aklib_story_就任前夜

ページ名:aklib_story_就任前夜

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就任前夜

スワイヤーを特別督察隊隊長へ昇任させるにあたり、ウェイ長官は彼女と深く話し合った。


[ウェイ] 入れ。

[スワイヤー] 失礼します、ウェイ長官。

[ウェイ] 来たか、まぁそこに掛けたまえ。

[ウェイ] さて、スワイヤー君、少し話をしよう。

[スワイヤー] おや? これは珍しいですね。ウェイ長官と二人きりでお話しするという機会は初めてでは?

[ウェイ] これから増えることになる。今のうちに慣れておいたほうがいい。

[スワイヤー] ……

[スワイヤー] チェンは、本当にもう帰って来ないのですか?

[ウェイ] ああ。

[スワイヤー] 他にもたくさんの上級警司がいるのに、なぜ私なんですか? これまでチェンのやってきたことを、私ができるとは──

[ウェイ] 「チェンのやってきたこと」を、君がする必要はない。そもそも、特別監察隊隊長は彼女のような人間が最適任というわけではなかった。

[スワイヤー] ウェイ長官……いなくなった人間を非難するのはいかがなものかと思いますけど。

[ウェイ] 非難するつもりはないさ。ただ、チェン君の最大の長所はあの「正義感」だ。それは翻して、彼女の最大の短所でもあった。正義感だけで務まるポジションではない、それだけのことだ。

[スワイヤー] だけではない、ですか。では……長官は私に、それ以外の何を期待しているのでしょう?

[スワイヤー] 各方面との良好な関係性? 指揮能力? 新しい世代の代表格? それともチェンとの確執? まさか私のバックグラウンドも加味されているわけではないでしょうね。

[ウェイ] 歯に衣着せない物言いだな、スワイヤー君。

[スワイヤー] 祖父と違って、回りくどい話し方は苦手なんです、長官。

[ウェイ] 「祖父」を持ち出されるのが嫌いかと思っていたんだがね。

[スワイヤー] 昔はそうでした。しかし、近衛局の至るところに祖父の影が潜んでいるものですから、とっくに慣れました。龍門で生活する以上は、「アダムス・スワイヤー」の名前は嫌でも耳に入ってきますし。

[ウェイ] フッ……一般市民にとってみればなじみのない名だ。龍門のどこででも彼の名前を耳にするのではなく、スワイヤー君──君自身がその名前から逃れられないのでは?

[スワイヤー] ……

[スワイヤー] 単刀直入に話しましょう、ウェイ長官。

[スワイヤー] 近衛局の現局長が祖父側の人間なのは知っています。長官とは長年良き協力関係にあるようですけどね。一方で祖父が病床にいる時間が長引けば長引くほど、不安要素が増えることも存じています。

[スワイヤー] 祖父が病に倒れる前では、我がスワイヤー一族とウェイ長官の間には軋轢こそありましたが、それでも商業連合と龍門は共存すべき、いいえ、共存する以外に道はないと常に理解していたのです。

[スワイヤー] しかし、祖父が病床に伏してから早や十四年。彼の意思に従って動くはずの者たちはだんだんと混乱に陥り、迷走したり、愚かな行動に出たりすることすらあります。

[スワイヤー] もしこのまま祖父が天に召されたら、スワイヤー一族と龍門の関係はどうなってしまうのでしょう? これはウェイ長官だけでなく、近衛局全体が向き合わなければならない問題でもあります。

[スワイヤー] ……そしておそらく私も、向き合わなければならないでしょう。

[スワイヤー] 違いますか?

[ウェイ] ……

[ウェイ] 今しがた、アダムス氏の姿が君と重なって見えたよ。

[スワイヤー] それは私に対する挑発になりますよ? 私は自分に祖父の影を宿らせたくはないのですから、ちっともね。

[ウェイ] すまない。そういうつもりではなかった。

[スワイヤー] お気になさらず。しかし、ウェイ長官は我々一族の関係性について多少誤解があるようです……具体的にどういう風に誤解されているのかは存じませんが。

[ウェイ] ……

[ウェイ] 話したくなければ、話す必要はない。非礼については詫びよう。

[スワイヤー] いいえ、そうですね……たぶん大丈夫だと思います。

[スワイヤー] 以前から考えてはいました。本当にチェンのポジションを引き継ぐとしたら、その前に一度、ウェイ長官にきちんと話す機会を設けるべきだと。

[スワイヤー] ……

[幼少期スワイヤー] ううっ……

[父親] シッ! シーッ……ベアトリクス、泣くんじゃない……

[幼少期スワイヤー] うぅ……でもお父さん、あたしいじめられたの……

[父親] シーッ…….お爺さまが家におられるのだ、静かになさい……

[幼少期スワイヤー] うぅ……うえぇーん!

