aklib_story_吾れ先導者たらん_GA-3_混血児_戦闘前

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吾れ先導者たらん_GA-3_混血児_戦闘前

ラテラーノの街にて、変装していたサルカズの物売りに「お姉さんの角、わたしのパパとよく似てるね……お姉さんもサルカズなの?」とセシリアが疑問を投げかける。


[オレン] フィアメッタか……ん? そのツラを見るに、ひと悶着あった様子だな。

[フィアメッタ] あなたには関係ないわ。

[オレン] そうかっかするなよ、一旦落ち着いて茶でも飲むか?

[フィアメッタ] いいから。どうしてあなたがここにいるの? モスティマからは支援が来るなんて聞いてないわ。

[オレン] ああ、ヴェルリヴから正式に命令が出たわけじゃないからな。

[オレン] だが俺個人としては喜んで力になるってことだ。

[オレン] モスティマから聞いたが、ほかにもこの子を追ってる奴らがいるんだろ? 俺の予想通りなら、ここに来る前にそいつらとやり合ってきたんじゃねぇか?

[フィアメッタ] ……その通りよ。

[オレン] 俺はエゼルが位置情報を切ったって公証人役場から聞いて、たぶんお前も足止め食らってるんじゃないかと予想して駆けつけたのさ。その時間差を狙われてたら、この子は奪われてたかもしれないぜ?

[オレン] モスティマが助けに来ない理由は知らんが、あいつが動けない状態なら、せっかくだし恩を売っておこうと思ってな。

[オレン] こんな機会そうそうないだろ?

[フィアメッタ] ……組織力もないあの程度の連中に止められたりはしないわ。

[オレン] 「慎重に漕げば船は万年沈まず」ってな。フィアメッタ、お前そんなんじゃあっさりヴェルリヴに弱みを握られちまうぞ。

[オレン] おっと、これは炎国のことわざでな、常に用心深く事を行えって意味だ。

[フィアメッタ] ひけらかさないで。オレン、あなたはいつもそんな調子だから嫌われるのよ。

[オレン] はいはい、冗談はここまでだ。とにかく、お前が到着して恩も売れたんで俺は帰るぜ。後は任せた。

[オレン] それとも、エスコートが必要なのかな? ならばフィアメッタお嬢さん、私の手をお取りなさい。

[フィアメッタ] 遠慮しとくわ。さようなら、オレン。

[フィアメッタ] 執行人エゼル、その子を渡しなさい。

[フィアメッタ] 抵抗しない方が身のためよ。

[エゼル] ……

[エゼル] フィアメッタさん……でよろしいですか? フィアメッタさん、一つお願いがあります。

[フィアメッタ] 言ってみなさい。

[フィアメッタ] でもむやみに動かないで。引き金を引かない保証はできないわ。

[エゼル] ……僕がリケーレ先輩の命令に背き、そのうえ端末の電源を切ったことで疑われているのはわかっています。ですが……

[エゼル] 信じてください、僕は決してラテラーノを裏切ってはいません。

[エゼル] 僕が公証人役場の命令に従わなかったのは、セシリアに不測の事態があってほしくなかったからです……それに、僕はこの子とある約束をしたんです。

[フィアメッタ] それが私と何の関係があるの?

[エゼル] ……一つお願いを聞いてください。セシリアを大聖堂へ連れて行くのなら、僕にも同行させてください。教皇庁が事件に関する情報を知りたいのなら、僕もいた方が都合がいいと思いませんか?

[フィアメッタ] 先に言っておくけど、あなたがいれば上の判断も変わるかもしれないなんて考えているのなら――そんな幻想は捨てなさい。

[フィアメッタ] もっと言うと……教皇庁の判断が意にそぐわなければ、その時はこの子をさらってしまおうとか……

[フィアメッタ] そういうバカな考えは絶対に起こさないことね。

[エゼル] しませんよ。大聖堂に銃騎士が配属されていることはよくわかってますから。

[エゼル] それに、僕だってラテラーノの執行人なんです。これまではセシリアが置かれている状況も、追われている相手も不明瞭だったので気が気じゃありませんでしたが……

[エゼル] 今はもうはっきりしましたので、喜んで指示に従います。

[フィアメッタ] 結構。

[フィアメッタ] えーっと……セシリアね? 歩ける?

