aklib_story_シラクザーノ_IS-9_偽りの文明_戦闘前

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シラクザーノ_IS-9_偽りの文明_戦闘前

テキサスはついに、眼前のすべてに怒りを感じた。他方で、父の最終目的を理解したレオントゥッツォは、自らの道を選ぶ。


レオントゥッツォはその日のことを覚えていない。

当時の彼はまだ幼すぎたのだ。

それゆえに、確かなことは二つだけ。

その日は、母の命日ではないということ。

それと、父が気落ちした様子を見せたのは、後にも先にもその日だけだということだ。

降りしきる雨の中、通りを歩いていた彼は、父が傘も差さずに教会のそばに座っているのを見た。

そして、父を傘に入れてあげようと駆け寄る途中で、転んでしまったのだ。

父は彼を抱きかかえてくれた。その日の雨は普段よりも強く、その表情ははっきりとは見えなかったが、父が動揺していることは痛烈に伝わってきた。

彼は今でも覚えている。あの時、父がこんな問いかけをしたことを――

「シラクーザには、ファミリーなど存在しないほうがいいのか?」

[ディミトリ] ――レオン……レオン!

[ディミトリ] 目を覚ませ!

[レオントゥッツォ] ッ――

[レオントゥッツォ] ディーマ……

[ディミトリ] なんだってこんなところで倒れてる? ドンはどうした? 誰かに襲撃されたのか?

[レオントゥッツォ] これは……親父が……

[レオントゥッツォ] っそうだ、親父は!?

[ディミトリ] 誰にも行方がわからなくてな……しかも、そんな時に限ってさっきの演説だ。ルビオの奴が、俺たちとサルッツォの同盟について暴露しやがったんだよ。

[ディミトリ] その上俺たちが手を組んで新都市を奪い、ミズ・シチリアを相手取ろうとしているなんてデタラメまで……今、ほかのファミリーの視線は皆俺たちに注がれてる。

「シラクーザには、ファミリーなど存在しないほうがいいのか?」

[レオントゥッツォ] それは……デタラメでもないんじゃないか?

[ディミトリ] レオン……?

[レオントゥッツォ] 親父がやろうとしていることが見えてきた。

[快活なエンジニア] このルビオって人、まさかこんな真似するなんて……

[冷静なエンジニア] ……よっぽどのバカみたいね。

[快活なエンジニア] 何だよその言い方、この人はどう見ても立派な人だろ!

[冷静なエンジニア] この人がこんなこと言っても何の意味もないと思っただけよ。

[冷静なエンジニア] 苦労してようやくあの地位に就いたのに、良い話をちょっとしただけで死んじゃうなんて……

[冷静なエンジニア] そんな人生、もったいなすぎるじゃない。

[快活なエンジニア] ……泣いてるのか?

[冷静なエンジニア] 泣いてなんかないわよ。

[快活なエンジニア] ……ティッシュ、いるか?

[冷静なエンジニア] ……ありがと。

[快活なエンジニア] ……あんた誰だ? ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ。

[ベルナルド] 私はベッローネのドンだ。ベルナルドと呼んでくれたまえ。

[快活なエンジニア] えっ!? ベッローネの……!?

[冷静なエンジニア] ……十二家のドンがなぜこちらに?

[ベルナルド] 私の記憶が正しければ、ここはまもなく分離され、新移動都市の中心を担うことになる、第二中枢区画の司令塔だな?

[冷静なエンジニア] ……だとしたら何です?

[ベルナルド] 君たちにお願いしたいことがある。

[快活なエンジニア] あんた……じゃない、あなたの目的は何ですか?

