよ。強くて、まっすぐで……
[ゼノ] でも、オレたちみたいな普通の感染者は、あなたのような騎士が競技場に立っている姿を見ると、もっと勇気が湧いてくるんです。
[アッシュロック] ソーナ、剣を貸してくれ。
[フレイムテイル] いいけど、何を──
[フレイムテイル] ──剣で兜に名前を刻んだの? さ、さすがカイちゃんね!
[アッシュロック] 不格好なサインだが、読めはするだろう……もしも嫌でなければ、受け取ってくれ。
[ゼノ] そんな──!
[ゼノ] (悲しい表情)
[ゼノ] ありがとうございます……ですがこの兜は、すごすぎて、とても受け取れません……
[ゼノ] 大丈夫です! 今日は本物の灰毫騎士と焔尾騎士に会えただけで、もう充分嬉しいですから。
[ゼノ] すみません、まだやるべきことがあって、行かなきゃいけないんです……一つだけお願いがあるんですけど、できれば今日オレに会ったことは誰にも言わないでもらえますか?
[フレイムテイル] 待って──
[ゼノ] もう行かないと。また会えることを祈ります!
[アッシュロック] 暴動の最中、彼は私たちと一緒にいたんだ。彼であるはずがない。だが……
[フレイムテイル] ゼノさんが、この暴動の首謀者なんじゃないかって恐れてるの?
[アッシュロック] あの大企業どもは常にメディアを握っている。人一人の声を葬ることなど、奴らにとっては朝飯前だ……不審な点が多すぎる。
[アッシュロック] だが、多くのことを経験した今となっては、感染者がどれだけ過激な事件を起こしたと聞いても、「信じ難い」とは言えない……
[アッシュロック] 私はただ、彼がそのような人ではないことを願うだけだ……
[フレイムテイル] うん……あたしの直感も言ってるわ。ゼノさんはそんなことをするような人じゃないと思うよ。
[フレイムテイル] そんなに気になるっていうなら、ロドスの業務マニュアルは一旦忘れて、あたしたちレッドパイン騎士団流のやり方で突き止めましょう!
[フレイムテイル] ちゃちゃっと終わらせれば、気付かれやしないわ。ドクターもきっと理解してくれるわよ!
[アッシュロック] ……で、どうやって調べるんだ?
[フレイムテイル] もし本当にゼノさんがこの暴動の首謀者なら、彼は今どんな扱いを受けてると思う?
[アッシュロック] この手の事件であれば、恐らくすでに大騎士領に送られ、国民議会によって処理されているだろう。
[フレイムテイル] じゃあ、もしゼノさんがまだ大騎士領に送られていなくて、別の場所に監禁されているとしたら、この事件には何か裏があるってことじゃない?
[アッシュロック] ズウォネクは大騎士領とは比べるまでもないほど小さいが、監禁された人間一人を探すとなると、少し難しいんじゃないか……?
[フレイムテイル] 大丈夫だって。これまでと同じ、まずは少しずつ探りましょう……以前トーランドさんが言ってた話が有効なら、バウンティハンターに情報を聞いてみるのもアリよね。
[フレイムテイル] それから──ん?
[アッシュロック] ソーナ?
[フレイムテイル] ……なんでもない。ただの錯覚ね。見覚えのある人が通ったような気がして。
[フレイムテイル] ──まずは行動を開始しましょう!
[テレビの声] カジミエーシュとリターニア──両国間の友好関係樹立を象徴する建築物、「騎士の声」がまもなく完成を迎え、落成式は十二月一日に行われる予定となります。
[テレビの声] それに際して、リターニア訪問団代表のディーロルフ伯爵が出席、スピーチを行う予定です。
[テレビの声] リターニア出身のスター騎士である「燭騎士」ヴィヴィアナ氏は、落成式当日に出席できないことについて、非常に残念であると述べました。
[テレビの声] しかし、ヴィヴィアナ氏はリモート参加という形で、両国の友好に祝福を送る予定です……
[ムリナール] ……
[華やかな服装の貴族] この像がお気に召したようですね?
[ムリナール] あなたは……?
[華やかな服装の貴族] 突然話しかけてしまい申し訳ありません。私はただの観光客です。この像の前にお一人でずっと立っていらっしゃるのを見て、思わず声を掛けてみたくなりまして。
[華やかな服装の貴族] 私も個人的にはこの芸術品を大変気に入っています。この作者は、リターニアのとある素晴らしい彫刻家なのですよ。
[華やかな服装の貴族] 盾を楽譜に変え、槍と剣そしてアーツユニットで音符を形作る──美しい寓意が絶妙なデザインによって表現されています。あなたはどう思われますか?