[父親] 泣くなって言ってるだろ! お爺さまの気に障りでもしたら……!

平手打ちの音が響く。

[アダムスの秘書] あのう、どうかされましたか? アダムス様が騒がしいと仰っておられますが……

[父親] いいえ、なんでもありません! すぐこの子を連れて出ます! 申し訳ありません、わざと騒ぎ立てたわけではありません……

[スワイヤー] 幼少期の記憶など、ほとんどが曖昧なものです。だからこそ、その中で妙に鮮明に覚えているものがあれば、それは本人の性格に深い影響を及ぼしていると言われています。

[スワイヤー] もしそうだとしたら、このことを未だに覚えているということは、それが私の祖父に対する初めての「認識」になるのでしょうか?

[ウェイ] 確か、君の父君はアダムス氏の長男で、若い頃はたいそう期待を寄せられていたそうな……フン、実にアダムス氏らしいな。

[ウェイ] だが今の君を見ていると、とてもそのような家庭環境で育ったようには見えないが。

[スワイヤー] 何しろ、両親は早々に実家を出ましたので……私も祖父とは数えるほどしか会っておりません。祖父がいない時では、両親も普通に優しくしてくれましたわ。

[スワイヤー] しかし……祖父の影は、別の意味でずっと私に纏わりついていたのです。

[スワイヤー] 「これはダメ、お爺さまが仰っていた」、「誰々と遊ぶな、お爺さまが好まれないから」──私が子供の頃に受けたしつけは、すべて「お爺さまの意思」から生まれたものでした。

[スワイヤー] ──実際に話してるところさえ、ほとんど見たことがないのに。

[スワイヤー] 泣いたことも、怒ったこともある。「なんでお爺さまが嫌だとダメなの」、と尋ねても両親は答えられませんでした。それで子供ながらに私は理解した。両親は私以上に祖父を恐れていたのだと……

[スワイヤー] ご機嫌取りがしたかったわけでもなく、ただ怒らせないようにするだけで必死でした。

[スワイヤー] その結果、当時の私にとって、「お爺さま」は世界で一番怖いものでした。例えば……そう、B級ホラー映画の最後に、主人公たちを全滅させる悪霊のような。

[ウェイ] ……誰が子供にそんなものを見せるんだ?

[スワイヤー] たまたま見たんですよ。その夜は怖くて眠れず、両親に「あのおばけはお爺さまよりも怖い」などと泣きついたものだから、父にこっぴどくしつけられましたわ。

[スワイヤー] あとで思いました。「やっぱりお爺さまの方が怖いわ」って。

[ウェイ] ……

[スワイヤー] なんだか笑えるでしょう? でも実際自分の身に起きたら全く笑えませんよ。私も一度は「お爺さまを怒らせる」ことが、絶対犯してはならない罪だと認識していたのですから。

[スワイヤー] しかし──

[名も知れぬ警官] ここだ!

[名も知れぬ警官] 人質を無事確保した! やれ!

[名も知れぬ警官] もう怖くないですよ、お嬢さん。

[近衛局の無線] 誘拐犯を発見、増援願います!

[名も知れぬ警官] 了解、こちらは人質の少女を連れ出す! お嬢さん、大丈夫?

[幼少期スワイヤー] ……

[幼少期スワイヤー] うん……だいじょうぶ。

[スワイヤー] お察しの通り、その頃から私は将来警察官になりたいと思い始めました。ただ、これもお察しかと思いますが──

平手打ちの音が響く。

[幼少期スワイヤー] ……お父さん?

[父親] ……すまないベアトリクス、叩くべきではなかった。けどどうしてそんなことを? スワイヤー家の第一後継者たるお前が、警察官になりたいとは何の冗談だ!

