「テ形」は主に非母語話者向けの日本語教育で使われる用語で、「‾買'うて」「_読んで=」など「て」「で」で終わる動詞の活用形のこと。ここでは、テ形のあとに付くさまざまな補助動詞とその変形について取り上げる。
共通語と同様、「~て」で命令を表す。詳しくは命令 禁止を参照。
予想外または滑稽な行動や現象を目の当たりにした時に、驚きの気持ちや面白がる気持ち、軽く非難する気持ちを込めて、「~て」で文を止めることがある。この場合、「~て」の最後は伸ばし気味で、しっかりイントネーションを下降させる。例として、大きなあくびをして眠そうにしている人に向かって「[え]らい [大]きい [あくび] [し]てぇ!」と言ったり、ごはんを残した子供に向かって「[ぎょ]ーさん [の]こしてぇ! {ちゃん}と {野菜}も {食べ}な [あかん]やろ!」と言ったり。熊木仏壇店CMの「いやよし子ちゃん!まぁええお嬢さんになってぇ!」もいい例。
共通語でそうした言い方をしようとすると通常「あらまぁ、大きなあくびをしちゃってぇ」のように感動詞や「~ちゃう」が足されるイメージがあるが、筆者の方言ではそれらの要素がなくても自然な文として成り立つ。
筆者の親・祖父母世代は、テ形の前に「‾よ'う」を付けて、「よく~してくれたね」という感謝の気持ちを表すことがある。テ形の後ろに「な(あ)」や「やほん」「やで」などを付けることも多い。
(例){きょー}わ [よ]ー [きてな]
(訳)今日はよく来てくれたね
~てる、~とる、~たある
共通語では動詞の進行・継続・完了に「~て(い)る」が使われる。筆者の方言では「~てる=」と「~と'る」を使い、その使い分けは存在動詞「いる」と「おる」の使い分けに準ずる(存在の記事を参照)。感情が強くなると「~とる」を「~と'おる」と言うこともある。
動詞の主語が人や生物以外で、一瞬の動作ではなく「状態」に着目している場合、「~てる」は「~た'ある」に置き換え可能である。共通語の「~てある」に似るが、共通語の「~てある」は基本的に他動詞にしか使えないのに対し、筆者の方言の「~たある」は自動詞にも特に制限なく使う。「‾わかっ'たある」「_見えた'ある」のように知覚についても使うことがある。
筆者の方言 | 共通語 | |
塩が |
‾振った'ある ‾振っ'たある |
振ってある |
雨が | _降った'ある | |
看板が | _立てた'ある | 立ててある |
看板が | _立った'ある |
過去形「~た'あった」やテ形「~た'あって」、否定形「~たあ'らへん」は「~た'った」「~た'って」「~た'らへん」と短音化することが多い。終止形「~たある」も時折「~た'る」と短音化することがあるが、語幹が1拍の動詞の場合は必ず長音形である。なお、前に来る動詞が高起式の場合はアクセントの下がり目が一つ前にずれる傾向があり、語幹が2拍以上の動詞はほぼ必ず前にずれる。
「~とる」と「~たある」には方言的・口語的という意識があるためか、「~てる」は「~てます=」という丁寧形があるのに対し、「~とる」や「~たある」を敬体で使う場合は「~と'るんです」「~た'あるんです」のような形を取り、「~とります」や「~たあります」とは言わない(あくまで筆者の場合であり、他の人は普通に言うかもしれない)。「~て ‾おります=」や「~て _あります=」とは言うが、共通語の用法と変わらなくなる。
~たる、~たげる
「~てやる」「~てあげる」は「~たる=」「~たげる=」になる。共通語では「~てやる」はきつい言い方になるが、筆者の方言で「~たる」は特にきつい言い方ではなく、男女問わず多用する。上記の「~たある」の短音形と同音になるが、アクセントで区別できる・・・が、低起式の動詞で過去形・テ形・否定形はアクセントも同じになってしまう。まあそこは文脈で。
~とく
「~ておく」は「~とく=」になる。共通語と比べると命令表現での使用頻度が高く、特に否定形と合わせた「~んとき=」「~んといて=」は禁止表現として多用する(禁止を参照)。また、共通語では「~ておく」と尊敬語を組み合わせることは少ないが、筆者の方言では「~とく」とはると合わせた「~とかはる=」を「前もって~しておかれる」や「~した状態にしておられる」という意味でよく使う。年配層では「~とかはる」を話題にしている時点よりもさらに過去にあった出来事であることを明示する表現としても使う。
(例)[もーす]ぐ [ほんばん] やけど、{ちゃん}と {じゅんび} [しとかはる?
(もうすぐ本番だけど、ちゃんと準備済まされている?)
(例){あっこ}ね、{いつ}も [にわ] [き]れーに [しとかはる][な]ー
(あそこの家、いつも庭を綺麗にしておられるなぁ)
(例)[うちのむ]らからも [よ]ーけの[ひ]とが [しゅっせーしとかはる]
(うちの村からも大勢の人が出征されている)
~てまう
「~て ‾しまう=」は「~てまう=」になる。共通語の「~ちゃう」に相当。過去形は短音形の「~て'もた」を多用し、「~ても'ーた」はほとんど言わない。なお、「~てしまう」の過去形でも「~てし'もーた」より短音形の「~てし'もた」を多用する。
~てほしい、~ていらん
「~て ‾ほ'しい」は共通語に取り入れられた表現なので説明不要だと思うが、「~て ‾いらん=」は説明が必要であろう。「~てほしい」の対義語であり、「~してくれるな」「~てくれなくて結構」という意味である。使用頻度はあまり高くないが、理解語彙というほどでもない。
~と(お)くれる、~てくだはる
「~て ‾くれる=」の尊敬語表現として、筆者は単純に「~てくれる」に待遇助動詞を付した「~て ‾くれはる=」「~て ‾くれや(あ)る=」か共通語「~て ‾くださる=」を使うが、祖父母世代では「~ておくれる」が変化した「~と(お)くれる=」や、「~て ‾くだはる=」という形式も使う。「~てくだはる」は、「~て ‾くだはっ'た→~てく'だった」「~て ‾くだ'はい→~て ‾く'だい」のように過去形や命令形では「は」が抜けることもある。
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