aklib_story_統合戦略3_追憶映写8

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統合戦略3 追憶映写8

腐蝕された心も、不溶の氷山も、蔓延の枝も、もはや存在しない。

イシャームラとミヅキが相討ちになった隙に、完全に制御を失った「始原の命脈」がファーストボーンたちを一体ずつ飲み込んでいったことで、「存続」こそが唯一の真理となった。「それ」は、あらゆる生命を残らず資源へと変換し、包容と管理を忠実に実行していく。かくして万物は秩序の中に組み込まれてしまった――というのも、その秩序への帰属を拒んだものは、ほとんどすべてが一掃されたからだ。海は瞬く間に大地を侵し、人類は最後の砦を築き上げることすら叶わなかった。テラは今や、シーボーンの理想郷となっていたのだ。

この広大な理想郷の片隅で、かつてミヅキとドクターと呼ばれていたシーボーンが、秩序による併合から逃れようと洞窟に身を潜めていた。だが、こうした生態系の中では、もはや名前も、懐古も、感傷も、すべてが秩序に反するものと成り果てている。

ほかの人たちはどうしているのだろう? アーミヤやケルシーは……ロドスの仲間たちは無事だろうか? 人類にはまだ、ほかに生存者がいるのだろうか? そんな思考を巡らすことさえちょっとした贅沢になっており、そのために余分な栄養とリソースを割く権利が与えられるのは食事中くらいのものだった。

「ドクター」は、ミヅキが自身の身体から切り離したばかりの触手を黙って食べていた。最初の頃こそ、涙を流し、嗚咽をこぼし、ひどく慟哭しながらそれを口にしていたものだが、そのような情緒と行為が、生存の役に立たないことは明らかである。ゆえに時間はかかったものの、ドクターはそれを克服した。あるいは閉塞した環境に追いやられ、長らく続いた沈黙と感覚の麻痺によって、完全に心を閉ざしてしまっただけかもしれないが。

ミヅキには、「ドクター」を慰めることなどできなかった。最初に自身の血肉を食べて栄養を補給することを提案した時、それがあまりに酷な行為であることは彼も重々承知していた。それでも、ドクターの死を受け入れるわけにはいかなかったのだ。しかし、あらゆる草花や菌類、果ては水源に至るまでのすべてが命脈の一部として改造されてしまった今、そうしたすべては「あれ」の織り成す秩序を象徴する光で、蛍光色に輝いていた。無論、かつて動物だった海の怪物たちについては言うまでもない。もはや「正常」な食べ物など存在せず、テラ全土が、光り輝く海そのものに溶け込んでいた。ミヅキは残された力を振り絞り、自身が摂取した特殊な組織を単純な養分へと変えることにかろうじて成功していた。いわば彼だけが、唯一残された「安全」な食べ物なのかもしれなかった。

あの時、ドクターが提案を受け入れてくれたことは、ミヅキにも予想外だった。極度の飢えによって、生存本能が一時的に人としての尊厳を凌駕したからだろうか? あるいはミヅキの目の前で死ぬことを、彼が死を賭してまで取り戻してくれた命が無駄になってしまうことを恐れたからだろうか? いや、理由など関係ない。ドクターが生きていてさえくれたら……

だが、こんな日々にもいつか終わりが来るのだろうか? だとしたら、一体いつまで足掻けるのだろうか? ミヅキは心の中で密かに苦笑しつつ、こう願った。「別の時空では……ドクターが僕と一緒に、こんな取り返しのつかない結末に陥ったりしませんように。」


「それ」は思考している。思考していた。そして間もなく思考を開始する。「それ」は同時に複数の異なる答えを得ることができ、答えを導き出す前に答えを手にすることすらできる。「それ」はとうに昇華しており、時間が束縛し得るのは「それ」の肉体のみだけで、思考まで囚われてしまうことはなかった。

いつからか、こうした思考が確率的な状態でミヅキの脳裏をよぎるようになった。それは彼に、今この瞬間にも自分が「それ」と同化しているのではないかという不確かな感覚を与えた。