[セシリア] ……エゼルお兄ちゃん……

[エゼル] ……セシリア、疲れたなら僕がおんぶするから……

[フィアメッタ] 私が抱えていくわ、あなたでは遅すぎるもの。

[セシリア] (小声)エゼルお兄ちゃん……

[エゼル] ……大丈夫。きっと大丈夫さ、セシリア。

[ヴェルリヴ] 執行人エゼル・パストーレですが、本日の午前中にステファン区ステヴォヌス通り7-265へ向かい、遺体の身元確認、遺言捜索、及び守護銃の回収任務を遂行しました。

[ヴェルリヴ] それから昼前に八歳のサンクタの女児をステファン区中央病院に送り届けた後、非常事態発生に伴い女児を連れて病院を離れました。

[ヴェルリヴ] また、ステファン区ステヴォヌス通り7-265の世帯主、フェオリア・ラポルタは本日午前中に自宅で病死しており、遺体は安魂教会に収容済みです。

[ヴェルリヴ] 該当の住所の戸籍登録人数は一人のみで、役所に記録されている居住人数も一人となっています。

[ヴェルリヴ] ですが、ここ二十年の住宅補修記録を調べると、七年前に地下室を増築した記録が残っていました。請負業者が残した証票によると用途は物置とされています。

[ヴェルリヴ] そしてこちらはフェオリア・ラポルタの写真資料と、エゼルが病院に送り届けた際に監視カメラに映った女児の映像です。

[ヴェルリヴ] 女児の正体については、もう概ね想像がついているかと思います。

[ヴェルリヴ] 午前中に届いたエゼルの報告によると、フェオリア・ラポルタは遺言を残しておらず、遺言の事前登録もありません。理由は明確、公証人役場との接触をできるだけ避けたかったのでしょう。

[ヴェルリヴ] フェオリア・ラポルタは余命がもう僅かであることを悟り、娘が生きていくための道を残してやっていたと推測するのが合理的かと。

[ヴェルリヴ] 現状エゼルがフェオリア・ラポルタの委託対象であるか否かは断定できませんが、彼の背景調査の結果を見るに、その可能性は低いでしょう。

[ヴェルリヴ] フィアメッタから届いた情報と合わせて推測すると、より可能性の高い依頼受託者はおそらく……

[ヴェルリヴ] 「迷い人」。

[ヴェルリヴ] モスティマ、これがあなたが大聖堂に残った理由かしら?

[モスティマ] 別に。とりあえず残ってるだけだよ。

[教皇] そう気を張るでない、ヴェル。シュークリームはいかがかな?

[オレン] ふぅ、穏便なやり方を選んでよかったぜ。

[オレン] フィアメッタが来た時に、ちょうど俺が公証人役場の奴をやっちまうところだったらヤバかったな。

[パティア] 言い訳はいいわ。あんたがあいつとくっちゃべってなければ、セシリアは今頃もう先導者様のところだったのよ。

[オレン] そんなこと言ってもありゃ執行人だぜ。まだ役場を敵に回すほどの事態にはなってないだろ。

[オレン] それにあいつも相当単純な考えで動いてるみたいだったぜ。ちょっとばかし同情心をあおられて、可愛い少女に不幸が訪れるのを放ってはおけないってところだろうな。

[オレン] わざわざ暴力に頼らなくても、あいつの懸念してることが明らかな以上、説得できるのも時間の問題だったんだ。

[オレン] フィアメッタが来るのがもう少し遅ければ今頃……

[オレン] つまり、やっぱフィアメッタを止められなかったパティアのせいってわけだな。

[パティア] ……あたしは……

[オレン] 冗談だよ。

[オレン] しかし、あの人もつくづくツイてないな。簡単に片付くはずの一件がいつの間にかこんな面倒なことになってるなんて……いっつもあと少しのところで何かが起きるんだよな。

[オレン] これこそ偉大なるラテラーノが俺たちに与えた試練ってやつか?

[パティア] あら、敬虔な信徒に戻ったの?

[オレン] 本物の信徒はこんなこと言わねぇよ。そういう奴らはな、苦難を試練だと思い込んで、その試練を何だ……「運命の贈り物」とかわけのわからねぇこと抜かしやがる。

[オレン] お前やあの人の周りは、そういう奴ばっかなんじゃねぇのか?

[パティア] ……それでもあんたみたいに自分勝手なサンクタよりはマシだと思うけど。

[パティア] それで……これからどうするの? セシリアが大聖堂に着いちゃったら、また出てこられるの? それとも、無理矢理連れ出す方法でもあるの?

[オレン] そう焦るなよ。セシリアを大聖堂に入れたくない気持ちは俺の方が上なんだからよ……

[オレン] 考えてもみろ、俺たちにもまだ切ってないカードはあるだろ?

[オレン] パティア、お前はフィアメッタをつけてくれ。近づきすぎてバレないようにな。

[パティア] じゃああんたは何するの?