[ムリナール] 騎士の武器と鎧を単に装飾として消費するだけではなく、その上、仮初の平和を彩る楽器としても利用するなんて随分と効率的です。
[華やかな服装の貴族] 騎士の剣と盾は、このような穏やかで優美な楽章を奏でるべきものではないとお思いのようですね。
[ムリナール] 剣と盾は楽器ではない。奏でるなど論外でしょう。
[華やかな服装の貴族] ですが、平和と交流は、戦争と対立に比べると、ずっといいことに違いはないでしょう。そうとは思いませんか?
[ムリナール] 人々が、目の前の平和の価値とそのために支払った対価について、理解していることを願うばかりです。
[華やかな服装の貴族] 失礼を承知で再度お伺いしますが、あなたは以前軍人か何かで? いえ、カジミエーシュでは「征戦騎士」と呼ぶものでしょうか?
[ムリナール] ……なぜそのようなことをお尋ねになるのですか?
[華やかな服装の貴族] ……リターニア人はこの都市に対して特別な認識を持っています。
[華やかな服装の貴族] ズウォネク、「キャラバンのベルが鳴る終着点」、カジミエーシュ南部国境線上の要塞。
[華やかな服装の貴族] これだけ長きにわたる平和の中でも、この都市の片隅にはかつての歩哨所や砲塔の残骸が未だに隠れています。
[華やかな服装の貴族] そして当時……リターニアが大地に並ぶ者なしと自負し、版図拡大の野心が最も膨張していた時代でさえ、この軍事上の要衝を正面から越えようとしたことはありません。
[華やかな服装の貴族] あの時代の高塔術師の精鋭すら、この場所を大きく迂回して潜入せざるを得ず、遠征した者は一人として生きて戻らなかった。
[華やかな服装の貴族] もう三十年ほど前──いえ、それ以上昔の話です。ほとんどの方はこうした傷跡に触れようともしません。
[ムリナール] ……
[華やかな服装の貴族] ──ですから、あなたの考えにとても興味があります。
[ムリナール] 私の?
[ムリナール] ……もしここを訪れる観光客が皆、あなたのように慎み深ければ、ズウォネク政府はここの外観に対し、より多くの労力を注ぐ必要に迫られたでしょう。
[ムリナール] ですが、あなたは何か勘違いをしているようだ。
[ムリナール] 私もあなたと同様、ただの通りすがりの観光客に過ぎません。
[ムリナール] 私の考えを強いて言うなら……カジミエーシュに置くには、この像はいま少し愚かさが足りていないですね。
[ゼノ] 焔尾騎士? 灰毫騎士? どうしてあなたたちがここに?
[フレイムテイル] やっぱりあたしたちの予想は当たったわね!
[フレイムテイル] ゲイル工業が建設を担当してる市街地の中で、未完成のビルを私服姿の戦闘員数人が守ってるなんて、何か隠してるぞって知らせてるようなものよね?
[フレイムテイル] でもあれっぽっちの人数で、あたしたちを止めようなんて、無理な相談よ!
[ゼノ] ここは危険です……あなたたちが来た時に会った守衛は、多分ほんの一部にすぎません。
[ゼノ] 増援がすぐに来るはずです。早く逃げてください!
[フレイムテイル] あなたを連れ出すために来たのよ!
[フレイムテイル] ゲイル工業が何をしようとしてるかは知らないけど、もし本当に暴動の黒幕を捕まえたいなら、きちんと法的な手続きをとってもらわないと。
[フレイムテイル] 奴らが私刑するのを黙って見てられないわ。
[アッシュロック] あの暴動は、あなたが指示したものではないのだろう?
[ゼノ] ……
[ゼノ] 灰毫騎士、焔尾騎士。一度会っただけのオレみたいな奴のために、ここまでしてくれて本当に感謝します……
[ゼノ] でも、オレは行けません。
[アッシュロック] なぜだ!?