[父親] 父上……お爺さまが知ればきっとお怒りになる! 今すぐそんな考えは捨てなさい!

[ウェイ] ……

[スワイヤー] それを聞いて私は混乱しましたわ。なぜならほんの数ヶ月前に、自分こそがスワイヤー家の第一後継者であると、従兄から聞かされましたから。

[スワイヤー] ただ、彼がそう言った時、それは違うとも思っていたのです。

[ウェイ] スワイヤー家の第一後継者? それは……

[スワイヤー] はい。それは私でもなければ従兄でもなく──父であるはずです。

[スワイヤー] 私にとってこれはまさに「子供の頃ずっと分からなかったことが、大人になったある日突然全てを理解する」といった類いの疑問でした。

[スワイヤー] つまり、父は後継者になりたくなかった──そして祖父も父を後継者として見たことは一度もなかったんです。

[スワイヤー] 今にして思えば、父があれほど私をスワイヤー家の第一後継者だと主張していたのは、本当にそう思っていたのではなく……

[スワイヤー] 自分でなければ誰でもいいと思っていたのではないでしょうか?

[スワイヤー] しかし、当時の私は父を信じていました。たとえ戸惑いはあっても実の父親を信用しない子供など滅多にいないでしょう。

[スワイヤー] あの時、私はすごく怖かったんです。「後継者をやめることはできないの?」と、ずっと考えていました。

[ウェイ] そのためだったのか……

[ウェイ] 私は未だに覚えている、君に初めて会った時のことを。

[スワイヤー] ええ……あれもまた、子供の頃のトラウマです。

[父親] 父上の容態は? 今どういった状況ですか?

[医者] あまりよろしくはありません。アダムス様は……

[父親] ……ウェイ長官、どうしてここに?

[ウェイ] 旧友が病に倒れたと聞いて、見舞いに来ただけだ。どうぞ続けてください。

[医者] ……今の状況から判断して、命に別状はありませんが、今後ベッドから降りることは極めて難しいかと思われます。

[幼少期スワイヤー] ……クスッ。

[叔父] ベアトリクス? 何を笑っているんだ!?

[叔母] な……なんて子なの!

[父親] 申し訳ない、娘が失礼を……ベアトリクス何をしてる、早く謝りなさい! ウェイ長官、お恥ずかしいところを……ベアトリクス!

[アダムス・スワイヤー] (小声)フン……

[父親] ……父上、お目覚めになったのですか!?

[アダムス・スワイヤー] (小声)度胸はあるが包み隠すことを知らん──不肖の孫だ。

[スワイヤー] 今にして思えば、それが生まれてこの方祖父からもらった唯一の評価でした。当時はその言葉がどういう意味なのか理解するまでもなく、ただ……震えるほど怯えていました。

[ウェイ] 噂で聞いたことがある。あの一件で、君が未だに一族内で疎まれているとな。

[スワイヤー] はい。「目上を敬わない」とか「恩知らず」とか、それは言いたい放題ですわ。もちろん反論もできないのですが。

[スワイヤー] 祖父も別に、死んでほしいと私に思われたってどうってことはないはずです。ただあんな場面で笑い声をあげ、自ら墓穴を掘るような行為をしでかすとはなんと愚かだろうとでも思ったのでしょうね。

[スワイヤー] でもまだ十二歳だったんですよ! 包み隠すも何もないでしょう!

[ウェイ] 君は、アダムス氏の立場で考えられるようになったのだな。

[スワイヤー] ……

[スワイヤー] ええ、そうみたいですね。それからは、暗黒の日々が続きました。周りがずっとその件を蒸し返したりしていましたから。

[スワイヤー] しかし、あれから一、二年経って、私はふと気づいたのです。

[スワイヤー] その頃の祖父はもう寝たきりで、言葉数も少なくなりました。意識がはっきりしている時間さえもほとんどありませんでしたが、それでも私はずっと、祖父の影の中で生きていたのです。

[スワイヤー] 正直それまでも、祖父が実際に何かの指示を出すところを見たことはありませんでした。

[スワイヤー] それなのに、「祖父の影」というものは一体、どこから生まれたのでしょうか? 祖父本人から? 父や一族の人間から? それとも……私の心の奥底から生まれたのでしょうか?