[ベルナルド] 第二中枢区画の分離を開始することだ。

[ディミトリ] ……ありえない……

[レオントゥッツォ] だが、これならすべての説明がつく。

[レオントゥッツォ] 親父がお前に話していた、すべてのファミリーを争い合わせることでミズ・シチリアを引きずり下ろすという計画は単なる隠れ蓑だ。

[レオントゥッツォ] 親父は初めから、ベッローネまでもを駆け引きの材料と見なしていた……

[レオントゥッツォ] 今起きているすべては、親父の計算通りのことなんだ。

[レオントゥッツォ] すべては、ファミリーの存在しないシラクーザを実現させるため……

[ディミトリ] この国で一番強大なファミリーのドンが、すべてのファミリーを滅ぼそうとしてるなんて……どう信じろって言うんだよ……

[レオントゥッツォ] 今はただ信じるしかないんだ、ディーマ。

[レオントゥッツォ] さっき、ほかのファミリーの視線が注がれていると言ったな?

[ディミトリ] ああ。ルビオの言葉を信じたとしても、すぐに軽率な行動に出るような連中はそう多くないだろうが……

[ディミトリ] それも恐らく時間の問題だ。

[レオントゥッツォ] 賽は投げられた、というわけか。

「シラクーザには、ファミリーなど存在しないほうがいいのか?」

親父はそれをずっと考えてきたんだろう。

だから、ディーマを使って俺を試すような真似をしたのか。

しかし――俺にどうしてほしいんだ?

俺に一体何ができる?

[ディミトリ] レオン。

[レオントゥッツォ] ん?

[ディミトリ] ……お前、自分のやり方で大局を見て行動するって言ってたよな?

[レオントゥッツォ] ああ。

[ディミトリ] だったら、今こそしっかりしろよ。

[ディミトリ] 何にせよ、ここが正念場なんだ。ドンが不在である以上、リーダーはお前なんだからな。

[ディミトリ] すぐに行動を始めないと。

[レオントゥッツォ] ……わかっている。

[レオントゥッツォ] ……サルッツォを訪ねて、アルベルトに会いたいと伝えてくれ。

[レオントゥッツォ] それから、ロッサティのウォラックの所にも。

[ディミトリ] ってことは……なるほど、了解。

[レオントゥッツォ] ……

俺自身の望みは何だろうか?

[ベルナルド] カラチの話を出して共感を呼ぶことで、彼に代わって復讐するために自らを滅ぼしてでも行動したのだと人々には思わせて……

[ベルナルド] 最後の最後に、ようやく自らの本心を少しだけ明かした、か。

[ベルナルド] ここまで耐え忍ぶとはな。敬服したよ、ルビオ。

[ベルナルド] だが、残念ながら、君とカラチが同種の人間だということはとっくに知っていた。

[ベルナルド] 君たちはいずれも、この国がファミリーに支配されているのをよしとしていなかった。

[ベルナルド] ただ、カラチは我が身を投じて表舞台に立ち、一方で君は自らをうまく取り繕っていたにすぎない。

[ベルナルド] 何しろ、三十年前の粛清を主導したのは私なのだから、カラチのことも、そして当然君のことも記憶しているさ。

[ベルナルド] 君が今行動を起こすというのは確かに意外だったが、お陰でそれを利用することもできる。

[ベルナルド] さて、諸君。分離システムの起動はいつ終わるのかな。

[冷静なエンジニア] もうすぐです。

[ベルナルド] 時間稼ぎや小細工をしても意味がないことはご理解いただきたい。

[冷静なエンジニア] ……同僚全員の命があなたの手中にある以上、あなたに嘘はつきません。

[冷静なエンジニア] あなた方のような大きなファミリーの対立には興味ありませんし、ただ約束さえ守っていただければ十分です。

[ベルナルド] 君は口ではそう言っているが、その眼差しと鼓動は、私と共に死ぬ覚悟を物語っているぞ。

[冷静なエンジニア] ……!

[ベルナルド] そう緊張せずともいい。君に一つ聞きたいことがあってね。

[ベルナルド] ファミリーの存在しないシラクーザを想像したことはあるか?

ダンブラウンは茫然として、目の前の光景を見ていた。

これまで多くの人を殺し、多くの死体を見てきた彼は――

血生臭さにはとうの昔に慣れきっていた。

けれど今回は、何かが違うように思えたのだ。

[サルッツォの構成員] おい、そんなとこで何やってんだ?