[フレイムテイル] シーッ……カイちゃん、足音がする。
[アッシュロック] ……いずれにせよ、まずはこの監禁状態から逃れなくては。ゼノ、ついてくるんだ。
[アッシュロック] 都市がどのようにして感染者を処分するのか、私たちはよく知っている。奴らに囚われたままではいけない。
[アッシュロック] これはただの始まりにすぎない可能性がある……
[ゼノ] 二人とも、あなたたちのことは本当に尊敬しています。感染者のためにしてくれたすべてのことにも、すごく感謝しています。
[ゼノ] でも……オレはあなたたちみたいに、誰もが注目する場所で感染者のために戦うような騎士には、一生なれません……すみません。
[ゼノ] オレの命じゃ、自分の家族の生活をちょっとでも良くするだけで精一杯なんです……
[アッシュロック] 一体何を言っている──
[フレイムテイル] カイちゃん、間に合わないわ!
[アッシュロック] ……また後で会おう、必ず。
[フレイムテイル] もう追ってきてない? ふぅ……ひとまずこれで安全よね。
[アッシュロック] すまない、さっきは少し感情的になってしまった。
[フレイムテイル] カイちゃんを責めるつもりは全くないの……まずは冷静になって、最初から状況を整理しましょ。
[フレイムテイル] ──誰!?
フレイムテイルの反応は素早かった。足音が聞こえた瞬間、彼女のレイピアが流星のごとく背後を突き刺したが、いくらも突き出せずに止まった。
その剣先はガントレットを装着した手によって固く握り締められ、剣を引き戻そうとしてもびくともしなかった。
影の中の人物がその手を緩めるまで。
[ムリナール] ……これが競技場の茶番が育て上げた「騎士」か?
[ムリナール] 状況判断もせず軽率に剣を繰り出すなど、命を捨てたいようだ。
[フレイムテイル] アハハ……前に広場近くで見た姿は、見間違いじゃなかったのね。
[フレイムテイル] あなたのことは知ってます。ニアール家の家長、そして耀騎士の叔父さんですよね?
[フレイムテイル] 大騎士領ではお話しする機会がありませんでしたが、後でロドスの方から聞きましたよ。あの時、あなたも感染者を守ってくれたそうですね。本当にありがとうございます!
[ムリナール] ……私は何もしていない。
[フレイムテイル] 耀騎士から、あなたの剣術の腕は彼女にも引けを取らないと聞いてますよ。でも、本当に怒った時しか手を出さないという話ですし、あたしたちがそれを拝見するチャンスはなさそうですね……
[ムリナール] ……「レッドパイン」。
[フレイムテイル] ……はい?
[ムリナール] なぜお前たちが建設中の新市街地にいる?
[フレイムテイル] ああ、あたしたちはロドスの依頼を受けて、ここの感染者を助けに来たんです。
[フレイムテイル] これも、レッドパイン騎士団結成当初の目的とあまり変わらないものですし。
[フレイムテイル] 初めはうまくいくと思ってたんです。
[フレイムテイル] ……でもここに来て初めて、事態はあたしたちが想像してたよりも複雑だということに気付いちゃって……
[フレイムテイル] ……とまぁ、そんな感じです。
[ムリナール] ……ゲイル工業?
[フレイムテイル] あなたもご存じですか?
[ムリナール] 多少付き合いはあるが、特に変わった点はない。
[フレイムテイル] アハハ、確かに感染者を虐待している点は、別に変わったことじゃありませんよね……
[フレイムテイル] そういえば、あなたの方こそどうしてここにいるんですか?
[ムリナール] ……この都市で一体何が起きているのかを見に来ただけだ。
[フレイムテイル] えっ、まさかあなたも感染者暴動の件で来たんですか? じゃあお手伝いをお願いしても構いませんか?
[ムリナール] そういう意味ではない……
[フレイムテイル] もちろん、あたしたちの計画はゲイル工業が雇っている警備隊と正面からやり合うことじゃありません。
[フレイムテイル] 目標はゼノさんの救出ですが、事態がここまで発展した以上、彼が逃げようとしない理由こそが、感染者暴動の問題を解決する鍵かもしれません。
[フレイムテイル] ……少なくともあたしはそう思っています! ここにいる感染者の中で、進んであたしたちとコミュニケーションを取ってくれたのは彼くらいですし。
[ムリナール] ……私が感染者を支持する立場にあるとは、一言も言っていない。
[アッシュロック] 感染者が関わっていようといまいと、これが罠であるということは明らかです。
[アッシュロック] もうこれ以上、誰かが政治やビジネスの犠牲になるようなことを許してはなりません!
