このページでは、私を含む言語・方言好きの有志が「列島ことばの集い」名義で制作した文芸同人誌『あのときの王子くん~あちこちのことばで~』の内容を公開しております。制作の経緯・趣旨は、以下の「はじめに」「あとがき」をご覧ください。
同人誌版との差異として、挿絵の省略、校正漏れの最低限の修正、Wikiの仕様による表記変更があります。

はじめに
日本では内藤濯による『星の王子さま』の邦題で知られる、サン=テグジュペリの“Le Petit Prince”。世界中で愛読され、さまざまなことばに翻訳されてきた小説です。日本でも実に多くの邦訳が存在しますが、いわゆる「標準語」による訳ばかりで、そのほかの訳というと、アイヌ語と国頭語(沖縄県本部町伊野波ことば)の2例のみです(2025年時点。見落としがあればご容赦ください)。
海外に目を向けると、地方のことばや少数民族のことばによる訳も数多く存在します。地方のことばによる訳が盛んなドイツでは、2023年に国内外29か所のドイツ語による訳を1冊にまとめたものが出版されています。本書は、ドイツでの事例に刺激を受けて「日本でもそういうのが出たらいいのに」「どこも出さないのなら自分達で作ってみよう」と始めたものです。
翻訳者の人選はすべて個人的なツテです。そのため、津軽・名古屋・広島・那覇といった有名どころがない一方で、函館・佐渡・石徹白・丹後・柳川・名護など、知る人ぞ知る個性豊かなことばが集まりました。若い翻訳者が多く、「コテコテの○○弁」を期待する人には物足らぬ部分もあるかもしれませんが、時代の変化や「標準語」の権威をまとう東京圏のことばに押されて変容する日本各地のことばの現状について考える機会としていただければ幸いです。
北海道から沖縄まで、日本列島の多様なことばの世界をお楽しみください。
列島ことばの集い 編集メンバー
彊(代表)・かものみや・plumbum・石油王・かべちょろ
第4章を除いて、大久保ゆう氏による訳『あのときの王子くん』を底本としました。挿絵についても、大久保ゆう氏がレイナル&ヒッチコック社刊の初版第1刷(1943年)から複製したものを再使用しています。
『あのときの王子くん』を底本としたのは、「クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンス」のもと、青空文庫で公開されており(https://www.aozora.gr.jp/cards/001265/card46817.html)、適切なクレジット表示を守れば自由な翻案が許されていること、そしてインターネット環境さえあれば誰でも簡単に読み比べできることを勘案したものです。なお、漢字表記や改行などは、底本から変えた箇所があります。
各章リンク、翻訳したことばの名称、翻訳者一覧(敬称略)
- 献辞
北海道函館方言で(道民の人) - 第1章
北海道の内陸のことばで(たくらんけ) - 第2章
秋田弁で(LingLang@言語学好き) - 第3章
会津系埼玉人2世による会津方言で(斎藤敬太) - 第4章
両毛方言(足利河南)で(ゆーちき) - 第5章
神奈川湘南方言で(M.小林) - 第6章
山梨県国中方言で(りっひ) - 第7章
遠州弁で(リキエル) - 第8章
佐渡弁(佐渡両津方言)で(あおねば) - 第9章
富山弁で(のみくす) - 第10章
(前)岐阜県大垣方言で(Kanabu)
(後)石徹白の方言で(Sukochan) - 第11章
湖東地方の江州弁で(彊) - 第12章
丹後弁で(ふなや) - 第13章
現代京都弁で(かものみや) - 第14章
大阪方言(大阪市)で(てらポチ) - 第15章
上方語 南畿内方言 南河内弁で(plumbum) - 第16章
土佐弁で(石油王) - 第17章
土佐弁で(石油王) - 第18章
岡山弁で(岡弁先生) - 第19章
岡山弁で(岡弁先生) - 第20章
下関弁で(okoji) - 第21章
(前)博多弁および福岡弁で(しぇからーしか)
(中)現代博多弁で(かべちょろ)
(後)糸島弁で(ふうけもん) - 第22章
若年層の柳川弁で(松岡葵) - 第23章
若年層の柳川弁で(松岡葵) - 第24章
長崎市における長崎弁で(Hiroshi Machida) - 第25章
熊本南部弁(やっちろ・芦北弁)で(つる) - 第26章
鹿児島弁で(Taizona) - 第27章
伝統的な沖縄語名護言葉で(思原仁兎) - 最終章
伝統的な沖縄語名護言葉で(思原仁兎)
ことばの名称は、翻訳者の言語アイデンティティーを尊重し、あえて統一せず、翻訳者から提示された名称をそのまま使用しています。
あとがき
日本列島は地域それぞれのことば、いわゆる「方言」が多様です。特に琉球のことばは、九州以北との違いはフランス語とイタリア語の違いに匹敵するとされ、しばしば「琉球(諸)語」と呼ばれます。八丈島と青ヶ島のことばも、2009年にUNESCOが消滅危機言語のリストに加えたことで、貴重な言語として扱われることが増えています。しかしそれ以外のことばも、それぞれに歴史と特色があり、大なり小なり消滅の危機にあることに変わりはありません。ことばの変化は世の常とはいえ、あらゆる地域のことばがかけがえのないものとして尊重され、受け継がれていくことを願ってやみません。
本書はもとをたどると、okojiさんがX(旧Twitter)で「#多言語星の王子さま」として世界中の『星の王子さま』を紹介されているのを目にし、「海外にはこんなに『○○方言版』があるんか。ほう思たら、日本のは『東京弁版』ばっかりやな」と思ったのがきっかけでした。そして2024年秋、29か所のドイツ語による翻訳本の存在を知り、Xで「日本でもこういうの出たらええのに」と呟いたところ、共感する同志が現れ、こうして形になりました。私ひとりでは「誰か出さはったらええのに」止まりだったでしょう。背中を押し、案を出し、翻訳者集めを手伝ってくれた4人に感謝します。そして何より、「地域の話しことばでまとまった文章を書く」という慣れない試みを引き受け、素晴らしい翻訳を書きあげてくださった日本各地の翻訳者の皆さまに感謝申し上げます。
余談ですが、今年11月の東京外国語大学の外語祭で、日本各地13か所のことばによる「方言語劇 星の王子さま」が上演されたそうです(なんたる偶然!)。『星の王子さま』を東京以外のことばで訳す試み、どんどん増えていったら、ええなぁ。
2025年(令和7年)師走 列島ことばの集い 代表 彊
奥付
あのときの王子くん ~あちこちのことばで~
2026年1月18日 初版発行
原 作 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
底本訳 大久保ゆう
訳・編 列島ことばの集い
発 行 列島ことばの集い
印刷所 有限会社ヤマダスピード製版(スピード印刷工房)
※本書は、「クリエイティブ・コモンズ 表示 非営利 4.0」のライセンスのもと公開・発行しております。すなわち、クレジット表示が適切になされていれば、非営利に限り、自由な複製・再配布・翻案が可能です。

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