[サルッツォの構成員] ドンがベッローネとロッサティの頭に会うって言ってんだぞ、お前もさっさと仕事しろ!

[ダンブラウン] ……ドンが、何だって?

[サルッツォの構成員] ダンブラウン、お前耳大丈夫か?

[サルッツォの構成員] ベッローネの奴とまた会うから、準備しておくんだよ。

[ダンブラウン] 準備って、何の?

[サルッツォの構成員] 考えなくてもわかるだろ?

[サルッツォの構成員] ドンは本気でベッローネとの協力を考えた。だがさっきの放送を聞けば、奴らが俺たちを道連れにしようとしてるのは明らかだ。

[サルッツォの構成員] そんなこと、ドンが許すはずねえだろ。

[サルッツォの構成員] 先に仁義に背いたのはベッローネなんだし、こっちも不義理を責められる筋合いはねえ。

[サルッツォの構成員] ドンのお考えは明らかだ。会議で指示が下ったら、ベッローネファミリーは今日、シラクーザから消える。

[ダンブラウン] ……

[ルビオ] 彼らが皆、暴力と闘争ではなく、金と権力を追求するのはなぜだと思いますか?

[ルビオ] よもや、今日ここで私を殺すことは、単なる衝動的な暴力の発露だとでも言いたいのですか?

[ルビオ] あなたが私を殺しに来たのは――その背後にいる人物が権力を握るために、私が邪魔だからではないですか?

ダンブラウンはふと、自分が夜眠れない理由を理解した。

テキサスは自分の迷いを理解していた。

彼女は考えるのが好きではない。これは、それでも考えねばならない状況に遭遇した場合、事前に熟考を重ねておく人だという意味でもある。

このシラクーザへの旅のことを、彼女は早くから予期していた。

武器を取らねばならないことを知っていたのだ。

しかし彼女は、自分が龍門でしていることは、過去にクルビアとシラクーザでやっていたことと本質的には変わらないと思っていた。

龍門で暮らす自分を善人だとは思わないし、シラクーザとクルビアで暮らしていた頃の自分を悪人だとも思わない。

結局彼女は、生と死を運んでいるにすぎないのだ。

いつか、シラクーザという国に向き合わねばならないことはわかっていた。

だが、彼女はすでに決意を固めている。

かつて祖父にあの問いを投げかけた時のように。

「シラクーザ人がいわゆる道義を重んじようと、不義を働こうと、それが普通の人間の暮らしを犠牲に成り立っていることに変わりはないだろう?」

彼女は、ジョヴァンナのような旧友に会うことさえ予想していた。

そう――予想していたのだ。

お陰で眠れない夜を過ごしたこともあった。

テキサスが唯一想像もしていなかったのは――この地で、この国を変えようとしている人間に出会うことだった。

レオントゥッツォ――マフィアの跡継ぎでありながら、現代的な思考を持つ青年。彼の考えは未熟かもしれないが、決して粗暴なものではない。

ラヴィニア――ミズ・シチリアの意志の体現たる傀儡の身でありながら、それでも平等な法を確立したいと考えている裁判官。

カラチ――面識はなかったものの、その人となりが各所から見て取れた前建設部長。

そして――

彼女はかつて、このすべてに終わりはないのだと思っていた。自分ではシラクーザを変えることなどできないし、この土地の何もかもが深く根付いてしまっていると思い込んでいたのだ。

だからこそ、逃げることを選んだ。

けれども、今回の帰郷には、この土地を良くしたいと願う人々との出会いがあった。そして、そうした人々は次々と傷ついていったのだ。

それなのに、また逃げるのか?

[マフィア] 見つけたぞ、チェリーニアだ!

彼女の迷いは、龍門に戻りたいという願望が現実に存在することからくるものだ。

しかし同時に、人々の置かれた境遇への怒りが芽生えたこともまた真実だった。

そして今――この土地を変えたいと願う善人が、ただ声を上げるためだけに、自害を余儀なくされたのだ。

テキサスは気付いた。

これまで生きていて感じたこともないような怒りが湧き上がってくることに。

[エクシア] ちょっと、どうしてこんなに増えてきちゃったの?