[ムリナール] ……
ムリナールがふいに振り返り、後ろを見やった。
レッドパインの騎士も彼の視線の先を追うが、路地の奥には誰の姿も見当たらない。見えるのは遠くのビルの派手なドームや、夜景の中でロマンチックに明滅する赤いネオンだけ。
目の前のニアールは武器すら携えておらず、なぜここへ来たのかもわからない──だが必要とあらば、自分の剣を貸しても構わない。フレイムテイルはそう思う。
[ムリナール] 「犠牲」というものは絶えず生まれる……お前や私もすでにそうなのかもしれない。
[ムリナール] ……これから少し確認をしてくる。その後「レッドパイン」、お前たちにいくつか質問させてもらう。
[ゼノ] あなたたち……
[アッシュロック] 言っただろう、また会おうとな。
[ゼノ] すみません……いえ、ありがとうございます……
[フレイムテイル] お礼ならこちらのムリナールさんに言って。あなたへの告訴を取り下げるようゲイル工業を説得してくれたのは彼なのよ。
[ゼノ] ありがとうございます……あ、あなたはどこかの大実業家様か何かでしょうか? それとも貴族様でしょうか?
[ムリナール] ……ただの勤め人だ。
[ムリナール] 偶然、最近ゲイル工業の者に会うことがあってな、彼らのビジネスの方向性について、少しばかり耳にしていた。
[フレイムテイル] (ニアール家……そっち方面の人脈まで持ってるの?)
[ゼノ] でも、なんでこんなに良くしてくれるんですか。オレはただの感染者ですよ。ここまでしてもらうような価値なんて……
[フレイムテイル] 正義の前では、価値のあるなしは関係ないわ。
[フレイムテイル] 力の及ぶ限り、この大地すべての不公平に立ち向かう! それこそあたしたちレッドパイン騎士団の団訓よ!
[アッシュロック] いつそんな団訓ができたんだ?
[フレイムテイル] たった今よ!
[アッシュロック] ……そうか。まあソーナの言う通りだな。
[アッシュロック] ゼノ、あなたの命じゃ、自分の家族の生活をちょっとでも良くするだけで精一杯だと言っていたが、あれはどういう意味なんだ? それとその前に、あなたに会ったことを口止めしたのはなぜだ?
[アッシュロック] ゲイル工業に脅されているのか? 暴動の首謀者の罪を背負うように迫られたのではないか?
[ゼノ] それは言えません……
[フレイムテイル] 大丈夫。すでにムリナールさんがゲイル工業と交渉してくれたの。つまり彼らはもうあなたを困らせたりしないってこと。恐れる必要はないわ。
[ゼノ] ……そ、それなら、話します。
[ゼノ] ……ご想像の通り、感染者暴動事件によってゲイル工業は多方面から圧力を受けています。奴らは都合のいい生贄が、オレは家族のために奴らの提示する報酬が必要だったんです……
[ゼノ] この事件に関し、奴らが労働者たちを真面目に調査しようとしないのがなぜなのかは、オレも知りません……
[フレイムテイル] ……確かゲイル工業の子会社に、鉱石病防護の事業をやっているのがあったわね。
[フレイムテイル] ロドスに入ってから、改めてその会社の広告を見てみたんだけど、笑えないジョークみたいな内容だったわ。
[アッシュロック] 誰にその話を持ちかけられたんだ? そいつの顔は覚えているか?
[ゼノ] ……
[ゼノ] 実は、その話を持ちかけてきたのは、ある征戦騎士なんです……
[ムリナール] 何だと?
[ゼノ] えっと……
[ムリナール] ついてきてくれ。
[ゼノ] は、はい……どこへ行くんですか……?
[ムリナール] 身を隠せる場所だ。
[カジミエーシュ市民?] ……そうです。治安維持協力のため、ズウォネクに小隊を送り込む許可はすでに下りました。
[カジミエーシュ市民?] それと、彼は恐らく監視されていることにすでに気付いています。
[カジミエーシュ市民?] 彼が交渉した後ゲイル工業は自身の判断で感染者ゼノ・シェルヴィンを解放しました。
[カジミエーシュ市民?] ゲイル工業に確認しましたが、現在の世論の圧力には対処可能であると言っていました。次は都市に密航してきた感染者の方へと、大衆の視線を逸らすとのことです。
[電話の向こうの声] 構わん。この件については彼らの好きにさせればいい。我々の目的はそもそも別のところにある。
[電話の向こうの声] あのニアールのことだが……
[電話の向こうの声] ……君が未だ正義を信じ、悪に立ち向かうことを厭わないのなら、あの時はなんだったんだ?
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