こっぱみじん(ブラック・ジャック)

ページ名:こっぱみじん_ブラック_ジャック_

登録日:2021/03/30 Tue 23:51:??
更新日:2024/04/21 Sun 11:55:45NEW!
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ブラック・ジャック ブラック・ジャックエピソード項目 ベトナム戦争 無茶手術 最速記録 ブラック・ジャック最高報酬額 アセチレン・ランプ 独裁者



「こっぱみじん」とは、『ブラック・ジャック』第73話のエピソードである。初出は「週刊少年チャンピオン」1975年5月19日号。
秋田書店チャンピオンコミックス旧版12巻・新装版5巻、秋田文庫版11巻他に収録。



【概要】

『ブラック・ジャック』劇中最高額報酬および最速・同時手術人数最多のエピソードであり、ブラック・ジャックがどのようにしてそれをせしめるかが描かれる話として知られているが、明らかにサイゴン陥落直前*1の南ベトナムをモデルとした「ある国」の末期的症状と混乱の中で実際に起こった事故、そして孤独な独裁者の精神崩壊ぶりが印象に残る話である。



【あらすじ】

長い間続いたある国の戦争も首都の陥落を間近にひかえて終わりをつげようとしていた。
一足先にスイスへ逃亡した大統領夫人はBJに電話をかける。
夫人は「夫を守ってください」と訴えるものの、BJは「私は医者であってガードマンじゃありませんよ」とかわす。夫人は「死んだ人間でも生きかえらせるといううわさを聞いた」というが、BJはもちろんそれも否定する。
夫人は「とにかく夫が負傷したらすぐその場で治療してほしい」と訴える。
主治医も信用できなくなった今、「金さえ出せばきちんと治療する」BJであれば大丈夫だと思い、一縷の望みを託すのであった。そして夫人はBJに金額を聞く。



「150億円いただきましょう」




夫人は全財産の4分の3に当たる額を要求され、あまりに法外だと訴える。
BJはこれに対し「私だって大統領と一緒に命をねらわれるんですよ。私の命を大統領に売るんです」と弱みに付け込む。
夫人はやむなく「150億円で契約するが、契約中に夫が死ねば払わない」と条件を付けるが、BJはさらに「体が残っていれば治せるが、爆弾でこっぱみじん・・・・・・になったら治しようがない」と言い返す。
夫人もやむを得ず、「こっぱみじん・・・・・・になった時を除く」という例外条件を飲むのだった。
こうしてBJは「ある国」へ向かうのであった……





【登場人物】

おなじみ名医。今回の法外な額は、「大統領とともに自分も命を狙われる」リスクを踏まえてのもの。最初から大統領に見切りをつけていたせいか、どうやって150億円をせしめるかを画策する。


  • 大統領

「ある国」の大統領。「戦争に負ける」「すぐ近くに暗殺者がいる」という恐怖から精神崩壊してしまい、罪もない人間をスパイ扱いして容赦なく死刑にしていた。だが息子であるギューに命を狙われるとは思っていなかった模様。
精神崩壊がなかったとしても、一般市民を顧みず、自分のことは棚に上げ、推定200億円の資産を蓄財するなど政治家としては最低のレベルと言えるだろう。
(スターシステムとして)演じるのはおなじみアセチレン・ランプ。


  • 大統領夫人

一足先にスイスに逃亡した後に、BJに上記のような「万が一大統領が負傷した時に即座に治療する」ように依頼する。
彼女も宝石などの資産を抱えて息子を無視して一人で亡命するなど、決して善人とは言えないだろう。


  • ギュー

大統領の息子。自国を崩壊までに追い込んでなお自分だけ助かろうとする父を憎んでいる。
両親とは違い、まともな感覚を持っている人物。









以下ネタバレ
BJが、宮殿に向かうと、まず無条件降伏を進言して死刑となった首相が連行されるところを目撃する。

「なんだきさまは!」

大統領は、BJに対しても「全財産を取り上げる不届きもの」「どうせ守るとか何とか言って殺す気だろう」と疑いを隠さない。
BJは目が血走りよだれを垂らした大統領を見てもうまともな頭には戻らないと呆れながら切り捨てる。
大統領はBJすら死刑にしようとするが、秘書が「閣下の命を救ってくれるお方」と言って止めたため、仕方なく「わしの体が傷ついたらすぐに手術してくれ」と要請した。
部屋を与えられたBJはまずお茶漬けを要求する。