[エクシア] 何人か中に入られちゃったし……

[エクシア] これでも相当頑張ってるから悪く思わないでよ、テキサス!

[テキサス] 思わないさ。

[エクシア] おっ! 相棒、ゆっくり休めた?

[テキサス] まあな。

[エクシア] あれ、なんかすっごく怒ってない?

[テキサス] ……そんなことまでわかるのか?

[エクシア] 当然! キミだって、今日食べたいものを聞いたらあたしの気分がわかるでしょ?

[エクシア] もう何年もコンビ組んでるわけだしさ!

[テキサス] ……エクシア。たった今、ある善人が亡くなった。

[エクシア] うん、聞こえてたよ。

[テキサス] 彼のために何かしたいんだ。

[エクシア] 同感だね。

[ラップランド] テキサス、本気なの?

[ラップランド] ここに残るつもり、ってこと?

[テキサス] ラップランド……

[テキサス] このところ、「全力で」私が龍門に帰るのを手伝ってくれたことには感謝する。

[テキサス] だが、もう決めたことだ。

[テキサス] この国には、あんな形で死ぬべきではない人々がいる。彼らは助けを必要としていて、それに値する人物だ。

[ラップランド] だけど、キミに何ができると思う?

[ラップランド] たった数人が思い描いた空想が、昔とは違う答えを選ばせるほどのものだったの?

[テキサス] たった数人が思い描いた空想で、私にとっては十分なんだ。

[テキサス] そう難しい話じゃない。

[テキサス] お前のほうこそ――

[テキサス] いつまで縛られているつもりなんだ?

[ラップランド] ……

[ラップランド] 何だい、お説教?

[テキサス] 経験者からのアドバイスとでも思ってくれ。

[テキサス] ――エクシア、私が包囲を突破する。背中は任せた。

[エクシア] オッケー!

[ラップランド] ……

[ラップランド] テキサス……キミはいつも、ボクを驚かせてくれるね。

[ラップランド] フフッ……アハッ、アハハハッ……

テキサスとエクシアがその場を離れると、足音と叫び声は次第に遠ざかり、路地は少しずつ静まり返っていった。

群れからはぐれた白い狼の空虚な笑い声だけがこだまする。

しばらくして、彼女はようやく笑うのを止め――

ある方向へと視線を向けた。それはテキサスが去った方向ではなくサルッツォの屋敷があるほうだった。

[ルビオの娘] お父さん……お父さんが……うぅっ……

[ラヴィニア] あなたの気持ちを、少しでも落ち着けられたらいいのですが……

[ルビオの娘] ……ありがとう、ございます……

[ルビオの娘] ラヴィニアさん……お父さんは、どうしてこんなことを……?

[ルビオの娘] こうなるくらいだったら……これまで通り、地味な役職についたままでよかったのに……

[ラヴィニア] ……まだ理解は及ばないかもしれませんが……あなたのお父さんは本当に立派な方です。

[ラヴィニア] ――あなたはどうか、このまま部屋にいて、無暗に出歩かないようにしてください。お守りできるように、人を呼んでおきますから……いいですね?

[ルビオの娘] わ……私も、お父さんがあんなことをしたら、街が大変な騒ぎになることくらいはわかります。

[ルビオの娘] ラヴィニアさんも……一緒に、隠れていましょうよ。

[ラヴィニア] ……ありがとうございます。ですが、私には使命がありますから。

ラヴィニアは部屋を出た。

ウォルシーニに響き渡ったあの銃声は、暗雲ですら恐れをなしていくらか後退させたかのようで、久しぶりにいくらかの陽光が差し込んできている。

彼女はかつて、ベルナルドとの約束を唯一の目標にしていた。

それゆえに、ベルナルドが約束に背いたことを知った時、どうすればいいのかわからなくなった。

けれど今、彼女にはそれがわかっている。

一人で戦っているわけではないと、そう告げる者がいたからだ。

そうした人々の犠牲は、彼女がしてきた抵抗の百倍は壮烈極まるものだった。

彼らに比べれば、彼女は幸運だ。

しかし、その幸運に甘えて逃げ出すつもりはなかった。

[ラヴィニア] ……

[ラヴィニア] ルビオさん、あなたの犠牲は無駄にはしません。

手中の法典を撫でる彼女の脳内では、ルビオの日記にあったいくつかの名前が駆け巡っていた。

これまでに見た、あるいは聞いたことのあるそれは――

ルビオが彼女に遺した中でも、最も豊かな遺産だった。

そして――

[ラヴィニア] どちら様ですか?