[スワイヤー] 病床に臥せったまま、発する言葉もほとんどない……それでも祖父に逆らう者がいなかったのはなぜか。祖父の権力は、実質ゼロに等しいのに、なぜ誰も祖父を蔑ろにできなかったのでしょう?

[ウェイ] ……スワイヤー君、失礼かもしれないが、君は十三や十四の歳でそんなことを考えるような人間には見えないな。

[スワイヤー] ……?

[スワイヤー] ええ! そうですね! 大人になってから長年の疑問を整理したんですよいけませんか?

[スワイヤー] 確かにあの頃の私はひどく混乱していて、何も考えられませんでしたわ。当時の自分の気持ちに気づくなんて、到底あり得ませんでした。

[スワイヤー] あの時私の命を救ってくれた警官に感化されていなければ、未だに道楽貴族ごっこをしていたかもしれませんね。

[スワイヤー] 私を救出する際にあの人が落としたバッジを、今も大事に保管してるんです。もし再会することができたら、ちゃんとお礼がしたいものですわ……

[ウェイ] 君が近衛局に入ったことが、その人にとって最高のお礼だろうな。

[スワイヤー] ええ、そうかもしれませんね。

[スワイヤー] とにかく、当時は龍門から離れたい一心で、ヴィクトリアに留学をしたのです。

[スワイヤー] ヴィクトリアに行けば祖父の影から逃れられる──そう思っていたのですが、甘かったですわ。

[スワイヤー] それも当然です。スワイヤー家がヴィクトリアで展開する事業は、龍門以上に大掛かりなものでしたから。

[ウェイ] しかしヴィクトリアでの事業群は、早くからアダムス氏の支配下を離れるように努めていたはずだが。

[スワイヤー] その通りです。だからこそヴィクトリアに行った後、逆に祖父のことを少し理解できたような気がしました。かねてからの疑問も、幾分か解けたような気がしたのです。

[スワイヤー] そして思ったのです……権力を手に入れるための方法は数多でしょうが、それを維持する方法はただ一つしかありません。それは「正しい行いをすること」なんです。

[スワイヤー] 祖父は権力を得て威厳を身に付けましたが、それを振るう力を失った後もなお、逆らう人間が現れなかった理由はたった一つ……祖父が常に正しかったからです。

[ウェイ] スワイヤー君、今の話を聞くまでは、忠誠を示しに来たのかと思っていたよ。

[スワイヤー] ……

[スワイヤー] 実際そうですけど? 祖父が正しいということと、私が祖父に反抗することに何か矛盾でも?

[ウェイ] ほう? 一族を裏切るつもりであると?

[スワイヤー] ウェイ長官! 冗談はおやめください──

[ウェイ] これは「冗談」などではない。

[スワイヤー] ……

[スワイヤー] 祖父は確かに正しい行いをたくさんしました……しかし、世の中における「正しさ」は一つだけではありません。

[スワイヤー] スワイヤー家の正しさが、龍門にとっても正しいとは限りません。過去においての正しさが、未来にとっても正しいとは限りません。そして、祖父の正しさは、私にとっては確実に正しくありません。

[スワイヤー] 一族を裏切るつもりはありませんが、龍門を裏切るつもりはもっとありません。なぜなら、私は自分のバッジを裏切ることは絶対にないのですから。

[スワイヤー] ご理解いただけましたでしょうか、長官。

[ウェイ] ふむ……さっきの話を続けたまえ。

[スワイヤー] どこまで話しましたっけ……

[スワイヤー] そうだ、中学の時に一族の歴史について少し勉強し、その時に祖父が家業をヴィクトリアから移転させたことが、どれほど先見の明に長けた判断だったかを理解しました。

[スワイヤー] 祖父は、四十年以上も前からヴィクトリアの動乱と分裂を予測し、当時全盛期だったヴィクトリアが、まもなく衰退の道を歩む未来を見通していたのです。

[スワイヤー] そして、周りの理解を得られない状態でも自分の判断を貫き通し、歴史が彼の正しさを証明するその日まで揺るがなかったのです。

[スワイヤー] ほかにも……ま、功績を挙げるのはこの程度にしておきましょう。私よりもウェイ長官のほうが詳しいはずですし。

[スワイヤー] とにかく、彼を知ったことによって、私が動揺しなかったと言えば嘘になりますが、後になって気づきました。その功績の数々は……私の祖父に対する恐怖心を強めたわけではなかったのです。