[オレン] 俺は忙しいんだよ。俺のことを探してる奴がいるって噂を耳にしてな……人気者ってのも困りものだな。

[パティア] ……あたしたちを余計なことに巻き込まないで。

[リケーレ] ……うん、手がかりはハッキリしたみたいだな。それでこれからどうするつもりだ?

[フェデリコ] 直接彼を訪ねます。

[リケーレ] えーっと……お前のその暴……実力を疑っているわけじゃない。だが相手はベテランのレガトゥスだぜ。もし何か勘違いで揉めちまったらマズいんじゃないか?

[フェデリコ] 彼はこの件に関わっています。

[リケーレ] ……単に関わってるから調査する、ってことか……お前の思考回路が時々羨ましくなるよ。

[リケーレ] だが、もしそいつも事情を知らなかったらどうするんだ?

[フェデリコ] 調べてみないことにはわかりません。

[リケーレ] それもそうだな。いずれにせよ、レガトゥスがこの一件に関わってるんなら、調べてみる価値はある。

[リケーレ] だがまさか、フェオリアみたいにインドア派で目立たない奴から、こんなにわんさか手がかりが出てくるなんてな。戸籍のない娘に、レガトゥス……

[リケーレ] それと……サルカズ。

[リケーレ] ん? もう行ったのか? また挨拶もなしかよ?

[リケーレ] 仕方ねぇ……

[リケーレ] 行っちまったからには……

[リケーレ] オレン、俺を恨むなよ。俺じゃフェデリコは止めらんねぇからな。

[リケーレ] 情報を流すだけでも、俺にできる精一杯だと思ってくれ。

[フィアメッタ] ……寝ちゃったわね。

[エゼル] 疲れてたんでしょう。

[フィアメッタ] さっき、この子と約束をしてるって言ってたけど、何の約束?

[エゼル] 母親探しを手伝う約束です。

[フィアメッタ] 母親? でも、モスティマがさっき送ってくれた情報だと、この子の母親ってもう……?

[エゼル] はい、その通りです。僕もこの目で遺体が安魂教会の霊柩車に乗せられているのを見ましたから。

[フィアメッタ] ならどうして約束したの……?

[エゼル] ……この子に出会ったばかりの時は、まだ知らなかったんです。

[フィアメッタ] じゃあ知ってからは? この子には教えたの?

[エゼル] ……教えましたよ。ですがおそらく、この子の年齢では、まだ「亡くなる」、あるいは「死ぬ」とはどういうことなのかわからないんだと思います……

[フィアメッタ] ……あなたも大変ね。

[フィアメッタ] ……あまり思い詰めないで。きっと、教皇聖下もこの子をそこまで……ひどい扱いはしないと思うわ。

[エゼル] ……はい。この子はセシリアと言います。

[エゼル] フィアメッタさん……あの……

[フィアメッタ] そうかしこまらなくていいわ。

[エゼル] ありがとうございます……大聖堂に引き渡した後、セシリアはまた出てこられるのでしょうか。もしかして……

[フィアメッタ] ……保証はできないわね。でも何であれこの子は光輪を持ってるんだから、サンクタと見なされるはずよ。

[フィアメッタ] 対象がサンクタである以上、教皇庁にしろ公証人役場にしろ、戒律に従う――少なくとも私はそう思うわ。

[フィアメッタ] たとえ戸籍がなくても、ね。

[エゼル] ……えっ、問題はそこなんですか?

[フィアメッタ] だけど、後からでも手続きできるかもしれないわ。

[エゼル] ……

[エゼル] ですが、セシリアの光輪は……普通じゃないんです。

[エゼル] 先ほどのレガトゥスの方はセシリアの身の安全には楽観的な姿勢でしたが、僕はサンクタの混血問題の深刻さをよく理解していないので、それを鵜呑みにもできませんし……

[エゼル] それに最近、外国の使節たちがラテラーノに集まってますよね?

[エゼル] 教皇聖下がこれだけ長く準備を進めてきたサミットですから……このタイミングで、セシリアが誰かの陰謀に利用されてしまわないか心配なんです。

[フィアメッタ] ……考えすぎよ。

[エゼル] 教皇聖下も当然その可能性には気付いていると思いますが、その上でどんな対策を講じるのでしょうか?

[エゼル] フィアメッタさん、僕はこんなことを考えるべきじゃないのかもしれませんが……

[エゼル] でも考えずにはいられないんです。

[フィアメッタ] じゃあはっきり言わせてもらうわ。

[フィアメッタ] あなたがそんなに考えたところで何になるの? あなたにこの先のことが決められるとでも?