[テキサス] ペンギン急便だ。配送サービスは必要か?

[レオントゥッツォ] ドン・アルベルト。

[アルベルト] ベッローネが俺と話をしたがってると聞いてきたんだが……

[アルベルト] ベルナルドは顔も見せられねえのか?

[レオントゥッツォ] 父には父の判断があるんだ。

[レオントゥッツォ] 俺がベッローネの代表として席に着くこともできると思ってもらいたい。

[アルベルト] ほう?

[アルベルト] つまり、お前には満足のいく説明ができると言いたいわけか?

[アルベルト] あるいは、この状況を何とかする自信があるとでも?

[レオントゥッツォ] まさにその話を――

[アルベルト] ダンブラウン? お前の出番はまだだろう。

[ダンブラウン] いいや。今なんだよ、ドン。

ダンブラウンは武器をアルベルトに向けた。

[アルベルト] 向ける相手を間違えてるんじゃねえか。

[ダンブラウン] 間違ってなんかねえさ。

[ダンブラウン] あんたたちファミリーの長は、一度自分の姿を見つめなおしてみるといい。

[ダンブラウン] どいつもこいつも偉そうに座って、政治だの体制だの、国や未来について話してるようでいて――

[ダンブラウン] 実際のとこ、自分の利益のことばっかり考えてやがんだろ。

[ダンブラウン] 俺たちは暴力でこの時代を手に入れたってのに――

[ダンブラウン] どうしてそれを誇りに思えねえんだ?

[アルベルト] もう昔とは違うんだ。どうしてそれがわからない?

[アルベルト] 俺たちは、時代を俺たちの望む姿に変えようとしてるだけなんだ。

[ダンブラウン] わかんねえよ、そんなの。俺はただ、自分たちが弱くてバカな人間になっていくのを感じてるだけなんだ。

[ダンブラウン] 俺たちは自分の本能を誇るわけでもなきゃ、普通の連中みたく穏当な方法で平和を求めてるわけでもない。

[ダンブラウン] このままいったら、どうなっちまうんだ?