その時、窓から誰かが入ろうとする。
「だれだっ」
入ってきた少年は大統領の息子のギューと名乗る。
「日本人は自分の責任を認めたらハラキリをして自殺するんでしょう?」
「昔のサムライはね…」
「パパは自殺さえできないんですよ。男らしくないや」
父親に絶望したギューはBJに「パパを見捨ててください」と懇願する。
しかし「金をもらっている以上そんなことはできない」「150億円といえば大金だからな」とBJは涼し気な顔でうそぶく。
怒ったギューはBJに唾を吐きかける。
「日本人のバカ!!もう頼まないよ。いくら先生が手術の天才でもこの国の人はみんな先生をけいべつするよ!!」と言ってギューは部屋をでていった。



何日か経ち、大事故が発生した。
戦災孤児をアメリカ他へ避難させ養子縁組を結ばせる作戦「オペレーション・ベビーリフト」の輸送機が墜落してしまったのだ。およそ150人が死亡、40人ほどが重体という報告を受けても、大統領は「弱い軍隊が悪いんだ。国民が悪いんだ。国が勝ってりゃこんなことにならなかったんだ」と自分の責任を認めようとしない。
そこに、重体の孤児を乗せた救急車が列をなして宮殿にやってきた。
BJの差し金だと判断した大統領は、BJの部屋に押し入って何故そんなことをしたかと聞くが、BJは答えようとしない。
大統領は衛兵に対し救急車を追い払うに命じるが、BJは進言する。
「そいつぁ評判を落としますよ、大統領。せっかくたよってきたんだ。助けてやったって損はしませんぜ」
激昂した大統領は拳銃を手に取る。
「私を殺す前に大統領、3年ほど病院に入られた方がいいですな」
「だまれ!!きさまをよんだのはまちがいだった。かくごしろ」
大統領はBJに銃口を向ける。
「パパ ゆるして」
部屋に忍び込んでいたギューが大統領に手榴弾を投げつけ、衛兵もろとも見事に爆発した。
「ギュー…おま…おまえが…わしを…ねらっていた…と……は……」
そう言って大統領は息絶えた。
おとなしく連行されるギューにBJは「助けてくれてすまんね」と感謝の言葉をかけるのだった。



BJはすぐさま作戦を開始した。
まず、40人の孤児たちを宮殿内に運び、損傷部分ごとに分けてベッドに寝かせる。
そしてサポートする医師たちに今回の手術の説明をする。
そう、今しがた死んだ大統領の死体を部分ごとに解体し40人の孤児たちに移植するという、手塚治虫という大バカが考えた大掛かりな手術なのだ。
BJはまず孤児たちの移植箇所を決定・切断し、他の医師もBJの指示のもとサポートを行う。
そうこうするうちに死体はきれいになくなっていき……


「脳髄がのこりました」
「こいつだけは使いものにならん」


「大統領のおくやみを申し上げます」
BJは夫人に電話でこのことを報告する。夫人は「なぜ夫を見殺しに!?」と泣き叫ぶ。
「だがこっぱみじん・・・・・・の場合を除いてでしょう」
「では……夫は……こっぱみじん・・・・・・に……」


「そうです。肉はちぎれ骨はとび……そう、40くらいにバラバラになりましたかな


嘘は言っていない。まあ、BJのことだから輸送機の墜落事故やギューによる爆殺がなくても何かと理由をつけてバラバラにするだろうが。
「だからもう死体もありません。脳味噌は残ってますがね」
「その40の部分はね、あることに使わせてもらいましたよ。大統領ははじめて人々のためにお役に立ったんです」
すでに夫人は気を失っていた……



【余談】

  • 劇中で発生した輸送機の墜落事故は、「メーデー!:航空機事故の真実と真相」でも取り上げられた実際の事故がモデルとなっている。
    墜落まで少しでも持ちこたえようとしたパイロット、、サイゴン陥落後までもつれ込んだ原因究明までのエピソードや、整備の混乱ぶりなどいかに壮絶な状況だったかがうかがえる。
  • 本作の2年後に書かれたエピソード「あつい夜」は、アセチレン・ランプ演じる男が暗殺者に殺されかかるたびにBJに治療してもらう(これもベトナム戦争が関わっている)という、本作との共通点がある。




追記・修正は爆弾でこっぱみじんになった死体の一部を移植された人がお願いします。






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*1 サイゴン陥落は1975年4月30日

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