[フィアメッタ] セシリアがそういう危険に晒されてるってわかるなら、大聖堂が一番安全な場所だってこともわかるでしょ。

[エゼル] ……そうですね。

[セシリア] ……うーん……

[セシリア] ごめんなさい、寝ちゃった……

[エゼル] うるさかったかな?

[セシリア] ち、違うよ。えっとね……

[フィアメッタ] エゼル、今鳴ったのはあなたのお腹?

[セシリア] ……

[エゼル] セシリア、ドーナツを買ってきてあげようか。

[セシリア] ド、ドーナツ……うん! お兄ちゃんありがとう……

[フィアメッタ] いい、私が買ってくるわ。手も疲れてきたし、そろそろこの子を下ろして休みたいところだったの。

[フィアメッタ] (小声)二人きりにされても、どうしていいかわからないもの。

[フィアメッタ] でも、下手な真似はやめることね。どんな小細工も見逃さないわ。

[エゼル] ……まだ信じてもらえてないんですね。

[フィアメッタ] そうだ、端末の電源も入れておきなさい。切るのは禁止よ。

[エゼル] は、はい……

[セシリア] (小声)あのお姉ちゃん、エゼルお兄ちゃんにもすっごく怖くて……わたし話せないよ。

[エゼル] ああ見えて悪い人じゃないから大丈夫だよ、セシリア。

[セシリア] ねぇ、お兄ちゃん……もしかして、わたしをママのところに連れて行けなくなっちゃったの? いってらっしゃいって言うだけでもダメなの?

[エゼル] えっと……まずはある場所に行って、セシリアの安全を確保しないといけないんだ。

[エゼル] ママのことは……ちゃんと説明するから。少しだけ……考えさせてくれないかな?

[セシリア] ……わかった。

[セシリア] お兄ちゃん、聞こえる?

[エゼル] 聞こえる? 何がだい?

[セシリア] お歌……

[エゼル] 歌……あっ、確かに! 綿あめ屋さんのキッチンカーからみたいだけど……でもこんなに騒がしいのによく聞こえたね。

[セシリア] よく知ってるお歌だから!

[セシリア] ママが教えてくれたお歌なんだよ!

[セシリア] うーん……でも行っちゃダメだよね?

[エゼル] ……大丈夫、声を掛ければきっと綿あめ屋さんの方から来てくれるはずさ。

[エゼル] すみません――

[静かな物売り] 誰か呼んでないか?

[ご機嫌な物売り] フフフン~♪

[静かな物売り] またその歌か。好きだねぇ……おっと、本当に客が呼んでるじゃないか。行くぞ、情報収集がてんでダメなら商売に精を出そう。

[ご機嫌な物売り] オッケ~♪

[セシリア] こんにちは……

[ご機嫌な物売り] やあ、お嬢ちゃん。綿あめが欲しいの?

[セシリア] えーっと……

[エゼル] 二つ、いや、三つください。この味とこの味、それとミックス味をお願いします。

[ご機嫌な物売り] かしこまり~。

[静かな物売り] 三つなら、俺も一緒に作るよ。

[セシリア] お姉さん、あの……さっきのお歌、何て名前なの?

[セシリア] ママがよく歌ってくれたけど、名前は教えてくれなかったんだ……

[ご機嫌な物売り] ……え? あなたのママが……この曲を……?

[セシリア] お姉さん! 綿あめ! 落ちちゃうよ!

[ご機嫌な物売り] わあごめんなさい、すぐに――

[エゼル] あっと、ザラメがこぼれてます――僕が手伝いますから……

[ご機嫌な物売り] ごめんなさいねぇ、ありがとう!

[静かな物売り] (小声)おい! フード!! フードが引っかかって――

[ご機嫌な物売り] あっ――

[エゼル] ……

[静かな物売り] か、勘違いしないでくれよ。こ、こいつはキャプリニーなんだ……

[セシリア] お姉さん!

[セシリア] お姉さんの角、わたしのパパとよく似てる……

[セシリア] お姉さんもサルカズなの?

[エゼル] ――――――

[静かな物売り] (小声)早くフードをかぶれ!

[ご機嫌な物売り] ち、違うわよ。お嬢ちゃんの……み、見間違いよ……

[エゼル] ……

[エゼル] ラテラーノにサルカズが紛れ込むなんて……あなたたちの目的もセシリアですか?

[フィアメッタ] エゼル、何事?

[エゼル] ……フィアメッタさん、この人、サルカズです。

――だけどもう一つの事実は決して口には出せなかった。

[静かな物売り] チッ……仕方ない、やるしかねぇか……

[フィアメッタ] ……いい度胸してるのね。

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