[アルベルト] どうもなりゃしない。

[ダンブラウン] 違うな。俺たちはもう群狼じゃなくなっちまった。

[ダンブラウン] これじゃ、人の皮を被った化け物だろう。

[ダンブラウン] そして、俺たちを率いている――

[ダンブラウン] あんた。

[ダンブラウン] それと、あんたも。

[ダンブラウン] あんたらは文明的になったわけじゃない。偽るのが上手くなっただけだ。

[アルベルト] ……

[アルベルト] どうやらお前を甘やかしすぎたらしいな、ダンブラウン。

[アルベルト] ここはお前の演説台じゃねえんだ。

何が起きたかは誰にも目視できなかった。

瞬きの間に、アルベルトはダンブラウンの背後に立っており――

ダンブラウンの首に、一筋の血が流れだした。

彼は首を押さえ、目を見開いて、声すら出せずに――

その姿勢のまま、ゆっくりと倒れていった。

そうして、二度と音を発しはしなかった。

[レオントゥッツォ] ……

[アルベルト] ……こうなりゃ隠し事はなしだ。

[アルベルト] 俺はお前の父親の話に乗って、両家で協力してミズ・シチリアに対抗すると決めた。

[アルベルト] だが、現状お前らの行動には誠意ってものが見えてこない。

[アルベルト] 俺が賭けを好かないことは誰もが知ってるが、一度賭けたら勝つまで止めねえってことを知る人間は多くない。

[アルベルト] レオントゥッツォ。

[アルベルト] サルッツォの下につくか、ここで死ぬか選べ。

[アルベルト] 十秒やろう。

アルベルトは古めかしい懐中時計を取り出すと、運命のカウントダウンを始めた。

10。

[ラヴィニア] あなたは暴力という手段を持ちながら、教養と自制心によってそれを使わずにいることができる。私はその「優しさ」に感謝しないといけないのよ。

[レオントゥッツォ] ……そういうつもりで言ったんじゃない。

[ラヴィニア] 私も責めてるわけじゃないわ、レオン。

[ラヴィニア] どうして雨が続くのかを考えようとしているだけでも、あなたは得難い人だもの。

9。

[ベルナルド] お前は無意識のうちに、自分とラヴィニア、そしてカラチを同じように見ているんだ。

[ベルナルド] 彼らとお前は違うということを忘れるな。

[レオントゥッツォ] わかっているさ。

[ベルナルド] 本当にわかっているのなら、ここに立ってはいないだろう。

8。

レオントゥッツォは彼らの言わんとすることを理解していると思っていた。

彼は真の意味でラヴィニアの味方になることはできないし、永遠に父の息子であることは確かなのだ。

そうした生まれにあって、それを変えることはできない。彼は、自分が最大限の努力をしたつもりだった。

まさかそれでも足りないというのだろうか?

だが――

7。

[ダンブラウン] あんたらは文明的になったわけじゃない。偽るのが上手くなっただけだ。

その瞬間、彼はふと悟った。

足りるかどうかの問題ではなく、初めから間違っていたのだ。

6。

俺たちは、文明的になったわけじゃない。偽るのが上手くなっただけだ。

そう――俺たちは偽るのが上手くなっただけだった!

5。

そうだ、そういうことだったんだ。

自分はなぜ、こんなところにいるのだろう。

なぜこの期に及んで、マフィアのやり方で問題を解決しようとしているのだろう。

答えはとっくにわかっていたはずなのに――

これまでは、自分の出自と立場を理由にして、その答えから目を背けてきたのだ。

4。

これまでの行いはすべて、取り繕っただけの暴力にすぎない。

そして、文明は決して暴力から生まれはしないのだ。

3。

[アルベルト] もう後がないぞ、レオントゥッツォ。

[レオントゥッツォ] ……

[レオントゥッツォ] ……俺の答えは――

[アルベルト] 何が起きた!?

[サルッツォの構成員] 第二中枢区画が――あの区画の分離システムが起動しました!

[アルベルト] 何だと!?

[レオントゥッツォ] ……!

[レオントゥッツォ] 親父……これが親父の切り札なのか?

[レオントゥッツォ] だったら俺は――

[アルベルト] 甘いな。

[アルベルト] ……!

[ウォラック] チッ、良い反応だなジジイ。

[アルベルト] お前、ロッサティの――

[ディミトリ] 待たせたな、レオン。

[ディミトリ] ここは俺に任せて、先に行け。

[レオントゥッツォ] ……わかった。

[アルベルト] なるほど、これがベッローネの切り札ってわけか……

[アルベルト] だが、本当によく考えたんだろうな。サルッツォを――この俺を敵に回したらどうなるか。

[ディミトリ] あんただって、まさか本気で俺らと仲良くやろうとしてたわけじゃないだろう?

[アルベルト] 利益が絆になりえたかもしれないんだがな、若造。

[アルベルト] とはいえ、そうやって何かをひっくり返せると思い込んでる青臭さは嫌いじゃねえ。

[ウォラック] 爺さん連中はいつだって何もかも自分が支配できると思い込んでるようだが、てめえらはとっくに時代遅れだってことに気付いちゃいないらしいな。

[アルベルト] かかってこい、ガキども。腕試しといこう。

[レオントゥッツォ] ……

レオントゥッツォにはわかっていた。ファミリーを率いる者として自分が今なすべきことは、部下たちのもとに戻り、この激動の状況下で最大の利益を得られるよう指揮をすることだと。