[スワイヤー] 実際、祖父の経歴が伝説的であればあるほど、私の恐怖心はその分薄らいでいったのです。

[スワイヤー] なぜなら、恐怖は未知のものより生まれるからです。

[スワイヤー] 何も知らなければ、祖父は空を覆う影のままであり、その恐ろしさは私の想像が及ぶ範囲内で無限に広がっていました。

[スワイヤー] しかし、その力の源が分かった途端、祖父の恐ろしさは真実の境界線までに留まりました。つまり、彼に逆らってはいけない理由を知ることができれば……

[スワイヤー] 逆に逆らう方法をも知ることができるのです。

[スワイヤー] ……とは言え、それで裏切り者になろうだなんて思ったこともないんですよ!

[スワイヤー] なのに家族連中は私が何かしようとする度に、一々「不肖の孫」という祖父の言葉を引き合いに出して、良からぬことを企んでいるに違いないってどういう意味よ! おかしくないですか!?

[ウェイ] 自分の一族がどういう性質なのかは、君が一番よく理解しているはずでは?

[スワイヤー] ええ、わかってますよ、わかってるから余計にムカつくんです! だから近衛局に入ったのです! 家業なんか継いで嫌な親戚と付き合うぐらいなら、こっちの方が断然いいに決まってますわ!!

[ウェイ] ……

[ウェイ] 近衛局のスワイヤー警官は凛々しい声の持ち主で、声を発せば雲の上まで鳴り響くと聞いていたが……なるほど確かにその通りだな。

[スワイヤー] ……?

[スワイヤー] ゴホン……とにかく私はその時に思ったんです。ずっと逃げていても仕方がないと。

[スワイヤー] あのまま逃げ続けていたら、警官になったとしても、祖父のことになるとやはり怖くて体が震えてしまったでしょう。

[スワイヤー] それに、これこそ現実逃避じゃありませんか? 祖父からすれば、ますます「情けない孫」ということになりますよね。

[スワイヤー] そんなのはまっぴらごめんですわ。

[ウェイ] だから、大学三年目あたりから、両親に反対されながらも少しずつ家業に携わるようになっていったと。

[スワイヤー] ええ……思い返せば、あの頃はさんざん文句を言われたものです。まあ、誰にどう思われようが全く気にしませんけど。

[ウェイ] フッ……

[ウェイ] 1092年、龍門にあるスワイヤーグループ本社は、ヴィクトリア北部の支社に対し、地元に所有する産業の一部売却を命じた。

[ウェイ] 責任者は、命令の執行が不可能であるという報告書を提出し、それを断った。

[ウェイ] その時、君は同級生のツテで地元公爵家の内部情報を入手し、その報告書の誤りを指摘した……それが、一族の事業に首を突っ込む始まりとなったのかな。

[ウェイ] しかしあの後すぐ、責任者はその穴を埋めるべく二通目の報告書を提出した。

[ウェイ] 結局、産業売却計画は失敗に終わった。

[ウェイ] 1094年、龍門に戻った君は、スワイヤーグループが実施するインターンシップに参加。その際、企業のトップが商業連合と龍門の良好関係を意図的に破壊しようとしていたことに気づいた。

[ウェイ] そして社内会議の場でその者と言い争いになった。

[ウェイ] 最終的にその者の計画は失敗に終わり辞職をしたが、君もその一件のせいでスワイヤーグループを離れた。

[ウェイ] 1095年、君が近衛局に入った最初の年、龍門労働者組合が給与問題でストライキを起こした。商業連合は近衛局に対し、ストライキを中止させるように要請した。

[ウェイ] 君は裏で労働者組合と商業連合の示談を試みたが、交渉は決裂し、結局ストライキを止めることができず、局長とも大喧嘩したね。

[ウェイ] その後、スワイヤー一族の会議の場で、君は従兄に商業連合の不利益を招いたことを指摘されたが、自己弁護した結果、それ以上の疎外措置を被ることは免れた。

[スワイヤー] ……

[スワイヤー] …………

[スワイヤー] ちょっとウェイ長官! どうして私の過去を蒸し返すんですか! 確かにあの頃は失敗だらけでしたが、成功に失敗はつきものでしょう。ちゃんと成長もしてきたつもりですよ。

[スワイヤー] 最近なんかは成功する確率の方が高いじゃありませんか!