未来を正確に知ることができる者がいるなら、その力で常に正しい選択をすることができるだろう。しかしこの次元に縛られている限り、生物の思考と肉体は時間のくびきからは逃れられない。ミヅキにとって曖昧な確率の先にある分かれ道というものは、選択をしたあとになってから、別の可能性の記憶という形で提示されるだけのものであり、その時には再選択の可能性などとうになくなっていた。そんなものがもたらすのは後悔か、あるいは訪れた幸運への安堵感のみだろう。

ミヅキはその後悔と安堵を拒絶していた。「それ」もその力も特別なものではなく、未来の可能性の一つに過ぎないのだ。さらに言えばその未来は、本来の意図に反しており――人類の理想的な結末とは到底言えないようなものだった。

とはいえ、「それ」が生まれる可能性が実現してしまったとしても、その選択をしたのは別時空の自分とドクターであるはずだ。ならば恐らく理由があってのことか、苦渋の末の決断だったのだろう。そう思うと、敵意を持って接する必要はどこにもない。ただ異なる選択をした友人が、事が終わったあと漠然とした参考事例を提示してくれるだけだと思えばいいのだ。ミヅキはゲームの最中に、ふと閃いて「それ」に名前をつけてすらいた。

そうして、ミヅキがドクターにその内容を語り、もう少しで現実になるところだった別の可能性を伝え、海とは別の難題に共に立ち向かっている頃には、それはもはや何年も後のことになっているのだろう。


ボリバル某所の知られざる海岸で、二匹の恐魚が岩礁に巧妙に擬態してぴったりと貼り付いたまま、ただ波に打たれ続けていた。どうやらほかの生き物への敵意はないようで、この二匹はそうして長い間、じっと佇んでいただけだった。

ロドスはクルビア周辺にしばらく停泊する予定になっている。その間に、ミヅキはこっそり抜け出して、ロドスの仕入れ業務では味わえない地域文化を楽しんだりしていたのだが、街をぶらつくだけでなく、時折こうしたひと気のない場所を訪れては、膝を抱えて岩礁に腰掛け、波音や恐魚たちの内緒話に耳を傾けてもいた。

『君たちは雲を観察して、このあとの天気でも考えてるの?』そう尋ねたミヅキは、二匹の恐魚が何らかの方法で空を仰ぎ見ていることに気付いていた。恐魚たちの精密で特殊な構造を備えた視覚器官であれば、雲のはるか上までを観測することもできる。一体どういう目的で観察を行っているのかには、興味が尽きなかった。しかしどうあれ、恐魚が空に求めるものなど何もないはずだ。この生き物は空中を浮遊して泳ぎ回る行為を試みたことこそあれど、空を飛ぶ羽獣は大群を育む資源としては潤沢だとは言いがたく、上から見下ろす視野というのも海中での生活には無益なものだったのだから。

『天気デは、ナい。我ラは、観察しテいる。待ってイる。』応える二匹の恐魚はその生涯の大半をそうしてきたように、ひたすら動かず責務を果たし続けていた。恐魚には余計な発声器官など存在しないし、必要もない。同族たちに情報を伝える独自の手段を持っているからだ。

雲を見つめ続けるために、進化を経て岩に擬態する力を獲得したのなら、それは一体どのような使命があってのことなのだろうか? その重大な使命の背後に隠された理由は、二言三言で説明できるようなものではないということが、ミヅキにはすぐわかった。彼はそれ以上何も聞かず、その場を離れようと身を起こした。

その瞬間、上空に不可解な異常が発生した。ぱっくりと裂け目が開き、電離放射線が輝いて、さらには見たこともないような――

これは、この恐魚たちがやったことだろうか? いや、この二匹にはあれほど離れた空間に干渉できるようなエネルギーはない。ただ観察するだけの機能しか持っていないはずだ。それなら誰が、何を、何のために? あの方角は――クルビアだろうか? さっき見たものは一体……

ミヅキがふと我に返り、傍らを見てみると、二匹の恐魚はそこからいなくなっていた。もしかすると、あの二匹は慌てて巣穴へ帰ったのかもしれない――これから数百年かけて、恐魚たちの生存戦略を開拓し、発展させ得るかもしれない情報を、同胞たちへと伝えるために。


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