だが、ラヴィニアの理想の理解者を自認する者として――カラチが生前行ってきた多くを目にした者として――そして、これまで迷い続けていた者として……

本当になすべきことは何なのか、かつてないほど理解してもいた。

彼はもう、自分に嘘はつけなかった。

[レオントゥッツォ] すまない、ディミトリ……

彼は部下たちのもとへは向かわなかった。

父の居場所はわかっている。

[ベルナルド] やるべきことはやった。

[ベルナルド] もうしばらくすれば、ザーロが勘づくことだろう。

[ベルナルド] ……そろそろ来る頃か。

[ベルナルド] アンニェーゼの牙、ルナカブ……

[ベルナルド] 随分待たされたぞ。

[ルナカブ] お前はいつもたくさん人を連れてるからな。ルナカブは、一度に大勢相手にするのは苦手なのだ。

[ベルナルド] 私を標的にするのは賢明とは言い難いな。

[ルナカブ] アンニェーゼが言ってたぞ。お前は、残った牙の中で一番死ぬべき奴だって。

[ルナカブ] なんでも、権力とかいうくだらないものを使って、それに頼って勝とうとしているそうだな。

[ベルナルド] まったく狼主らしい見解だな。

[ベルナルド] 君は残りの牙の行方を知っているのか?

[ルナカブ] 知らん。

[ベルナルド] 一匹は今、ロドスという会社に住んでいる。

[ベルナルド] 彼女は少し前にシラクーザに戻ってきたんだ。

[ベルナルド] もう一匹は勝てる見込みがないと悟り、身を隠して早いうちから一人の教え子を育てていた。

[ベルナルド] 放浪していたこの二匹は、いずれもシラクーザに戻ってきている。

[ベルナルド] そして、もう一匹は荒野に身を隠している。

[ベルナルド] 私はここに座っているだけで彼女たちの動向を知ることができるのだよ。

[ベルナルド] さらに、私の権力がもう少し大きくなれば、私が命令するだけで彼女たちを見つけ出し、部下に始末させることもできるだろう。

[ベルナルド] これぞ、ザーロの見つけた――権力という強さだ。

[ルナカブ] それは勝ったことになるのか?

[ベルナルド] 彼はそう思うのだろうな。

[ルナカブ] 妙な話だ。

[ベルナルド] 妙なのは君のほうだ、アンニェーゼの牙よ。君は私を殺すつもりがないだろう?

[ルナカブ] ……ルナカブは少し気になっただけなのだ。

[ルナカブ] お前は悪人には見えないし、今言ったような権力を握っている人にも見えない。

[ベルナルド] では、どう見える?

[ルナカブ] 自分で探した最期の地で安らかに横たわる獣に見える。

[怖がる店員] ……マフィアの連中、もう行ったかな?

[臆病な店員] 行ったと思うわ……多分ね。

[怖がる店員] よかった……ここで戦うのかと思ったよ。

[臆病な店員] だけど……この人の死体、どうするの?

[怖がる店員] お……俺は触りたくないんだけど。

[臆病な店員] でも……なんだかかわいそうじゃない。

[ベン] 私に任せていただけますか。

[臆病な店員] あ……あなたは?

[ベン] この名もなき方の友人です。

[ベン] ――親愛なる友よ、あなたは大切なことに気が付きました。

[ベン] 文明の名のもとに振るわれる暴力……

[ベン] これこそが、マフィアの本質なのです。

[ベン] いわゆる文明というものは、単なる見せかけや、ある種の自戒なのかもしれません。

[ベン] 私たちは本能から遠く離れることなどないのかもしれません。

[ベン] ですが、我々は認めなければなりますまい。

[ベン] それでも、心からの願いというのは、文明を自らの虚飾の表皮とすることとは絶対的に異なるのだということを。

[ベン] この国が、この都市が、あなたを記憶することはないでしょう。

[ベン] ですが私は忘れませんよ、洗車工のダンブラウンさん。

[ベン] あなたはルビオと共に、ファミリーの変遷という名の嘘を暴いたのですから。

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