[ウェイ] バカにしているわけではないよ、スワイヤー君。

[ウェイ] 冒頭の会話を覚えているかね? 「他に何を期待しているのか」と君が訊いたのだ。

[スワイヤー] ……

[ウェイ] 残念ながら、君の予想はどれもハズレだった。先ほど述べた数々こそが私が君に期待しているものだ。近衛局が守るべくは「正義」のみではない。

[ウェイ] 近衛局でやってほしいこと、それを君はすでにやっている……これからは今まで以上に失敗を味わうことになるだろう。しかし、今までの君が諦めなかったように、今後もきっと諦めない。そうだな?

[スワイヤー] わかりました。

[スワイヤー] ウェイ長官……正直、目の前のことができるかできないかは、さほど重要ではないと考えます。

[スワイヤー] 重要なのは、それらを経験して初めて、自分のやりたいことを選ぶ勇気と資格が手に入るということだと思います。

[スワイヤー] ……

[スワイヤー] 警官になりたいという私に対する祖父の考えは恐らく、「近衛局を牛耳れるとは思えんが、一体何をしに行くというのだ?」ってところですかね?

[スワイヤー] まあ、別にどうでもいいんですけど……何と思われようが、今の私にはもう影響がありませんから。

[ウェイ] 影響はないと? その割には、声のトーンまでそっくりだったようだが?

[スワイヤー] えっ……そ、それは、子供の頃からの刷り込みというものもありますし、まったく気にしないなんてできるわけないでしょ!

[スワイヤー] ……

[スワイヤー] ウェイ長官、本当はお分かりなんでしょう? 私が幼少期のことを話したのは、忠誠心を示すためだと。しかし──

[スワイヤー] たった今気づいたのですが、この四年間……いえ、もっと前から、あなたは私のやってることを見てくださっていました。

[スワイヤー] その事実は、私の立場や考えを言葉以上に証明してくれたと思っています……そう考えると逆に、この会話自体が無意味であるように感じてきましたわ。

[ウェイ] そういうわけでもないが……確かに君からアダムス氏の影を感じたことはある。

[ウェイ] まるで似ていないというのに。

[スワイヤー] まあ……実は今でも、祖父の影響を全く受けていないと言い切れるかどうかわかりません。むしろ、祖父がどう思っているのか結局は気になって仕方がないのです。

[スワイヤー] それはさておき……長官、少しくらいは私に信を置く気になってくださいました?

[ウェイ] フッ……

[ウェイ] 君も言ったのではないか、事実は言葉よりも説得力があるとな。

[スワイヤー] それでは……ご期待に添えますよう。

[ホシグマ] 聞きましたよ、お嬢様。昇進おめでとうございます。

[近衛局局員A] お嬢様が昇進だって? そりゃめでたい! 今日はぜひおごっていただかないとな!

[スワイヤー] 分かってるわよ、もー寄ってたかって……! アンタたち仕事はどうしたのよ、捜査でもなんでもさっさと行ってきなさい!

[近衛局局員B] えーそんなー、まだ正式な辞令も出てないのにもう威張り出したんですか? さっすがお嬢様ー。

[スワイヤー] うっさいわね! いいから早く仕事を片付けてきなさい、今夜はアタシのおごりよ!

祖父の影が今もなお私に纏わりついているかどうかはわからない。

時には逃げることが逆に近づくこととなり、\n抵抗することがある種の従順となる場合もある。\n恐怖の対義語は蔑みではなく忘却である。しかし──\n祖父の眼差しと意志を、私は一生忘れることはないだろう。

それでも、自信をもって自分だけの道を歩むことができる。

なぜなら、たとえ私の意志が祖父の影から逃れられないとしても――\nこのバッジの温度は、祖父とは関係ない。\n仲間たちの笑顔も、祖父とは関係ない。

──龍門の未来は、祖父とは関係がないのだから。

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