あのときの王子くん 第20章 下関弁で

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あのときの王子くん_あちこちのことばで

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第20章 下関弁で

 

王子が砂漠を、岩山を、雪を越えて、長いこと歩きよると、やっと1本の道を見つけた。

そいで、道っちゅうんは人がおるところに連れて行ってくれる。

「こんにちは。」王子は言うた。

そこはバラがようけ咲いちょる庭やった。

「こんにちは。」バラが一斉に答えた。

王子はそのようけあるバラを眺めた。

みんな、王子んとこの花とそっくりやった。

「あんたら、なんちゅう名前なそ※1?」王子はびっくりしてきいた。

「うちら、バラっちゅうほ※2」とバラが一斉に答えた。

王子は「はぁ?」っちゅうと、自分がぶちみじめなやつなんやないかと思えてきた。

王子ん花は、宇宙ん中に自分とおんなし花なんかないっちゅっちょったほい※3

それなほい、この庭だけでも、似たようなんが5000もあるわーや※4

王子は思うた。

「わやじゃ※5。こんなん見たら、あいつ、はぶてる※6んやろうな……絶対ぶちはぶてるに決まっちょーけえ。ゲホゲホ言うて、バカにされんよう枯れたふりするんやろうな。そねーなことなったら、あいつん世話するふりせんにゃあいけんようなるわ。せんやったら、あいつ、あてつけで自分のことほんまに枯らすんやろうし……」
それから、こうも思うた。

「一つしかない花があるけえ、自分はぜいたくなんじゃ思うちょったけど、ほんまにあるんはごく普通んバラやった。ほいで、膝くらいまでしかないこまい火山が3つ。1つはずっと消えちょるまんまかもしれん。こんなんやったら、立派でえらい主になんかなれりゃーせんわーや......」

そいで、草ん上つっぷして、涙を流した。


[注釈]

+-
  1. 「の」に相当する終助詞。「ほ」と交換可能。
  2. 「の」に相当する終助詞。「そ」と交換可能。
  3. 「って言っていたのに」に相当する。「のに」にあたる「ほい」は「そい」と言うこともできる。「せー」という話者もいる。
  4. 「あるじゃないか」に相当する。「る」と「わ」が融合して「あらーや」と言うこともできる。
  5. ここでは「大変だ。」「やばい。」にあたる。
  6. 「拗ねる、ふてくされる」に相当する。

[翻訳者紹介]

okoji

1985年山口県下関市生まれ。両親とも下関市出身。高校卒業までを下関市で過ごす。中学までは祖母とも同居していた。
学生時代、授業で『星の王子さま』ハンガリー語訳の一節を読んだことがきっかけで、さまざまな言語の『星の王子さま』の蒐集を始める。2025年11月現在564冊448言語の『星の王子さま』を所持している。


[ことばの解説]

故郷を離れるまで実際に私が口に、耳にしていたことばを思い返しながら翻訳にあたりました。そういうこともあり、今回の翻訳では知識としては知っているものの、生活で触れたことのない語・表現は使用しませんでした。
方言名に関しては豊関方言などの名称もありますが、わかりやすく「下関弁」としました。

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